第99話 逃走と迷走。
早く更新できました。そして長くなりました。
「貴方を現行犯で逮捕します」
なんと女性の正体は天敵でもある警察官であり、それも刑事だった。
「け、刑事っつても証明する物ねぇじゃねぇか?」
警察と聞いて、明らかに動揺している修二は体をビクつかせながらハッタリの可能性を導こうとしていた。
「これで良いかしら?」
一華は自慢気な表情で懐から警察手帳を修二へ見せる。
彼女の服装はドラマとかで見るレディーススーツではなかった。上からワインレッド色でVネックのインナーシャツ、その上からグレーのダウンジャケット、動きやすそうなカーキ色のスキニーパンツ、赤白スニーカーという私服だった。
黒髪のカジュアルな外ハネショートヘア、目はキリッとした鋭い目付き、瞳はブラウン、ちょっとした笑窪があり、見麗しく凛々しさがある大和撫子な女性だ。
一華は応援を呼ぶため、携帯電話を取り出し連絡する。
そして修二に背中を見せた。
(マジの警察だ。ヤベェな、ここで横槍入れられると面倒だし、殴って気絶させて夢でしたというオチは俺のプライドが許さねぇから無理だとして…よし逃げるか!)
修二は苦肉の策として逃走する事を決めたのだ。それはそれで後々、面倒な事になりそうだが、ここは色々と突っ込まれる前にとコッソリ逃げ出そうとしていた。
だが、修二の右手首に素早くガチャリと何かが衝突する音が響いた。確認すると…手錠を嵌められていた。
「え?」
「逃げようとしたでしょ? だから逮捕」
一華は知り合ったばかりなのに、修二の行動はお見通しらしく早めに手を打っていた。
「……」
ちゃっかりした事に修二は何も言えなくなり、呆然とするしかなかった。
「じゃ、近くに警察署があるから事情聴取させてもらうわ」
一華は手錠を力強く引っ張り、修二を警察署へ連行しようとしていた。が、急に手錠が軽くなり違和感を覚えた。
そして手錠を目前まで持っていくと、熱でドロドロと鉄が融解し、修二の右手首はなかったのだ。
「悪ぃな。今ここで全科つくわけにはいかねぇんだ。俺の用事が済んだら何時でも相手してやるよ」
一華が振り返る前に修二は素早い超人的な動きで小さいビルの屋上まで登り、見下していた。
「……」
「じゃあな…」
別れの挨拶をして、修二は振り返り奥へと歩き去った。
「…貴方は何者?」
一華はドロドロに溶かされた手錠をジッと眺めて、修二の正体と目的が気になっていた。
そして深く溜め息を吐いて、ジャケットのポケットへ深く手を突っ込み、修二の追跡は諦めて警察署へと帰投する。
修二は超人的な跳躍力でビルからビルへと逃走していた。それも東京に来てから二回逃げているのだ。
(参ったな。確実にヤバイ警察に目ぇつけられた。あの様子だと逮捕する気満々だな…どうしよう…)
一華に目をつけられた事により、逮捕されるのも時間の問題と思い、対策を考えていた。
そこへ内ポケットに入ってる携帯電話から着信音が鳴り、取り出し、確認して電話に出た。
「もしもし?」
『おい、テメェ? 探索放り出して何処に行ってんだぁ? ヤル気あんのか?』
それは今にでも携帯電話を破壊しそうな勢いの怒気が籠った声で、修二に電話を掛けた南雲だった。
「あぁ、南雲か。丁度良かった。困ったことになった」
『…まさかギャングを見つけて巻き込まれたとか無いだろうな!?』
南雲は貴重な情報と体験を大きく期待した雰囲気で修二へ尋ねた。
「接触して戦った…が、面倒な事になった」
少しどう説明しようかと悩み、バツの悪そうな表情で南雲に伝えようとする。
『なんだ? まさか捕まって拷問されてるのか!? もしかして半殺しにして聞き出せないとか!?』
「いや、違う。ギャングには逃げられて警察にも目つけられた」
冷静な口調で否定しては、折角の情報源を逃がして、更に不幸まで呼んだことにより、南雲は何も言えなかった。
そして修二は電話越しでも南雲の状態が容易に想像できた。
(多分、口をあんぐり開けて、怒ってるのか怒ってないのかという意味不明な顔をして、次の状況を考えられないぐらいに動揺してんだろうな)
正しくその通りだった。
南雲はクラブから出て少し離れた場所で修二へ電話していた。修二の想像通りに南雲は理解が追い付かない顔へとなっていた。
『…警察沙汰になったのか…お前…刑務所でも元気でな』
もう考えるのをやめた南雲は悟った表情で、修二を擁護することもなく諦めた。
「え? 俺、刑務所入んの? やだよ俺、折角頑張って勉強して弁護士までなったのに…」
『無理だ。多分、お前のことだから手錠とか溶かして逃げてる最中だろ? だったら諦めるしかねぇだろ? 俺も弁護することもできねぇからよ』
「証拠不十分で何とかならねぇか?」
『…難しいな』
流石の天才な南雲でも難関だと示していた。
「刑事さんには暴行してねぇし」
『だが、器物破損と加重逃走罪と決闘罪…決闘罪はどうにかできるとして、器物破損と加重逃走罪だけは、アッチのさじ加減になる。暴行云々より、その刑事がどう出るからだな』
「……良し、なんか頭痛くなったから皆ホテルへ戻って、明日考えよう!」
自分にとって都合の悪い法律しかなく打破する事は明日へ託して、ホテルへ帰ろうと修二は提案した。
『明日に良い案が出んのか?』
「もしかしたら俺が気づいてねぇ事もあるかもしれねぇだろ?」
『…まあ、そうだな。しょうがねぇ、今日はここまでにして、ホテルに帰るか。後、帰りに買ってきてほしい物がある』
「なんだ?」
修二は立ち止まり、電話越しでも怪訝そうな表情で尋ねた。
新宿のホテルへと南雲、木戸、桐崎の三人は帰路につき、大人しく修二を待っていた。
南雲はベッドに仰向けで寝転がり、木戸は心配した表情で椅子に座り、桐崎は出入口付近でコーヒーを飲みながら待っていた。
「南雲さん、師匠が警察沙汰に巻き込まれたのは本当なんですか?」
事情を触り程度しか聞いていなかった木戸は南雲へ尋ねる。
「あぁ、ギャング集団一人を半殺して、後の二人は逃げた。更にそこに居合わせた刑事に逮捕されて加重逃走してる所だな」
南雲は呆れた表情で事の経緯を簡単だが説明した。
「それって捕まるとどうなるんですか!?」
「決闘罪は稀にある罪だから直ぐ出られるとして、問題は器物破損と加重逃走罪になるな。アッチが大きく被害を出したなんて言い出したら、こっちは加害者だ。金は取られるわ、裁判官の判決で刑務所を何年も入らねぇといけなくなる。願うのは品川が指名手配されてない事だけだな」
長く法律による専門用語ばかり出てきたので木戸は頭の整理が追い付かなくなっていた。
「…帰って来た」
桐崎が呟きドアから離れる。すると勢いよくドアが開かれて汗だくで息が荒れている修二が帰って来たのだ。
「よう、どうだお巡りさんとの追いかけっこは?」
修二が苦しんでいる姿に愉悦と思い、南雲はちゃかしながら尋ねた。
「あの女刑事…頭がよく回転するぜ…俺が逃げる場所に警察官を配置してる」
疲れながらも修二は一華の対応に対し、絶賛を与えていた。
「誰にも追われなかったな?」
桐崎は誰にも追われていないのか修二に尋ねた。
「あ、あぁ…大丈夫だ。私服刑事らしき人物も怪しい奴にも付けられなかった」
疲れ気味で大丈夫だと応えた。
「…そうか」
「これじゃあ外出できねぇな…」
修二がポツリと呟くと桐崎が近づき左手に指差した。
「お前には俺が与えた『覇気』があるだろ?」
「使い方が分かんねぇよ」
「簡単だ。頭の中に浮かんでいる物を細かくイメージしろ。特訓として机の上でリンゴとか思い浮かべてみろ」
「マジかよ…」
急にと難しい事を実行しろと伝えられ唖然とするしかなかった。が、文句を言っている身分でもないので実行する。
修二の脳内には机の上にありもしないリンゴを想像していた。
すると左手に刻まれた『月の紋章』が輝き、机の上にリンゴを出現させた。
桐崎と集中している修二以外は息を飲み、驚愕していた。
「これって…」
木戸が手にとって触ろうとした瞬間、リンゴは蜃気楼となり消滅した。
「『月の覇気』は完全幻覚、つまり現実味のある幻を見せる『覇気』だ。『太陽』と合わせると完全催眠となる。単体でも最強だが、『太陽』が合わさると『完全な覇気』だ」
『太陽』と『月』で渾然一体というトリッキーな『覇気』と桐崎は説明していた。
「ヤベェな…コレ…めっちゃ…気分…悪い…」
修二が大量に発汗させ、両目から血涙を流し、満身創痍の状態だった。
そして限界が訪れ、その場で倒れてゆっくりと瞼を閉じて眠った。
「お、おい! アンタまさか体力が限界の状態で『覇気』を使わせたのか!?」
「…三日間は辛抱してもらおう。コイツが今捕まる訳にはいかないからな…南雲お前もブラックカードを持っていたな?」
「あ、あぁ…どうするつもりだ?」
いきなりの事に動揺していたが、桐崎の真剣な行動に南雲も本気となり、これからどうするか尋ねた。
「先ず、もう二つ部屋を用意しろ。その部屋の一つに修二を隠す」
桐崎が考案したのは三つの部屋を用意し、その一つに修二を隠すという作戦へ出たのだ。
「…成る程、木戸と桐崎さんの部屋を用意すれば怪しまれる事ないって訳だな」
「あぁ、そう言うことだ。人と警察に対する嫌がらせなら任せろ」
自慢気に桐崎は他人に対するコントロールは任せろと豪語していた。それを聞いた
「なんか自慢にならねぇ性格だな」
そして三日があっという間に経ち、桐崎の読み通り、警察官二人がホテルへやってきて修二を探していた。
「支配人の方ですか? 申し訳ございませんが二三質問させていただきます。よろしいでしょうか?」
「は、はい」
「このホテルに赤い髪で中分けの強面の男性が泊まったりしてませんか?」
「その人がどうしたのですか?」
「少しした喧嘩で拘束しようとしたら警察官の命令を無視して逃走したため、容疑者として探しています」
「あの人がそんな事を!」
「知っているのですか!?」
「え、えぇ…確か、南雲暖人様のお連れ様ですね。いつも元気よく挨拶してくださる人なので…そんなイメージがなかったので…」
「すみませんが、確認のため部屋の番号を教えて頂いても?」
「わ、分かりました」
支配人は警察官に協力し、修二が泊まっている部屋の番号を教える。
番号を知った警察官二人は南雲の部屋まで辿り着き、コンコンとドアをノックする。
「はい?」
そして南雲が不機嫌な表情で部屋から出た。
「南雲暖人さんですか?」
「そうだけど? 何? 朝っぱらから天才の俺に何か用か?」
(自分から天才って言うのか……)
南雲の口癖である天才という言葉に警察官は不快に思いながらも話を続ける。
「三日前、貴方のお連れがクラブの路地裏で事件を起こしまして、それで事情聴取という形で訪ねました。」
「三日前? おーい! お前、そんな薄汚くて治安悪い所に行ったのか?」
南雲はわざとらしく大きい声で部屋にいる者へ尋ねた。
「はあ? 私、そんな意味不明な所行ったことないわよ?」
部屋から出てきたのは普段着で不機嫌な木戸だった。
警察官が探しているのは赤い髪、中分け、強面、男性という数少ないキーワードだけ、木戸に全て該当していなかった。
「し、失礼しました。男性のお連れ様は?」
「男? 女のあいつしかいねぇよ。疑うなら部屋の中を調べろよ」
南雲は疑う警察官に部屋へ招き入れた。警察官も失礼しますという一言を述べて、部屋へ入り、捜査した。が、幾ら探しても修二らしき物が見つからなかったので、捜査を打ち切った。
「失礼しました。まだ容疑者はウロウロしていると思いますので、お気をつけて」
諦めがついた警察官は南雲達へ謝罪し、ホテルから出て離れ去った。
「よし、もうこのホテルは使えない。お前等は一週間後にチェックアウトしろ。俺は後一日泊まってチェックアウトする。修二、頼むから見つかるなよ?」
すると天井から桐崎がぬるりと顔を出して、次の計画を伝える。そして暴れん坊の修二に警察官だけには見つかるなよと念押していた。
「あ、あぁ…」
ベッドの下から桐崎と同じくぬるりと這い出て、申し訳なさそうな修二が出てきたのだ。
「良かったな。今日は例の刑事じゃなくて」
「あ、あぁ…そうだな」
「やらかしを気にしてるなら後にしろ。今は六本木を目指せ、そこなら……頼りたくねぇが魔界連合の縄張りだ。警察も簡単には手を出せなくなる」
歯切れの悪い修二に我慢できない桐崎が次の計画を伝える。
魔界連合に対して嫌悪感を示しながらも頼る事にしたのだ。それは教会の人間なら裏切りとなる行為だからだ。
「分かった。じゃあ六本木で会おう」
そして一言だけを残して部屋から出た修二はホテルの裏口から出た。
もしバレると面倒事があるので、桐崎から貰った黒いハット帽、忍から貰ったサングラスで変装して六本木を目指そうとした。
かなり見た目は怪しいが、そんな事は気にせず総武線まで向かった。
(良し、サツも刑事もいねぇから総武線まで一直線だ!)
このまま慌てず、平常心を保ちながら総武線へ乗り、六本木まで逃げようとした。
「そんな急ぎながら総武線で何処へ向かおうとしているのですか? 品川修二先生?」
駅目前と瞬間に背後から今、会いたくない人物の声が耳に響いた。そして名前も知られて更に動揺する。
(え!?)
ギチギチとロボットの様にゆっくりと後ろへと振り向いた。それも大量に発汗させて、少し涙ぐませながら……
「三日振りですね。貴方が初めてですよ。あんな摩訶不思議な現象で私から逃走したの……これから私と一緒に付いて来てくれますか? 少し、お話したい事があるので?」
その華奢で綺麗な手で修二の肩は強く掴まれ威圧が掛かる。
(すみません師匠。俺……詰みました!)
そして修二は計画を考えてくれた桐崎に大きく謝罪をしていた。
いかがでしたか?
もし良ければ誤字や脱字や意見や質問等があれば教えてください。




