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ちびっこ賢者、Lv.1から異世界でがんばります!【Web版】  作者: 彩戸ゆめ
第二章 ちびっこ賢者、がんばります!

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第67話 ラブラブっていいね

「それに、この指輪も見つけてくれたんだ」


 しばらく経ってから、そんなカールさんの声が聞こえてきた。

 でもまだアルにーさまは手をはずしてくれない。


「これは……!?」

「なんでもオオネズミの変異種を倒したら出てきたらしい」

「オオネズミ?」

「多分……村の外に出た時に指輪を落として、それをオオネズミが食べたのかな。ほんの少しだけ加護の魔法をかけてもらった指輪だから、それでかもしれない」


 前にアマンダさんから聞いたことがあるんだけど、装備に防御力を足す場合は、ゲオルグさんのような付与術師が魔法陣をその装備に付与する以外にも、加護を付与する、っていうやり方があるんだって。


 気休め程度の防御力アップだけど、装備に魔法陣を刻むよりも簡単で安いし、魔力を持っている人なら割と簡単にできるから、こういった結婚指輪には加護を付与することも多いみたい。


 魔物は生き物だけじゃなく、魔力のある物を食べたりすることがあるみたいだから、それでカールさんの指輪も食べられちゃったんだろうなぁ。


「それって、タニアと一緒に村を出た時でしょう?」

「知ってたのかい?」

「こんな小さな村だもの。知ってるに決まってるじゃない! やっぱり、あなたはあの女の人が――」

「だから誤解だよ、メアリ。確かに僕はタニアと一緒に村の外に行ったけど、それはお墓参りの為だったんだ」


 へぇ。お墓って村の外にあるものなんだ。

 確かにゲームでもアンデッドが出てくる墓場って、村から少し離れたところにあったっけ。

 こういうところは、エリュシアオンラインと同じなんだなぁ。


「お墓参り?」

「うん。村を出て少し行ったところにこの村を見下ろせる丘があるだろう? そこに、トールのお墓を作ったんだ。お墓にはトールの斧のカケラを入れただけで、単なる僕の自己満足に過ぎないんだけどね」

「……知らなかったわ」


 前回の魔の氾濫の時の魔物の王はアンデッドキングだったわけだけど、アルにーさまから少し聞いた話によると、魔物の王と戦って倒れた人もアンデッドになって襲ってきたって言ってたから、多分、トールさんも……。


「そのうち言おうと思ってたんだけど、魔の氾濫が起こってそれどころじゃなかったからね。だから本当に君が心配するようなことはなかったんだよ」

「私……ごめんなさい、カール。私、ずっとあなたが好きだったから……あなたが結婚する相手を探してるって聞いて、誰でもいいなら私でもいいんじゃないかって……そう思って。だからカールのお父さんにカールと結婚させてくださいって頼んだの」

「そうだったのか。……ごめん、気がつかなくて。てっきり君は、ずっと兄さんのことが好きだったのかと思ってた。だから僕との結婚は不本意だったんだって……」


 昔のカールさんはぽっちゃりさんだったみたいだから、女の子はみんな、モテモテのお兄さんの方に行っちゃうのかも。


「冗談じゃないわよ、あんな女たらし。村の女の子全員に声をかける人なんて趣味じゃないわ。私はカールの優しくて、一緒にいると癒されるところが好きなの!」

「メアリ……」

「あ~。ゴホン。そろそろ周りにも人がいるのを、思い出しちゃぁくれねぇかな。こっちにはちっこい嬢ちゃんもいるんでな」


 わざとらしく咳をしたフランクさんの言葉に、パッと二人が離れる気配がした。


 アルにーさまもやっと目を覆っていた手を離してくれたけど、カールさんもメアリさんも真っ赤で……。


 うん。ラブラブっていいね!


「メアリ。もう一度この指輪をはめてくれるかい?」

「もちろんよ、カール」


 顔を赤くしながら見つめ合う二人。

 段々とその顔が近づいて――


 って。どうしてまた目をふさぐんですか、アルにーさま!


「はいはい。そういうのは後にしてね~」


 手をパンパンと叩く音とアマンダさんの声が聞こえると、アルにーさまの手が離れた。


 もうっ、とアルにーさまを見上げると、頭を撫でられた。

 こ、こんなことでごまかされないんだからぁっ。


「あ、すみません。……それにしても、皆さんにはなんとお礼を言ったらいいのか……」

「カール。今日の宿泊代をサービスするのは、どう?」

「もちろんそれは考えてるけど、それだけじゃ足りないよ。君のことだけじゃなく、甲冑虫も倒してもらったんだしね……。そうだ」


 ちょっと宿屋まで来てもらえませんか、と言われてついていくと、カールさんは飾られていたトールさんの形見の斧の後ろから何かを取り出した。


 えっ。ちょっと待って!

 あれって、鍵!?


「もし良ければ、これを差し上げます。この村の近くに『試練の洞窟』という、それほど強い魔物が出ないダンジョンがあるんですが、これは隠し部屋に入るための鍵だそうです。いつか僕が冒険者として戦えるようになったら一緒に行こうとトールからもらっていた物ですが、僕はこれからずっとここでメアリと宿屋をやっていくので、もう使う事はないでしょう」


 カールさんは凄く懐かしそうな顔をして鍵を見つめると、それをフランクさんに渡した。

 え、でも……。


 『試練の洞窟』って、確か初心者村の近くにあるダンジョンじゃなかったっけ。

 ということは、このグラハム村がエリュシアオンラインで最初に行く初心者村なの!?


「トールが言うには、隠し部屋には宝箱とそれを守る番人がいるそうですが、それほど強くはないので、力試しにはちょうどいいという話でした」


 うんうん。確かにダンジョンの奥にボスがいた。

 黒いモヤモヤが獣の姿になって、犬系のモンスターの……なんだっけ。えーっと、そうだ。マッドドッグが出てきたんだ。


 ギルドマスターのセシリアさんに手伝ってもらって倒したから瞬殺だったような……。


 私は周りの人たちの顔を見回す。

 アルにーさまとアマンダさんとフランクさんとヴィルナさん。そしてここにいないけどカリンさんもいる。


 ……うん。きっと瞬殺できちゃうね。


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