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74. 犯罪ギルドの正体

 時は遡って制圧戦の少し前、ニーモとクラークは犯罪ギルドの取引現場を見張っていた。クラークの部下の手に入れた情報により、パーシャル商会の取引相手が犯罪ギルドと裏で繋がっていた事が分かったのだ。二人は取引が行われるのを今か今かと待っていた。この取引後に後を付け犯罪ギルドの本拠地を見つけるのが目的だ。


「来ました」


 クラークが人影を見つけてそうささやいた。5人組である。クラークはこの5人組に見覚えがあった。商会で取引をしたことがある相手だからだ。5人組は人気のない空き物置に入っていった。時を同じくして別方向からも5人組がやってきて物置に入った。こちらはクラークには見覚えがない。恐らく犯罪ギルドの運び屋だろう。計10人。クラークとニーモは移動して物影から物置の中を窺った。


「麻薬の売買でしょうか」


 ニーモがそう言った。中では男たちが鞄の中を見せ合い交換していた。男たちは無駄な言葉を発さずすぐに物置から出てきて別れた。迅速なやり取りだ。


「後を追いましょう」


 クラークはニーモにそう言い追跡を開始した。ニーモは頷いてクラークの後に続く。


 その後、さらに何度か鞄の受け渡しが行われた。運び屋をリレーすることで捜査をかく乱するためだろう。ニーモたちは鞄を追い続けた。そしてさらに何度目かの受け渡しが行われた時である。


「そんな……!? あり得ません! 何かの間違いです!!」


 受け渡し相手を見たクラークは驚愕した。その相手は、なんとパーシャル商会だったのである。


「グレン、どうしてあそこに……!」


 受け渡し相手の中にはグレンの姿もあった。手下に命令して鞄の中を確認させている。明らかに取引と分かってそこに居た。偶然居合わせたのではない。


 突如、クラークはニーモに組み伏せられた。


「クラークさん、商会を調べる必要が出てきました。すいませんが拘束させてもらいます」

「離してください! きっと何か行き違いがあったに違いありません!」


 クラークがニーモに弁明する。だがニーモはクラークを離さない。


「誰だ!」


 その時、グレンの部下がニーモたちの潜む物陰に向かってきた。クラークの声がグレンたちに聞こえてしまったようだ。ニーモはクラークの首に手刀を入れ気絶させて担ぐと、その場を退散したのだった。


 その後のニーモの行動は早かった。クラークを縛り猿ぐつわを噛ませてセーブハウスに放り込むと、商会に戻り犯罪ギルドとしての帳簿類を探したのだ。幸い昼間にクラークと行動を共にしていたため商会の従業員からは不審がられず行動できた。ニーモは会長がいない隙に執務室を漁り本棚の裏の隠しスペースから隠し帳簿を見つけた。それは間違いなく犯罪ギルドの帳簿だった。




 次の日の朝、パーシャル商会の執務室で会長セドリックの刺殺体が発見された。凶器はセドリックの実子グレンの私物の剣であり、そのグレンは行方をくらませていた。警察が捜査に来たものの、ロクな捜査をせずにグレンの犯行と結論付けられた。グレンは指名手配となり、セドリックの養子であるクラークが商会の次期会長となったのだった。



 クラークが執務室の椅子に座った。昨日までセドリックの座っていた椅子だ。クラークが呼吸をすると、わずかに煙草の匂いが残っているのが感じられた。


「あなたが会長とグレンを殺したのですか……? ニーモさん。」


 クラークは共に執務室に来たニーモにそう聞いた。ニーモに気絶させられ、気づいた時には全てが終わっていたのだ。その喪失感を隠そうとしない。


「ええ。上に報告して判断を仰いだ結果、セドリックとグレンは犯罪ギルドに纏わる諸々の主犯格であるため処分することになりました」


 ニーモは淡々と答えた。彼女は暗殺者だ。人を殺すという行為を生業とする彼女は自らの心も殺していた。罪悪感に苛まれないように、何も感じないように。


「なぜ、私は殺さなかったのですか?」

「商会の代わりを用意するよりも、頭を挿げ替えたほうが手っ取り早いと上が判断したからです。あなたはそれにちょうど良い存在でした」


 クラークは血こそ繋がっていないもののセドリックの息子である。そして商会の裏側を把握しておりかつ犯罪ギルドに関わっていない。それがクラークの命を救った要因だった。


「家族を殺された私が、あなたたちを、恨むとは考えないのですか?」


 クラークは尚もニーモを問いただす。まるで自分も一緒に殺して欲しかったかのような質問に、ニーモはわずかに感情を揺らしてしまった。


「自分の立場を忘れて暴走したらどうなるかは、父を殺されたあなたが一番良く分かているはずです」

「他人事のように言わないでください! 誰が殺したと思っているのですか!」


 クラークが思わずデスクを殴った。感情を爆発させ立ち上がる。しかし、立ち上がったまま何もしなかった。


「もう……帰ってください」


 クラークがうなだれた。力が抜けたように座り込む。


「わかりました。私はここで失礼します」


 ニーモはクラークに背を向けると、それ以上何も言わず商会を後にしたのだった。





「マリーンさん、ちょっといいですかい?」


 冒険者ギルドで働いていた私にEランク冒険者のマントンさんが声をかけてきました。


「例の件、動きがありました。おそらく今夜です」


 私はマントンさんに、ある人の監視を依頼していました。ナッツ捜索のため私が打っていたもう一つの手、それが実を結んだのです。



 ナッツの保護まで、あと半日。

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