54. フルーさんからの手紙
ヨハン建設祭編始まります。
短編集です。
「すいませーん、マリーンさんはいらっしゃいますかー!」
ある日私が冒険者ギルドで働いていると、私宛に手紙が届きました。なんでしょうか。そう思い私は蝋印を確認してみます。そこに押されていた蝋印は教会の物でした。
「こっ、これはっ!」
私は教会からの手紙と分かると即座に封を開け中身を確認しました。待ちに待った手紙、その差出人はフルーさんでした。
かつてこの街で暮らしていたフルーさん、不幸にも亡くなった彼はスキル【フルー】の効果によって、魂が失われたにもかかわらず生きているかのように振る舞っていました。しかしアンデッドとみなされたフルーさんはこの国に居られなくなり、私の勧めによって教国へと亡命しました。
教国についたら手紙を送る、そう言ってフルーさんが亡命してから約3ヶ月が経っていました。教国に着くのに2ヶ月、手紙が届くのに1ヶ月といったところでしょうか。思ったより時間がかかったようですね。
私は早速フルーさんからの手紙を読み始めました。
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前略、マリーン様。
あれから早いもので2ヶ月が過ぎました。そちらにこの手紙が届くころには3ヶ月程でしょうか。お陰様で私は無事ウォッチ教国へ到着することが出来ました。今はいろいろな手続きや生活の準備に大忙しです。マリーン様はいかがお過ごしでしょうか。
こちらの国では奴隷や差別が無く、少数ですが亜人や魔人も暮らしているようです。私も国民として受け入れていただけました。こちらの国では慣習がいろいろ違っているようで些か戸惑っていますが、国民は皆平和に暮らしており、幸せな国だという印象を受けました。
ひとまずの目標は、この国でも自分の店を構えることです。以前と同じような雑貨屋を開いてのんびり暮らせればと思っています。もし教国に来られることがあればぜひ顔を見せていただければ幸いです。
私がこうしていられるのもマリーン様のおかげです。どうか健康には気を付けてお過ごしください。神のご加護があらん事を心より祈っております。
フルー
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フルーさん、教国についたのですね。無事そうで安心です。私はついつい仕事も忘れて3回も手紙を読み返してしまいました。おっといけません、今は仕事中。明日は開拓都市ヨハンの建設記念日です。それを祝う祝祭であるヨハン建設祭の影響で、冒険者ギルドはかつてないほど大忙しでした。祭りに関する様々な依頼が公私問わず押し寄せているのです。エルーシャに至っては二徹明けです。私事より仕事が優先です。
そんなことより返信を書かなければ。私は手紙の返事を書き始めました。フルーさんが無事教国についてほっとしている事、これからの生活を応援している事、あとはこちらの近況報告も書きましょうか。事件に巻き込まれた話とか、事件を捜査した話とか、事件を解決した話とか。……事件ばっかりですね。おかしい、私は何事も無く暮らしたいのに、事件に引き寄せられているかのようです。日ごろの行いは良いはずなのですが……。
「マリーン! さぼってないで仕事して!!!」
エルーシャの叫び声が職場に響きました。
その後何とか今日中の仕事を終わらせた私は街の教会にやってきました。フルーさんへの手紙を教国に送るためです。用件を伝えると、わざわざ司教さんが対応に出て来てくれました。名前はクルツさん。ヨハンに在中する教会関係者の中で最も偉い人です。しかもまだ20代でその地位に上り詰めたエリートです。
「手紙は確かに受け取りました。本国に送っておきます」
クルツさんは柔和な笑みでそう言いました。
「ええ、お願いします」
「ところで、マリーンさんは冒険者ギルドで働いているのでしたね?」
「そうですが、何か」
「実は昨日から、うちで運営している孤児院のナッツと言う子が行方不明になっていまして。捜索の依頼を出したいのですよ」
「行方不明ですか……」
「はい。少し珍しいスキルを持っていた子なので、何か事件に巻き込まれたのではないか心配です」
「そんなことになっているのですか」
私は詳しい話を聞きくと、依頼表を作りました。
「この依頼内容でいいですね」
「はい、問題ありません」
「では受け付けました。見つかるといいですね」
「よろしくお願いします。神のご加護があらん事を」
こうして私は教会を後にしました。帰りに周囲を見れば、街中が祭りの準備で賑わっています。明日からはついにヨハン建設祭、全2日です。何事も無く無事終わればいいのですが。私はそう思いながら家路についたのでした。




