狂宴 2
「準備はいいかな?」
カナキは一応訊いてみるが、誰一人として答えない。つれない生徒たちだ。
「はぁっ!」
「お」
腰を落とし、駆け出そうとしたとき、こちらの隙を突くように飛び出してきた生徒がいた。レイピアを構え、銀色の胸当てを付けているその女子生徒は、確かカトレアという名前だったか。上級生として、後輩を護るために単身で獲りに来たようだが……。
カトレアの鋭い刺突を、カナキは槍で打ち払う。その奇襲に自信のあったカトレアは、心の中で「うそ」と叫びたくなったが、後方で聞き慣れた友人の声がして即座に下がる。
「下がれカトレア!」
カトレアが素早く身を引いたのと入れ替わるように、無数の焔刃がカナキに殺到する。
カナキはそれを防ぐこともなく、全て身に受けると、熱された刃が次々とカナキの体深くまで侵入し、内臓器官を根こそぎ焼き焦がす。
やがて力無く倒れたカナキを前に、ルイス達はしばらく警戒していたが、一分を越えたとき、誰からともなく息を吐いた。
「はぁ……どうにかやっ」
喋っていた男子生徒がカナキから目を離した直後、彼の口から槍の穂先が飛び出す。
「ひぃ!?」
「きゃぁああ!」
隣にいた男子生徒が喉から引き攣った声を上げ、返り血を浴びたカトレアは、絹を裂くような悲鳴を上げた。
いち早くルイスがカナキの方を見ると、彼は寝そべった状態から槍を投擲した後だった。素早く起き上がったカナキは、目を疑うような速さでこちらに向かってくる。
「先輩方!」
来ます、と言う前にルイスとカナキが激突。しかし、ルイスの刺突を魔力執刀で容易く振り払ったカナキは、ルイスを無視してすり抜ける。
そのまま、未だ動揺する先輩三人の元まで行くと、展開した魔力執刀を一閃する。しかし、振るわれたのは動揺しつつも咄嗟に防御体勢を取った先輩たちではなかった。
「――ッ!」
カナキは、魔力執刀で既に“絶命している”生徒の首筋を深く切り裂くと、鮮血が勢いよく飛び出し、首が皮一枚でつながった状態になった頭部が、お辞儀をするようにカトレアの方へ倒れた。
親しかった友人の、あまりの凄惨な状況に、カトレアが白目を剥いて気絶する。他の男子生徒二名は、飛びそうになる意識を懸命に保ったが、続くカナキの攻撃には対応できなかった。
それぞれ胸と額を貫かれ、地に伏した先輩の男子生徒。ルイスは、それをただ見ていることしか出来なかった。
「――うん、四十点ってところかな。最初の連携までは良かったけど、死体を攻撃して本当に死んでいるか確かめなかったり、仲間の死体を刻まれただけで動けなくなっちゃったり、いくら魔法師として優れていても、メンタル面にまだ課題があったかな。鷹揚自若、湛然不動……授業では教えてなかったかなぁ……」
カナキがルイスの方を向くと、彼はびくりと肩を震わせた。しかし、カナキの奥にいるフィーナとパニバルが目に映った時、手に持った槍を強く握り直した。
「へぇ、まだやる気はあるようだね」
「ったりまえだろ!」
ルイスの身体能力を活かした突進を、カナキは男子生徒の体から引き抜いた雷轟槍で受ける。
ルイスの急所を狙った刺突を防御し、そのまま左へ受け流すようにして弾く。
「ッ!」
バランスを崩したルイスの横腹に雷轟槍を突き入れようとしたとき、ルイスは受け流された力を利用してそのまま反転。その場で素早く一回転し、槍の尻に付いている石突きでカナキの顎を狙ってきた。
「くっ!」
これはカナキにも予想外で、スウェーで直撃は避けたものの、石突きが顎を掠り、一瞬くらりと頭が揺れる。軽い脳震盪か――
「おらぁああああ!」
直後、たたらを踏んだカナキに、ルイスの槍による袈裟斬りが見事決まった。
「ッ!」
「なっ!?」
油断した――
自制したカナキが雷轟槍を再び構えると、ルイスは驚いた声を上げた。今のが致命傷になりうる一撃だったと自負していたからだろう。先ほどカナキがあえて受けた焔刃も、何らかの魔法で防御したと考えていたのだろう。
「惜しかったね」
「ぐぁ!」
カナキの横薙ぎをなんとか防いだルイスだったが、雷轟槍と槍を合わせた直後、槍に纏った雷がルイスに襲い掛かる。感電して勢いが弱まったところで、カナキは力任せにルイスを吹き飛ばし、壁に叩きつける。
短い悲鳴を上げたルイスの足に、カナキは雷轟槍を投擲。狙い誤らずルイスの右足を貫き床と縫い合わせた雷轟槍は、そのままルイスの魔力を吸い上げ雷を生成し、ルイスに死なない程度の電撃を浴びせ続ける。
「ぐぉおおおおっ!!」
延々と続く苦痛に表情を歪めるルイスだが、しばらくすれば叫ぶ余力すらなくなるだろう。これでルイスの方は片付いた。次は遂に……。
「……ッ!」
カナキが視線を向けた先で、フィーナが怯えた表情を浮かべ、パニバルが勇敢にも一歩前に出た。そうだ、パニバル君もいたんだった。彼女も僕を好いてくれるお気に入りの生徒の一人だったため、こうして前菜のように食べてしまうのも贅沢な気がする。いっそ、ここで『天衣霧縫』を解除して、二人に素顔を晒してみたら、とても面白いことになるんじゃ……。
「……ッ!?」
「――無限障壁ゥウ!!」
そのとき、突如膨大な魔力を察知したカナキは、大きく後ろへ跳躍、直後に、カナキのいた場所に巨大な壁が作られる。
「『雷光千鳥』」
「ッ!?」
乱入者か、と思った直後、カナキの胸に稲妻が突き刺さり、心臓を瞬時に止める。すぐに再生を始め、心臓も動き出すが、痺れが解ける前に飛び出したレインの飛び蹴りがカナキを吹き飛ばした。
「ちっ!」
窓ガラスを割り、受け身すらロクに取れずカナキが転がった先は、ラグーンドームのサブアリーナの一つ。日本の学校の体育館程度の広さのアリーナ内に、やがて見知った顔の二人が現れた。
――まさか、この二人と、直接やりあうことになるとはね。
「……お前、まさか『イレイサー』か? あのとき、俺が逃がした奴が、まさかこんなことを……」
レインが愕然とした表情で言うと、隣に立つリヴァルが、叱咤するように声を掛けた。
「後悔は後にしろ、レイン。俺たちが今するべきことは…………俺の生徒を殺した、コイツを地獄に叩き込むことだッッ!!」
「……僕には勿体ないくらいの豪華なメンバーだね」
冗談交じりにそう呟くが、カナキの口元は全く笑っていない。
こうして、セルベス学園最強の二人とカナキの戦いが始まった。
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