夏の終わりに届いたメール~地球の裏側まで~2008年8月31日締切の第5回電撃リトルリーグ応募作。お題『夏の終わりに届いたメール』。
健君へ
第一志望の大学に合格しました。これで思う存分遊べます。
リオのカーニバルを見に行きたいので、健君の所へ初めて遊び
に行くね。海外へは何度か行ったことがあるけれどブラジルへ
は遠すぎてなかなか行けませんでした。もっと日本とブラジル
の距離が近づけばいいのになぁ。この手紙が健君の所へ届く頃
に到着する予定です。
2月も後半になり秋の気配がし始めた頃、日本にいる幼馴染
のあかりちゃんからエアメールが届いた。ボクは5年前に両親
を亡くし、ブラジルで農業を営む叔父さんの家へ預けられた。
それ以来、あかりちゃんとはエアメールや国際電話で連絡を
取り合っている。この地域ではパソコンや携帯でのメールはほ
とんど普及していない。
ブラジルといえば常夏の国というイメージがあるがボクが住
んでいる南部では日本の大部分と同じ温帯気候に属し、四季も
はっきりとしている。
その日の夕方、エアメールの内容通りあかりちゃんが遊びに来
てくれた。
「こんにちは、健君。すごく久しぶりだね」
「うん、でも写真を送ったりして顔は見てるからあまり久しぶ
りという感じはしないんだけどね」
「いらっしゃい、健の幼馴染のあかりさんだね。初めまして、
ここまでとても遠かっただろ?」
「はい、初めまして健君の叔父さま。ここに来るまで丸2日か
かりました」
「そういえば、あかりさんの両親って優秀な学者さんなんだっ
てね?」
「はい、母は工学、父は民族学の研究をしています。わたしも
影響されて何かを生涯を通じて研究をしたいと思い、大自然と
触れ合うことが大好きなので、理学部地球科学科に進むことに
なりました。大きな湖があるこの家の周りの風景も一目で気に
入りました」
「ボクもここから歩いて15分くらいの所にある大学にこの秋
から進学が決まったよ。ボクも大自然と触れ合うことが大好き
で農学を研究することにしたんだ。今は亡き両親も同じだった。
冬山登山で雪崩に巻き込まれて亡くなったけど過酷な自然と闘
うことを誇りに思ってたよ」
「健も姉さんの血が受け継がれてるな。イカダでアマゾン川下
りをしたりしてね」
「虫に刺されたり、川へ落ちてピラニアの餌食になりそうにな
ったりとても危険な目に何度もあったけど楽しい思い出だった
よ。またやりたいな」
「わたしもそんな日本では体験できない大冒険してみたいな。
カーニバルもすごく楽しみです。父の影響もあって世界の文化
にも興味があるんです」
「ブラジルを代表するお祭りだからね。ボクは毎年見に行って
るよ」
「カーニバルまで後3日、ここからリオデジャネイロまで千キ
ロ以上はあるから明日には出ないといけないな」
翌朝、叔父の車で目的地へ向かいとても華やかなパレードを見
物した。初めて生で目にしたしたあかりちゃんはとても興奮し
て楽しんだようだ。
あかりちゃんが日本へ帰国する日、突然、湖に大きな波紋が発
生し、中からロケットのような乗り物が飛び出してきた。
「あかり、完成したわよ。重力突破、超耐熱性マッハ20の超
音速飛行機、これで日本からブラジルの健ちゃんの所まで30
分で着くわよ。湖の中から日本へ一直線。これで2人の距離も
直通よ」
「お母さん、ついに完成したんだね、ありがとう。わたし、健
君がブラジルへ行ってからずっと健君の所まで30分以内で行
ける乗り物を開発してってお願いしてたの」
なんと、あかりちゃんの母親は日本とブラジルの間を結ぶ地球
貫通トンネルというよく聞く夢物語を実現させてしまったので
ある。
そういえば、あかりちゃんの母親は天才発明家で昔から常識ハ
ズレなことを仕出かすとんでもない人だったがまさかここまで
やるとは……近い将来タイムマシンまで発明してしまうんじゃ
ないかって思う。ボクの叔父さんは驚いてしばらく声も出なか
った。
「上空は飛行機や鳥とかに衝突する危険性があるけれど、地中
なら通行を邪魔するような物はないわよ。それに上空飛んだら
2万キロ、地中を通れば1万2千キロでより近くなるでしょう」
地球の内部は高温高圧、マントルなど人間の力では太刀打ち出
来ない障害物だらけだと思うが……
あかりちゃんの母親は溺愛する1人娘のために乗り物の開発
に2年、地面を掘って地球の裏側まで貫通させるまで3年、ボ
クのブラジル生活歴と同じ計5年の歳月を費やして開発したそ
うである。
「わたし、実は健君と同じ大学に進学することになったの。こ
の乗り物使えば健君の家まで片道30分で行けるよ。これでエ
アメールを送らなくても毎日直接会えるね。本当はわたし、健
君の家でいっしょに暮らそうと思ったんだけどお母さんが寂し
がって、それでなんとか日本から通えないかなって考えてたの」
「えーっ!?同じ大学なんて初めて知って驚いたよ。一緒に住
むのも歓迎だけど日本から地球の裏側まで通学するなんて世界
初どころか人類史上初だね」
2月末、ブラジルの夏の終わり、ボクとあかりちゃんとの距離
は一気に近づいた。




