第48話 綺麗な全裸のお姉さんと、スリープ的な意味で寝る
「さて、そろそろ寝ましょうか?」
「あ、はい……その……ライサナさんは恥ずかしくないんですか……?」
鉄くさい臭いを放ちながら、レザーが聞く。
「恥ずかしい? 何がかしら?」
「いえ……俺の前で裸でいることが」
ライサナは今、全裸で、隠す様子もない。
自室に入ってくつろいだら、いきなり全裸になったので、レザーは心の中で「フリルさん、ごめんなさい……」などと思いながら、美人のお姉さんともめくるめく快楽の夜を想像し、鼻血を放出したのだが、ただ、彼女はくつろいでいるだけだった。
同じ部屋にレザーという男がいるというのにその気負いも緊張も全くなく、まるで自分以外誰もいないかのように振る舞っていた。
レザーもちらちら見ていると、完全に油断しきっていて、体勢によってはガン見えの時もあった。
それで何度も鼻血を出して今に至る。
だから、どうしても寝る前に聞きたかったのだ。
「特には? だってあなたが、わたくしと結婚をすることはまずありませんもの」
「まあ、そうですけど、でも……」
「あなたは部屋に執事やメイドがいるからと言って着替えないのかしら? 性行為をしないのかしら?」
知らんがな、と言いたいロイヤルな話だが、よく考えると、この人、一国の姫君で、何十人ものメイドを従えて着替えしたり風呂に入ったりして生きてきたのだ。
たまたま今は修行中だからいないにしても、そういう心だけはなくしようがないのだ。
だから、レザーがいる程度、下男が部屋にいる程度の認識なのだろう。
その辺、生粋のお姫様なのに感覚は庶民的だったフリルとは違うね。
「では、寝ましょうか。あなたは妹の大切な人のようなので、特別に同じベッドで寝ることを許しましょう」
「あ、はい」
レザーは誘われるがままにベッドに入る。
ちなみに美人美少女と一緒に寝るのは毎日のことなので、相手がちょっと全裸なだけならどきどきはしないとか、レザー死ねよ。
「では、おやすみなさ──」
ドンッ!
入り口から破壊音が響く。
「!? な、何……?」
「あらあら、騒がしいこと」
自分の住処の一部が、おそらく壊されたにも関わらず、まるで他人事のようなライサナ。
「あの子が来たようね。ふふふ、あなたを置いていくようなら、遠慮なくペットたちのエサにしたのに」
そう言うと、ライサナは立ち上がり、衣服を着こむ。
相手が全裸だから自分も全裸じゃないと失礼かな、とか思っていたクソレザーは、服を着直す。
「あなたはそこにいなさい?」
「え? で、でも……」
「いなさい。私について来れば、帰れなくなるわ?」
そんな意味不明の言葉を残し、言ってしまう。
「ふにゃぁぁぁぁっ!」
「敵襲にゃ!」
「男はいるかにゃ! 襲うにゃ! 子作りするにゃ!」
廊下を、ケットシーたちが走っていく。
純血ケットシー一頭で、ハーフケットシーのあのストライプよりも強いはずだ。
ストライプがかなりの修業を積んでいるにしても、一頭と張り合って上出来だろう。
そして、あのライサナの強さは、全員が襲い掛かっても全く歯が立たないだろう。
「あ、に、逃げないと!」
レザーは、ライサナがもしかして自分が逃げる隙を作ってくれたのかと思い、部屋の窓を開ける。
「…………っ!」
そこは断崖絶壁、飛行魔法でもない限り、落ちて死ぬだけの絶壁だった。
たとえレザーにそれなりの体力とスキルがあったとしても、この絶壁を下りることは絶対に不可能だ。
つまり、ここから助けが来ることも、また不可能だ。
いや、自分の仲間には、飛行魔法を持っている子がいたではないか?
彼女だったら──。
いや、さっきの入り口での破壊音は魔法のものだ。
だとしたら、ノーは入り口にいるのだろう。
あの緩慢な動きの子が、ここまで入ってきて、レザーを抱えてここから飛ぶ、と言うことが出来るとは思えない。
そもそも、そんな筋力もなさそうだ。
「もう、どうしようもない……」
レザーはそうつぶやくしかなかった。




