第148話 混沌の序章。
初投稿となります。三が日に間に合って良かったです。
「……」
喫煙しながら、高島はじっと無表情で忍の遺体を見ていた。
(心臓を潰されて生きてる人間なんていない。そんな当たり前の事なのに、私は気になっている。今にでも神崎忍が起き上がる気配があると心がざわついている……いや、気のせいだろうな。左足に纏っていたダークネスホールも消え、大量出血している。これ以上何を疑うことがある?)
あの神崎忍だから一段と警戒しなくてはならない高島。
「死体を損壊までして確認する必要はないだろう、落ち着け……」
喫煙までして高島はリラックスしようとする。が、死体だけの忍に不思議と畏怖していた。
今までに殺人現場は何度も見たり聞いたりしてきた。死体も見たこともあれば、感触や温度も触れたことある。
けれど忍だけは違った。まだ生きていると感じさせていたのだ。
「……もう少し早く来てくれたら良かったんですが、そちらも忙しかったんでしょう。待ってました……皆木刑事。いや、魔界連合十三総長が一人、十三番総長の皆木一太さん」
背後の暗闇から出現したのは先程とは違う格好の皆木だった。
その服装は喪服で草臥れていなかった。
「書類提出とかに手間取ってね~。けど、八割がた終わらせて後は部下に任せたからね~、こっちはゆっくりとさせて貰うとするよ~」
刑事の時とは違う高いテンションで高島を対応していた。
「そうですか……では死体処理をお任せします」
「死体処理は伊波担当なんだけど~、君の所で仕事してるから~、十分にできるか心配なんだよね~」
「迷惑を承知で皆木さんに頼んだのです。伊波くんには、親友としてやってもらいたい事があったんですよ」
「伊波くんね~まあ、これもお仕事だからやりますよ……なあ高島くん? 一応聞いておくけど、本当に神崎忍は死んでるんだよな?」
死亡確認の為、脈拍と瞳と温度と呼吸を調べた。
皆木にとっては死体なのに、忍には生きている感触があった。
「生きているんですか?」
「いや、脈拍も呼吸も無い。だが、何故か生きている……どういうことだ?」
「ゾンビになったのか? それとも……」
高島は何故、忍がまだ生きているのか不思議で恐怖していた。
脈も呼吸も生気もない人間が魂は生きていても肉体だけは、どうにもならないという事ぐらい高島も理解している。
暗い闇の中で一人の青年がうつ伏せで眠っていた。
「ほら朝ですよ。こんな気持ちいい日に寝てるだけなのは勿体ないですよ。 様」
女性の声で誰かが呼ぶ声がした。けれど青年は瞼を閉じているので朝日を見ることはできない、自分を呼ぶ者さえ見ることできなかった。
「まだ寝てるのかな? 兄さんは何時だってマイペースだからね、普段からちゃんとしてくれたら弟の僕としても安心なんだけどね……ほら、起きてよ 兄さん」
また誰かの声が聞こえた。それは親しみのある声だった。
けれど青年は目を覚まさない。
「 様、休みとはいえ自堕落では屋敷の主として、顔が立ちませんよ。それに輝様と一緒にいられる時間もある事ですし、起きて顔を合わせに行ってください」
また誰かの声が聞こえた……
「おーい、 ! お前、俺を拉致っといて放置はねぇだろうが。ちゃんと仕事教えてくれよ。それに雅の野郎が、仕事を俺に全部押し付けてやがったからよ、お前からも言ってやってくれよ」
あんまり親しくもないが、信頼できる声も聞こえた。
「兄貴~! ゴン兄がまた庭の飾り物を壊したッスよ! 柏木さんに俺は関係ないって言ってくれないッスか!」
「待て待て! お前も大丈夫だからって打って来いと言ったじゃないか! 何故、逃げようとする卑怯者!」
騒がしく面倒がかかる声も聞こえた……
「おうおう、 さんよ。テメェが『覇気使い最強』なら俺は『覇気使い天才』だという事を忘れなよ? あぁ? の方が“天才”で“最強”だから、天才が被ってるけど実力で考えたら、お前の方が負けてるぞキモロンゲだと? おい、クソリーゼント。テメェから片付けんぞ!」
何故か青年に絡んでくるガラの悪い男の声も聞こえた。
「 様。今日も来てくれてありがとうございます。私は世間には疎いですから、いつも 様とお話してるだけで嬉しいです。そういえば品川様と南雲様も来られましたよ。いつも元気そうに喧嘩してました」
昔から信頼できる女性の声も聞こえた……
「おいおい、“天才”で“最強”の『覇気使い』がサボりとは……どうだ? ここは黙ってくれたらチョコレートを盗ってきてやるから約束できるか? おい、柏木に言いに行くんじゃねぇ!」
普段からサボる懐かしい声……
「 さん、起きてくださいよ! ほら次の町へ行きましょう。そんな面倒くさがらずに……あーもう、そうやって寝た振りをする!」
何処かの記憶の片隅にもあった違う仲間の声も……
「やっぱテメェとは全力で喧嘩してぇ……俺が“馬鹿”で“最高”の『覇気使い』なら、お前はそのままでいてくれ。俺が『覇気使い最強』になるまでな? さんよ」
遥か昔に約束した声も聞こえた……
「……本当に……面倒くさい……奴等だ……」
青年はポツリポツリと呟き、その表情は穏やかだった。
「俺は一体何やってんだ? まだ動けるだろ? まだ魂は死んでねぇだろ? まだ……あの眼鏡野郎に一矢報いてねぇだろうが!」
青年は瞼を開いた。
瞳は黒ではなく、赤黒くなっていた。
「俺は神崎忍だ。自慢するつもりねぇが、“天才”で“最強”の『覇気使い』だ! まだ約束がある! まだ完成させてない物がある! それを終わらずにして……死んでも死にきれねぇ」
忍の右腕と左足は闇が覆った。
闇が晴れると右腕と左足は再生され、復活していた。
胸が開いた状態で忍は立ち上がり前を向いた。
「……これは」
前には赤黒い不気味な光が佇んでいた。
だが、それには敵意は感じなかった。むしろ何かしら引力を感じ、友好的にも取れた。
「俺の悪運もここまで来ると奇跡だな。だが、そうなりたいなら……俺も応えよう」
忍は右手で赤黒い光を掴み胸に取り込んだ。
大きく開いていた穴は塞がれ、右手の甲に闇の刻印が浮かび、左手の甲に宇宙の紋章が刻まれた。
そして胸には大きく禍々しい渦の印が彫られた。
「これが新しい力……『混沌の覇気』か」
忍は暗闇へ向かって左手をかざした。
暗闇から光のドアが開かれていた。
「もうここに来ることはないな……」
そう言い残し、忍は光の先へと消えた。
同時刻、高島と忍の死体から離れた皆木が原因を探ってる間に異変は起きた。
突如と出現した赤黒い闇が忍を覆った。
「皆木さん、なんですかアレは?」
「なんだアレは? 見たことがないぞ……」
「せっかく神崎忍を殺したんだ。何する気しか知らないが、止めてもらおう!」
高島の行動は早かった。影で赤黒い闇を捕らえようとした。
だが、影は闇を触ることを拒否し、高島の方へ急いで戻ったのだ。
「ど、どうしたのだ!? な、何が……も、もう一度……覇気が怯えている!」
高島は影でもう一度攻撃しようとしたが、影が拒絶し、行かなかった。むしろ人間らしく恐怖に怯えていた。
(覇気が拒絶した? 感情を持たない覇気が? 有り得ない、感情があるなら殺気や敵意がある。それを悪魔は感知できる。だが、俺が見てるのは現実なのか? それとも幻なのか?)
悪魔の皆木は今起こっている目の前が信じられなかった。
今まで『覇気使い』を見てきたが、覇気が感情を持つことなんて前代未聞。
閻魔からも聞かされていなく、噂でも聞いた事がない。
「どうした? 怯えているのか?」
いつの間にか赤黒い闇は起き上がっていた。
そこからは聞こえて来ない筈の声が二人に響いた。
「……お前は神崎忍か?」
「不思議な事を聞くな? まあ、まだ神崎忍なんだろうな」
動揺している高島の問い掛けに、忍は闇を覆いながら平素に返答した。
「もういいぞ。俺は『復活』したから……」
そう言うと赤黒い闇は自分から晴れた。
晴れた先には切断した左足と右腕が再生し、大きく開けた胸の穴が塞がった。忍が立っていたからだ。
(さっきまで死んでただろうが人間!)
皆木は人間が悪魔の真似ごとをされ、誇りを傷つけられたと感じ憤慨する。
「有り得ない、普通の人間なら致命傷だぞ! ふざけるな! お前は誰だ!?」
「……さあな。自分で考えろ」
高島の問い掛けに面倒になった忍は返答するのも拒み、適当で返す。
「高島くんよ~、どうやら覇気習得方法の一つかもしれんぞ」
「蘇生ですか? ですが死から復活するなんて聞いたことありません! 蘇生は瀕死の状態から復活して、稀に覇気使いになれるんですよ? どうやっても無理な話です。ルール違反だこんなの!」
「……意識ある状態で蘇生したならどうだと思う?」
「意識……だと……有り得ない。有り得ない……訳じゃない!?」
「人間は首を切断されても、意識だけは残るって聞く。それに一瞬にしてショック死して、何やらかの方法で意識を取り戻し復活した。としか考えられないな」
「だったら、もう一度殺すまで!」
「今回は協力するよ。悪魔のプライドが傷つけられた。コイツは絶対に冥界へ送る」
高島は影を最大に大きくさせる。
皆木も懐にあるホルダーから拳銃を二丁取り出し、忍へ向けていた。
(今の状態で戦えるか分からないがやるしかない)
忍が構えようとした。その瞬間、目前と黒い物が上から出現した。
「また乱入ですか。今日は多いですね……」
一度ならず二度までも戦闘に乱入者ばかり出現するので、もう滅茶苦茶な状態だと高島は思ったのだ。
「乱入? どうでもいいな、それより皆木総長。お前は戦闘行動を停止し、高島陸の仕事も停止し、刑事の仕事へ戻れ」
黒いフードジャケットで男性声の人物は皆木へ命令していた。
「……これはこれは裏切り者が、ここに来るとは」
呆れた表情で皆木はフード男と話す。
「三度は言わんぞ。皆木総長、速やかに戦闘行動を停止し、高島陸の仕事も停止し、刑事としての仕事に戻れ。これは会長命令である」
「納得いきませんね~、会長の命令だとしてもアンタに命令されるのは気分が悪い」
「……三度目だ。答えを聞こう?」
「……」
「……」
フード男と皆木は睨み合い、人間では発生しない殺気が漏れてくる。
高島は少し畏怖した。が、忍だけは平気な様子だ。
「……高島帰るぞ。相手が悪すぎる」
「待ってください、皆木さんと一緒にかかれば神崎忍を……」
高島は皆木に右手で静止された。
「それ以上言うな。多分、俺とお前が全力出しても、あのフード野郎には勝てん」
「理由を?」
「……魔界連合十三総長の一人、三番総長の村井黒政だ。俺が機動隊や戦車引っ張り出しても勝てねぇよ」
「そう……ですか……」
高島は最後まで忍を殺せず、悔しさの表情を浮かべる。
両手で思い切り握り拳を作り、爪に皮膚が貫き、流血する。
「心配するな。東京にいる限り、俺の領域からは逃がさねぇ。安心しろ、何でも使って神崎忍だけは逃がさないようにしてやる」
「……今回はそれで納得しましょう」
「悪いな力不足で……じゃあ帰る」
皆木は高島から忍へ何かしないように後ろへ周り、歩いた。
高島が忍を睨みながら先に歩いた。
「後、それとよ~アンタから良い噂を聞かないぜ? 鬼龍院と海野のアンタで無謀を起こそうとしてる話だが……事実なら免職食らっても会長の害になる奴は潰す。覚えておけよ~?」
そして何事もなく無事に皆木と高島は消えた。
「……神崎忍。お前を連行する。その力について会長から話があるそうだ」
「分かったよ。ちゃんと……ついて……行く……」
今までの疲労が重なり、忍の意識はゆっくりと失っていった。
アスファルトへ叩きつけられる前に黒政が支えた。
「大人しくしてくれてるから、こちらとしてもありがたい」
黒政は軽々と忍を背負い、魔界連合本部へ向かって行った。
いかがでしたか?
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