公益財団法人探検者協会 ―佐渡ヶ島支部―
まずい……やっぱり忘れて無かったか……
「ああ……本間さん、思ったよりズバッと来るな」
「すっ…すいません。助けてもらったのに余計な事を……」
まあ……どの道、俺がやろうとしてる事は、そのうち誰かの目に留まる。かと言って今、全てをこの娘に伝える必要も、こんな様子見で目立つ意味も無いが……
「えっと……本間さん。君が感じた通り俺には出来れば人に知られたくねぇ事情がある。今日の事は……他の人には黙っててくれ。この通りだ」
結局、俺が選んだのは真っ当に頼んで口をつぐんでもらう道だった。そもそも最初から誤魔化せる様な会話術なんて俺には無いしな。
「あの……勿論ですけど、私は滝沢さんが困るなら誰にも言いません。ただ……滝沢さん見るからに只者じゃ無いし……“タワーを破壊する”って言ってたのがすごく気になって……」
ん? どういう意味だ? 俺の疑問が視線に出たのか……彼女はゆっくりと話しだした。
「さっきも少し触れましたけど……私の家……家計が厳しくて……私がたまたま獲得したスキルのおかげでなんとか家計を支えている様な状態だから……タワーがなくなっちゃうと……凄く困るというか……でも……タワーが出来てみんなどんどん変わって……私は昔の方が好きだったって言うか……私、何言ってんだろ……」
タワーが出来たのは彼女が八歳の頃か……きっと彼女の家庭だけでなく周りにも大変な目にあった人達がいたんだろう……
「ああ……分かった。確かに俺には早々に“タワー”を攻略して機能を止めたい事情がある」
俺の言ったセリフに少女はビクリと身体を震わせた。今の所“タワー”を攻略した人間は発表されている限り誰も居ない。だから攻略された後、いや、そもそも人類に攻略可能なのかどうかすら分かってはいない……俺以外には。
「そうだな……一つお互いに良い提案があるんだが……少し俺に協力してくれないか?」
――――――――――
俺と彼女はとりあえずフロアゲートの所まで戻って来た。当然だがファーストフロアと行き来するには昼間ぶっ飛ばして来たスロープを下る必要がある。勿論スロープは一つしか無いので、登りと降りは決められた時間毎の入れ替え制になっている。俺達の前に並ぶ車列には来た時と同じ様に係員がタブレット片手に帰還者の確認作業に追われている。
「よお、ちっと早い帰還みたいだが無事で何よりだ。って、お前さんどうしたんだ?」
俺達の順番になった時、やって来た係員は俺の行き先確認をしたのと同じ係員だった。予定とは違うが俺が無事帰って来た事に喜んでくれてるらしい。当然、助手席に座る彼女にも気づいて事情説明を求められた。
「ああ、ありがとうよ。彼女とは紫草平原の側で出会ったんだ。仲間のパーティとはぐれたらしくてな……俺と同じテントに押し込める訳にもいかねぇから戻って来た」
「滝沢さんにはお世話になってしまって……すいませんが私が同行してた人達って?」
俺達はタグを出しつつ、詳細をかなり省いて事情説明した。これはこの場で詳細を説明しても大きな意味も無いだろうと事前に二人で相談した上での行動だ。
「そうだったのか……大変だったな。えっと……君と同行してた奴らはまだ誰も帰ってねえな。もともと滞在期間未定で申請されてるから不審って訳でもないが……」
俺と本間さんは顔を見合わせた。本間さんに聞いた話では仮に成果が出てなくてもその日の内に帰還する予定だった筈だ。この話を聞くまでは、本間さんを誘ったパーティの印象はかなり黒に近い灰色だった。が、これは流石に本間さんを使い潰すつもりだったとしか思えない。
これは残念だが穏便に済ます訳にはいかなくなった。
「あー……係員さん。一つ頼みがあるんだが……彼女誘われたパーティに不信感があるみたいなんだ」
「どういう意味だ?」
「それはあんたらの方が想像がつくんじゃないのか?」
俺と係員は、今の話を聞いて膝の上でワナワナと拳を握りしめる本間さんを見る。
「俺はこれからタワーを出てそのままギルドの支部に駆け込む。で、だ……もしこのパーティが帰って来たら彼女が無事帰って来た事は伏せておいてくれないか?」
話を聞いた係員は俺と彼女を交互に見る。係員が彼女を見た時、俺の提案を聞いていた彼女は黙って係員に頷いた。
「ふむ……事情は分かった。そもそも本人にパーティを離脱する意思があるなら、滞在状況は個人情報だからな。パーティから特別捜索願が提出されない限りこちらから情報を開示しない事は可能だ」
「特別捜索願ってのは?」
「費用の全額負担を条件にギルドに捜索を依頼する事さ……」
それは……奴ら、まずそんな事はしないだろう……俺と係員がいたたまれない気持ちに沈みかけた時、本間さんから静かな、だが断固たる意思を込めた声が聞こえた。
「私…絶対に許せません。たまたま私は助けてもらえたけど……このまま彼等を放置すればまた犠牲になる人が出るかも知れないって事ですよね?」
「ああ、そうだな……そいつは許せんよな」
――――――――――
俺達は1stフロアへのスロープを降りてメインゲートからタワーの外側に出た。俺の隣にはまだ少し青い顔をした本間さんが涙目のまま座っている。
「滝沢さんはやっぱり少しおかしいですよ……」
「あそこの連中……降りも新記録だとか騒いでたな、俺の地元じゃあれくらいの山道は珍しくねえんだが……」
本当に大した事は、してねぇんだが……ただ堂島のオッサンが「小遣い稼がせてくれた礼だ」と言ってメインゲートから出る順番を融通してくれたのは助かった
「おかしいのは山道じゃなくて……いえ、すいません。あの突き当りを右に行けば佐渡ヶ島タワーのギルド支部です」
俺達はゲートから出てまだ5分も経っていない。やはりギルドの特性上近くに必要だと言うことか………
「OK、本間さんギルドには誰か知り合いは居るかい?」
「あ、はい。私の同級生だった子がギルドの受付に採用されてた筈です」
「へぇ……優秀な友達なんだな。まずはその娘に事情を聞いてもらおう」
「はい。この時間ならまだギルドにいる筈です」
突き当りを曲がって暫く走っていると眼前にコンサートホールの様なデカい建物が見えてきた。その施設の駐車場には複数の入口が常設されていて、車両の大きさによって使用ゲートが分かれている様だった。ゲート手前の案内看板にはデカデカと《公益財団法人探検者協会佐渡ヶ島支部》と書かれている。
「滝沢さん、今の時間帯は大型買い取りゲートは混雑してます。奥にある一般ゲートなら直ぐに駐車出来ると思います」
「OK、そっちに行こう」
大型車用ゲートの前に出来た長い列を追い越した俺達は、奥にある一般来場者用のゲートから駐車スペースに軽トラを停めた。俺は荷台に載せていたアーマーバッファローの角二本を、ズタ袋(ズダ袋)につっこんで袋の口を縛り、肩から背負った。
「それ、担いで持って行くんですか?」
「ああ、俺達が現場に居た数少ない証拠だからな」
本間さんは俺の言い分に微妙な表情をしつつ……ギルドの受付へと案内してくれた。
ギルドの受付スペースは少し変なレイアウトながら広いスペースを持つ立派な物だった。
「へぇ、随分立派な施設だな。俺の職場なんてここの1/10もないぜ」
「ここは元々政府が補助金をばら撒いた時に作られた箱物のコンサートホールです。タワーが出来る前は閑古鳥しか歌ってませんでしたけど……」
なるほど、確かにそういう施設は俺の地元にもある。そう言われて見れば建物の作りが多少歪なのも納得だ。まったく……地方はどこも似た様な有様なんだな。
「そうか、それをギルドが買い取ったか借り受けたかして使ってる訳だ……」
この時間だからか、中は大変な混雑だ。俺達はとりあえず受付に出来ている長蛇の列に並んで順番を待つ事にした。
「ここに並んでて大丈夫なのか?」
「まだまだ受付の中で先輩に付いて勉強中だって言ってましたから、とりあえず先頭にたどり着かないとなんとも……」
俺達がそんな話をしながら並んで居ると、背後のエントランスからゲートの受付と同じ姿の係員が集団で入って来るのが見えた。
「あれ……? カンちゃんと昼間のお兄さんじゃん! なんで? 知り合い?」
その集団から一人離れて俺達に話掛けて来たのは、昼間俺の受付をしてくれたギャルだった。
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