星の夜のプレゼント
むかしね。
わたしたちの家には
大きなクリスマスツリーがありました。
飾りがキラキラしていて、
ケーキは甘くて、
プレゼントはふわふわでした。
だけど
わたしはあまり覚えていません。
いま、わたしたちは
砂ぼこりのまうキャンプで暮らしています。
夜は寒くて、
毛布をぎゅっと巻きつけます。
ご飯が足りなくて
お腹がグーグーなります。
ときどき、
怖い夢を見ます。
でも、
お兄ちゃんがそばにいます。
それだけで、
なんとか眠れます。
ある夜。
わたしは聞きました。
「ねえ、お兄ちゃん。
サンタさん……ここにも来るかな?」
お兄ちゃんは、すこし黙って。
それから言いました。
「……来てくれたらいいね。」
その声は、
ひとつの星みたいに小さかった。
次の日から。
お兄ちゃんは何かを集めはじめました。
破れた布。
ほどけた糸。
落ちていたボタン。
夜になると
お兄ちゃんは眠るわたしの横で
チクチク……チクチク……
手を動かしました。
糸はすぐ切れました。
指には傷ができました。
でも、お兄ちゃんはやめませんでした。
そして。
クリスマスの朝。
目を開けると、
枕元に、小さな包みがありました。
そっと開けると……。
ガタガタな縫い目の、
布の小さなクマ。
ふわふわじゃない。
色もバラバラ。
かたちも――ちょっとへんてこ。
でも。
胸がぎゅってなるくらい
あったかかった。
「サンタさんじゃなかったけど……」
お兄ちゃんは照れくさそうに言いました。
「ごめん。かわいくなくて。」
わたしはクマをぎゅうっと抱きしめて言いました。
「ううん。
これが……いちばんうれしい!」
外にはツリーもない。
ケーキもない。
灯りもない。
でも――
空いっぱいの星が光っていました。
わたしはクマを抱いたまま、空に言いました。
「サンタさん。聞こえる?」
世界には、
家を失った子どもたちがたくさんいます。
帰りたいのに
帰れない場所があります。
それでも。
希望は、
消えません。
だってきっと。
だれかが、
覚えているから。
目をつむると、
お母さん。
お父さん。
そして お兄ちゃんと、
むかし すんでいた家の 玄関のまえで
手をふって まっていました。
私は最後につぶやきました。
「サンタさん……きっと来てくれたね!」
世界には、戦争に巻き込まれた子どもたちがいます。
家を失い、家族と離れ離れになり、
病気やケガに苦しむこともあります。
そして、食べ物が足りず命を落とす子どももいます。
難民キャンプは、生きるための場所。
でも、ときどき、自由や選ぶ権利がありません。
理不尽で悲しい現実です。
でも、希望もあります。
誰かが「忘れていないよ」と思うこと、手を差し伸べること。
世界から、戦争や苦しみがなくなる日を、
みんなで願い続けたいのです。
この絵本を読んだあなたが
「だれかを忘れない人」になってくれたなら、
きっと。それがもうひとつのクリスマスプレゼントです。




