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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
ある教師の日常
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依頼

「……で、カナキ君は、今日は本当にそれだけの用事で来たの?」


 先ほどマティアスに指摘されたにも関わらず、セニアがまた口を開いた。


「と、いいますと?」

「だって、エトちゃんには悪いけど、この家って立地も悪いし、今日なんて雨も降ってたじゃない。傘もないカナキ君がわざわざ手配書を見るためだけにここに来るなんておかしいじゃない」

「……まあそうなんですけどね」


 セニアは他人を見ていないようで、意外と鋭く他人を観察している。

 彼女には聞かれたくなかったんだけどな、と内心嘆息しながら、マティアスの方に向かって姿勢を正す。


「なんだ?」

「仕事の依頼です」


 ――周りの空気が変わった。

 マティアスは目を細め、セニアは明らかに唇の端を吊り上げ、エトは、伏し目がちに視線を落とした。


「……エト君、君は部屋に戻っていなさい」

「ううん、いいんです先生。私は気にしないでください」


 エトが無理に作った笑顔で微笑むが、見ていて痛々しいだけだ。何故、彼女が将来、父の稼業を継ごうとしているのか、僕はいつも疑問に思う。

 エトは普段物腰も柔らかいが、そういうのに限って頑固だというのは万国共通だ。

 僕は、この際エトのことを気にしないことにした。


「……お前が私に依頼か。久しぶりだな」

「……まあ、今回はちょっと特別でして。今回の対象はそこまで強くもないんですけど、ちょっと事情が込み合っておりまして」

「なになに、もしかして先週言ってた二人、どっちにするか決まったの!?」


 セニアが目を輝かせて近づいてきたので、僕は舌打ちをすんでで堪える。

 今回の一件については、セニアには本当に関係のない話なのだ。彼女はたまに気まぐれでとんでもない事をしでかすから、こういうところで作戦のイレギュラーとなり得る要因を出来れば作りたくないのだが……。


「そんな露骨に面倒くさそうな顔しないでよー。大丈夫、話を聞くだけだから」

「いや、それが信用できないから嫌なんですけどね」

「……カナキ。話が進まん。先を聞かせろ」


 申し訳ありません。

 僕は話を続ける。


「えーと、そもそも今回の対象、うちの学園の生徒なんですけど、今年入ってきたオルテシア皇国第一王女の“従者”をやっているんです。なので、もしかしたら、王女様自身も関わってくることになるかもしれないんですけど――」

「え、カナキ君、結局フィーナって従者の方にしたの!?」


 この人いると、本当に話が進まないなあ。

 ジト目を向けると、セニアはごめんごめん、とウインクした。


「……この国の王女か。確か、天才魔法師だとか聞いたことがある」

「ええ。実際、化け物です。現在十五歳で、既に準一級魔法師の資格を有していますから、最上級魔法も使えるでしょう」


 準一級魔法師の条件として、最上級魔法を一つ以上習得していること、というものがある。

 そもそも魔法は、魔術とも言われる最下級魔法、下級魔法、中級魔法、上級魔法、最上級魔法と区切られており、最上級魔法の上に、魔法使いと言われる者だけが使える特級魔法がある。

 最上級魔法はいわば、魔法師が扱える魔法の中では、最高クラスの魔法とされており、そのほとんどは、使用者が二人といない固有魔法で占められている。


「最上級魔法って一概に言っても、強さはピンきりよ? それが使えるからって、別にそこまで肩肘張らなくても良いと思うけど」

「現在進行形で、最上級魔法を発動しているセニアさんからすれば、そうでしょうけどね……」


 『完全なる骸パーフェクト・アンデッド』という最上級魔法を常時発動しているこの人からすれば、そんな大した話にも思えないのだろう。マティアスも、そこまで警戒しているようには見えない。もういやだ、この人達。


「まあ、事情は分かった。で、殺すのはその王女の従者と言ったか?」

「ええ、フィーナ・トリニティと言います。彼女自身は三級魔法師なので、マティアスさんからすれば、特別苦労もしない相手だと思いますが……」

「……その程度であれば、お前一人でやれるだろう。何か事情があるのだろう」

「おっしゃる通りです」


 マティアスの察しの良さは、話が流れるように進んで爽快感すら覚える。隣で、「?」を頭に浮かべている錬金術教師にも見習ってもらいたい。


「実はですね……その生徒、今僕が狙っている女でして」

「ぶっ!?」

「きゃあ! エトちゃん!?」

「す、すみません! 気管に詰まって……!」


 噴き出したエトが、慌ててキッチンに消える。その様子に、マティアスすらも驚いたような表情を浮かべている。


「……話を戻しても?」

「ああ。すまんな」

「いいえ」


 エトが戻ってきて、布巾でテーブルを拭きだした。しかし、心なしかこちらの話に耳を澄ませているような気がして喋りづらい。


「……それで、依頼をしておいて悪いんですが、その生徒の護衛を、僕がしようと思ってまして。つまり――」

「その娘の前で、カナキ君が良い所を見せたい、てことでしょう?」

「そうストレートに言われると、流石に自分でもアレなんですが……まあ、間違ってないです」


 意地悪そうに笑ったセニア。僕は頭を掻く。


「マティアスさんが、こういう依頼が嫌いだって言うのは、知っています。けど、どうかお願いします。生半可な殺し屋じゃ、返り討ちにされるのがオチですし、何より少しでも人目に付いたら、国家レベルの問題になり、彼女が学校に来ることもなくなってしまう」

「マティアスさんが駄目なら、私に依頼しても良いのよ? 王女様がいても、私なら問題ないわ」

「セニアさんは絶対に悪ノリして、僕の前で二人とも殺すでしょう。僕の絶望する顔が見たかったとか言って」

「あら、よくわかったわね」

「僕、そのときはセニアさんでも殺しますよ」

「ふふふ、言うわね。――三級の分際で」

「……殺し合うならよそでやれ」


 マティアスが辟易した様子で言う。

 僕はマティアスに向き直り、頭を下げる。


「お願いします。報酬は多めに払います。どうか引き受けてくれませんか?」

「…………」


 長い、沈黙。セニアとエト、そして僕の視線が、瞠目するマティアスに集まる。

 やがてゆっくりと目を開いたマティアスの声は、相変わらず淡々としていた。


「――お前自作の魔晶石三つ。これで依頼を受けよう。ただし、条件がある」

「……なんですか?」

「お前の余興には付き合っても良い。だが、私もつい先日、大きな仕事が来てな。今まで生きてきた中で一番の、とても大きな仕事だ。これを、お前にも手伝ってもらおう」

「大きな仕事、ですか?」

「ああ。これを終えたら、隠居しようかとも考えている」


 僕は目を丸くした。セニアも、信じられないと言った表情でマティアスを見ている。この鬼が引退する前の最後の仕事にしても良いというほどの大きな仕事。それに、僕達に仕事の協力を頼んできたのも初めてだ。これに興味がない僕達ではなかった。

 エトは先ほどから俯いたっきりだ。彼女はどんな仕事の内容かも知っているのだろう。

 逸る気持ちを抑え、僕は、マティアスに訊ねた。


「……その仕事って、どんな内容なんですか?」

「――カレン・オルテシア第一王女、及び治安維持部隊『カグヤ』の隊長、レイン・アルダールの暗殺だ」


読んでいただきありがとうございます。

御意見御感想など、頂けたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何だろう殺人鬼の集まりなのに、ワクワクする。 ドキドキするのは怖いからなのか、ワクワクしてるからなんだろうか
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