共和国国家宝塔安全委員会
「……疑問に思うのは分かるがね。言った筈だよ、“入札者に疑問がある”と。この入札IDは、とある商社の営業IDなんだが……輸出規制対象品目を当該国に横流ししている疑いで目下、内偵中の企業なんだよ。しかも相手は隣国のタワー管理機関“共和国国家宝塔安全委員会”だと目されているんだ」
統括支部長の口から出たのは、隣国C共和国が運営する“塔管理組織”でありながら、近隣諸国で猛威を振るう諜報組織の名称だった。
「それは……それが本当なら、もしかして“佐渡ヶ島ゴールディズ”の暴走も彼等の?」
「それについても調査項目に加えねばならんだろうな。一応、別口の情報源もあるが……そっちは、どうも口が重い。富士でも妙な動きをしているパーティが幾つかある上に、ギルドも年々信用の置ける部下は減る一方でな……直接情報を伝達するのが無難だと判断して佐渡ヶ島に来たんだが……」
「お手数おかけして申し訳ありません」
神山は素直に頭を下げる。ギルドを騒がしているのは神山ではないし、そもそも頭を下げる様な謂れもない筈なのだが……
「顔を上げたまえ。君の判断や行動に不備など無いよ」
神山は頭をゆっくりと上げた。
「ありがとうございます。それで……例の角と入札者の件ですがいかが処理すべきでしょうか? 少々強引ですが現時点でならギルドの権限で差し止める事も……」
「いや、相手が正規の手続きに則って取引を進めている以上それは得策では無いだろう。ただ……角の行き着く先を見極めるのは絶対に必要なのでな。実は富士から何人か信用の置ける部下を連れてきている。追跡のスペシャリストをな……君達には彼等に便宜をお願いしたい」
これはかなり思い切った行動である。本来掲示板の取引で、ギルドが関われるのは仲介迄で、その後の取引は委託されない限り個人間でのやり取りが基本だからだ。滝沢氏はたまたま個人の都合で入金確認や採取品の引き渡しをギルドに丸投げしてくれているが、いや………正確には販売窓口は滝沢氏では無かった筈だ。まさか……
「承知いたしました。それでその方たちは?」
いけない、私が黙考してる内に神山と鷹山の間で話が進んでしまっている。
「既に調査を開始しているよ。ああ、心配は要らない。彼等の事を認識出来る者はそうは居ないからね」
――――――――――
俺はギルドでの報告を済ませた後、角の納品を終えた環奈を“一攫千金”まで送り届けた。この後は親父さんの食材の仕入れに便乗してフェリー乗り場まで送ってもらう予定だ。
二人には、次の週末に再度来訪する旨を伝え、必要な日の宿泊予約も入れてある。来週は祝日が絡むので土・日・月曜日の連休なのも都合が良かった。それに……懸案だった“タワー攻略の為の人員”として環奈と臨時パーティを組めたのも大きな収穫だ。ギルドからの帰り道で、
「角を代理で販売したくらいで報酬まで頂いてしまって……申し訳ありません。私がどこまでお手伝い出来るかは分かりませんが……来週も宜しくお願いします!」
と、言ってくれたのは僥倖だった。実は昨日の時点で、俺は彼女に臨時パーティを組んでくれないかと頼んでいた。
「いや、こっちこそ無理を通して申し訳ない。俺は個人的に、本間さんの索敵能力はタワーの探査には必須のスキルだと思ってる。君の事は俺が全力で守るから、改めて来週は宜しく頼む」
俺は、彼女と軽く握手をしてそう答えた。握った手を離すと、何故か若干上気した顔でブンブン頷いていた……
――――――――――
俺は、その後フェリーと公共交通機関を乗り継いで自宅に帰った。俺の自宅はN市の郊外にある古民家だ。ウチの一族は、ジイチャンの代には高度成長期に木材の供給を、木材販売が頭打ちになり始めたオフクロの若い頃には、送電網の為の鉄塔用地と道路開発の為の用地として、一部の土地を処分して貯蓄と投資に回したので、財産としてそこそこ潤っていた……らしい。今では、その後の度重なる不況の煽りを受けてウチの財産は大きく目減りし、残っているのは大きさだけは立派な古民家と、裏に続く資産価値ほぼゼロの山だけになっていた。
俺がタクシーで自宅に到着すると、自宅の前では何故か一人の老人が待っていた。彼はじいちゃんの代からウチの番頭を勤める男で名を助松利平という。既に木材問屋も閉業して久しいのだが、俺以外の一族がみな死別・離散した後もウチの家の一切を取り仕切る人間である。
どうも爺さんとは背中を預けあった戦友(?)であったらしく、死んだオフクロも彼には頭が上がらなかった。ちなみに俺が幼い頃、帰宅するたびに門前で出迎えてくれる彼に“何故帰宅時間がわかるのか?”を尋ねた事があったんだが……答えは『手前は番頭で御座います。主人の帰りを出迎えるのは当然でございますれば……』だった。
「ただいま利平さん。変わりないかい?」
俺は、努めて普段通りの感じで振る舞って見たが、爺さんの目は俺をジロっと一瞥したあと、
「おかえりなさいませ。お家は平常そのもので御座います。………若、この老骨が惚けておらんとするなら、若は確かトラックで出立なされた筈……もしや……」
やっぱり気付くか爺さん……俺は、目を盛大に泳がせながら、しどろもどろに言い訳を始めた。
「ああ、軽トラはなぁ……出先で故障しちまったんだ。様子を見るに、修理は無理そうだったんで、現地の業者に処理を依頼……」
「左様でございましたか……それは難儀でございましたでしょう。整備兵として春人様の後ろを預からせていただいた私めも耄碌したもので御座います……全くもって度し難い失態! 家財一切の管理を承っておりながら……この体たらくは万死に値しましょう。本日、只今をもってお暇を頂戴いたし、春人様と夏輝お嬢様のお側に侍ると致します」
「待て待て待て待て!!! 分かった、俺が悪かった。ちゃんと訳を話すから!!!」
まったく……勘弁してくれよ……
もし続きが気になるようでしたら……是非☆☆☆☆☆貰えたら嬉しいですm(_ _)m




