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第32話 踊る子が不思議な踊りを踊った

「何も分かってないようね。こんなならず者が多い場所で女の子一人で生計を立ててるってのがどういう意味なのか!」


 ほら、変なところで切るから、もう一回この子同じセリフ言わなきゃならなくなったじゃん。

 でも、この子も無力なりに抵抗したいのかちょっとだけ言葉を変えて来た。

 

「てめえっ!」


 フリルが飛びかかる。

 あれ、この子武器持ってないし切ったらまずいよね? こっちも武器使わないで殴るのがいいのかな?

 とか、一瞬の間に考えてたら、ちょっと遅れた。


「ふんっ」

「あっ!」


 その一瞬で、アヴェシーナはバック転をしながら後ろに退く。

 速いのだが、とても綺麗で流れるような動きだった。


「ぷっ」


「誰だ今笑ったの!?」


 騎士殺しが、踊り子に避けられて誰かが吹き出した。

 それを真っ赤な顔で怒るフリルは可愛いよね?


「じゃ、さっさと街を出てきな!」

「あ、待てっ!」


 フリルちゃんが身内におこしてる間に、走り去るアヴェシーナ。


「待つにゃ!」


 走るのは、ストラップ。

 この後起こることは誰もが予想できた。

 たが、誰も止めなかった。

 みんな、そうなって欲しいと思っていたからだ。



「あーーーーーーーーーっ!」



 公園の隅に、例の声が響く。

 なぜか金が舞い散った。

 思った以上の人に見られていたようだ。


 可哀想だからこの金はこの子に渡そう、とみんなが思った。


          ■


「こっちがお前の金だ、ほら」

「うん……ぐすっ……」


 泣いているアヴェシーナに金袋を差し出す。

 アヴェシーナは悔しそうにそれを受け取る。

 重さ的にだいたい、いつも位なのがまた悔しい。

 自分の磨き上げてきた踊りと身体は、一体何だったのだろうか。


 それに、この金を投げた人の分だけあの痴態を見られてしまったのだ。

 いや、踊り子をやっている以上、例えパンツが見えようが服がずれて乳首が見えようが、いつもより多くの金が降るので気にしないし、問題ない。

 そういう部分は見えていいようにケアもしている。


 だが、あの叫び、何の美しさもなくただ、野蛮な叫びを公園内に響かせてしまったことが悔しい。

 その声と痴態で稼いでしまった。


「もう、踊り子辞めようかなぁ……」

「おいおい、それじゃ俺たちが辞めさせたみてえじゃねえか」

「あんたらが辞めさせたんだ! あたしは踊りしかないからこのまま飢え死ぬだけだけど、殺したのはあんたらだからな!」


「ちょっと落ち着いてくれるかしら?」


 口が超悪い二人がケンカしそうになったので上品さまのお出ましだった。

 ちなみにその上品さは特に活かされてはおらず、どちらかというと狩りができるワイルドな部分が持てはやされている。


「ねえ、あなたの踊りを見てみたいわ。どうしてもというならお金を払ってもいいけれど」

「……まあ、いいけど……そいつは捕まえてて!」


 指をさしたのは、ストライプ。


「私は何もしないにゃ!」


 あ、これ絶対する顔だ。


「しょうがねえな。ほら」

「にゃ~」


 小柄なストライプを後ろから抱きしめて押さえるフリル。

 ストライプは誰かに抱かれると喜ぶ甘えん坊やっかいさんだった。


「じゃ、行くわよ──」


 アヴェシーナは音楽もなく、つま先立ちになったと思ったら、片足を前に上げ、そのまま後ろに倒れるように一回転する。

 長い髪や、露出は多いがひらひらした衣装から、それはとても滞空時間が長く思える。

 そして、今度は横に。

 ゆっくりとした踊りだな、と思ったらいきなりその場で高速二回転。

 しかも、一回ごとにきちんと止まっているため余計に高速に見える。

 そして──。


「な……」


 そこからは、そこらじゅうを動き回り、飛んだり回ったりする。

 それに緩急があり、綺麗に見せるところではゆっくり、移動は素早く、だから、目で追ていると飽きることはない。

 なるほどこれは一流の踊り子だ、と、田舎者のレザーでも分かった。


 何より驚きなのは、その動きだ。

 トップスピードはストライプには及ばないが、フリルやワインにも匹敵するほどだ。

 それにその跳躍力。

 これはストライプには負けるが、身軽さが命のワイン以上にあると思われる。


 やっかいさん思わぬ高スペックじゃん。


「ふう、どう? あたしの踊りは?」

「……すげえじゃん」


 結構感動しいのフリルが目を潤ませて興奮している。

 興奮って言っても発情じゃないから残念。


「確かに凄いわね。今の、観客を高揚させる魔法が入っているわね?」

「……まあね」


 気づかれたか、とアヴェシーナが苦笑する。

 まあ、つまり、この踊りを見ると気分が高揚してきて、で、目の前に綺麗な姿態の女の子が踊っているから、自分はこの踊りを見て興奮している、この踊りは素晴らしい、と思い込ませて金を投げさせているんだろう。


 そして、そんな魔法なんてもろに受けそうなレザーはというと。


「おい、何鼻血出してんだよ!?」


 高揚か興奮で鼻血を出していた。

 多分、高揚する踊りで高まった気分でアヴェシーナの布地の少ない肢体の踊りを見たため興奮してしまったのだろう。

 ちんちんが可哀そうな田舎の男の子に、都会の女の子は毒なのよ。

 だから許してあげて?


「てめえ、今度俺以外で鼻血出したらぶん殴るからな?」


 自分はいいんだ。

 でも嫉妬するフリルは可愛いね?


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