表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
568/580

73 ユルズの森(1)


 ()()()()の防具を手に入れて間もないうち、例の森を目指した。

 まずは西にある風車の町へ向かった。

 【ユルズの森】の場所はそこから更に北西だ、そのついでに目につく場所に異変がないか調べることになった。


 幸い、道中は予期せぬ遭遇(エンカウント)と無縁だった。

 町の廃墟は静まり返ったままで、心配するのは幽霊の存在ぐらいだろう。

 抜けた先にあるガソリンスタンドなんてドワーフの技巧で見事な瓦礫の山だ。

 悲劇的なリフォームを食らった現場を【建材】に分解して更地に変えたあと、森を目指して北へ向かった。


 そんな調子がしばらく続いたわけだが、ここで革防具の良さが出てきた。

 こいつはいい。擲弾兵のアーマーより軽いし通気性がいい。

 身体の動作を妨げるどころか支えるように張り付くから()()()が違う。

 この動きやすさは疲労を抑えてくれるのだ、原材料はともかく体力の消耗を減らせるのはデカい。


「湖カ……そっちに行きたかったゾ……泳ぎたかったなア……」


 そして今、目の前の誰かのスカートで青黒い尻尾がゆらゆらしていた。

 マーマンのメーアだ。魚のパーツはやわらかい勾配にあわせて上下にくねってる。

 というかガソリンスタンドから北上を始めてからずっとこうだ、湖へ向かったミコたちを羨ましがってた。


「……メーアさま、そんなに泳ぎたかったの?」


 本日何度目か分からない水場への渇望に、隣でニクがじとっと尋ねた。

 犬の相棒もパーカーに重ねたボディアーマーとリグに快適そうだ、尻尾がご機嫌である。


「さっきから水気が欲しそうだな。ここまで来てどうしたんだ、歩きすぎてえら呼吸でも恋しくなった?」

「おいオマエたち、ワタシはマーマンだゾ? ひとたび水中に入ってしまえばそこは我がテリトリー、白き民なんてヌルゲー同然ダ」


 同じく気になったが、聞いたところで槍をくるっと操って魚人アピールだ。

 身体の魚要素にかけて水の中では強いらしい――つまり泳ぎたいってさ。


「それって水中で戦うって意味か?」

「当たり前ダ、まさに水を得た魚だゾ!」

「ワオ、頼もしいな。今度水中型の白き民が出たら任せた方がいいか?」

「そんな半端なやつが泳いでたところデ、ワタシの泳ぎには及ばン。この槍でやっつけてやル」


 たとえ『白き民水中戦仕様』が出てきてもかかってこい、だそうだ。

 そんなのごめんだが、いざそうなったら自信たっぷりなやつにぶん投げよう。


「そういえばメーア、前にクラングルのおっきなお堀で泳いでたよね~……」


 ずいぶん頼もしい主張が終わると、緑髪な猫ッ娘、この頃の付き合い的にいうならトゥールに横から絡まれた。

 メーアはあの都市を囲う水場を泳いだらしい。いいのかそんなことして。


「お前、マジであそこ泳いだのか……」

「あははっ、すっごく楽しそうに飛び込んでたよ? ざばーんって」

「しかも飛び込んだのかよ、あんなところでスイミング始めて大丈夫なのか? こう、衛生的に」

「あそこってレージェス様のおかげで凄くきれいみたいだから、だいじょーぶだと思うよ。ていうか、看板に【泳ぐときはゴミを捨てないで下さい】って書いてるぐらいだし?」

「都市公認でどうぞ泳いでくださいってか? おいおい、そんなルールだったのかクラングル」

「とっても清らかで泳いでて楽しかっタ! 他のやつだっていっぱい泳いでたからナ、なにも悪いことはしてないゾ」

「他に泳いだやつがいっぱいいるのかよ。よくまあ躊躇わずダイブできるな」


 魚と猫のロリ二人のおかげで知識が増えた、都市を囲うお堀は泳いでいいらしい。

 いや、だからって人通りのある場所でざばーんといっていいんだろうか。

 実体験から得意げそうなメーアをそうやって見ると。


「ふふン。マーマンはデフォルト装備で水着を着てテ、いつでも泳げる種族なんダ。ほらこの通リ」


 なぜかこっちに振り向いて、本当になぜかぺろっとスカートを持ち上げた。

 魚めいた手先に紺色白色混ざりのワンピースがセルフめくりされると、マーマンの特徴がよく分かった。

 人間的な太ももに始まり、その上できわど……機能性のある白い水着が見える。


「あーうん、覚悟できてるって感じだな。さっきからお前が湖に未練がましいのが納得できた」

「ちょっとメーア、いきなりそんなの見せるなんて大胆すぎじゃないかな~?」

「そんなのとはなんダ、これはマーマン専用装備の競泳水着ダ。普段着にもちょうどいいゾ」


 ちんまりしたドヤ顔は白布地の鋭い角度に得意げだ、どうか未来の俺の所業じゃありませんように。


「そのような覚悟を決めたきわどい水着を晒すのは痴女に値する。あまり人目に晒すべきではないと思う」


 角度というか覚悟もある水着が見せびらかされたわけだが、今度はベレー帽をかぶったエルフも追いついた。

 俺たちに足並みを任せていたオリスだ。

 表情が死んだ静かな顔でメーアの水着の全てを物語ってる。


「きわどくなんてなイ、失礼なやつメ。それはワタシのようなマーマン系ヒロインに対する侮辱カ?」

「鼠径部への惜しみを怠った水着はもはや健全なものに非ず。そもそも、殿方に見せつけるのは由々しきものだと理解するべき」

「オマエはオマエで()()()()()だロ。ワタシそっちのほうが由々しいと思ウ」

「私は身体を動かす際にわずかな遅れを生まないためにこうしているだけ、これはエルフとしての必要に応じたもの。そっちこそ侮辱もいいところ」

「エルフがみんなぱんつはいてないみたいにいうナ」


 ……俺のそばでいったい何の話してんだろうこいつら。

 隣で繰り広げられる魚とエルフの奇妙な会話を横目にしてると、ぴくっとお魚系女子がこっちに気づいて。


「ンフフ♡ なんダ、イチ先輩はこういうのが好きなのカ?」


 ギザ歯の見える人なつっこいスマイルで、くいっとスカートをたくし上げてきた。

 二度見ても白肌垣間見える覚悟の決まった水着だ、はしたないからやめろ。


「アホみたいな問答のまま俺に『水着はお好きですか?』って流れを持ち込むな。喧嘩売ってるのか」

「そうカ、水着より下着の方が好みカ」

「おい人の(へき)を勝手に変えるな」

「ちなみにホオズキはふんどしだゾ、きわどいヤツだっタ」

「なんの情報だ」


 ところがあいつはいらん情報までおまけしてくれた。

 目線につられてしまえば、静かに続くさらつや黒髪ロングなロリがいるはずだ。

 二本の角に白黒赤とした着物風衣装が『鬼娘』を表してるが、いらん巻き添えのせいでがばっと短い裾を抑え込んでる。


「――見せませんからね!? いくら貴方のお願いでも、し……下着をお見せするなんてまだ早すぎます!?」


 混乱うずまく瞳と赤面で猛反発されてしまった。

 メーア、お前のせいでややこしいことになってんぞこいつ。


「待ってくれホオズキ、いろいろ早すぎるのはお前の方だ」

「べっ、別にきわどくなんてないです!? というかメーア、イチ先輩に何を教えてるんですかこのお馬鹿っ!?」

「きわどいガ、はいてないリーダーよりマシだろウ。バレてもセーフ」

「オリスの露出癖と比べないでください!? それに私の下着は、この衣装にあわせたものなんですから別におかしいなものじゃないでしょう!?」

「露出癖とはなんたる侮辱。私はただ自然という体を好むだけのこと、そんな変態的な趣味は持ち合わせていない」

「うおーい、森につくまでこの路線で話続くんか……?」


 しかしメーアのテロ同然の行いはまだ続きそうだ。

 あいつの黒白目は前を歩くちびメイドを捕らえてる。

 ここからでも分かる大きさがけっこう揺れてて、皮鎧で頼りがいが増したメカが咄嗟に尻を隠すも。


「それとイチ先輩、メカは青い縞模様だゾ。お尻が大きいから中々すご……」

「めっメーアさん!? だんなさまにそんなこと教えないでください!?」

「なんの情報だ!?」


 望んでもない事実をまた知る羽目になった。

 やめろ、これ以上望んでもない部分に触れないでくれ。

 犯人はメイドの力に「もごご」と物理的口封じを食らったようだが、目をそらせばちょうど上目遣いの猫ッ娘に当たり。


「……あれ~? ひょっとしてお兄さん、こっちも気になっちゃう?」


 すぐに猫っぽくにやっとした顔に変わった。

 ショートパンツの腰回りをくいくいしながら、だが。

 肉球と鋭い爪が混じった手はうっすらと白の――馬鹿野郎! アホみたいな情報をこれ以上増やすな!


「各々の自由を尊重するから、これ以上お前らのぱんつ事情に巻き込まないでくれ」

「ふふーん♡ わたしは別に平気だよ~? メーアたちみたいにきわどくない、普通のやつだし?」

「おいトゥール、マーマンの水着をきわどいとかいうナ」

「勝手に私も混ぜないでくれませんか!? そんな意図で着込んでいるわけではないんですよ!?」

「あ、あたしも入ってる……!?」

「んもー被害が拡大してる……」


 畜生、メーアのせいで阿鼻叫喚だ。

 しまいにトゥールは尻尾をピンと立たせて「へへへっ♡」と一緒にくっついてきた、距離感が十分におかしい。


「……ん、ぼくのも教えた方がいい流れ?」

「残念だけどすごく間に合ってる」


 あろうことかニクもジトっと便乗してきた。スカートを掴んでもじもじしてる。

 「やめなさい」と撫でてやった、今日はかわいい黒だ。


「あははっ♡ お兄さんちっちゃい子にモテモテだね~?」

「やっぱリスティアナあたり連れてくるべきだった」

「リスティアナ先輩は白い紐のやつだったゾ、ものすごくこだわってタ」

「ここにいないやつも巻き込むんじゃないよ! なんだお前さっきから!?」


 なんてこった、とうとうここにいないリスティアナにも魔の手が及んでしまった。

 しかし不幸っていうのはよく続くものだ、歴史がそう証明してる。

 なぜならオリスがベレー帽に乗せた橙色の妖精さんと共に迫ってきて。


「私は下着などはかない主義。よって下着事情には含まれないものとする、つまりセーフ」

「レフレクは黄色と白の縞々ですよー」


 二人して得意げな顔だった、もうやだこいつら。

 スパタ爺さんに頼まれて「お、じゃあ魔獣の首とってくるわ」なんて軽はずみに引き受けたのが間違いだった。

 拠点を発ってから元気な六人に揉まれつつ、しまいに下着がどうこう騒ぐ始末だ。

 これがMGOのヒロインか、こんなの考えたやつ頭おかしいだろ――あっ俺だったわごめん。


「九尾院のやつらといいお前らといい、この世界のロリどもが元気すぎて何よりだよ。先が思いやられるぐらいにな」

「ロリではない、設定上これでもれっきとした成年」

「だったらそれらしく振舞ってくれ。とりあえず今後の緊張感のために俺の隣でパンツ談義はやめよう?」

「私ははいてないから無関係」

「得意げな顔で言うな。畜生、最近開放的な知り合いが一気に増えた気がする」

「貴方は知らないかもしれないけれど、我々ヒロインの中には下着を嫌う者が意外といる。五人に一人ははいてないとみなすべき」

「ああそうだろうな、少なくともこうして巡り合うまでは三人ぐらいそういうやつがいたからな。それが今は水着着てるわはいてないわで倍の六人だ、どうなってんだお前らヒロインは」

「ワタシをそんな変態たちと一緒くたにするナ、どんなやつらだそいつラ」

「とっくの昔に知り合ってるしなんならご一緒してただろ」

「まさカ……九尾院のやつらカ?」

「どこみて判断したのかまでは聞かないからな。くそっ、もしかしてこんなやつばっかなんかアサイラム……?」


 下着を防御力と一緒に捨てた族(ロアベアやピナやツキミを示す)がまた増えてしまったが、とにかく進んだ。

 元気なロリどもが大人しくなったのは、ちょうど未踏の坂を超えてからだ。

 目の前に変化があった――見下ろす先で濃い緑が横にも奥にも深々広がってる。


「あれがユルズの森か……見事なまで地図通りの規模だな」


 そこで一旦、足が止まった。

 それほど地図の示す二次元的な表現と重なってたからだ。

 向に並ぶ山に向かって森林が長く続いて、そこから東で川の姿が縮こまってた。

 水の流れを追えば、ほのかに湖らしき色と形が【ベオルク湖】らしさを浮かべてる。


「ん……アサイラムの周りにある森よりもずっと深い。それに、いろいろな匂いがこっちに届いてきてる……?」

「おお、あそこに見えるはかのユルズの森。ここからでも分かるほどに豊かなものだと分かる、エルフ的に期待が高まる見てくれ」

「ずーっと向こうに湖も見えるねー? すごくいい景色、白き民とか魔獣とか、そんなのほんとにいるのかなって思っちゃったよ」

「ほんとうニ、人の手がついていない大自然なんだなア……クラングル周辺とはえらい違いダ」

「うっすらですが、ベオクル湖も見えますね……あっ、一応スクリーンショットを撮影しておかないと。近辺の情報が欲しいと言っておられましたし」

「おっきな森です! でも、あそこに魔獣がいるんでしょうかー……?」

「お、思ってたよりも大きいですね……? あたしたち、今からあそこに行くんですよね……ちょっと怖いです」

「あのデカさに幽霊がお住まいじゃないことを願うだけだ。行くぞお前ら」


 全員で確かめてから、俺は俺はスリングで吊るした"イシャポール"を手にした。

 リグに自動拳銃や散弾銃や手榴弾を突っ込んで火力面に憂いなしだ。

 幽霊が出ないことを強く祈って進んだ。


「ご主人、まだ幽霊いってる……」

「ここまできておいて幽霊の心配はおかしい。もはや病的なそれ」

「ねえお兄さん、心配するならせめて魔獣とかにしようよ……」

「そんなにお化けが怖いのカ、イチ先輩。そういえば出発前に聖水がどうこう言ってたらしいナ」

「勝手に面妖なものを付け足さないでください!? どんな心配をしてるんですか貴方は!?」

「アンデッド系モンスターが出たらレフレクにお任せください! 光魔法でやっつけますっ!」

「だ、だんなさまは、あ、あたしがお守りしますから……!」


 ニクとチーム・ロリを連れて進めば、こんな可愛らしい連中もすぐ切り替わった。

 ちらっと見れば各々が得物に手にかけて、遠くの森に気を巡らせてるところだ。

 ヒロインっていうのは大体こうだ。大なり小なり可愛らしいやつらだけど、いざ気を引き締めると途端に頼もしくなる。


「……時々思うけれども、貴方の振る舞いは変わってる。我々のような小さなヒロインにも、特に隔てもなく接してくれる」


 薬室の308口径弾を確認しつつ歩いてると、オリスがそっと並んできた。

 とはいえその口からほっそり出てきたのは疑問形だ、一体どうしたんだか。


「なんだいきなり、お前の背の低さに関するお悩み相談?」

「おおむねその通り。この小さな姿は時折、そのままの形で下に見られることもあったから」


 横並びに向き合えば、タイニーエルフの無表情さは前を向いたままだ。

 先をゆくトゥールの頭に乗っかるレフレクが気にかかってるようにも見えるが、悩ましそうな目の行き届き方だ。


「こうして突然話すってことはそういう経験があった感じだな」

「そう、だけどそのような問題は私だけに非ず。アラクネやラミアといった身体の違いは人間(プレイヤー)に受け入れられないこともあれば、同じヒロインにも敬遠されるケースもないわけではない」


 続く話を待ってみると、姿を現したのはそんな事情だ。

 困ったことにその通りだ。こっちで過ごしてから、ヒロインの外見的特徴が時々問題になるのを見たことがあった。

 手足が動物になってるだとかはともかく、腰から下が完全に人間じゃないものに抵抗を持つやつは少なくないのだ。

 それは主に俺たちプレイヤーで、時には同じ境遇(ヒロイン)からも持たれることだってある。


「見た目が幼いという理由モ、時折ワタシたちが舐められる原因にもなったからナ……ヒロインはオマエたちが思っているよりけっこー複雑なんだゾ。元AIという理由一つでまとまっているようなものだと思ってるなラ、今のうちに考えを当たらめることダ」


 前をぺたぺた歩いてたメーアも足取りを緩めてきた。

 それにトゥールが振り向いてきて、ホオズキがちらっと目を配らせ、メカが俯き、レフレクがきょとんと「?」で事情が浮かんだ。

 口で語られた通り、ここにいるロリどもは訳ありってことか。

 

「じゃあいいタイミングだな、俺はちゃんと中身見てから差別するタイプだ」


 まあ俺は差別の仕方に問題のあるやつだ。オリスの頬をぷにっと突いた。

 この濃い付き合いになりつつあるチビどもは、ストーンだろうがロリだろうがすっかり頼れる仲間である。


「……それは私に好意的なものを抱いた上での発言?」

「大嫌いなお化けがいるかもしれないのについてくってことはそういうことだ。その手の類が出たら頼んだぞ」


 お前らがチビだろうが知ったことか、と森への足取りを続けた。

 大体、こちとらとんでもない交友関係抱えたまま生きてんだぞ。

 旅のお供でさえ、喋る短剣に可愛くなった愛犬に、生首メイドにオーガ、アンデッドみたいな医者にダークエルフに芋と隙がない付き合いだ。

 それに比べたらお前らなんて可愛いだけの頼れる仲間だ――なんて長々言わなくてもいいだろう、今の関係が答えだ。


「そう。じゃあ、私も貴方を頼りにしている」


 奥深い森の包容力がそろそろ近づけば、くすっ、と小さな笑みを耳に感じた。

 心でも読まれたのか、オリスが親し気にすり寄ってきた。


「俺だってかなり訳ありの部類だからな。それをこうも普通に接してるだけありがたいさ、まあお互い様って話に落ち着かないか?」


 体格差を腰でふにっと受け止めつつ「お互い様」あたりを広めてると。


「なんダ、てっきりワタシたちのような小さな女の子が好きなのかと思ってたゾ。そういう男は嫌いじゃないガ」


 メーアが尻尾をくねくね、にやっとからかうように口走った。

 パンツの流れをもたらした挙句にこれか、許さんぞこの魚ガール。

 するとひしっ、と反対側からトゥールが距離感を縮め出して。


「わたしは大丈夫だよ~♡ 手元に人懐っこいにゃんこはどうかな、きみのためにいい仕事するよー?」


 この野郎便乗してきたな。緑髪をすりすりさせながら甘えてくる。

 しかしチーム・ロリの連携は停まらない。

 間髪入れずに白髪エルフがなぜか照れ照れしながら上目遣いで。


「……あなたがこのような体たらくも守備範囲内にあるのであれば、こちらとしては歓迎する。種族としての面も外見的特徴も等しく扱う包容力のある殿方は、特に好意を感じる」


 意識しなければ分からないほどの早口のまま、ぎゅっと腕を抱きしめてきた。

 どことなく青い瞳も熱っぽい。やめろ、九尾院の恐怖を忘れかけてたんだぞ。


「……そっか」

「それからタイニーエルフは小柄な分、柔軟性に長けている種族。多少手荒に愛でられても問題はない。むしろそういうのが好ましい」

「だからなんの情報だ」

「ちなみに寝る時は服を着ない主義。ことを成すときは外で自然を感じるような体がいい」

「だからなんの情報だ!?」


 オリスはニクみたいな目でほんのり頬を赤くしてる。

 湿度の高い接し方だけど、悪夢めいた状況は始まったばかりだ。


「な、なんて破廉恥なことを言うんですか!? あ、貴女はイチ先輩をそんな目で見てたんですか!?」


 小さな背中を見せてたホオズキもぐるっと振り返りざまの赤面である。

 その破廉恥にはきっと俺も含まれてるはずだ、巻き込まないでくれ。


「破廉恥なこと言ってたのか……!?」

「私はまだ具体的なことしか口にしていない、何をシて何に至るのかまではまだこれから。勝手な憶測でいやらしい妄想をしたホオズキが悪い」

「ちっちがいます!? 殿方とまぐわうようことをほのめかす貴女が悪いんでしょう!? はしたないですよ!?」

「そっちだってイチ先輩が【鬼神】と呼ばれた点に親近感と好意を抱いて同行してきた下心があるくせに」

「そそそそんな理由で同行したわけじゃありません! 己を磨くために参加したんです、いいですね!?」

「貴女が磨いてるの己じゃなくその角だと私は知ってる。毎晩えげつないオナ」

「わーーーーーー!?」

「おい誰かこいつら止めてくれ」


 チビエルフと鬼ッ娘のせいで幽霊どころか魔獣も退散しそうなやかましさだ。

 もうこのままロリども振り切って勝手に進んでやろうか。


「ふふふー♡ レフレクもおにーさんが大好きですよー♡」


 場の流れをくみ取ってふよふよ肩に乗っかってきた。この妖精ガキ……!

 頬に二十センチほどの大きさがすりすりしてくすぐいったい思いをすれば。


「あ、あたし……だんなさまのためなら、なんでもしますからね……?」


 ロアベアより数十倍忠実なメカクレメイドも距離感をバグらせてきた。デカい尻と共に。

 ――軽く地獄絵図だこれ。

 魔獣なんかより大変だ、もういいこのままロリで圧死する前に終わらせてやる。


「……ニク、フランメリアってこんなに怖いんだな」

「ご主人、どんどん侍らせてくね。みんなと仲良くなるつもり?」

「そりゃいいな、この調子で幽霊とか魔獣と仲良くすればこれからの人生が楽だ。ボスが見たらなんて言うんだろうなこれ……」


 妖精さんを乗っけたまま、森の手前までずかずか歩んだ。

 精神衛生的に悪そうな魔獣が二種いるという触れ込みはすぐそこだ。


「…………なんか思ってたんと違う」


 あと一歩、というところの感想がこれだった。

 木々が穏やかに照らされ、草木が平たく咲き乱れて、見たことのない植物が色とりどりに森を飾っている。

 来客を出待ちするような白骨死体もなければ、幽霊の気配漂うおどろおどろしさもどころか白き民の前触れすらないのだ。

 ただただ静かで鮮やか、それが【ユルズの森】だ。


「イチ先輩、一体どんなイメージ持ってたんですか……?」


 逆に踏み込みづらい雰囲気に戸惑ってると、ホオズキに人の感性を疑われた。

 どんなイメージかって? もっと毒々しい始まりを思い描いてた。


「どんより負のオーラが漂ってて、入り口の案内役が白骨死体な感じの毒属性を想像してた。今朝からずっと呪われる覚悟してたけど真逆だなこりゃ」

「そんな魔界みたいな森ありませんからね!? もうちょっとフランメリアのことを信用しませんか!?」


 黒髪鬼ッ娘の言う通り考え過ぎだったのかもしれない。

 深呼吸を挟めば冷たい自然の味がする――それを信じて柔らかな土を踏んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ