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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
558/580

63 知ってる誰かさんの遺跡(3)


『rrrrrrrRRRROOOOOOOOOOOO……!』


 身構え直した直後だった。背中に振動するような声をキャッチ。

 得物と共に振り返ると、残った細長野郎が抜け出てきた。

 突き出す片手の丸盾に穂先を添えて俺たちまっしぐらだ。


「……逃がさないッ! みんな、足を狙って!」


 さっそく物理的に歓迎してやろうと動くが、黒い狐ッ娘が追いかけてきた。

 チアルも翼を揃えて「いってくるね!」とひとっ飛びして、急に横切る戦乙女に向こうが躊躇った。

 長い両足の歩幅に潜り込むと、狐で眼鏡な彼女は片手の細剣を引き絞り。


 ――しゅぱっ。


 空気を切った、とでもいうような軽やかな音がした。

 長足とすれ違うように一閃を食らわせたらしい、目にも見えない斬撃だ。

 だがびくともしない。のっぽは斬られた被害も気にせず犯人を捜すが。


「タゲありがとー……【カース・スナッチ】!」


 ローブとフードを被った青肌黒目な悪魔ッ娘が続く。

 斜め横に通り過ぎる狐女子に敵がちょうど気づく時だ。

 何かの詠唱が挟まると、地面に怪しい黒紫の円が浮かぶ。

 そしてにゅるりと数本の触手がのたうちながら伸びた――何あれキモい!


『RRRRRRRRrrr……!? Roooooooooooooooo!』


 ところが効果は絶大だ。身体を這って縛ってぎちぎち固く縫い留めていく。

 唯一自由な足一本と盾をぶん回し始めたが「撃て!」と小銃で追撃した。

 銃弾に矢にクナイと全員の火力が注がれて、目に見えて弱ったようだが。


「支援ッ! 感謝ッ! いたしますッ! ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお~~~~~~~ッ!」


 戦場を縦横無尽に駆けてたウマ足ウマ耳な二足歩行がUターンを決めにかかった。また来たよあいつ。

 籠手を突き出す体当たりの姿勢は、もつれた一本立ちの足へまっすぐで。


 ごがんっ……!


 人間感覚でいえば一番痛そうな所へ衝突だ、腰の入ったタックルが体幹を奪う。

 「もらいー」と悪魔娘が触手を操るのも重なり、すらっと大きな身体が転んだ。

 ずずんっと顔から着地した先は――不運にもヒロインたちの追撃だ。


「いただきま~~~~~~す♡」

「こちとら、この前の襲撃で慣れてんだ……よぉぉっ!」


 大柄な熊娘の馬鹿でかい斧と、羊系姉御肌の大きく平らな槌が出迎える。

 よろよろ立とうとする努力もむなしく、左右からの質量攻撃で頭を潰された。


「支援ありがとうございます、イチ先輩! チアルさん、次行こう!」

「っしゃー、あーしもがんばんぞー! 行ってくるねいっち!」


 最後の一撃二撃は引き返してきた狐ヒロインと、チアルの剣先を伴う急降下だ。

 前から上からの刺突で確実なトドメになった。相変わらずヒロインは恐ろしい。


「ワオ、やっぱヒロインは強いな」

「俺たち人間はまだまだってところだな、何食ったらああなるんだか」


 遺跡からの増援にはまだ猶予がある、残るのっぽどもをタカアキと探った。

 そこらじゃミセリコルディアのもたらす活躍が特に目立ってた。

 既に数体分の武具が転がってる上に、ミコ率いる集まりが暴れ狂う敵を逆に囲っていて。


『わっ……!? 【フォトン・レイ】!』

『こいつと戦う時は間合いを詰めろッ! 本領を発揮できる距離じゃなければ巨人ほどじゃないぞ!』


 長い足の蹴りをミコが横跳ねに回避、からの【フォトン・レイ】の集中発射。

 槍に手をかけたそぶりが光の線で怯む。その隙にエルが膝を滅多切りにし。


『セアリ、トドメよろしくー! デカケツの力を思い知らせるんだッ! 【ブレイジング・ランス】!』

『誰がデカケツですか!? 寝てる時にお腹に乗ってやりましょうか!?』


 フランの放った炎の槍が胸を射貫いた。

 がっくり膝をつくところにセアリのデカ……飛び蹴りが頭を仕留める。

 信じられないがあいつらだけでもう四体は倒してる、おかげで後ろがようやく静かになってきた。

 というか全滅だ。チアルたちが最後の一体を袋叩きにした。


「ミコさまたちすごいっすねえ、息をするように連携しておられるっすよ」

「ん、すごい……! ほとんど倒しちゃってる」

「これで今日の新商品は完売か。ミセリコルディアのやつらは怒らせないようにしよう」

「巨人の方が厄介だよなあ、まあその厄介なのが来てんだけどよ」

「ちょっ、あにさまたち!? 大変です! 前見てください前!」

「見とれてる場合じゃなくなったぞ! 敵も厄介なことをしてくれたな!」


 ところがそんな戦場の華やかさも一瞬の出来事である。

 コノハとクラウディアの焦る声に引き戻されて嫌でも理解した。

 というのも、遺跡の方からどどどどっと不吉な揺れ方があったからだ。

 馬もどきの背を借りたやつらがまた遠くで現れて、行進する兵士と巨人の間を縫っていた。


 その数三十以上。しかもそいつらはすり抜けてくるだけじゃない。

 まず装備が違う。ナイトも馬もどきも皆等しく防具をごてごて着飾ってる。

 そして仲間の足を邪魔しないように突出すると、妙に取れた連携で中央により集まっていく――つまり。


「ああくそっ!? 騎兵までおかわりってことかふざけやがって!?」

「そりゃ巨人も呼べるならそう言うのもいけちゃうよね! じゃねえよ、あいつら俺たちぶっ殺すつもりか!?」

「たくさん来てる……! ご主人、どうするの!?」

「これ逃げても追いつかれるっす! 迎撃した方がいいっすよ!」

「巨人だけじゃなく馬に乗ったやつまで急に現れましたよ!? どんだけ湧いてくるんですかあそこは!?」

「きっとあの灰色のやつの仕業だぞ! このままじゃ騎兵に潰される、食い止めるんだみんな!」


 密集させた上で俺たちめがけてまっしぐらってことだ!

 斜面まで下がるか? 振り返るが少し走った程度で戻れるような距離じゃない。


「なんでもいいからあいつらを止めるぞ! 先頭に撃ちまくれ!」


 ここで耐えるしかない。シルエットを大きくしてくる騎兵に咄嗟の形で構えた。

 ぐんぐん近づく馬に小銃、仕込み銃、クロスボウ、とにかく火力を揃えて撃つ。

 それで少なくとも照準に収めた先頭の数匹が転ぶのが見えた。

 だが敵はお構いなし、それすら通り道にしてやってくる。

 そこで気づくが全員が盾を硬く構えてた――マジで押し切るつもりか。


「き、騎兵がまた来てる……!? みんな、迎え撃って!」

「増援だと!? あれで全部じゃなかったのか!? 全員、あれを食い止めろッ!」


 金属的な照準に敵を収めて撃ってると、後ろからミコとエルがやってきた。

 ところが敵の勢いは全然削げない。

 盾ごと撃たれようが崩れず、撃たれた仲間が道を遮っても馬は器用に避ける。


「当たらなくてもいいから攻撃魔法を浴びせて……! 【フォトン・アロー!】」「うわっなにあの数!? ぶっ、【ブレイジング・ランス!】」「ひいいいい!? いっぱいきてるー!? 【シャドウ・ブレイド!】」「あ、当たって……【ウィンド・スタブ】!」


 次第にヒロインも集まって魔法の詠唱とやかましさが極まった。

 一斉射撃に炎に闇に光に風とごちゃ混ぜ不規則なスペルが混ざるが、幸い相手は大きな的だ。

 これで騎兵たちが――だめだ、遠すぎてほとんど当たっちゃいない。


「下がりながら応戦しろ! 向こうのペースから少しでも離れろ!」


 ならとっておきのライフルグレネードだ、背中から取り出して銃口にはめた。

 抱え込むような急ごしらえの体勢で構えて、正面突破を図るご一行をエイム。


*BAM!*


 少し先読みを込めて撃った。

 仲間の弾幕に擲弾を便乗させると、遠い離れでぼふっと黒い爆発が上がる。

 いや早すぎた、一番槍をかすめとっただけだ。

 おかわりを差し込んでもっと近く発射、今度は群れの最前列ど真ん中が爆ぜた。


「やった――畜生、ありゃなんの冗談だ!?」


 が、やってなかった。ごっそり吹き飛んだ仲間にもひるまない勤務態度で前進を続けてる。


「弾がそろそろねーぞくそっ! やるしかねえのか!?」

「うちも弾切れっす! これはもう白兵戦っすか!?」

「ぼくも切れた……やるしかない……!」

「私も矢が切れそうだ! 長物を持ってるやつは槍でも大剣でもいい、前に出て突き出すんだ! そのままぶつかるよりマシだぞ!」


 しかもどいつもこいつも弾切れ、かくいう俺だって最後の弾倉だ。

 ヒロインたちも「マナが……!」と魔法の品切れを教えてくれている。

 装備を身軽にしたのが災いした、絶対生き延びてこの失敗を糧にしてやる。


「俺もそろそろ終わりだ! 全員敵の突撃に――」

「あにさま! コノハに任せてくれませんか!?」


 隠れようのない場所に取り残されてると、突然コノハが前に出た。

 その手にイグニス・ポーションの柄を握ってる。

 敵は迫るに迫り、遠い馬もどきの歪さが「ぼんやり」から「くっきり」になってる今考える暇はない。

 話し相手は耳もぴんと立てて姿勢まっすぐだ。さあどうする、前の敵とこいつの申し出、どっちだ?


「俺たちでフォローする、やれ!」


 決めた、どの道敵との接触が避けられないなら少しでも勝率を上げる。

 数名ほどがリーチの長い得物を構えてささやかな通せんぼを仕込む中、俺は突進中の騎兵に残弾を浴びせた。

 ナイトが相棒ごと転んだが、馬モドキ人未満の化け物はうねるようにまたいでいく。

 

「ご理解が早くて助かります! あれをぎりぎりまでひきつけますよ! 皆さん、そのままじっと構えててください!」


 群れはすぐ間近だ、コノハはポーションのカバーを開いた。


『Frakasi-Iliiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiin!!』


 そろそろ丘の上の遺跡から駆け抜けてきたやつらが一層大きく感じた。

 意味不明の言語すらはっきりと聞こえる。

 白き民らしい質素な鎧の輝きが連なって、壁さながらに押し寄せて――


「爆発で動じるということは……こいつらにも効くはずですよねっ!」


 あと少し数えればぶつかるといった頃合いだ。

 コノハがぐるりと翻ったかと思えば、両手で握った柄を向こうへ放り投げた。

 馬と騎兵が勢いを乗せた場面に、赤色を蓄えたポーションが放物線を描き。


*zzZBaaaaaaaaaaaaanNgg!*


 あの赤い爆発が人馬一体の連中の行く手を襲った。

 先頭の集まりが炸裂と衝撃に殴られて、走る勢いも乗って不格好に倒れる。

 馬と呼べない生き物もかなり驚いたらしい、転んだ仲間に引っかかって将棋倒しだ。

 まさに今突っ込もうとしていた一団が目と鼻の先で総崩れだった。


「いまです! 【風刃の術】!」


 もちろん、コノハは追撃も忘れちゃいない。

 ぐちゃっと固まった敵に手を組みマナを使うと、青い刃が湧いた。

 鋭い形の青色は向こうをざしゅざしゅ斬り回った。もつれ具合がどんどんひどくなるほどに。


「後でお前とクリューサにたっぷり感謝してやるよ! 今のうちにやれ、お前ら!」


 形成逆転だ、この瞬間を逃すもんか。

 馬と鎧で団子状になったそこへ銃剣を突き出した。

 横倒れの相棒から立ち上がるナイトを発見、踏んづけてむき出しの顔を刺す。

 ゴム質の感触が抜けると同時に片手で自動拳銃を抜く、じたばたもがく馬にばばばっと数連射、撃破。


「よくやった、コノハ! 騎兵がいなければこっちのものだ! 巨人が来る前に仕留めるぞ!」


 エルも真っ先に乗ってきた。

 起き上がろうとするやつを飛んで踏みつぶして、兜ごと頭を叩き斬った。

 それをきっかけに人間ヒロイン問わずの数が突っ込む。

 剣で、斧で、槌で、槍で、素手に足にと思うがままだ。動けなくなったやつらを一方的に叩き潰す。


『Wu-bubububububuッ!』


 するとうごめく白だまりから震えた鳴き声だ。

 例の忌まわしいウマモドキが四つん這いで起き上がってた。

 狐系女子の刺突をするっと避けると、裂けた口でエルの横合いに向かっていき。


「い゛……ぎいぃぃっ!? き、貴様ッ……!?」


 歯のない口がまさに脇腹へ食い込んだ、ぎぢぢっと嫌な音が離れても分かる。

 振りほどこうにも暴れて張り倒れそうだ、倒れた敵を踏んで銃身を持った。

 頭を振って食いちぎろうとする姿に重なった――緊急射撃。


*Baaam!*


 背筋に金属をプレゼントだ、びくっと跳ねて口が離れた。

 ダメ押しにニクが「ん!」と槍で仕留めた、次弾装填して足元の騎士にも一発。


「うーわ、こいつら肉食か? 食われないように気をつけとけ」

「……すまない、貴様に借りができたな。白き民が噛みついてくるとは今までで一番タチが悪い」

「え……エルさん!? 大丈夫!? 今噛まれたよね!?」

「この程度心配いらん! 全員、この馬のような奴の口には気を付けろ! 歯はないがすさまじい力で噛んでくるぞッ!」


 気にかけるミコに凛々しく返せる元気があるなら大丈夫か。

 身動きの取れない馬モドキに人モドキをみんなで仕留めてると、もはや残りは五本指で数えられる程度で。


「後は任せな――おおおおおおおおりゃああああああああああぁぁっ!」


 仕上げの一発だ。折り重なった敵の層に羊ヒロインの槌が落ちた。

 ごがんっ!と鎧も馬も強引に叩き潰れた、これで騎兵隊は全滅した。


『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!』

『Trovis……La-Kreinton! PREMMORTIGI! WOOOOOOOOOOOOOOOOO……!』

「Detruuuuuuuuuuu! Iru! iru!」

「Vivu-Nova-Homo! huraaaaaaaaaaaaaaaaaa!」


 代わる代わるに次がおいでだ。

 四つ腕の巨人二匹に、早足を揃えたソルジャーが風景を白く染めてた。

 本当はさっきの騎兵で崩れた局面に押しかける寸法だったんろうが、ぎりぎりそれを防いだわけだ。


「おい、あれ見てやっぱり帰りたいってやつはいるか? ちなみに俺はやる気だ」


 そう尋ねつつ、ボルト・アクションを済ませて向こうへトリガを引いた。

 ソルジャーが倒れた。距離が近づくにつれて向こうは駆け足へと変わっていく。

 少しでも減らそうと隣、その隣と狙うも弾切れだ。あきらめてマチェーテに手を伸ばす。


「……ここでやるしかないよ。みんな、まだ戦える?」


 ミコもマナポーションをぐいっとしながら前に出てきた。


「このまま逃げるなど私は気に食わん。叩き斬ってやる」

「よゆーだよ。またさっきみたいの来られたら流石に困るけど、あんなのヤバイの無視できないじゃん?」

「セアリさんも付き合いますからね。だってドロップ品いっぱいありますし」


 「ああ」「もちろん」「いけますよ」とクランメンバーも当然続いて。


「あーしもだいじょーぶ、あんだけ倒せたんだしいけるっしょ~? それにここまできたんだからさ? 最後まで付き合わないとカッコ悪いじゃん?」

「イチ先輩といるとなんだかどうにかなりそうな気がしてきました。私もやる気です」

「それに戦利品もいっぱいあるしー……メルタのためならもうひと頑張りしちゃおうかなー」

「そうですね、稼ぎ時と思ってもうひと頑張りしましょうか~?」

「いやこんな時になにお金の心配してんだか……まあ、あたしもやるよ。逃げ出さない方が安全だと思うし?」

「一蓮托生という言葉をご存じでしょうかッ! 戦うも逃げるも一緒ですよ! 突撃ですね!」


 チアルたちストーン等級チームも息を整えてやる気だ。

 「そうだな」と意味を込めてチアルに頷いた、にっこりされた。


「みんな元気なことで。残りは?」

「あにさま置いて帰ってきましたなんてキャロルねえさまにはいえません。なので参加ということで、偵察のつもりがガチバトルなんて聞いてませんよコノハ激おこです」

「俺も同じくだ。何が言いたいかって? かかってきやがれ白いの!」

「ん、まだ余裕」

「さっきまでのはウォーミングアップみたいなもんっすねえ、いつでもどうぞっすよ。首がいっぱい来てるっす」

「決まりだなイチ、引き寄せてから仕掛けるぞ。突進の勢いを少しでも削ぐ!」


 親しい人柄からもそう返された直後に白い姿が鮮明に駆け出す。

 こっちが次を見計らうよりも早く、大軍が各々構えて突っ込んできた。

 俺たちを受け身にさせ続けるようないやらしいタイミングだ。

 ソルジャーを侍らせた二体の巨人がひたすら大きい戦斧でやってくる――


『フーッハッハ! これほどの敵がいるとなれば、俺様がいて良い塩梅といったところだろうなぁ!』


 だけどどうなってんだ、後ろから嬉しいやかましさがそこまで迫ってきた。

 正体はまさかと向くよりも早い。やけに大きい背丈が俺たちをすり抜けた。


「……っておい、ノルベルト来てんぞ!? 誰かあいつ呼んだか!?」

「ノルベルト君!? どうしてここにいるの!?」

「訳を話すのは蹴散らしてからだ! ゆくぞ!」


 後はなびく金髪とまっすぐな背筋が答えになった、ノルベルトらしさがある。

 一体どうしているのやら、俺とミコの言葉にも動じぬまっすぐさが敵陣一直線だ。


「ぬぅぅぅおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ……!」

『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOooooooooooo! SEKVU-MINNNNNNNN――!?』


 あいつは押し潰さんとばかりの敵へ自分から突っ込んでしまった。

 解放した戦槌を振るって割り込めば、意気揚々と先陣を切った巨人をくじくには十分だったらしく。


 ――ごがんっ!


 咄嗟に払いにきた大斧に、あいつの一撃が力強く重なった。

 力比べの結果はオーガの勝利だ。

 まっすぐな斧頭の流れを横に流して、得物一つを通じて巨体の体幹を奪う。


「ノルベルト君、また突っ込んでる……!」

「どうせちゃんとした事情があるんだろ! 今だ突っ込め!」


 あいつが来たなら安心だ、俺は槍と化した小銃を手に進む。

 するともう片方の巨人がソルジャーを連れてノルベルトを狙って動く。

 けれどもあいつの後ろ姿といえば「任せた」なんて語り方だ。

 オーケー、数十メートルほどにお近づきになった白き巨人へ得物を絞って。


「囲まれる前に片づけるぞ! あのデカいのに続け!」


 ぶおんっ、と鈍い感触をそいつの頭に放り投げた。


『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……ッ!?』


 【ピアシング・スロウ】を込めたダイナミックな投擲だ、二体目の顔から小銃の木製パーツが生えた。

 四本腕が顔を抑えて怯んだ。そこでノルベルトはがきんっ、とまた斧を打ち返し。


「フハハッ! やはりお前は背中を預けるにふさわしい……なぁぁぁッ!」


 足でぎゅりっと半ば翻りつつ、無防備を見せる巨人の足を叩いた。

 休む間も与えない三発目がとうとう片膝の機能を奪ったようだ。

 先陣を切った片割れが大斧に引っ張られるように転んだ、後ろのソルジャーを背で潰していく。


「エルさん! 巨人をお願い! 【フォトン・レイ】!」


 ミコが繋がった、そこに群がったソルジャーへ光魔法を解き放つ。

 数体まとめて打ち据えられて群れが綻ぶ。俺も45口径を抜いて狙いを追った。

 ばばばっと数点連射。巨人の腹に駆けだしたノルベルトから敵を引き剥がす。


*papapapapapapapapam!*


 ニクも機関拳銃を片手に続いた。あろうことかオーガも巻き込んで掃射だ。

 威力はともかく群がる敵が散る。九ミリ程度じゃ効かないあいつの健やかさに感謝しよう。


「リロード! 誰かうちのでっかいの援護しろ!」

「ノル様ぁ、うちもいくっす~♡」

「来てくれて助かったぞノルベルト! 雑魚は任せろ!」


 近くにショート・トリガ機能を生かして打ち込んでると弾切れ、代わりにメイドとダークエルフが出た。

 ノルベルトの援護だ、道中の敵を斬り払って組み刺して蹴散らしていく。


「チアル! 私を運べッ!」


 次弾を送った途端、突然エルがそう叫ぶ。

 返事は「おけー!」だった、制服調の格好が背中を抱っこしてすっ飛んでいく。

 白い翼を期間限定で得た彼女の行く末は――顔に小銃がささったままの巨人だ。

 突撃を台無しにされてご立腹らしい、そいつが大斧をこれみよがしに近寄るも。


「この……図体だけが取り柄の、愚か者がぁッ!」


 その頭上でエルが解き放たれた。

 落ちる姿は振り上げた剣で頭をカチ割らんとばかりの姿勢だ。

 顔のない巨頭に真っ向から刀身ごと落ちて、手入れの届いた鋭さが口元あたりまでざっくり食い込む。


『WO、WO、WO――WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……?』


 致死量だったみたいだ、布鎧まといの全身が死ぬほど痛そうに暴れた。

 エルがそいつを蹴って剣を引き抜くのが見えた、足元のソルジャーに撃ち込みながらお迎えにいく。


「もしかして俺の真似か!? 空の旅はどうだった!?」


 ちょうど着地地点にいたやつを物理的にどいてもらうと、黒インナーが食い込んだ巨尻が飛び込んできた。

 自動拳銃を手放して受け止めた。ずいぶん凛々しいお姫様抱っこがどっしり(重く)決まった。


「っと……! ふふ、悪くはなかったな? いいざまだ」

「次のお相手はソルジャーだ、やるぞ!」


 にっ、と笑むのを確かめてから敵の方へパス、溶けた巨人に戸惑う白き民にエルを送った。

 着地するなりまとめて切り捨てるのが見えた、同時に耳に「うおおおぉッ!」と戦槌の鈍い破壊音も届いて。


「巨人はいなくなったぞ、皆の者! 我々が押し通す番だッ!」


 ノルベルトもやったか、滅多打ちにした巨人から軽やかに戻ってきた。

 ソルジャーの槍を逆に掴んで引き寄せて、ごんっ!と豪快な頭突きがお返しだ。相手は死ぬ。

 デカい一声に黒い狐の仲間たちも雪崩れ込む。取り囲もうとする敵を突いて叩いて斬って逆に押し返す。


『Aaaaaaaaaaaaa! Pafu-La-Malamikon-De-Kamarado……!』

「ひゃっ……!?」


 場の流れに乗ってるとミコのか細い悲鳴が確かに聞こえた。

 見ればまとまりを作ったやつらが後衛のやつらにまっしぐらだ。

 そいつは俺の相棒だ、お前らにはやらないぞ。


「あにさま! ミコねえさまがピンチですよ!」


 コノハがどこまでもご一緒してくれそうな勢いだ。

 腰のクナイを抜くところまで一緒か、槍を突き出すやつに手早く投げた。

 頭に脇腹にぐっさり刺さった。一番槍が転ぶと残りの意識がこっちを向くも。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

「えっ、ちょっ、今度はなにするおつもりで……ドロップキック!?」


 迷いを捨ててメイスを持った軽装へとダッシュからの――ドロップキックだッ!

 突然の飛び蹴りは想定してなかったらしい、足に皮鎧の張りがひどく伝わった。

 白き民がお仲間の方へと救いを求めて飛んだ。脱力して受け身で起き上がる。


「Mo――Mortigu-Ci-Tiun-Ulon! Ci-Tiu-Estas-La-Kreinto!?」

「FI!? Mortigu-Lin-Rapide! OOOOOOOOOOOoooooooo!」


 余りの白い奴らが武器の構えを伴って一斉に寄ってきた。

 手斧に長柄に細剣か。三体に堂々向き合うと、躊躇いなく斧持ちが振りかぶる。


「オーケー、誰からやる? 先にしたいのはお前だな?」


 踏み込むと斧刃が斜めに来た、このまま押し込めば振りから外れる。

 振り切るより早く白い顔面に拳を送った、コンバットグローブにゴム質が潰れる。


「Auuuuuuuuuuuuuu……!!」


 さぞ効いたか、怯みを見せながらも斧がふらっと目の前を滑った。

 半身を引いて空振らせた。腕を掴んでそいつの足首にかかとを絡めて倒す。

 倒れた背中を固めて、クナイを抜いて首深くに思い切り打ち込んだ。ダウン。


「Ooooooooooguuuuuuuuuuuuu……!?」

「次!」


 もがき苦しむそいつを蹴とばすと、細剣持ちが突きにかかる一歩手前だ。

 焦らず横に逸れて前のめりに避けた。

 左耳に空振りを感じつつ、二人目の利き腕を掴んで引っ張り。


「――サプライズ!」


 そんなお前にクイック・ドロウらしく腰だめに抜いた三連散弾銃だ。

 ぴったり寄せた腹をごりっと銃口で感じた直後。


*zzzBbbAAAAAAAAAAAAAAm!*


 トリガを一気に引いた、三発同時の大盤振る舞いに白き民も飛んで転んだ。

 「「うわぁ」」と二人の引く声が混じった、銃身を追って再装填。

 最後の人は斧槍と共ににじり寄るやつだ――


「俺も混ぜろよ! お前サンドバッグな!」


 ところがどどどっと横から幼馴染が混入した。

 リーチを生かして切り込もうとするところを"イシャポール"の銃床が横顔をカチ割ったようだ。

 倒れたところを踏んづけてガンガン突いてひどいトドメになった。


「あ、ありがとう、二人とも……? いちクン、相変わらずエグいよ……」

「白き民を素手でいなしてやっつけるとか、あにさまも大概ですよ……躊躇という言葉をどこかにお忘れですか?」

「それいったらいきなり横から銃で殴り殺しに来る奴もどうかしてるだろ」

「お前の真似だよ! それに俺はインファイト系男子なの!」


 ミコの安全を確保したところで、俺たちはまた敵を探った。

 と思ったら向こうは総崩れだ。ヒロインたちの圧に返り討ちにあってる。


「ミコ守ってくれてありがとねイチ君! さすがは彼氏君だ!」


 その先頭で活躍してたフランがびゅっ!と白き民の腹を貫いて最後だ。


「これで最後ですッ! 皆さん生きてますよね! 断末魔の方はいらっしゃいますか!?」


 じたばた暴れるそいつはセアリの拳が顎を殴り抜いて黙らせた。

 あたり一面から戦いの音が静かに引いていくと、やっと場の空気も落ち着き。


「……やった……の?」


 敵の遺品に囲まれた狐ッ娘の疲れた様子が、ここを小さく締めた。

 見る感じ「やった」ようだ。俺たちからやっと力みが抜けていく。

 俺も真似しよう、やったか?

 新手に大軍とたっぷりの相手を蹴散らして、ようやく気が緩むが。


 ずずずずずずずっ……!


 丘の上から細かな揺れを感じて、まさかと気分が最悪になった。

 反射的に散弾銃を追って弾を込めつつ見れば、そこには――


「……よし決めた、もうアサイラムは今後一生「やったか」禁止だ。罰則は宿舎のお掃除でいいか?」


 俺はみんなの気持ちを勝手に代表して、今年一番のいやな顔を浮かべた。

 いつの間に白くてぼつぼつしたものが続々とこっちへ降りてきてる。


「じょ……冗談じゃないぞ!? 遺跡の方からまた増援が来てるぞ! しかも騎兵がたくさんだ! 今度は防具をつけてない身軽なやつばかりだ!」

「皆様ぁ、これまずいっすよ~……変な馬に乗ったのが数え切れないほど走ってるっす。どうするんすかこれ、スティングの時よりピンチっすよ」


 遠くを覗いたクラウディアとロアベアが口々にして、ここの面々もすぐ大体を掴めたはずだ。

 見たくはないけど見た。

 裸の馬モドキと身軽な鎧を着た白き民が、片手剣を掲げてためらいもなく突撃の前触れを作ってる。


「……嘘……まだ来るの……!?」


 ミコもニクから双眼鏡を受け取ったようだが、反応はご覧の通り絶望だ。

 「ふざけるな……!」とエルが毒づくのもしょうがない。

 あれはもはや常識を破った何かがかかってるのだ。

 それでも俺たちは動いた。いや動かないといけない。騎兵の群れはみるみるうちにシルエットを強めてる。


「クソいまいましいけど下がるぞお前ら! 斜面まで戻れ! 愚痴は後だ!」


 今のうちに最初の戦いの場までぞろぞろ引いた。

 さっきの場所へ急いで戻ると、ナイトの遺品が地形に食い込むようお待ちかねだ。

 次は俺たちがこうなるのかもな。くだらない軽口も浮かぶほど最悪な状況だが。


「フハハ、言いつけを破って申し訳ないな? どうもお前たちに危機が訪れてるようでな、つい足を運んでしまったのだ。だが別に言いつけを破ってまでお前たちを追ってきたわけではないぞ?」


 ずいぶんと呑気なノルベルトが余裕を振りまいてた。

 どこにそんな自信があるのか知りたいが、俺はひとまず手持ちを確認しつつ。


「いや、むしろきれいに破ってくれて感謝してる。状況は最悪だけどな」

「ふっ、じきに良き知らせに変わるぞ?」

「どういうことだ、なんかいいニュースでも持ってきたのか?」

「何も駆けつけたのは俺様一人だけではないということだ」

「他に誰か来たってか? アサイラムのどいつだ、全員でもいいぞ」

「上を見ろ、イチ」


 弾切れの小銃を槍代わりに使う覚悟を決めた途端、妙に明るく上を指された。

 ワオ、こんな状況でも陽気な青い空だ。

 つられてみんなもそこへちらちら目がいくと。


「……待って、何か飛んでる。あれってもしかして」


 ミコが誰より先に気づいた。俺だって遅れて理解した。

 生物的じゃないメリハリのある動きがふよふよ浮かんでた。

 そんな反応がきっかけになったんだろうか、それはぐんぐん高度を落とした。


【――やあ、元気かい? アサイラムの安全については心配はいらないよ、私が目を見張らせてるからね】


 回転翼に支えられた黒い球状のボディが目の前に下りてくる。

 ドローンだ。機体下部にくっつくカメラがじっと俺を眺めてる。

 でも淡々として、どこか嬉しげな女性の声を親しく感じた――まさかこいつは。


「ヌイス、お前か!?」

「この声……ヌイスさん!? ヌイスさんだよね!?」

「ヌイスさまだ……! 来てくれたんだ、どこにいるの!?」

「フハハ、だから言っただろう? 良き知らせとな!」

「ヌイス様っす~♡ またお会いできてうれしいっすよ、イチ様は今日も元気に戦っておられるっすよ」

「お前だったか! だが今それどころじゃないぞ、敵の大軍が来てるんだぞ!」

【あーうん、相変わらず賑やかだねほんとに。一体どうなってるんだいその顔ぶれは、なんか美少女まみれじゃないかい君の周り】

「俺の交友関係気にしてる場合かお前!?」


 ノルベルトの言う「いい知らせ」の意味が分かった、目の前にヌイスがいる。

 ミコと一緒に見上げればドローンは上下運動で頷いて。


【遅くなってごめんね、君の噂を耳にしてこうして会いに来たよ。とりあえずみんな、その場で伏せてくれるかな?】


 ここの顔ぶれを確かめてから、遺跡側にレンズをやったようだ。

 でも伏せろって何するつもりだ。

 まあ経験上あいつの言う通りにしたほうがいい、斜面に身を隠すと。


「おい、感動の再会ついでに何するつもりか言ってくれ。こっちは今ご覧の通りやばいんだ、敵がうじゃうじゃ十倍なんだよ」

【わはは! 急造品じゃがそっちにお届けものじゃ! 飛ぶぞ!】


 お茶目なドワーフの声が割り込んで十分に理解した。

 そのフレーズが意味するのもしっかり身に染みてるさ。

 続けて後ろの方からヴゥゥゥゥゥッ、と空気を小刻みに切る音がした。

 まーた頭上からだ。久々に聞くドローンの作動音に「まさか」と見上げると。


「…………あーそういうこと、ちょっと待て飛ぶってそういうことか!?」

「今のがヌイちゃんかよ!? いや、それよりあれ、もしかして……」


 俺たちはその正体を強引に理解させられた。

 分かりやすいような黒い機体が青空を駆け抜けてたからだ。

 四本の羽で優雅に進む、さながら小さな飛行機がなぜか敵へ軌道を変えていた。

 それにしても胴体が妙に太いように見えるが、まさかあいつ――!


「ああ、飛ぶってそういうことか――爆発するぞ! 全員伏せて対ショック!」

「わーおカミカゼドローンかよ! 派手な挨拶だねマジかよ早く隠れろぉぉ!」

「おっおい貴様飛ぶぞってどういう意味だ!? というか誰の声だ!? 知り合いなのかそうだな!?」

「ば、爆弾……! みっみんな頭を低くして早く!?」

「団長ドローン初めてみたー……じゃなくって、敵に突っ込むってことはそういうことだよね!? どんな友達作ってんのさミコ!?」

「あっそういう……皆さん伏せた方がいいですよ、これあれです、セアリさん分かってます。爆発するんですね」

「また知らない女性の声しましたけどあにさま無節操すぎませんか!? ていうかあれ、もしかして自爆……」

「おねーさん誰なん~? いっちのお知り合い? あーしチアルだよ、これが本物のドローンなんだ……カッコいいじゃん!」

【うるさいよ君たち、女子集まればやかましいをここで体現しなくていいから黙ってくれ! いいからさっさと伏せるんだ、死んでも自己責任だからね!?】


 大体の検討でその一瞬を見送ると、はるか向こうの群れへと突っ込む路線だ。

 敵は馬の動きが細かく掴める距離感まできていて、二手に別れようと動いてた。

 白き軍勢の分かれ目に機体が不時着していく――伏せた。


*zzzzzZZZBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAMMmmm!*


 直後、言葉通りになった――頭の中にびりびりとくるような大爆発だ!

 押し飛ばされそうな余波と破片が頭上をびゅうっと飛びぬける。

 爆風の熱さもはっきり感じた。あの野郎ずいぶん近くに突っ込ませやがったな。

 「ぎゃー!」とか悲鳴を上げるコノハにしがみつかれて待つこと少し、静かになると同時に顔を出せば。


「おい、お前今……何ぶち込んだ!? えらいことになってんぞ!?」


 地獄絵図だ。あれだけの騎兵がもののみごとに壊滅してる。

 いざ決めようとする時に最悪な形で重なったカミカゼ・ドローンに、もはや立っていられる人馬はゼロいない。

 ドロップ品すら残さない爆撃の名残は地形に黒いアクセントを深々刻むほどだ。


【即席のカミカゼ・ドローンさ。残念だけどおかわりはないよ、なけなしの一基だったんだからね】


 犯人はノルベルトの胸板に守られながら少し得意げだ。

 吹っ飛ばされてきたナイトが息も絶え絶えな様子を見るに、こいつはかなりの至近距離だ。

 下手すりゃ斜面ごと俺たちをぶっ飛ばしてたかもしれないんだぞこの野郎。


「ああそうか蹴散らしてくれたんだな! 俺たちごと吹き飛ばすつもりかこの天才!?」

【これしきで死ぬ君じゃないだろう、それに文句は爆薬を取り付けてくれたお爺ちゃんに言ってくれたまえ】

【ハッハァァァァッ! 見たか! アサイラムまで派手なやつが届いたぞ! 新種だろうが騎兵だろうが火薬に勝てるわけないんじゃよなぁ!】

「ありがとうお前ら、おかげでフランメリアの大自然が真っ黒こげだ! 白き民ごとな!」


 過去一番にひどい再会の印象だが、これでキモい馬もあの世あたりにぶっ飛んだはずだ。

 ただし衝撃でヒロインどもはぐったりだ。コノハなんて「おぉぅ」と伸びてる。

 でも流石に応えはずだ。安心感すら覚える爆撃の痕から視線を上げると。


『Estas-Ataaaaaaaaaaaaaaako!』『Vivu-Nova-Homooooooooooo!』『Ne-Timu! iruuuuuuuuuuuuuuu!』


 ……立ち込める煙の中から、白い姿が意味不明な掛け声で突っ込んできた。

 後続の連中か? まさかあの爆発を前にして馬鹿みたいに進んできたのか?

 目検討で30そこらのソルジャーだ、しかも一際目立つキャプテンが連れ添ってる。


「まだ来るのかよ冗談じゃねえぞ……!?」

「嘘……あれでも来るの!? で、でもさっきよりも敵の数は減ってるよ! 戦おう……!」


 ミコと最悪の光景までご一緒したわけだが、そんな連中は俺たちを目当てにひたすら前進だ。

 ところが、ふと横目に違う動きがあった。

 西側だ。そこから坊主頭の持ち主が駆けあがってくるのが遠くでも分かる。


『あの野郎、今度は何事だ!? 爆弾抱えたドローン突っ込みやがったぞ!?』

『い、イチ先輩! 助けに来ました! うおおおおあぁぁぁっ!!』

『どうして激戦になってるんですか馬鹿なんですか白き民は、くたばりなさい! 【アイシクル・ジャベリン】!』


 タケナカ先輩とホンダ&ハナコの地味顔が横槍をぶち込んでくれた。

 二人の剣がこっちに釘付けのところを突いて斬って襲うと、続く仲間や氷魔法の援護がいい感じに崩していく。

 それだけじゃない、別のところからも他の冒険者がわーわー駆けつけてきてる。


【近くにいた冒険者たちにも連絡をつけておいたよ。よく分からない状況だけど戦力差はマシになったはずだ――やあそこのオートマトンの君、いやコーヒーじゃなく紅茶をもらえるかな? 蜂蜜をたっぷりとお願いしたいんだけれども】


 ヌイスの淡々とした説明がそれだった。あいつが呼んでくれたのか。

 呑気に紅茶を注文してる気がしたがいいとしよう。そうなると――


「今がチャンスだ! 私たちも行くぞ!」

「あーしもいく~! よくもやってくれたじゃん、白き民退治だ~!」

「今ドローンの持ち主さん何してるんですか!? こんな時に紅茶飲んでません!? ええいコノハもいってきますからね!」

「ん、今なら挟み撃ち。ぼくもやってくるね」

「あひひひっ、逆に包囲っすねえ。首狩ってくるっす~♡」

「乱戦だな! やつらに遅れをとるな、行くぞ!」

「フーッハッハッハ! 絶好の機会が訪れたではないか! 皆の者よ、徳を積めぇぇい!」


 好戦的な近接系の皆様も見てる場合じゃねえ、と突っ込んでしまった。

 ミコもついていくかどうかで悩んだようだが。


「……いちクン! もしかしてさっき言ってた"灰色"が白き民を呼んでるんじゃ……!?」


 そうアイデアが働いたようだ。それに従って双眼鏡を覗いた。

 あのボロボロの廃墟と視界がすぐ重なった。

 あいつはどこだ、いた、広場の方でじっと戦場を眺めてる。

 しかしよく見るとあの黒い円は開いたままだ。巨人を出したあれがまだ残ってるってことは……?


「その通りみたいだ、あいつまだ居座ってんぞ」

「あいつの仕業だったか。でもあんな余裕そうに堂々といらっしゃるわけだ、絶好のチャンスじゃねえのか?」


 そいつの動向に釘付けになってると、タカアキの声にくいくいひかれた。

 なんだと思えば――308口径弾が手のひらに一発だ。

 すぐに理解した。受け取って小銃に装填、外した照準器もつけて600mにセット。


【ねえ、もしかしてその声は……タカアキ君かい?】


 足元のナイトの装備を銃身置き場にすると、ヌイスのそんな声がした。

 ドローン越しに心配そうな視線は間違いなく俺とタカアキを見てるだろう。


「タカアキぐらいしかいないだろうな」

「ああ、穴は開いちゃいないぜ?」

「今度はこっちが空ける側だ、なあ?」

「へへっ、攻守交代ってやつだ! そこで俺の元気な姿をご覧あれ!」

「ついでにミコもいるぞ、よく見とけ」

「あ、こ、こんにちは……? もとに戻りました……!?」

【……うん、そっか。君たちは相変わらず仲良くやってたんだね? 後でみんなの顔を見せておくれよ】


 俺たちは相変わらず元気に仲良くやってるところを見せつけた。

 幼馴染が双眼鏡を手に「いけるぜ」と合図だ、ゆっくり狙いを定める。


「600ちょいだ、高低差もあるから気を付けろよ。いけるか?」

「いける。ボスほどじゃないけどな」


 戦利品だらけの大地を走って、丘を駆けあがり、廃れた遺跡へ照準を這わせた。

 広場を越えた神殿の前に灰色の()()()はいた。

 浮いた円陣の回るような動きのそばで、どこか落ち着かない様子で見張ってる。


 ――捕まえた。


 それはちょうど向こうの白い顔がこっちを向いた時だ、また会ったな。

 目が合ったような感触があったが、そのやや上に狙いを置いた。


*BaaaaM!*


 ゆっくり撃った。

 僅かな間を置いて「まさか」と灰色が身じろぐが、寸前で身体が震えた。

 当たったリアクションだ。揺れる照準の中で確かに手ごたえを感じる。


「頭に命中だ! いや……でも妙だぞ、まだ立ってやがるぞあの灰色!?」


 だけど標的の姿はタカアキの言葉にどこまでも重なった。

 立ってやがるのだ。撃たれた衝撃で苦し気にまごついてる。

 ミコも「生きてる……!?」と双眼鏡越しの光景に驚いてたってことは、見間違えてるわけじゃなさそうだ。


「おいおい、マジかよ……ちゃんと脳みそ詰まってんのか!?」


 残弾があれば迷わず打ち込んでやるところだ。

 照準器でそいつの次の動向をじっと伺ってると。


「それかおでこが死ぬほど硬いんじゃねえのか? つーかあの妙な穴に入りやがったぞ、あいつ」

「き、消えちゃった……? 今、あの円の中に入っていったよね……?」


 衣を着た白き民は未練もなく黒い円へと飛び込んでいった。

 そして宙に浮かんだそれごとさっぱり消えた、何も残すこともなくだ。


「せええええええええええええええええええええいっ!」


 消えた親玉と黒い円から目を外せば、お次はノルベルトの雄たけびだ。

 ソルジャーたちを失って丸裸になったキャプテンを戦槌で追いかけてた。

 転んだところに追撃が捻じり込まれて「ぐしゃっ」な死に顔が見えた、指揮官を仕留めたってことは勝利だ。

 次第に冒険者たちの手足も止まって、戦いの環境音も引っ込んでいく。


「…………今度こそ静かになったな」


 弾切れの小銃を手にどこまでも見渡すが、もう敵はいない。

 あるのはかすかな風音と戦利品でごちゃごちゃな丘の光景だけだ。


【まったく、穏やかに過ごせると思ったけどウェイストランドの方がもうちょっと静かだろうね。君たち、こっちに来てからいつもこうなのかい?】

【おいまちたまえよきみ、それはぼくのかんがえたえなじーばーゆえ、けっしておちゃうけにたしなむちゃがしではないのだよ。わかったかこのめがねのおなご】


 得物を握る力が解れてくると、ヌイスがふーふーいいながら調子を尋ねてきた。

 あいつはどうも向こうでティータイムにありついたらしい。

 幼馴染と相棒と疲れた顔をあわせてから、「なわけあるか」とドローンを突いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 白き新種&上位種らしき奴らとの遭遇戦も死者0のSrank判定。流石です。 特に今回の戦闘はイチくん不十分な装備で増援に次ぐ増援を凌ぎきった姿はまるで歴戦のレイヴンのようだ。 [一言] …
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