老若男女全員平等!
『承知しました……エネルギー転換増幅の並列励起を開始します』
PDからの起動通達の直後、全身の細胞全てが、別の何かに変換された様な感覚が走る。
身体感覚と五感、更に筋力の全てを底上げする【並列励起】は、 PDを発見してから重ねた訓練とシミュレーションの中でもたった一度だけしか体感したことがない。
【並列励起】は、アーマーバッファローを仕留めた筋力増幅LV2よりもエネルギー消費や出力自体は小さい。だが“エネルギーそのものを完璧にコントロール下に置く”事を主眼とした能力構成は単純なスペックアップとは一線を画す。ただし、代償として被る負担も他とは比べ物にならないが……
俺は、無意識に両手のバットを捨て、全身の感覚を確認する様に、掌を握ったり開いたりしていた。
それから、おもむろにハゲ男を見据えたが……これは自分でも月並みな表現だが……そこに見えた景色は、今迄と同じ物を見ている筈なのにまるで違う光景だった。
「後ろのケバいねーちゃん、このオッサンは今更止めろと言ったところで無駄だろうからあんたに言っとく」
ハゲの後ろで杖を拾うタイミングを図っていた女は、突然話掛けられて一瞬狼狽した様に見えた。が、俺がバットを捨てたと見るや、無言で数m先に落ちていた杖に飛びつき、即座にこちらに向けて何かを呟き始めた。だが、俺はその行為を完全に無視して、自分の言いたい事だけを告げる。
「今から真っ直ぐ行ってオッサンを打ちのめす。ねーちゃんもそれを見たらもう何もするな。俺は敵対する相手は“老若男女全員平等”が信条なんでな」
数m先に居る男は、変わらず鋒を俺に向けたまま、額に血管を浮き上がらせた。
「バカが……出来るもんならやってみろ!!」
オッサンが怒鳴ったそのセリフが終わる前に……俺は増幅された感覚でオッサンの“瞬きする瞬間”を捉え、認識の外側からオッサンの懐に飛び込んだ。
オッサンは俺が視界から突然消え去った事に狼狽したが……再び俺の存在を認識する前に勝負は終わっていた。俺はオッサンの構える剣の鍔元を左手で摘み、右の掌底で顎先を掠める。首を支点に激しく揺らされたオッサンの脳は……機能不全を起こして全身を統率する仕事を放棄。結果、オッサンは糸が切れた操り人形の如くその場に崩れ落ちた。
「さて、ねーちゃん。俺があんたの所に辿り着く前に……スキルが完成するか勝負してみるか?」
俺は左手でオッサンの剣を玩びながら、もう一度ケバいねーちゃんに問いかけた。崩れ落ちたオッサンを見たケバいねーちゃんは俺に問いかけられた瞬間……
「ひっ……」
と、短い悲鳴を漏らしてその場にヘタリこんでしまった。
――――――――――
「まったく……あそこまでバカとは思わなかったでやんすよ」
オイラは、車を港に向けて走らせながら、運転席で一人愚痴を垂れ流していた。
オイラが、さんざん骨を折って見つけたお宝持ちのエクスプローラーだというのに……奴等はロクに相手の事も分からない状態で部屋に押し入った挙げ句、偽物を掴まされて帰って来やがった。
この時点で、既に自分達が警戒されているのが丸わかりだろう。それに、事ここに至れば、仮に素材を手に入れて無事に取引を済ませたとしても……自分達が疑惑の目を向けられるのは避けようがない。
更に……怒り心頭のハゲと銭ゲバは、このままもう一度奴等を襲撃すると言って聞かなかったのだ。相手は、少なくともアーマーバッファローを仕留める実力を持っている上に、更にその関係者達を巻き添えにする事すら厭わずにだ……
オイラは『能力的に正面から掛かるよりも隠れて隙を突く方が成功率が上がる』と二人を説き伏せ、奴等が襲撃を開始した隙に結果すら確認せず車を奪って逃走した。
「どのみち……これだけの事を仕出かせば、奴等はお尋ね者確定でやんす。このまま一緒にお尋ね者になるなんて……真っ平ゴメンでやんすよ」
今、奴等と離れさえすれば、少なくとも襲撃には加担してないとギリギリ言い張れる。小娘を囮にしたのは何とでも言い訳がつくし、オイラが小娘を助けようとしていたのは複数の人間が証言してくれるだろう。ついでにパーティ管理用のタブレットからギルドのサイトへアクセスしパーティ登録の項目からパーティ離脱の手続きを送っておいた。
後は、角を欲しがっていた“奴等”の事だが……ハッキリと、これはもうどうしようも無い。奴等の規模からして楯突くのは不可能だ。ならば……
「暫くは佐渡ヶ島タワーでの仕事は無理でやんすね……さっさと本土に渡って大人しくしてるでやんすよ」
そうこうしてる内に車はフェリーターミナルに到着した。オイラはパーティで所持していた優先パスを使ってフェリーへ車両を積み込み、船内の事務カウンターで受付と精算を済ませた。フェリーがゆっくりと岸壁を離れるのを確認し、とりあえず乗船中の一時間半は一息付ける……そう考えてデッキのベンチに座りこんだ時だった。
「随分慌ててるじゃ無いか? そんなに焦って何処に出かけるつもりかな?」
ロビーのベンチに座っていたオイラの背後から“絶対聞こえ無い筈の声”が聞こえた。
オイラはベンチから動けなかった……これでもそれなりの修羅場は潜ってきたエクスプローラーの端くれだ。想定しない事態に出くわす事だって日常茶飯事だし、そんな時でも冷静にトラブルに対処してきたからこそオイラはまだ息をしている。
にも関わらず……背後から漂う“濃厚な死の気配”はオイラの行動を殺気だけで完全に封じこんでいた。
「どうした……そんなに汗をかいて。ああ、船内の暖房が効きすぎているのかな?」
「いや、暖房は快適でやんすよ。ただ……ちょっと悪寒がするだけでやんす」
「ほう、それはいけない。養生してくれたまえ……そんな時に悪いんだがね」
「何でやんすか?」
後ろから聞こえる声は、まったくと言っていいほど普通だった。恐らく周囲に人が居たとしても知り合い同士が雑談をしている様にしか見えないだろう……だが、オイラは運が悪い事に自分の背後に座っている人物の本性を知っていた。
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