第55話 肉球がおそろーい!
「でも、いいんですか? そんな凄い効果がついたベルトをもらっちゃって……」
ゲオルグさんに肉球ベルトを渡されたけど、なんとなく悪い気がして手に取るのをためらってしまう。
だって、滅多につかない効果なんだよね?
「もちろん。元々それはユーリちゃんのベルトだしね」
ゲオルグさんはそう言ってくれるけど、でも……。
「そうよ。子供がそんなことを気にしちゃダメよ。素直にありがとう、って言えばいいの」
横に座るアマンダさんが、私の髪を優しく撫でてくれる。
私は肉球ベルトをぎゅっと握って頭を下げた。
「ゲオルグさん、ありがとうございます。大事に使いますね」
「ああ。そうしてくれると俺も嬉しい」
にこっと笑う髪の毛と同じこげ茶の瞳が凄く柔らかい。
あれぇ? なんか、こうして見ると、このモジャモジャの髭がなければ、ゲオルグさんってかなり整った顔の持ち主なのでは……?
あ、でも髭を剃っちゃうとアマンダさんのライバルが増えちゃうから、お口にチャックだよね。
ゲオルグさんの魅力は、アマンダさんだけが分かってればいいしね。
アマンダさん、がんばって!
それにしても『幸運』の効果って、どんな効果なんだろう?
あ、自分の装備だから、効果がどんなものか見れるんじゃないかな。
この世界ではそういうのは見えないんだけど、エリュシアオンラインではNPCの名前とかお店で売ってる装備の強さとか、じーっと見てると半透明のウィンドウが出てそこに表示されたんだよね。
例えばアマンダさんなら、その頭の上に『アマンダ』っていう名前が表示される。
装備の場合は、武器なら攻撃力、防具なら防御力が見れたんだけど、この世界では自分の装備しか数値が見えないようになっている。
魔物からドロップしたアイテムとか、宝箱から出てきたアイテムとかはどうなるのかなぁ。
そういえば魔物を倒すと魔石がドロップするっていうのは聞いたけど、皮とか骨みたいなアイテムはどうなるんだろう。
魔物がドロップする皮系のアイテムは防具系の材料に、骨は武器系の材料になってたけど、そのままドロップする……なんてことはないよね、きっと。
この世界に来てから倒した魔物はスライムとゴブリンくらいだけど、スライムは私の魔法が強すぎたせいで燃えつきちゃって何も残さなかったし、ゴブリンは……そういえば、持ってた棍棒がドロップアイテムになるのかなぁ。でもあれって、ゴブリンが持ってたものをただ単に落としただけだよねぇ。ドロップアイテムとは言わない気がする。
これから土の迷宮を目指す旅に出れば、分かるかなぁ。
そんなことを考えながら、肉球ベルトをじっと見つめる。
≪肉球ベルト
白猫のNPCから購入可能
基本効果 素早さ+5
追加効果 幸運(付与・ゲオルグ) ≫
おお。ちゃんと≪ゲオルグさんの付与≫って書いてある。凄い。
この『幸運』のところをタップして、っと。
あれ? 何も表示が出てこない。
なんでだろう?
うーん。でもきっと『幸運』がついてると何かいいことがあるんだよね。
はっ。もしかしてそう書いてないだけで、レアドロップ率が上がってるんじゃ!?
だとしたら、早速装備しなくっちゃ!
ゲオルグさんの作ってくれたピンクのワンピースに肉球ベルトを装備する。
どうかな。似合ってるかな?
「ユーリちゃん、可愛いわ!」
「わーい。ありがとうございます。ノアールも似合うと思う?」
そう聞くと、膝の上にいるノアールが肉球ベルトをじっと見た。
「にゃ」
「ほら見て、ノアール。肉球がおそろーい」
ノアールの前足を取って、肉球ベルトにタッチさせると、「にゃ?」と首を傾げる。
きゃあああああ。可愛いいいいい。
さすがうちのノアール! 可愛さがハンパないです!
そしてこのぷにぷにの肉球の誘惑には、誰も勝てません。
はぁぁぁぁ。ずっとぷにぷにしていたいぃぃぃぃぃ。
と、そこにドアがノックされる音が響いた。
「アマンダ、ちょっといいかな」
アルにーさまの声だ!
アマンダさんはゲオルグさんと顔を見合わせる。そしてゲオルグさんが頷いたのを見て、「どうぞ」と答えた。
ドアが開くと、アルにーさまと一緒にもう一人、部屋の中に入ってくる。
あれ? ぽっちゃりイエローさん……じゃなくて、えーと、ランスリーさんだ。どうしたんだろ。
ランスリーさんはアマンダさんの姿を見つけて凄く嬉しそうな顔をした。それからゲオルグさんもいるのに気がつくと、ちょっと顔を曇らせる。
むむむ。やっぱりこの三人は三角関係!?
「どうしたの?」
「ランスリーがアマンダに話しておきたいことがあるらしいんだ」
「何かしら?」
まままままさか、ここで告白するんですか!?
いやでも、ゲオルグさんもいますよ? 玉砕覚悟の告白とか!?
「ちょっと父がね、気になることを言っていて……」
「レーニエ伯爵が?」
その名前を聞いた途端に嫌そうな表情を隠さないアマンダさんに、ランスリーさんは申し訳なさそうな顔をした。
「あ、いや。今回の件は君のことじゃないんだ」
「――どういうこと?」
首を傾げるアマンダさんから視線をはずしたランスリーさんは、じっと私を見つめた。
「ユーリちゃんに関することなんだ」
ええっ。私ですか?
な、なんで!?




