脳筋と銭ゲバ
オイラ達が謎の音の現場に辿り着いた時、そこにあったのは既に角を切り取られたアーマーバッファローの死体と側に残る車両の轍のみだった。ウチのパーティメンバーは既に角が採取されているのを見て露骨にがっかりするが……
「二人とも見て下さい。コイツまだ体液が乾いてないし角の断面も新しい。十中八九さっきの音はコイツの角を切り取っていた音ですぜ」
「だから何だってんだよ。ソイツは既にお宝を持ってトンズラした後じゃないか」
この女……金には人一倍意地汚い癖にまだ分かって無いのか?
「何言ってんすか。つまりこの近くに確実にオイラ達が欲しい物を持ったヤツが居るってことでしょう!」
そう言った途端、二人の目に粘ついた光が溢れ始める。まったく……相変わらず頭の回転がすっトロイカップルだ。
「今更言うまでもないすけどオイラ達は臨時とは言えパーティメンバーとはぐれてるっすよ。そんな被害を出しといて成果無しとか……あまつさえアイツラからの直接依頼の期限は今夜の0:00までっす」
そう、今夜0:00迄になんとしてもアーマーバッファローの角を届けなければ……オイラ達は今後の評判を気にする必要が無くなっちまう。こんな奴等とそんなハメになるのは真っ平ごめんだ。
「全速力で車まで戻るぞ」
――――――――――
オイラ達は全速力で紫草平原からフロアゲートまでの道をぶっ飛ばしたが……その道には目当ての車両は見つけられなかった。
さっきの死体の側に残っていた轍は、轍自体の幅もタイヤの跡も相当狭かった。つまりそれ程大きな車両ではあり得ないし、必然的にスピードもこちらの方が上の筈なのに……だ。
音を聞いた時間から逆算すれば追いつけない筈はない……だが、現実として目の前には既にフロアゲートの広場が見えて来ている。
「並んでいる車両にもそれ程小さな車両は……あん? 何だありゃ?」
それは、ほんのちらっとだけ視界の端をかすめた程度だった。今しがたゲートに吸い込まれた車両がかなり小さく……気の所為でなければ、それは幌を張った軽トラに見えた。
「見つけた! 二人とも居ましたぜ、十中八九間違いねぇす。今スロープを降りているなら……まだなんとかなるかも知れねぇ」
「だけど……一体どうするってのさ? ここに並んでる奴等全員に順番を譲ってくれって頼みこんでみるかい?!」
「いや全員ぶっ飛ばした方が早い」
「ちょっ、ちょっと待って下さいっす。オイラに考えがあるんでココは任せて欲しいっす」
危ない……こんな所で暴れたら折角追いついた苦労が水の泡だ。オイラは自分達の車両から幾ばくかの常備アイテムを持ち出して先頭の車両に近づいた。先頭車両は2トントラックを分厚い鉄板で補強した比較的ココではよく見るタイプの武装トラックだ。
「物分りの良いヤツなら助かるんだがな……」
オイラは車両の側に立っている男に話しかけた。ちっ、イカレた格好のマッチョとか勘弁して欲しいぜ。
「すいません、ちょっといいですか?」
「ん? 何だいあんちゃん?」
振り向いて驚いたね……オイラ世の中にアン○ンマンより人の良さそうな顔があるって初めて知ったんだから。
「すまねぇっす。実はですね……」
オイラ達は自分達のパーティメンバーとはぐれた事、彼女の特別捜索願を依頼する為にギルドに急いでいる事を話し、なんとか順番を代わって貰えないかと交渉した。もし渋る様なら多少勿体ないが常備用初級ポーションでもう一度交渉する事になるだろう。
「そいつは一大事だ。いいぜ、代わってやっから車両持ってきな!」
見た目とは裏腹に……人の良いオッサンのおかげで、オイラ達はなんとかゲート待ちの時間を短縮する事に成功した。
――――――――――
「なるほど……で、そのはぐれた臨時メンバーの為に急いでいると……」
「ええ、俺達には彼女に対して責任がありますから」
「分かりました。それではあのシグナルが点灯したらスロープへ侵入して下さい。ただし、くれぐれも安全運転で」
「ありがてぇ。感謝するぜ係員さん」
オイラ達はタグを提示した後、そそくさとゲートに入った。ここもこのタワーの中では難所の一つだが流石にオイラ達ほどのベテランになれば何ほどの事もない。暫く走ってから1stフロアへ到着する。オイラはさっきの軽トラを探すが、またしてもヤツはタワーゲート迄の順路に見当たらない。
「何なんだよいったい……あのボロ軽トラ実は幻だとでも?!」
オイラがグチグチ言ってるのが聞こえたのか、今度は誘導員のオッサンが
「何だ? お前らもあの軽トラが気になるのか? それならホレ、もうとっくにゲートから出たぞ。なんでもギルドに用があるとかないとか……」
「なんだって?!……ってお前らも?」
オイラの頭に?マークが飛び交う。確かに軽トラはタワーでは珍しいが一体何をしたのか……
「なんてったってアイツ。スロープで今迄記録されてきたレコードタイムを大幅に短縮したんだよ。しかも登り降り両方とも……既に1stフロアじゃあちょっとしたヒーローだぜ!」
オイラは自分の顔が引き攣るのを感じながらつい怒鳴ってしまった。
「なんでそんな走り屋モドキがタワーなんて来るっすか!! くそ……こうしちゃいられねぇ」
オイラ達はもう一度事情を説明し、なんとか軽トラが出ていった時間から10分後にギルドに到着した。
「着いたっすよ……ここまで来ると正直かなりの徒労感があるっすが……まだ流石に買い取りカウンターへは辿り着いてねぇでしょう。最悪、正攻法で買い取ってでもなんとかするしかないっすよ」
正直、ここまでの道のりで全員かなり疲れてしまっていた。それも肉体的というより精神的に……
「よし……おめえ行って交渉してこい。俺達が居たんじゃ纏まる話も拗れるかも知れねぇからな……」
一瞬、リーダーの言い分にぐったりするが……言われて見ればこの二人は確かにその通りの風貌をしている。このまま待たせておいた方が作戦の成功率は上がるかも知れない。
「相手が上手い事話に乗ったら……とりあえず交渉相手の所に案内するって言ってここから連れ出すぞ。流石にギルドの敷地内でゴタゴタは不味いからな」
コイツ……まだ“タダで手に入れる”のを諦めてないのか!? ここまで来るといっそ清々しいな。
――――――――――
結局……オイラは普段の装備から上着とゴーグルを変えてギルドの入口ゲートを潜った。できる限り気配を消しつつ付近にたむろしているエクスプローラー達に混ざって辺りを伺う。受付フロアは特段いつもと変らない様子に見えるが……
「おかしいっすね…もしあのサイズのアーマーバッファローの角を持ち込んでるなら、それなりの大きさの筈っすけど……」
その時、奥の個室から誰かが出てくるのが見えた。係員に続いて出てきたのはひょろい感じの優男と……俺は幽霊でも見てんのか?
「なんであの女がここに……??」
そこに居たのは、自分達が囮にした世間知らずの小娘だった……
なんであの小娘がここに居るかは分からないが……オイラは小娘と角を持っているらしい謎の男の様子を査定の列の一組挟んだ後ろに並んでそれとなく伺う。
これはかなりまずい状況だ。このままだと角はギルドの倉庫に収まり、俺達は明日の朝飯を心配する必要がなくなるかも知れない。
だが……あの小娘が一緒に居てはとても交渉など不可能だ。俺は暗澹たる気持ちになりつつ奴等の会話に最大限の注意を払っていたのだが……その時、死に体だった俺達に千載一遇の会話が聞こえた。
「……じゃあ今日は預けないんで……」
「ああ、ちょっと調べたい事もあるか………」
全部は聞こえ無かったが……確かに奴等は“今日はギルドには預けない”と言っていた。
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