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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
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76 吊られたうねり木、グラフティングパペット(1)


 この森らしい歓迎を受けた後、俺たちは戦利品を整えた。

 奇襲は喰らえど善戦したのは間違いない、だけど本当にひどい有様だ。


 というか、地獄絵図だった。

 いつの間に死骸から中身がどろどろに抜け落ちて、土色の抜け殻がそこらに転がる恐ろしい有様だ。

 ぱっと見、トカゲの化け物が集団脱皮でも決意したように見えなくもない。

 そいつらは骨身どころか魂も抜けて、しばらく腐った草の香りを現世に放ってた――尻尾だけを元気に残して。


「……いい加減言わせてくれ、マジでなんなんだこの森は。どろどろぐちょぐちょしたものが多いし、挙句の果てに化け物トカゲの抜け殻だぞ? 今後来るやつのためにホラースポットとして地図に記録した方がいいんじゃないか?」


 こんな事情のもとで、死骸から有用な部位をはぎ取ったわけだ。

 皮が売れるというので損傷の少ないものからメルタになるものを取った。

 そうなると手榴弾をご馳走したのは失敗だったかもしれない、けっこうな数が破片で穴だらけだったからだ。


 使い道のない爪は四肢ごと切り捨て、しわくちゃの頭も落とす。

 なぜか肉も骨も残った尻尾とお別れさせれば、晴れて価値のあるストライクリザードの皮が完成だ。

 ……これを悪臭漂う中、できる限りこなしたんだからひどい仕事だった。

 幸いにもオリスたちはこういうのには慣れてたので、死骸はあっという間に捌かれた。


 残った部位はほったらかしだ。曰く、あとは自然が処分してくれるそうだ。

 厳密に言えばオリスの『自然の理が云々』な小難しい話だったけど知るか、さっさと未練も残さず森に帰れ。

 畳んだ皮と少しの尻尾を回収した後は、入り口まで引き返して休息をとることにした。

 安全な場所はすぐ見つかった。外の平原に背を向けて、森林を睨むように木陰に落ち着くだけである。


「ゲームと同じデ、死んだらちゃんと尻尾を残すんだナ……こいつはかさばるシ、需要はあるかどうかわからんガ、ちょっと持ち帰るゾ」


 南に退いて森を抜けたところで、メーアがサンドイッチをがじがじ食ってた。

 ただし、そばには積み重なる皮に土色の尻尾が乗っかった悪趣味な飾りだ。

 なんなら抜け殻の一枚は彼女の尻にしかれてる、レジャーシート的な意味で。


「さっそく皮の使い道があったみたいだな、んなもん敷いて昼飯食うなよ呪われるぞ」

「冒険者たるもノ、使えるものは使えの精神ダ。地べたに座るより断然いイ」

「一応これって金になる素材らしいな、いいのかそんな敷物みたいな扱いで」

「問題ないだろうこれくらイ。むしろワタシたちみたいな女子の尻に潰されたなラ、だいぶ箔もつくんじゃないカ」

「そんなマニアックな買い取り先がこの世にいてたまるか。っていうかな、さっきからずっと気になってたことがあるんだけどいいか?」

「む、どうしタ」


 変わらぬ森の様子を警戒しつつ、俺はメーアと一緒に同じものをかじった。

 平たいパンに透けるぐらい薄切りにされたドライ・ソーセージを何重にも敷き詰めて挟んだ特製サンドだ。

 がぶっとかじると濃く塗られたバターと、コショウ多めの塩気がじんわり響いて実にうまい。


「なんでこいつら揃いも揃って尻尾だけきれいに残してんだよって話だ。エーテルブルーインみたいになるのはよく分かったけど、どうして尻尾はそのまんまなんだ?」


 まあ、そんなムツミさん特製の昼飯もそばの素材のせいでだいぶ台無しだ。

 原寸大のまま切り取られた極太の尻尾が、皮タワーの上でさながら捧げものとばかりに鎮座してた。

 この邪神への供物にも見えなくないオブジェは、ヒールでも唱えれば今すぐびちびち動き出しそうだ。


「知らン、ゲーム作ったやつに聞ケ」

「そうか、じゃあ今すぐ聞いとく――おい、どうしてこんなふざけたバケモン作りやがったこの野郎」

「誰に語り掛けてるんダ、怖いゾ」

「気にするな、最近のくせだ。ところでなんでこんな前衛的なアート作った?」

「鞄に入れると地味に重いからナ、持ち帰るまでこうして置いてル」

「持ち帰るってこのでかい尻尾もかよ。何に使えるんだこんな元気なの」


 こんな気の休まらない呪物を作ったメーアが言うには、尻尾が残る理由は未来の俺にあるらしい。

 ギザギザな歯で平たいハードブレッドをかみちぎってるけど、ここで『俺がMGO作りました』なんて告げたらどんな顔するんだろう。


「こいつの尻尾は食材だゾ、作中では序盤に便利な料理がいろいろ作れたなア」


 いやそれよりもっとひどい事実が告げられた、これ食えってのか未来の俺。


「ん……その尻尾、やっぱり食べれるんだ? 気になる」


 木陰からひょこっとニクもつられてきた、犬耳が興味津々の立ち方だ。

 トカゲモドキの形見がは白い断面と太い骨をひけらかしてる。


「待てメーア、料理ってなんだ。こいつを食うって意味が籠ってないか?」

「尻尾の肉はご飯になるんダ。確かムニエルとカ、煮ものとカ、揚げ物とかにもなった気がすル。お手軽にそこそこなステータスアップのバフもつくから、ワタシたちは何かと重宝してたゾ」

「おい、なんでトカゲの尻尾に対して食べ方のバリエーションがそんなにあるんだよ」

「トカゲなのにお魚みたい。言われてみるとそれっぽい匂いがする」

「そういえば作中の説明文によれバ、クセのない白身魚みたいだとか書いてあったナ……思い返すト、魚料理みたいなのばっかだっタ」

「どろどろに溶けてぺちゃんこになった後はお魚感覚で召し上がれ、とかひどい一連の流れだと思う」

「おにくじゃないんだ……残念」

「ニク、お前マジでこれ食うつもりだったんか……?」


 MGOではこれを魚感覚で料理して頂いてたそうだ。トカゲモンスターの変死体に残った()()を。

 肉じゃなくてしょんぼりするニクを撫でてやると、ぴこんと着信が来て。


【ユルズの森とやらに向かったそうだが、ストライクリザードの尻尾があれば持ち帰るんだぞ! あれはうまいんだ! 皮をはいで衣をつけて揚げると素晴らしいフライになるぞ! 揚げた芋を添えればご馳走だ!】


 クラウディアからだった、どこかで俺たちを見てるのかあの大食いめ。


「メーア、今まさにそんなお告げが届いたぞ。うまいから持ち帰れとさ」

「ム、誰からダ」

「うちの大食いエルフから。このままだとフライにして食うつもりだあの野郎」

「ストライクリザードを食べたことあるのカ、あのダークエルフ」

「すでに味わったような書き方によればご馳走らしい、揚げたじゃがいもと一緒にどうぞだって」

「ということは意外と価値があるかもしれないナ、もう一本持ち帰ろうカ?」


 尻尾がうまい、と伝えるとメーアは森の奥を見ながらお悩みだ。

 今頃そう遠くない向こうではストライクリザードの残骸が山と化してる頃だ。

 具体的に言えば、捨てられた不要な皮と持ち帰り切れない尻尾の数々がサイコパスの殺人現場ばりの光景を生んでる。


「魔獣とはいえあんな祟られそうなぶん投げ方して俺たち大丈夫なのか?」

「ん……さっきまですごい匂いだったけど、すっかり消えてるみたい。あのどろどろ、どこいったんだろう?」

「すごい絵面だったのはワタシも認めル。まあ問題はないはずダ、ストライクリザードの幽霊なんてMOBはいなかったしナ」

「開発者が化けて出るようなシステム組み込んでたらそいつ一生呪ってやる――なあ、やっぱあれ埋めるとかした方いいんじゃないか?」

「何ら問題はない。ああしておけば後はこの自然が彼らを頂くから」


 鞄からもう一包みサンドイッチに手を付けると、オリスが寄ってくる。

 魔獣の死骸の処遇を決めた張本人だ。チビエルフには大きいおにぎりを手にちょこんと座った。

 ただし落ち着く先は人の膝だ。さも当たり前のように尻に敷いてきた。


「その自然云々についてもっと教えてくれ、ホラーテイストにならないように優しくな」

「説明すると、あのストライクリザードたちの亡骸はユルズの森に帰る運命。残された皮や爪や尻尾はこの土地の養分に変わるし、ここに巣食う動物たちの糧にもなる」

「なるほど。少なくともあのドロドロは森の昼飯になったってことか?」

「そう受け取るべき。エーテルブルーインのように、食らった恵みから作られたマナを森に散らしながら死んだと思えばいい。あれが死んだ分だけここは豊かになるはず」

「俺たちの戦いぶりが世のためになったと思っとこうか。欲を言えばもうちょっとまともな死に様してくれって感じだ」


 くったり預けにきた背を胸で受け止めると、そう説明が及んだ。

 要はあの変死体もほっとけば森がきれいにいただいてくれるらしい。

 蜥蜴以上怪獣未満を食らう化け物がまだいる意味合いじゃないことを願おう。


「けれども、あいつらの戦い方はゲームとは全く違った。あれはまったくの予想外、あなたやニク先輩がいてくれて本当に良かった」

「そういう割にはお前だっていい感じに戦えてたぞ。あの二本同時にぶっ放したのはアーツか?」

「あれは覚えたばかりの【ダブルバースト】という弓スキル20のもの。拠点東の白き民で腕を慣らしてきたけど、我ながらいい具合に扱えて満足」

「オリスさまの矢、ストライクリザードたちにいっぱい刺さってたね」

「うム、あの市街地はワタシたちにとっていい練習の場になってるんダ。アーツアーカイブとかも拾えるシ、腕も磨けるシ、おかげで大したことなかったナ!」

「あのへんてこな場所がこうして役立ってるわけか。お前らが強くてびっくりだ、依頼が終わったら飛び級でブロンズあたりになれるんじゃないか?」


 でも今回の戦いで分かった、チーム・ロリは前より明らかに強くなってる。

 皮肉なことにあの白き民がうろつく東の市街地とやらのおかげに違いない。


「そういうあなたもナタ一本であれに立ち向かうとは中々の度胸。あえて尻尾を受けるとは思わなかった」

「人様で防御力を証明してくれた奴に感謝したい気分だ。まあ、あの腐った果物みたいな臭いするどろどろのせいで割と最悪な昼飯になってるけどな」


 そして間違いなく、今身に着けてる防具の恩恵が大きい。

 これほど頼もしい防御力があるだけで安心感が違うし、軽い着心地は素早く動ける。

 初対面の化け物にああも振舞えたのはエルダー防具あってこそだ、耐えられないのはどろどろの放つ甘酸っぱさぐらいだ。


「……お兄ちゃんが良ければ、口直しに私を吸っても構わない」


 するといったいなぜだか、オリスはベレー帽を外してきた。

 はらっと踊る白髪を見せてから、ちんまりした顔が上目遣いに見上げてくる。

 柔らかなつむじの形がぐいぐい親しく寄ってくるわけだけど、言葉通りそれを吸えといわんばかりだ。 


「なんだいきなり」

「あの悪臭のせいで幾分食欲が削がれてるように見える。よって私の匂いで上書きすれば問題ないと判断した」

「なんだいきなり!?」

「タイニーエルフのつむじでしか得られない栄養があると聞いた。今朝お風呂に入ったから変なにおいはしないと思う――さあ」


 正気を疑うような提案がきてしまった、何が「さあ」だこのチビエルフ。

 でも頑なに離れないしすすめられたので仕方なく吸うことにした。

 口を抜かりなくきれいにしてからふわふわ髪に顔をうずめた――ふんわり甘くていい匂い!


「ほんとに吸うのかオマエ……」

『だって吸えっていうから……』

「ぁんっ♡ く、くすぐったい……♡ どう……?」

『洗ったエルフの香り』

「どんな匂いダ……!?」

「……ご主人、ぼくも」


 ストライクリザード臭を少し忘れたものの、ニクがむすっと割り込んできた。

 犬耳が生えた黒髪が斜めに迫ってくる――仕方ないので吸うことにした。

 犬の毛並みに飛び込むと、いつものお日様を受けたモフモフボーイの味がする。


『洗ったわん娘の匂いがする』

「んへへ……♡ むずむずして気持ちいい……♡」

「ためらいもなく二人目に行くナ、なんだコイツ」

『だって吸えっていうから……』

「律儀に言われたことを全うするとは流石お兄ちゃん。これが強さの秘訣か」

「ワタシ、仕方なさそうに人の頭を吸うやつなんて初めて見たゾ」


 エルフとわん娘を味わう羽目になったけどだいぶ鼻がマシになった。

 っていうか何してるんだろう俺。とりあえず膝上のちびっ娘を下ろした。


「あれー? 抜け駆けでいちゃいちゃしてるー? わたしも混ぜてよー♡」


 ところが目ざとくトゥールがぬるりと這い寄ってくる。

 獲物でも見つけたような猫の目つきが鋭く膝を狙ってた。


「なんか増えたぞ……」

「約束どーり撫でてくれるかなー? おじゃましまーす♡」


 けっきょく勝手に転がり込まれた挙句、顎を持ち上げて猫らしい催促だ。

 でも『後で撫でてね』とか言われた気がするので仕方なく撫でることにした。

 落ち着いた緑色の髪を後ろまでよくなぞった――ふわふわつやつや、クラングルの猫の毛並み!


「ひょっとしてあなたは頼むと断れない系の人種だった?」

「トゥール、オマエそんな約束してないだロ。それでいいのカ、イチ先輩」

「だって撫でろっていうから……」

「お兄さんノリいいなー♡ 撫で方も上手でくせになりそー……えへへへ♡」

「ご主人の撫で方はすごくいいところにあたるから気持ちいい。分かる」


 トゥールの猫毛をさらさらしてると、とうとう人の上で勝手にとろけてしまった。

 喉も本物の猫さながらにゴロゴロいってる。気まぐれそうな口元でいい笑顔だ。

 ロリに囲まれてこの体たらくだが、その時ふと視線を感じた。


「じー……」


 と木陰で見守ってくるメカクレメイドがいたからだ。メカ、お前か!

 ものすごく加わりたさそうに見てたのでおいでおいでと手招きしてあげた。


「あははっ♡ メカも撫でてほしそーだね? 交代しよっかー♡」

「しかしメカはお尻が極めて大きいから気を付けるべき。用心して腰を貸すこと」

「メカのデカケツを受け止めるのカ、イチ先輩……気を付けるんだゾ」

「あっ、あたし、そこまで大きくないです!? たしかに、他の子と比べたら少し大きいかもしれませんけど……!?」

「お兄さんなら大丈夫だよ、思い切って座っちゃえー♡」

「少しとかいうレベルじゃない、ミセリコルディアのデカケツ担当よりも大きい気がする」

「この前触ったら一段と大きくなってた気がするナ。すごかっタ!」

「なあ、俺このままお前らコンプリートしないといけないんか……?」

「そんなに大きくないもん……」


 ここで再びの阿鼻叫喚だ、メカが下半身事情をいじられてぐすぐすしてる。

 このままフォローしなかったらたぶん俺は屋敷の先輩メイドに殺される。

 よって広げた両手で歓迎を示した、トゥールの体温が移った膝がゴールだ。


「来いよメカ、ストレンジャー舐めんな!!!!」

「スト……ええ……? い、いいんでしょうか……あの、あたし……重いかもしれませんし……」

「意味は分からないけど裂ぱくの気合が籠ってる。大丈夫かと思われる」

「ゆっくり座るんだよー? 座り心地いいからきっと気に入るよ、ふふふっ♡」

「やるんだナ!? 今ここデ……!」

「ご主人は強いから遠慮しなくても大丈夫」


 周りがやいのやいのいうせいで、メカは(きっと)目をぐるぐるさせながら背を向けてきた。

 見上げた先で屋敷のメイドらしいロングスカートが大きく持ち上がってる。

 ちんまりと初々しい体格なのに、そこだけがむっちりと巨大な肉付きを二つ浮かべてた――いやでっかいなオイ!?


「……し、失礼します……!?」


 その大きさが視界を奪うほど左右にあったたと気づく頃には手遅れだった。

 た゛ぷっと重量感の乗った動きで()()が揺れたまま、恐る恐るに座り込んでくる。


「…………!?」


 猶予もなく見た目通りに、いや、それ以上の重さがずっしりきた。

 パン屋で捏ねあげたパン生地みたいにもちもちした弾力が、冒涜的かつ破壊的な重さを込めてそこに広がった。

 スカートの布地よりも存在感のある丸いケツ圧が、狂える山脈で見つかった不定形の生物のごとく下腹部より下を飲み込んでいく!

 俺は外なる宇宙を感じた――いあ、腐海で眠れる痴れた魔王よ!


「あっ、お兄さんが宇宙を感じた猫みたいになってる」

「おおなんということ、世界の心理を知ってしまったような顔に」

「それはそれで失礼だロ、なんてリアクションしてるんだコイツ」

「ご主人、遠いどこかを見てる……」

「ぶにょぶにょ……」

「ぶにょぶにょ!? だっだんなさま!? あ、あたし重いですよね……!? ごめんなさいっ、い、いま離れますから!」


 だゆんっ、と尻の圧力が激しく揺れてはっと我に返った。ただいま現世。

 何かヤバイものを垣間見た気がするが何一つ問題ない。

 逃げようとするメカのお腹を抱っこした、「み゛ゃっ」と大人しく捕まった。


「重くない!」

「この顔色はどう見ても重いように見える」

「重くないよ!!」

「いや重いだロ」

「重くないって!!!」


 あれこれいわれるけど正直重い。

 軽機関銃といい勝負の存在感がみっちり俺を潰しにかかってる。

 でも我慢した。失礼だし、万が一クロナへ伝わったらその日から屋敷が俺の墓場になる。


「だんなさま……? お、重くないんですか……?」


 圧し掛かるメカを抱っこしてると不安そうに振り向いてきた。

 顔色を殺して強くうなずいた。これが俺にできる精いっぱいの強がりだった。


「俺の人生に比べれば軽いもんさ……」

「え、ええ……」


 割と切実な意味を込めてそう返した。ついでに髪も撫でた。

 白くて青い質感にきめ細かいツヤがあって気持ちいい――でも尻は重い。

 ブリムごとそれはもう丹念に触れてやると、次第にうっとりしだして。


「あっ……♡ え、えへへ……♡ 嬉しいです……♡ だんなさまのお手手、すごく気持ちいい……です……♡ んん……♡」


 メカがとろとろに背を預けてきた、トゥールより声が甘ったるい。

 好感度がめっっっちゃ上がった気がした。でも尻は重い。

 ところで俺は何をやってるんだ……。

 

「じーー……」


 デカ尻に潰されてると別の木陰から黒髪鬼娘が――ホオズキお前もか!?

 きりっとした顔はとてつもなく仲間に加わりたさそうだ。


「なんかまた増えてる……」

「そうそウ、今だから言うけどイチ先輩。ホオズキはオマエにあこがれてこの依頼に志願したんだゾ」

「待てメーア、今なんつった? 誰が誰にあこがれてるって?」


 微妙な距離感にある鬼ガールと見つめ合ってると、突然メーアがそう言った。

 言葉の意味をもう一度確かめれば指先は『オマエ』『アイツ』と比べて。


「鬼神のごとく強い人間が大暴れしているって噂を聞いてかラ、ものすごく胸を打たれたらしいゾ。それ以来オマエを追っかけてたんダ」

「っていうかね、この世界でわたしとメーアとホオズキがまた集まったのってお兄さんのおかげなんだよね? この頃冒険者が熱いって聞いてクラングルに来たら、たまたま揃っちゃったんだ」

「そう、散り散りに過ごしていた我々が冒険者としての始まりを切ったのはあなたがいてこそ。でも久々にあったホオズキが狂ったようにあなたに夢中で正気を疑った、軽くホラー」

「強くて気取らない感じが好きだってサ」

「それ本人の前で言っちゃうー? わたしもお兄さんのそういうところ、けっこー好きだけどねっ♡」

「彼女は奥手だけれども、その実ねっとりとした愛情をあなたに向けている。今がチャンス」

「うわーお、俺の知らない場所でとんでもないことになってるぞ……ねっとりとかいうのやめなさい」

「また女の子に好かれてるね、さすがご主人……」


 俺はたびたびいろいろなものを呼び寄せてきたけど、今度は知らぬ間に好意を寄せてる鬼娘だって?

 肝心の本人といえば木の裏ですごーく照れ照れしてる。

 ちょっとかわいいと思った。でも肝心の一歩が踏み出せてないようだ。


「あ、あたしは少し前にみなさまが拾ってくれて、こうしてご一緒させてもらってます……だんなさま、そろそろ離れますね……? 重かったらごめんなさい……!」

「レフレクもたまたま拾ってもらいましたっ! 撫でてくださいー♡」


 微妙な距離感が続くと、メカのでっっっかい尻がやっと離れていく。

 代わる代わるに来たのはレフレクだ。妖精サイズがぽんと肩に乗った。

 頬にすりすりしてきて途端にくすぐったくなった――指先でくしくし撫でてやった。


「にょあーっ♡」

「……す、座る……?」

「きゃははははははっ♡ くすぐったいですー♡」


 段々ロリ密度がひどくなってるが、中々踏み込めないホオズキを招いてみた。

 でも来なかった、恥ずかしそうに躊躇ってる。

 けらけら笑い転げるレフレクを指で追いかけてると、けっきょく木の裏に隠れてしまった。


「あ、隠れたぞあいつ」

「ものすごく撫でてほしそうな顔だった。きっと後でこっそり来ると思うから、その時に撫でてあげてほしい」

「すごーく羨ましそうな感じだったよね。別にお兄さんのこと嫌ってるわけじゃないからね? ああいうの隠しちゃうやつだからさ」

「あとでねっとりくるぞアレ。よし、じゃあワタシを撫でロ!」


 代わりにメーアにどすっと座り込まれた、魚の尻尾もあってけっこう重い。

 振り向き顔のギザ歯が人懐っこくにやついて、艶の強い紺色の髪がぐりぐり押しつけがましい。


「なんでみんな、俺に撫でさせるん……?」


 思えばジトっとした犬を撫でて以来、人の髪に触れる機会が芽生えた気がする。

 魚ッ娘の催促に負けじと長髪を撫でおろす――かなりしっとりしてた。

 八割蛮族なくせして細くてしなやかな髪質だ。尻尾がご機嫌にゆらゆら踊る。


「ンフフ、くすぐったイ……♡ この頃、オマエが好きになってきたゾ♡ 撫で方も上手だシ、付き合いもいいとかワタシの好みダ♡」


 じっくり髪を指で追えばメーアはご機嫌だ、後頭部がすりすり当たりにくる。

 満足したのか腰が上がった……と見せかけて一回転、野生児の気がある無邪気さがぐんと近づく。

 鼻同士のキスだ。動物めいたスキンシップをお礼にようやく離れた。


「メーアが心を許すとは意外極まりない。天変地異の前触れのように感じる」

「男の人にあんな好意的にするのって、初めて見たかも……やるねお兄さん!」

「ワイルドなデレ方だと思う。くそっ、俺は魔物使いかなんかか?」

「魔物使いとは言いえて妙」

「ヒロイン=モンスター・ガールだしねー? ちゃんと可愛がってね?」

「ま、魔物使い……だんなさま、いろいろ兼ねてて大変そうです……」

「レフレクでしたら幾らでも可愛がってくれても構いません! どうぞっ!」

「……ぼくも魔物になるのかな? 別にいいけど」


 アサイラムに絡んでからいろいろな種族のお友達ができてる気がする。


「昼飯兼休憩はおしまいだ。お次は木の魔獣探しの冒険か? よしよし」

「ふぁっ……♡ 顎の下、気持ちいいです……♡」


 ともあれ昼休みに区切りがついた、立ち上がるついでにレフレクをくしくし撫でた。


「そういえば、スパタさまに頼まれてたよね。樹液が欲しいって」

「素材が豊富なことや、ストライクリザードがいることも分かったけれども、地図の情報を確かめるためにも見つけたいところ。問題はどれほど奥に行けば会えるかという可能性、ゲームさながらに雑にPOPしてるようには思えない」

「かといってあんまり奥に行くと、さっきみたいにわんさか来るかもね……さっきの場所よりちょっと奥まで行ってみる?」

「……さっきので戦い方はだいぶ掴めました。もしまた出てきても大丈夫です、いつでもいけます」

「ごはんも食べてマナも補充しました! レフレク出動準備完了です!」

「今はっきりしてるのは、この流れだと木の魔獣もろくでもなさそうってことぐらいだ。支度開始」


 さて、あとは木の魔獣とやらがいるかどうかの調査だ。

 各々が準備を始める中、俺はヌイスからもらった保温瓶をきゅっと開けた。

 朝から変わらず熱々のコーヒーだ。湯気から淹れたてそのままの香りを感じる。


「……一応、向こうに連絡取っとくか」


 一口飲むとほろ苦い。何口か味わってからメッセージ機能を起こした。

 送り先はクラウディア、さっき撮影した皮タワーと尻尾を添えて。


【ご注文の品確保したぞ、これ食うとか正気かお前】

【おおっまさしくあの尻尾だ! ダークエルフの里では上等な白身魚と同等に扱われてるんだ。持ち帰ったらさっそく食堂のみんなに見せよう!】

【ムツミさんに料理させようとするんじゃないよ。けっこう重いからそんな持ち帰れないけどどうか許してくれ】

【皮もいっぱいだな、ストライクリザードどもを仕留めたようだがどうだった?】

【あいつらの木の上から奇襲してくる生態系にはびっくりだ、大したことなかったけどな】

【この文面は快勝といったところか、流石お前たちだ。グラフティングパペットは見つかったか?】

【まだお目にかかってない。今から周辺を調べるつもりだ】

【そうか、気を付けるんだぞ。それからクリューサが『もし目ぼしい薬草やらがあったら適当に持ち帰れ』だそうだ】

【それっぽいのならわさわさ生えてたから適当に引っこ抜いた】

【ユルズの森は大昔の地図通りに豊かな地なんだな、今度私も行ってみよう!】

【その時はノルベルト連れてけ、少し奥に入っただけでひでえ歓迎だったぞ】


 とりあえず、傍らに積まれた皮と鎮座する尻尾の構図を撮影して送った。

 これを魚感覚で食べるとかクラウディアの故郷はどんな趣味してるんだろう。


【タケナカ先輩、ストライクリザードとご対面したぞ。今は大人しいけどな】


 それからタケナカ先輩にも報告がてら断面図がよく見える一枚を送信すると。


【馬鹿野郎、今飯食ってるんだよこちとら!? お前たちが無事みてえで良かったが、なんだこりゃ……】


 昼時の食堂の一コマが送り返されてきた、狙い通りいいタイミングだ。

 今日は趣向を変えて定食形式らしい、ロアベアがいっぱいの唐揚げにご飯とみそ汁がついたものを運んでる。


【エーテルブルーインに続く魔獣だ。死んだら中身どろどろに溶けてこうなった、尻尾はお土産】

【ふざけた生き物がまだいるってのか……いや、こんなデカい尻尾を持つバケモンがいるとかなんの冗談だ? えらく丁重に屍が積み重なってるが、大丈夫だったのか?】

【森に入った瞬間集団で奇襲仕掛けてきたけどなんとか返り討ちにした。んで呑気に飯食ってた】

【まとまりのある行動で不意を狙って来るとか、厄介極まりねえな……】

【これからもうちょっと森を調べてくる。とりあえず今言えるのは一人で散歩に来るような場所じゃないってことぐらいだ】

【了解だ、そこらはまだ俺たちの手の及んでねえ場所だ。まずいと思ったらすぐに退けよ】

【ああ、せめて情報にあったグラフティングパペットがいるかどうか確かめておく。ところで今日の昼飯なんかいいな、定食?】

【ホンダが定食食べたいって言いだしたんだが、気づくと総意でこうなった。俺はサバの味噌煮だ、こういうのでいいんだよ】

【羨ましい、俺も定食食いてえ。スパタ爺さんは今なにしてる?】

【いろいろやってて忙しそうだ、伝言あったら俺に言え】

【じゃあ便りがないのは良い便りだ、つまり無事ってことだな】

【分かった。こっちは軽く周辺を調べたが異常なしだ、いい便りだろ?】


 ユルズの森の事情と比べて向こうはけっこう平和みたいだ。

 今頃ミコたちはどうしてるんだろう、またこの前みたいに予期せぬ相手に遭遇してなきゃいいんだけどな。


「こういう時こそ便りがなければなんとやら、か。どうか元気に全員ぶちのめしててくれよ」


 また森に向き合って小銃へ弾倉を込めた。

 空弾倉にも308口径弾をぱちぱち詰めてフルロード、ボルトを引いて装填した。

 今のうちに周りを少し調べておくか。魔獣の残骸がある北側に歩きかけたが――


「……あの、少々よろしいでしょうか?」


 木陰からまるで見計らったように和装風の姿がもじもじ出てきた。

 さっき撤退したホオズキだ。オリスの言う通りほんとにエンカウントしたぞ。


「よお、さっきぶり。どうした?」


 鬼娘はなぜか周囲をきょろきょろ確かめてる。 

 きりっと真面目そうな顔はそこから一呼吸置いて手招きしてきて。


「……私も撫でていただけますか?」


 それだけ言って、目をうっすら細めながら頭を差し出す。

 艶のいい黒髪が二本の白角にかき分けられた鬼のそれだ。緩んだ頬がどこか期待してるような気がする。

 多くは語らぬままだ。さっきの荒れ狂いようは忘れてそっと触れた。


「これでチーム・ロリはコンプリートか。なんて日だ」

『ホオズキは角掴むとすっごい汚い声だすゾ、気持ちいいらし』

「メーア!!!」


 ……なんか余計な言葉が挟まったけど無視して撫でた。

 角を避けて前髪に指がつけば、びっくりするほど絶妙な肌触りだ。

 指先で溶けて消えてしまったように艶があって細い。流れを追って後頭部までなぞると、まるで手がくすぐられてるよう。


「あっ♡ んっ♡ うふふ……♡ こそばゆくて、とても心地が良いですね……♡」

「そりゃよかったよ。ちゃんとご飯食べたか? 再三聞くけど怪我はないよな?」

「はい、怪我もありませんし、ムツミさんのおにぎりを頂きました。先ほどは助けて頂いてありがとうございます、とっても素敵でした……♡」

「ノルベルトだったらその上ダイナミックにぶっ飛ばしたろうな。もし俺があんな風になったら助けてくれ」

「ええ、このご恩は一生忘れません――貴方の手、温かくてとろけてしまいそうですね……♡」


 不思議な肌触りをそーっと感じてると、ホオズキは妙にうっとりした声だ。

 声の調子が普段と全然違うし、目つきもなんというか色が籠ってる。

 なんなら撫でる手を掴まれてぐぐぐっと軌道を変えられた――すごいちからだ!


「先ほど、皆さんが言ってましたけれど……私、あなたに憧れているんです。強くて逞しい、鬼のような殿方がいらっしゃるとのことで……♡」


 鬼パワーを振舞うロリは好みの同類でも見るように熱い視線を投げかけてきた。

 誰が鬼じゃい。不自由な手のひらが白い頬にもちっと触れた、熱っぽい。

 というか怖い。柔らかく頬ずりしながらじいっと俺をガン見してる。


「あー、うん、お前の検索条件にだいぶあてはまってるみたいだな。でも角は生えてないぞ、ノルベルトとかどうだ?」

「そのあたりにいるようなありきたりでつまらない平凡な方々と違って、鬼と呼ばれるほど激しく荒ぶるお方だと聞いてずうっと胸が疼いていました。その強い瞳といい、情け容赦のないお背中はまさしく鬼……とっても素敵です……♡」

「……ノルベルトほどじゃないけどな、とりあえず手放そうか?」

「貴方とご一緒できて、私は幸せです……ん、ちゅぅぅぅっ……♡」

「――助けてくれノルベルト」


 とうとう食後のデザートみたいに人差し指をぱくっと甘噛みされてしまった。

 なんてこった、チーム・ロリで一番やべえのはこいつだ。


「……ん゛……っ♡ ふぅ……♡ ふふふっ♡ 今のを忘れないでくださいね? 私はずうっと貴方の味方ですから……♡」


 ホオズキの高めの体温をじんわり感じてると、ようやく小さな口が糸をつうっと引いて離れた。

 最後に指を「しーっ」と立てて、人懐っこくすり寄ってからオリスたちの元へ行ってしまった……。


「未来の俺、お前のせいでやばい方向に突き進んでるぞ……」


 この頃またワンランク親しくなったオリスたちがなんか怖くなってきた。

 少し距離を置こう、魔獣の残骸の方へ歩んだ。

 木々の間からさっきの戦いの場が見えて、そこに残骸の山があるはずだ――が。


「……待ってご主人、何かおかしい」


 そこに異変を感じたのと、したっとニクが追いついてくるのが折り重なった。


「あちゃー……奇妙なことがさっそく起きちゃってる。あそこって、わたしたちがストライクリザードの死骸を捨てた場所だよね?」


 トゥールも駆けてきたみたいだ、三人揃って人猫犬で向こうを見れば。


「なあ、オリスのやつドヤ顔で『森が食べる』とか言ってたよな……だとしたらとんだ早食いじゃないか?」

「それにしては変だよ。何もなかったみたいに全部消えてる」

「呪いの儀式みたいな絵面だったのに綺麗に片付いちゃってるねー」

「ああ、邪神でも呼べそうな散らかり具合だった。こういう時片づけてくれる奴ってどんな奴だ? それともマジでなんか召喚したか?」

「敵かも。用心して」

「……オリス! 緊急事態だよっ! 死骸が全部なくなっちゃった!」


 何もなかった。

 そこでざっくばらんに散らばってた魔獣の死骸がさっぱり消え失せてるのだ。

 中途半端な抜け殻も、人の足一本に値する尻尾の大きさも、何一つ残っちゃいない。


「――なんという。少し目を離した隙に、あれだけの数が跡形もなく消えてしまってる」

「おイ! 全部なくなってないカ!? 尻尾をもう一本切り取ろうと思ったのニ、もったいなイ!」

「今はそれどころじゃないでしょうお馬鹿!? あれだけあった死骸が一斉に消えるなんて、由々しき事態ですよ!?」

「あんなにあったのに、一つも残ってないですよ……? な、なにがあったんでしょう? 魔獣が持って行った、とか……?」

「こっ怖いです……!? それになんだか、前と風景が違う気がしませんかー……?」 


 オリスたちもこの異変を目の当たりにしたみたいだ。間違いなく死骸がない。

 だが、レフレクの疑問から更なる違和感も掴んでしまう。


「……レフレク、お前の気のせいじゃないと思うぞ。あそこはもうちょっとゆとりのある場所だったはずだ」


 俺は反射的に小銃を重ねた。

 照準器を通してさっきを思い出すと、なおさらおかしい。

 日の当たりが悪いそこは前より木々の密度が濃いし、目に見えて狭苦しい。


「みなさま、あの木……何かおかしいです。枝の形が少し太いし、葉っぱも大きすぎる気がします……それに、他と比べて背が低いような……?」


 メカも何かを見出したみたいだ。

 たどたどしく上がった指先につられると、狭く群がる樹木に当たった。

 双眼鏡で詳しく見るなら――他と比べて幹も枝も肉厚でやけに()()()()


「ほんとにおかしいな。ところどころに違う木が混じってないか?」

「待って、あそこからゴムみたいな匂いがする」

「あのあたりは妙。私の記憶が正しければ六本ほど木が増えてる」

「さっき解体する前にスクショ撮ったんだけどさ、やっぱ風景が違うよこれ……ってことは?」

「そういえばグラフティングパペットといえバ、森に擬態してたよナ……」

「……私たちに事前知識があって良かったですね。ということは、もう答えが出てるようなものですよ」

「じゃ、じゃあ、あれってもしかして……」

「ついに出ちゃったんでしょうか!? れ、レフレク、ドキドキします……!」


 全員の意見がまとまった。

 あの一味加わった森の様子が【グラフティングパペット】かもしれない。


「左右にも気を付けろ、他に変なのがないか探れ。オリス、こういう時はどうする?」

「向こうを監視しつつ森の入り口まで下がる。横だけじゃなく前後も警戒して、メーアとレフレクは魔法を放てるように構えてほしい」


 ひとまず下がった。

 トゥールの「後ろは大丈夫」という小声を信じて外へと後ずさる。


「左右の様子はよく分からないけど、ここまで下がれば後ろは狙われないよ。あれ絶対、グラパペくんだよね……ゲームで見た時とだいぶ違う気がする」

「もしかしたら他にもいるかもしれません、どうか警戒を怠らずに。それで、次はどう動くんですか?」


 トゥールとホオズキもすっかり警戒したまま次の動きを待ってる。

 照準器には疑わしきものが収まってた。トリガを引けば確実に当たる。


「やっぱり呪われてるんじゃないのかふざけやがって。この森全体が敵に見えてきてるぞ」

「ならば成すべきことは極めて単純。あれが魔獣かどうか実力で確かめればいいだけのこと」


 右にも左にもいるんじゃないかと不安がくるが、オリスの視線はシンプルだ。

 向こうめがけて長弓の弦をぎぎっと引いて、今にも物理的にお尋ねする気だ。


「俺もそういうの大好き。ニク、大雑把でいいから狙えるやつを狙え」

「ん、やってみる」

「魔法持ちは迎撃できるように待機、私とお兄ちゃんで()()から他は白兵戦用意」


 不自然な森の暗さめがけて俺たちは得物を備えた。

 ニクが仕込み槍を構えて、オリスの弓が持ち上がり、その間で小銃を抱え込む。


「よーいドンでいくぞ、中央のやつをやる。万が一があったら頼むぞお前ら」


 メカが気にかけたあの木をはっきりとらえた――トリガを引いた。

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