排出率完全ランダムガチャ
「中川、今晩飲みに行くから付き合え」
「…………は??」
この上司……突然何を言い出すんよ? あーしとあんたはそんな関係じゃ無いだろう……まぁ、どうしてもってんなら……絶対イヤって程でもないけど……
「これから本間環奈女史の実家に食事に行くので予約を頼む。それと一応残業申請を出しておけ」
………なんだコイツ。マジ最低。
まぁ、いくらあーしが鈍くても、ここまでの流れで、この冷血上司が“今夜何かがあるかも知れない”って思ってる事くらいは分かる。それもあーしの友達に関係ある事だって言うなら残業の一つ二つ嫌がってられんし。
「チョリース! カンちゃんにライン入れときま〜す」
あーしは文句も言わずに横暴冷血上司のオーダーに従った。いや、あーしマジいい女じゃね?
――――――――――
『端末に表示されているのが“回収したエネルギー”を便宜的に数値化した物で、これは私の本体から付与されたエネルギーと合わせて使用可能です』
「今日は擬似的な筋力増幅だけだったが、今後は他の使い方も試さねぇとな」
俺は夕食に呼ばれる迄の時間でPDと今日の狩猟についての検証をしていた。手元の端末には今日の使用エネルギーとアーマーバッファローから回収したエネルギー、差し引きの回収数値などが並んでいる。
『ここ一週間で世界に点在する“タワー”についての情報収集を行いましたが、その中でも“スキルブロック”で発現する簡易的なエネルギー転換能力はかなりのバラつきがあります』
「分かりやすく言ってくれ」
『排出率が完全ランダムのガチャです』
「あー……うん分かった」
コイツ……現代社会の闇を覗いたな。
『今“タワー”から発見され、情報が公開されている“スキルブロック”は私の本体にオーダーすれば精製可能です。しかしエネルギー運用の観点からは非効率なのでおすすめ出来ません』
「どういう事だ?」
『感覚拡張系のスキルは別ですが、攻撃用スキルと呼ばれる物はエネルギーを炎や氷、または電気等の別の形態に変換して使用する物が殆どです。これは人間が扱う事を前提とした“イメージ喚起しやすい事”を優先しての仕様かと思われます』
「お前さんに言わせれば“エネルギーの無駄”って事か」
『少なくとも私が直接補助しているタキザワは、もっと純粋にエネルギーを行使できます』
「そこは更に検証と研鑽が必要だな。エネルギーってのは突き詰めれば融通の利く道具って事だろ? 道具を上手く使うなら練習がいるよな?」
『理解が早くて助かります』
「……善は急げだな、今使用中のエネルギー転換増幅モードを感覚拡張モードに変更してくれ」
『大丈夫ですか? 以前に試した時には、感覚の混乱で酷く酩酊されましたが?』
「どの道慣れないといけないからな……ただ拡張の度合は前より落とそう。あんな目に遭うのはもう懲り懲りだ」
『承知しました。低減率を一律で設定すると、元々の感度の違いでまた混乱するかも知れません。ですので、それぞれの感覚を調整して“少し感覚が鋭くなった”と感じる程度に微調整しましょう』
「それで頼む」
その後、暫く端末片手に微調整をしていた俺の耳に、微かに足音が聞こえた。足音は部屋の前で止まって控えめなノックが響く。
「どうぞ、空いてるよ」
俺の返事で軽く空いた扉の隙間から、環奈が顔を出す。
「失礼します。タキザワさん、お食事の用意が整いました。それと……」
環奈の顔が少し曇る。
「どうした?」
「さっき京子ちゃんからラインが入って……これから会社の方と食事に来られるそうです。今迄、京子ちゃんが一人で来てくれる事はあったんですが……こんな事は初めてです」
環奈の話を聞いた俺は、ついニヤついてしまった。まったく仕事の相手ってのは察しがいい人間に限るな。
「へぇ、あの娘にそういう相手が居たんだな。からかって悪い事をしたよ」
すっとぼけた俺の返答に環奈はますます微妙な表情を浮かべた。
――――――――――
俺が飲み屋スペースに戻ってきて暫くすると、探検者協会で俺の報告を受け取った金子が京子と連れ立って現れた。二人はギルドに居た時とは違って私服だ。見たところ他に連れは居ないらしい。
「滝沢さん、本間さん、先程はギルドへの報告ありがとうございました」
「いや、こっちの都合もあったし、気にしないで下さいよ」
俺は気分を害さない程度に金子と京子を観察してここに現れた理由を推し量る。二人がギルドから間を置かずにここに現れたのは、当然俺の仕込みに反応しての事だろうが……
「タキザワさん……宜しければご一緒しても良いでしょうか?」
結構グイグイくるな。
「………随分ストレートに来ますね」
「化かし合いは苦手でして。物事は何事も単純で迅速に……というのが私の信条です」
「………まあ、とりあえず座って下さい」
二人が俺の前に並んで座ると、エプロンを着けた環奈がお通しを据えてから品書きを渡す。金子は受け取った品書きをそのまま京子に渡し、
「オーダーは任せる。好きな物を頼め」
「チョリース、おごりって事でヨロっす」
「……好きにしろ」
京子がマイペースっぷりを発揮して、環奈に次々とオーダーを伝える。オーダー端末が当たり前のご時世だが環奈が手にしているのは普通のメモ書きだった。環奈はそれをそのままカウンターの向こうに居る父親へ渡して帰って来るとそのまま俺の隣に座る。そこで環奈が来るのを待っていた金子がおもむろに口を開いた。
「先にお伝えしておきます。本日、環奈さんが臨時で参加していたパーティ“佐渡ヶ島ゴールディズ”がタワーから帰還したと報告がありました」
俺はもう少しで吹き出してしまうところだった。実は奴等のパーティ名を今初めて聞いたからだ。まったくなんだその名前は……お前等は草野球チームかよ。俺はかろうじて表情を保ちつつ、必要な質問をする。
「そうなんですか……それで、彼等は本間さんの事を何と言ってるんです?」
俺とPDの予想は奴等が帰って来る確率はさほど高く見積もってなかったんだが……リスクを取って環奈を捨て駒にした見返りあったという事か。
「いえ……それについては確認されていません。何しろ彼等はギルドには姿を見せて居ませんから……ただ彼等は“本間さんとはぐれたので特別捜索願を出す”と言ってゲートからの退出に便宜を求め、慌ててタワーから帰還しています」
ん?……もしかして囮にされたってのは環奈の勘違いだったのか? いや、奴等にしてみれば環奈が逃げ果せて無事だったとしても何とでも言い逃れは出来る。一応、万一に備えて環奈が無事に帰還した事を周知する為に販売掲示板を使用したり、探索者協会への報告をしたんだが……何かのタイミングでギルドに現れる前に環奈の健在を知ったのか?
「それは……良く分からない行動ですね。奴等の行動が故意にしろ事故だったにしろギルドには正規の報告をしなければ後で困るのは奴等自身だって事くらい分かっているでしょうに……」
俺は疑問に思った事を素直にぶつける。少し思案した金子は、
「実は我々も彼等の行動には少なからず疑問点があります。ただ、これは全体から見た私の印象に過ぎませんが……彼等は焦っているのではないでしょうか」
金子は、一旦言葉を切ると、環奈の父親に配慮したのか少し声のボリュームを落として話を続けた。
「でなければいくら他人とはいえ本間さんを囮にするなど、いや単に臨時パーティメンバーが行方不明になったと報告するだけでも彼等の今後の活動にはリスクしか生じません。流石にそれを考えずに実行したとは考えにくい。ならば彼等にはどうしても時間を失えない理由があったと考えた方が筋は通ります」
確かに金子の言い分は分かる。もし奴等に環奈の事など構ってられねぇ様な事情があったとしたら……今日の俺がした仕込みはとんだ茶番か。まぁ何も無いに越した事はねぇけど……俺が今手に入れた情報でもう一度検証しようと考え直した丁度その時、
― カシャンッ ―
感覚増幅を行っている聴覚をもってしても、本当に微かに……だが確実に遠くでガラスの割れる音がした。
もし続きが気になるようでしたら☆☆☆☆☆とか貰えたら嬉しいですm(_ _)m




