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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
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46 短剣の精霊と戦乙女のち、ソードオフ・ショットガン


 最初は数多のロリどもが、やがて他の連中も偵察やら調査やらに向かったのを見送って、残った俺たちで南側の警戒だ。


 ()()にこりて守りを固めるべきだろうが、そうしようにも材料がないのが現実だった。

 防御ラインの向こうからきた敵についての情報。拠点の開発に必要な資源。アサイラム周辺の土地勘――いろいろだ。

 唯一の救いがあるとすれば信頼できる人手が増えたことか。

 特にミセリコルディアといい、家出真っただ中のオーガといい、いてくれるだけで助かる人柄が揃ってる。


 まず、後ほどクラウディアとミナミさんを連れて南側を調べることにした。

 思うにあれはチアルたちが見つけた廃墟にいた連中だ。

 スティングを思い出させるぐらい戦力をぶち込んだんだ、もしかしたら残りは少ないかもしれない。

 道中の森であいつらの痕跡も辿れば、あのデカい図体の出所も掴めるはずだ。


 次は突破された時の反省を生かして()()()()()は二重にしておいた。

 タケナカ先輩の案で内側は一段だけにして高低を作り、そこに木製の足場を設けて身を乗り出せるようにする。

 そうやって南を囲い、階段をつけたり角に屋根付きの監視所を作ればいい射撃地点の出来上がりだ。

 防壁越しに射撃なり魔法なりぶちこみつつ、背後の監視塔からの射線が頭上を飛び越してくれる寸法である。


 それからここの機能性もアップグレードだ。

 冒険者ギルドほどじゃないが集会所を作った、本棚いっぱいの本とモスマンくんが際立ってる。

 宿舎の向かい側で簡単な訓練場も広げた。投擲、弓、魔法といったニーズに応じた的も揃えて自分磨きにも励める。

 ついでに西側の川の向こうとのアクセスを良くしてほしいそうなので木造の橋も渡した、ただいま名前募集中。


 こんな感じで、今日もアサイラムいじりに振り回されてしばらくのこと。


【こうだノルベルト、見えるか? 文字見えたら打ってみろ】

【おお、いろいろと見えるぞ。なんなのだこれは?】

【簡単に言えばお前の身分証明と便利な連絡手段を兼ねた何かだ。ウェイストランドからこっちに来た奴はみんな使えるらしい】

【ふむ。俺様いつの間にこのようなものを得ていたのか、ブルヘッドでいじった機械のようで面白いぞ】

【これで分かったけどお前も今まで気づかなかったみたいだな。ふと指で空中なぞったら出たりしなかったのか?】

【いや、お前に指摘されて意識してようやくだ。しかしこれは興味深いな、この『すてーたす』というのには俺様の名前や年齢も載っているではないか】


 遠くでかしゅっと響くクロスボウの音を後ろに、俺は目の前の文字列をつついてた。

 新たな連絡先が流暢なメッセージを返してるところだ。

 その名も隣に座る【ノルベルト】である。ステータス画面を教えたところ、やっぱり影響を受けてたらしい。


「――って感じだ、さっそく使いこなしてるから説明はいらないか?」


 けれどもこいつの理解力はこれしきで動じない、というか使いこなしてる。


「うむ。己の持つ力が目に見えるようになっているのは驚きだが、指先一つで瞬く間に意思疎通できるなど便利なものよ。これさえあればどれだけ離れていても伝えたい言葉を気軽に送れるのだぞ?」

「さっそく価値を分かってるみたいだ、流石オーガ。おっしゃる通りこいつを使えば俺たちといつでも文字でお話しできるってやつだ」

「なるほどな、お前たちは常日頃からこのような伝達手段を使っていたのか。ここに帰って来たかと思えば、俺様いつの間にとんでもない手土産を渡されていたようだな?」

「こいつは連絡したい相手とフレンド登録ってのを申請しないとだめだからな、他のやつとも知り合っとけ。他にも着信通知の設定とかスクリーンショットの送信とかいろいろあるけど、分からなかったら俺たちに聞いてくれ」

「……そのお方が貴様らの旅路を共にした仲間だそうだが、なんというか規格外すぎるぞ。どこにあの白き巨人を槌一本で殴り殺すのがいるんだ」


 対面先ではこんなやり取りを複雑そうに見守るエルがいた。

 ここの環境とミコのお友達に、凛々しい表情も呆れてるのやら疲れてるのやら。


「そっちから連絡受けて駆け付ける時にさ、急にミコが『ノルベルト君!』って言いだしたらこのキャラの濃さだよ? なんか歴戦の戦士みたいだなって思ったらほんとにその通りで団長笑うしかなかったよ……」


 今日も赤髪が輝くフランが自分のドラゴン要素より強いオーガに呆気に取られ。


「ミコさんが頼もしそうに見てた理由が分かりましたよ、ええ。ヒロインのパワフルさを超えるフィジカルをお持ちとか、その方といったいどんな旅してたんですかいち君たちは……」


 ここで一際強い存在感を遠く見ているセアリだっている。

 ミセリコルディアをここまで惑わす【ストーン】等級といえば、そんな視線に気づいて手を止めるところで。


「して、そちらのうら若き乙女たちがミコの仲間か」

「ああ、こいつらがクラングルで名が通ってるミセリコルディアの皆さんだ」

「この者たちがそうか、こうして無事に友と再会できたのだな?」

「そういうことだ。あれから四人仲良く忙しく活動中らしいぞ」


 どうも同席するミコの友達を感慨深い目で見ていた。

 やがてノルベルトはある日突然得たメニュー画面なんかよりも、そいつらの方へまっすぐ向き合い。


「フハハ、俺様もミコにいろいろと助けてもらった身でな。であれば、お前たちもさぞ良き者たちなのだろうな? 慌ただしい巡り合い方になってしまったが、こうしてお会いできて実に光栄だ」


 親しみ深いオーガらしい笑顔を振りまいた。

 今まで共にした旅路の思い出がこもった嬉しそうなもので、ミコを知っているからこそできる表情だ。

 するとエルが家出したご子息にかしこまったそぶりから始めるも、「遠慮はいらん」と笑まれたようで。


「あいつも以前はひどく引っ込み思案だったものだが、あなたに堂々と接して信じている姿を見て分かった。とても信頼されている仲間なんだな」

「あいにくこちらは敵に一撃見舞うぐらいしか取り柄がないものだが、彼女はみなのために実に尽くしてくれたものでな? オーガという身を分け隔てなく信じてくれた以上、こちらも相応のお返しをしてるだけにすぎんさ」

「ミコの支えになってくれたんだな、ノルベルト」

「元に戻れぬままだというのにこうして再び会う時まで、一片も気高い己を変えなかったのだ。俺様が立ちはだかる者どもで徳を積む傍ら、あの尊さに多くが救われたとなれば良き仲間と言うほかない唯一無二の存在よ」


 まだ()()()()()してないようだが、トカゲ系のヒロインもようやく心が緩んでた。


 なにせ隣じゃ【ガーデン】からの旅をしみじみ思うノルベルトがいるからだ。

 酸いも甘いも共に抜け、苦味や酸味すら舌で転がしたような仲がここにある。

 オーガの強い顔はまさにそれを表現していて、それはフランやセアリにも満足ゆくまで伝わったに違いない。


「そっか、君はミコの友達なんだね? なんかあの子が明るく物動じなくなったのも納得だよ、こんなにキャラも力も強いのそばにいたら日ごろから鍛えられちゃうよね……」

「うむ、思えばミコも最初はおずおずとしていたが変わったものだ。だが彼女を何より変えたのは自身の誠実さと慈悲だ、俺様よりも強いさ」

「実際、戻ってきてからずっとミコさんの人間関係が広がりつつありますからね……セアリさんは現在進行形でびっくりしてますよ。ところでノルベルト君っていつもああなんですか? 別ゲーレベルの暴れようで白き民を派手に蹴散らしてましたけど」

「向こうにいた頃はもっと大きくやったものよ。なあイチ?」

「俺に振るのかよ。まあなんだ、本気出せばもっと蹴散らしてたと思うぞ」

「なあに、あの一戦で勝手は分かったのだ。次はもっと強く当たってやろう」

「だってさ。ご覧の通り白くてデカいのが出てきても俺たちが安心できる理由がこいつだ」

「頼もしいというか恐ろしいというか……冒険者ギルドももの凄まじい新人を迎え入れたな。戦闘民族の気概があるあたり、流石はフランメリアの民といったところか」

「団長たちヒロインより軽々屠ってたもんね……これで【ストーン】とか無理があるでしょ、なにパワフルなお友達作ってんのさミコぉ……」

「まーたいち君が濃い人連れて来たんですね、分かります。でもノル君はいい人ですね、品性もあれば礼儀もあってみんなの受けもいいですよ」

「フハハ、ここで皆と仲良くやっていきたいものだ。これからどうかよろしく頼むぞ? おおそうだ、さっそくフレンド登録とやらをしたいのだが良いだろうか?」


 ノルベルトの強い笑顔に、ミセリコルディアの顔ぶれは横並びで好意的だ。

 さっそくフレンド機能で三人と仲を深めると。そのまま「他の者たちとも交わしておこう」といってしまった

 まず向かう先は宿舎だ、お疲れのお医者様が寝てる気がしたけど今から何があろうと俺は悪くない。


「……正直に言うとあの姿には最初思わず身構えてしまったが、あれほど良識のある男は初めてだな。ミコが気を許すのも頷けるというか」

「だよねー、見た目完全にボスキャラかなんかだけど、やってる振る舞いはパーフェクトだもんあの子。面白い人来ちゃったなあ、今後とも仲良くしたいねー」

「あちらもあちらで複雑な事情抱えて来ちゃったらしいですけど、育ちの良さとか人の良さとかずば抜けてびっくりですよセアリさん」

『クリューサ先生はいるか! 俺様とフレンド登録しようではないか!』


 そんなやかましい目覚ましをおっ始めた背中には、エルにフランにセアリも信頼感が出来上がってるほどだ。

 防音性をぶち抜きそうな勢いを見届けたあと、俺は道路側を見て。


「こっちは()()()()の関係性にびっくりだけどな。知り合いだったのか?」


 と、今朝できたばかりの戦利品管理所に目がいった。

 そこに集うドワーフたちに面と向かっていたのは二人のヒロインだ。

 おっとりした桃色髪なお姉さんと明るい茶髪の空飛ぶギャルは、まるで親友みたいな距離感だった。


「あのチアルというヴァルキリーのことか? いや、私もあんな知人がいたことは今まで知らなかったんだが……」


 けれども、続くエルの反応は羽の生えた片割れを知らないそぶりだった。

 その名もチアル。人様を急降下爆撃機に変えてくれた陽気な戦乙女だ。


「実は団長もなんだよね……ミコが属性的にも陽キャな子と知り合ってるなんて初耳なんですけどー?」

「セアリさんだって知りませんよあんな明るくて可愛くて人懐っこい子。見た感じかなり親しいようですけれども」

「全員知らないのかよ、マジであいつ何者なんだ」

「どうもまだゲームだった頃からの付き合いのようだがな……あの二人に関しては私たちが知りたいぐらいだぞ」

「つい最近見知った関係じゃないのは確かだよね。あんな面白そうな子と縁あるなんて知らなかったよ、ずるいぞミコ!」

「みんなが知らないような仲があるなんて何があったんでしょうかね。でもこんなこといっちゃあれですけど、性格的に真逆じゃないですか。闇属性と光属性みたいなもんですよ」

「おい闇属性ってミコのことかよひでえな」

「それだとミコが闇属性みたいじゃないか馬鹿者が!? 失礼すぎるだろう!?」

「団長たちのクランマスター、闇の者だったんか……!? どうしよ、このままじゃミセリコルディア闇の集いってことじゃん」

「つまり闇のクランミセリコルディアってわけだな……」

「こら! 私たちを勝手に闇に染めるな貴様!?」


 なんなら三人揃っても全く存じないときた。

 つまりあれはクランマスターのみぞ知る仲ってわけだ。

 そんな光とや……二人も戦利品の処遇が決まったのか。


「みんな、わたしたちが手に入れた戦利品だけど……エルさんとフランさんの武器の材料にする分以外は買い取ってもらったよ。鍛冶代もここに参加してる人は割引してくれるって言ってたから、かなり安く済んじゃったかも」

「にひひっ♪ あーしたちもいっぱい倒して儲けちゃったよ~! おじーちゃんがさ、でっかいのやっつけたご褒美にすっごい剣作ってくれるんだって? どーよ羨ましいっしょー?」


 穏やかな笑みと陽気なスマイルに親しさを混ぜて戻ってきた。

 おかげでますます謎が深まるが、ここで直球的に聞くのがストレンジャーだ。


「お帰り二人とも、ちょうど今お前らがどんな関係なのか話してたところだ。今聞くけどお知り合いだった?」

「いや前触れもなくストレートすぎるだろう!? 脈絡を持てせめて!?」

「イチ君まっすぐ攻めすぎー!? ド直球でいっちゃったよこの子!?」

「思ったこと疑問に出せる人って強いと思います。で、お二人さんはどんな関係なんでしょうか? ちょっと気になってましたよ」

「どっ、どうしたのみんな!? っていうかいちクンほんといきなりすぎるよ!?」

「あははっ、あーしたちのこと気になってたんだー? そっか、ミセリコルディアのみんなとは初対面だよね?」


 いきなりすぎたか。でも流石チアルだ、にひっと笑って快く応じてくれてる。


「うちも気になるっす~♡ ミコ様に羽の生えてるお友達がいたなんて初耳っすねえ」


 どこからかしれっとによっと首ありメイドも混入だ、突然現れるなロアベア。


「おっ、ろあぱいせんも気になる感じ? いーよいーよ、教えたげる! あーしたちね、こうなる前に一緒に遊ぶ仲だったんだよね?」


 チアルはそんな謎に答える形で、ミコの大きな身体にぎゅっと抱き着いた。

 まだMGOがゲームの中に納まってた頃か、そこにどんな物語があるのか気になるな。


「なるほど、ただの顔見知りって感じじゃなさそうだ」

「……実はね、エルさんたちと知り合った頃の話なんだけど……チアルさんと知り合って、いろいろ助けてもらったの」

「そそ、でさ? かなり前にあーしがふらふらしてたら、フィールドで食材集めてさまよってるの見つけて手伝ってあげたわけ! めっちゃおどおどしててかわいかったなー♡」

「あっちこっちに連れ回されて大変でした……えっと、それでね? それ以来お知り合いになったんだけど……」

「そうなんだよね! でもねでもね、あの時のみこってまじお悩みだったんだよ~?」

「う、うん……だから、チアルさんが相談相手になってくれたんだ。すごく悩んでて……」


 お二人の距離感でだいぶ分かった、チアルの親切さによる縁だ。


「っていってるぞ、ミセリコルディアの皆さん。おりよく需要と供給が当てはまっていいタイミングで知り合えたみたいだけど?」

「なるほど~、ミコ様の悩みを聞いてくれたんすねえ」

「……なるほどな、そのような関りがあったのか。だがミコ、どんな悩みだったんだ? 私たちに言えないようなものにも感じるが」

「知り合ったばっかりってことはさ、まだクラン作ってない頃だったかな? サービス始まる前あたりだっけ? どしたのさミコ」

「セアリさんたちが知らない悩みがあったなんてちょうど初耳ですよ、もし差し支えなければその悩みとやらを教えてくれませんかね?」


 とはいえその人知れぬ悩みとやらにみんなが心配してるのも無理もない。

 みんなで伺えば、少し引っ込むミコはともかく陽気な方はにっこり笑顔で。


「ふふん、心配いらんし? 気の合う友達にクランの結成をもちかけられて、うまくやってけるかなーってちょー悩んでただけだよ? だからね、背中を押したげたわけ、どーんて!」

「あ、あはは……チアルさんに後押ししてもらいました……?」


 真相が正された。こいつミセリコルディアの誕生に関わってやがった。

 なんて縁の巡り方なんだろう。クランの設立から俺とミコの出会いまで、ある意味この陽キャが起因してたのか。


「おい、ミセリコルディアのルーツがここにあるのは気のせいか? なんてこったお前の仕業だったのかチアル……」

「つまり今のミコ様がいるのもチアルちゃんのおかげだったんすかねえ、そしてこうしてまたお会いしたというのはただならぬご縁を感じるっすよ」

「あーしもいっちがみこ知っててびっくりだったし~? すごいよね、もはやこれって奇跡じゃん? にひひっ♡」

「そういえば、わたしたちが最後に話したのってサービスが始まる前……だったかな?」

「うん、あの事件がおきて気が付いたらさあ、フランメリアの首都でスポーンしてたんだよね? あーし飛べるから配達のお仕事とかしてたんだけど、飽きたし変なやつに言い寄られたしこの前飛んできちゃったわけ! こっちの方が居心地最高だし~♡」


 そんな仲もこうして再開を遂げたわけだ。しれっと俺の両隣を挟むように腰をかけながらだが。

 ミコとチアルでサンドイッチ状態になるも、本人たちの口からこうも言われた側は納得した様子だ。


「……そうだったのか。ということは、今の私たちがいるのも貴様のおかげなのかもしれないな」

「うわっこの子ハートまで光属性だまばゆい……! でもさ、みこを支えてくれるいい友達だったんだね? もー、知らない間にこんな聖なる陽キャ作りおって~」

「そういえば設立前、ミコさんがいきなりクランの方針について話し始めてましたよね……ミセリコルディアの起源はチアルちゃんだったんか……?」

「あははっ、やっぱ面白い人ばっかで楽しいじゃん? てかさ、みこといっちが知り合いなのもびっくり! すごい繋がり方だよね~? 友達だったん? うらやまし~な~♡」

「う、うん……少しいろいろあって、いちクンと知り合ったんだけど……」

「……ああ、まあ、そうだな。訳ありだ」


 はっきりしてるのは、この様子だとこいつのお友達を手前勝手に奪ってしまった責任について説明しなくちゃならないことだ。

 ミコたちも分かってるんだろう。俺たちが背に隠してるのは、笑顔で「はい」といえない事情だ。


「チアルちゃん、イチ様はミコ様とお付き合いしてるんすよ。こう見えてでろでろな仲っすよお二人とも」


 そこにとんでもない言葉をによっと挟んだ馬鹿が現れた、お前だロアベア。

 タイミングといい伝え方といい過去最悪のかたちだと思う。

 おかげで対面する先でミセリコルディア三名が凍り付いてる。主成分は主にクソメイドの遠慮のなさ。


「あ、え、えっと……!? つ、付き合ってます……!?」


 突然の一言にクランマスターは混乱した。控えめな挙手でそう主張しながら。

 何やってんだお前も。するとなぜだかチアルの顔からすん……と顔から陽気さが引っ込んでいき。


「あ…………そっか。そうなんだ? ふたりとも、付き合ってたんだ? なるほどね、ふーん……」


 誰がどう聞いてもフォローできないぐらいに冷めた言葉が、いまだかつてなくトーン低めに広がった。

 それはまるで世の中から面白みを見失ったような調子だ。

 恐る恐る横目が働くと、光属性を失った口も目も笑ってないあいつが微妙な場所を見つめてた――怖い。

 たった一言で地獄の蓋をばーんと開けた馬鹿のせいで、そのまま葬式会場でも作れそうな雰囲気だ。


「あ、でもチアルちゃん、イチ様はミコ様どころか沢山の方々と関係を持っておられるので今更一人増えたところでなんの問題ないっすよ! 新記録更新中っす!」


 良かった、ロアベアが咄嗟にフォローをいや何やってんだこの馬鹿!?

 水を差すだけに飽き足らず軍用爆薬ぶち込んできやがった! またやりやがったこのメイド!


「…………ロアベアさん!? ちょっと待って!? なんでそれこんな場所でいっちゃうの!? ねえ!?」

「……え? どゆこと……? 関係……えっ……?」

「……おい!! 今なんと言った!? すさまじく不埒な発言を耳にしたぞ!? どういうことだ説明しろ貴様ら!?」

「やりおったこのメイドさん……! 話の場凍らせた挙句爆弾ぶち込んで粉々におった……! 団長、こんなパワープレイみたことないよ!?」

「ちょっと待ってください!? それどういうことですか!? いち君まさかあれですか、その顔でハーレム築いてる猛者だったんですか前からうすうすそんな感じしてましたけど!?」


 広場はあっという間に阿鼻叫喚だ、しかも悲しいことに否定できない事実である。

 クソ真面目なエルがキレるのはしょうがないとして、ロアベア怒涛のテロ行為に冷やされ吹き飛ばされなチアルは呆然で。


「い、いっちやっば……!? それ、ハーレムってことじゃね……?」

「そっすねえ、ていうかうちもっすよ~♡ メイド兼愛人っす~♡」

「ろあぱいせんもなんだ!? え……うそ……まじなん……!? う、うわあ……」

「なんならリーゼル様のお屋敷におられるメイドさん全員、イチ様のものっすねえ……あひひひっ♡」


 ぼゆんっ。

 追撃とばかりに頭に何かが乗った。メイド服越しに感じる大きな胸二つだ。


「……イチ、貴様はそんな趣味だったのか!? いや、ミコと仲が深まっているのは別に分かってはいたが……その上で女を侍らせていたのかこの変態不審者め!?」


 俺の目には何が映ってると思う? 影差す顔で前を見れば、特に際立つエルがわなわなこっちを見据えてる。

 左を見ればチアルがいまだかつてなく慌てふためき、右ではミコが少しの恥じらいでむにっ、と身体を寄せてきて。


「あ、あのっ、エルさん……!? わ、わたし別に大丈夫だからね!?」

「何が大丈夫か!? 肩までどっぷり漬かってるじゃないか!? そんな悪趣味極まりない場所に私たちのマスターを置いていたのか貴様ァァ!」

「待って!? 別にいちクンがすすんで望んだことじゃないからね!? 落ち着こうエルさん!? それにわたし、必ずつかみ取って見せるから!」

「そっちが落ち着かんか!? つかみ取るとは何をだそいつの命かぁ!?」

「ねえセアリ、何見せらてるんだろうねこれ」

「ミコさんもだいぶいち君に毒されてますよね。ミセリコルディア大丈夫なんでしょうか、そろそろ存続が心配です」


 だめだ、爆心地から多大な混乱が拡散してる。

 ミコも距離感抜群、もちもちボディでしがみつきながら訴えるが余計に俺の抱えた事情が悪化してる気がする。

 どうしよう。よし逃げるか。そう思って席を立とうとするも。


「へ、へえー……? じゃあさじゃあさ、あーしもいれてみる? 愛人にする? 第二第三のお嫁さんにする? 良かったらヴァルキリーな女の子はどーお? にひひっ♡」

「お~、大胆な発言っすねえ♡ イチ様ぁ、これは据え膳ラージサイズっすよ。食わねば罰当たるっす!」


 がしっと腕を掴まれた。犯人は「にひっ♡」と人懐っこく笑うチアルだ。

 さっきの曇り顔はもう帰ってこなさそうだ、ここれでもかと浮かぶにやつきが捕らえて離さない。

 というかすごい力だ! 離せ馬鹿野郎が!!


「――すいません、ちょっとお仕事あるんでいってきます」

「こらー、逃げんなしー♡ ちゃんと返事しないとだめだかんね? おけってことにしちゃうよ~?」

「おい待て貴様ァ! ちょっとそこに座らんか!? 少々私から物申したいことがある、逃げるんじゃないこの馬鹿者が!」


 でも逃げた。今の俺なら胸をぼよっと弾いて手をくるっと優しく退けて、すっと場を抜けられる。

 でもエルだけは無理だ。何せとうとう剣を抜いてあんなことやこんなことしようとしてるのだから。

 ヒロインどもを振り切って離れた。当然「貴様ぁ!」と追いかけてくるが。


*がらん*


 こういう時こそ特権を使うべきだ。ハウジングを起動して壁を作った。

 すっかり慣れた操作でがらんがらんと周囲を囲って完成だ、その名も最後の砦。


『あっこら出てこい!? また妙なものを作って貴様は!?』

『っていちクン!? なんでハウジングをこういう時に生かしてるの!?』

『お~、すっかりこの手の機能も手慣れておられるっすねえ。でも心配はご無用っすよエル様ぁ、どっちかっていうとイチ様はあんなナリでも非捕食者に類するお方っすから。望まぬともハーレムの方からやってくる体質みたいなもんすね』

『望まないならせめて断れ!? おい出てこい! よく人のクランマスターをそんな悪趣味無節操な繋がりに巻き込んでくれたな!?』

「嫌だ! 絶対出ない! いいか、俺だって好きで無節操極まりないただれた生活してるんじゃないんだ! もう嫌だよこんな誘蛾灯みてえな人生ッ!」

『ミコが蛾と言いたいのか貴様ァ! 出てこい! 叩き斬るのは勘弁してやる、せめて私と向き合わんかこのふしだらな男め!?」

「嫌だもん! ほっといてくれ! もう俺今日ここで過ごす!! あと生きててごめんなさい!」

『……イチ君ってさあ、戦闘面以外あれだよね。こんなプレイヤーさんこの世に一人しかいない思うよ、団長は』

『有事以外はただの面白い人って最近言われてますからね……あの、とりあえずエルさん? 物騒ですから剣降ろしませんか?』

『エルさん落ち着いて! いちクンにもいろいろ事情があるの!? た、たしかにいろいろな人とそういう繋がりはあるけど、ちゃんとわたしのこと大事にしてくれるから!?』

『あははっ♡ やっぱおもしろー♡ よーし、あーし上からお邪魔しちゃうねー♡ 突入だ~♡』

『チアル! 私を運べ! 舐め腐りおってこの変人め! 普段大目に見てやっていたが今日という今日は許さんからな!?』

「やめろっ! おい、おいっ! 来るんじゃない! 天井つけんぞ!? お、おいまてああああああああああああああッ!?」


 ――チアルが裏切りました。



「いやあ、なんかおもしれー怒られ方してたよなお前。笑うわあんなん、エルちゃん濃厚な説教してたけど大丈夫か?」

「生きててごめんなさい」

「あっ大丈夫じゃねーわこれ。それよりほら、お爺ちゃんに頼んだ注文の品な」


 正座させられた上でしこたまふがいなさを指摘されたけど、俺は元気です。

 その体で広場で南の偵察の準備をしてると、ごとっと金属的な重みがきた。

 まず目に映るのはスパタ爺さんに頼んだ308口径の小銃だ。

 木製部品は綺麗に整い、各種部品もファクトリー規格にあわせられていささか現代的な外見になってる。


「注文通りにやってくれたか。銃剣もライフルグレネードもつけられそうだな」

「スコープ用のマウントも色々対応させてあるからお眼鏡にかなうものをどうぞ、だとさ。ちなみにこいつはぶん殴っても大丈夫なようにお固く仕上げてあるらしいぜ」


 タカアキの説明も交えれば、確かに前より無骨な気がする。

 けれども無駄に重いわけでもなく、構えたままボルトを引くとスムーズな動きだ。

 重心の具合よし、トリガも引きを考えて少し細い、精密射撃もいけそうだ。


「装填は弾倉交換式か」

「おう、十発入りのやつだ。そのまま直接一発ずつ装填してもいいってさ」

「そりゃ便利だな。タカアキ、お前のは?」


 装填はこうか、ストッパーを解除しながら箱形を抜く、そして交換。

 抜き立ての弾倉に308口径弾をかちかち込めてから戻せばいい感じだ。


「俺のもお前と大体同じだぜ、ただ狙うのがちょっと苦手だからな。マウント用のレールにグリーン・ドット・サイトをつけて近距離以外諦めた」

「ほんとにロングレンジぶん投げたような見た目だな」

「そういうの得意じゃねえんだよ、俺は俺なりの距離感で頑張るさ」


 タカアキも同じ得物を見せてくれた。

 大体は俺と同じだが、古風な銃にあわない光学照準器がついてる。

 とにかく撃ちまくる幼馴染の性質上ぴったりだ、そう思いつつ二人で予備弾倉に弾を込めてると。


「お二人とも~♡ これ見るっす、取り回し良くしてもらったっすよ」


 馬鹿メイドも三梃目の小銃を持参して混じりにきたみたいだ。

 銃身も木製部分も切り落とされ、反動なぞヒロインの筋力で抑え込めとばかりだ。


「ほんとに短くしたみたいだな、あの爺さん。当たるのかこれ?」

「わ~お、見事なカービン。メイドさんがエンフィールド持ってやがるぜ」

「うちこういうのまともに使ったことないんすよねえ、後で試し撃ちしないとだめっすね!」

「それなら訓練所の弓用の標的で試してくれ。間違えても人に当てるなよ?」


 これで308口径の火力が三人分、エーテルブルーインもぶち抜けるな。


「で、イチ。これから偵察か?」

「ああ、最低限のメンバーでみてくる。こいつの出番にはさせないつもりだから安心してくれ」

「でもあんだけ倒したんすよ? 今頃その廃墟とやら、人もいなくてますますその風格を強くされてるんじゃないんすかねえ?」

「そうだな、一番いいのは俺たちが見に行く頃には限界化してガチ廃墟寸前になってることだ。それならさっさと突っ込んで制圧すれば終わりだからな」

「それが最適解には違いねえだろうさ。だが大事なのはそこだけじゃねえぞ、あの巨人がどっからきたか検討つける必要もある」

「そっすねえ……いきなり出てきた気がするっすよ、あのでっかいの。あんなにご立派なのがうちらのすぐ間近に現れてやっと気づくなんて、ちょっと不自然っす」

「常識はずれなことが立て続けに起きてるのは確かだ。南を見に行ったらまだうじゃうじゃいました、なんてニュースになったらどうしようマジで」

「さぞ寝心地が悪くなると思うぜ。今のうちに祈っとこうか? チアルちゃんのご利益あたりでいいか?」

「なんかそう考えると嫌な予感してきたっすねえ……」

「みんなには最悪の事態も覚悟しとけって言っとくか。あーなんか行きたくなくなってきた」

「出発前にんなこと言うなよお前。いのちだいじに、でいけよ」

「うちらは拠点で覚悟してお待ちしてるっすよ、気を付けてくださいっす」


 まあ、今は小銃の性能よりも白き民のことだ。

 そもそも思うに、白いやつらが馬鹿正直に全軍突っ込ませるなんて妙だ。

 あの奇襲は「後先考えずに戦力をぶち込んだ」あたりの表現が合うかもしれないが、本当にそうなんだろうか?

 次第に幼馴染もメイドも離れて不安が募ってくるが。

 

「むーん……イチよ、俺様たちもたった今似たような考えをしていたところだぞ。何か引っかかっているのだが……」

「お前さんらもか。ちょうどあいつらが果たしてノープランで全ベットしてきたかって話してたところに嫌に重なっとるのお……」


 どこからきたか、オーガとドワーフなファンタジーらしさに後押しされた。

 二人はまさに共通の話題を持ってる様子だ、どうせ白き民の話題だろう。


「こういう考えが集まったってことはなおさら嫌な予感だ。一応二人はどんな意見なのか聞いとこうか?」

「うむ、話を聞くに南にある街の廃墟とやらに奴らが巣食っているらしいな。だがそのような拠点の防御に支障が出るほどに、持てる兵力を持ち出すのかと気になっていてな」

「偵察いってくれたチームの報告じゃその数街いっぱい、とのことじゃったがな。わずかに見ぬうちにどっかから大量に仲間を連れてきたとか、実は見かけ以上に潜んでおったとか、ともかくそこから想定以上の数が来たとしか思えんのよなあ……」

「となればだ、あの襲撃以上の戦力が実はまだ残っている可能性も否定できなかろう? 我ながら力づくな考え方だがな?」

「大体俺たちの話題と同じだ。白き巨人に関してはどうだ?」

「あの()()ほどはある巨人はなおのこと不可解だぞ。考えられるのはその廃墟とやらにいた可能性だが、であれば立て続けにそこから奴らが向かってきたことになるのだから良くない知らせになるものよ」

「あんな木々へし折るパワーとでっけえ武器持っとるバケモンの出所は考えたくないぞ、わし……。もし南の街とやらから送られてきたのであれば、そういうのが居座っとる証拠になるじゃろ? かといって何も手がかりもなく脈絡なく現れた、だのとなると皆が不安になること間違いなかろう」

「確実に巨人の足取りを掴む必要があると。悪いニュースが保証された上でだけどな」


 話してはっきりとしたのは、これからの偵察は気が抜けないってことか。

 一に敵の住処の様子。二に白き巨人の痕跡。これらをはっきりさせる必要がある。

 何をするにも敵の情報だ、これがなきゃ対策のしようがない。


「俺様もついていきたいところだがオーガでは目立つからな。あれほどの数を持つ連中のことだ、危険には深く手を突っ込まず無理をせず戻るのだぞ」

「それに良い知らせもあるからの、午後にはディセンバーが戦車を届けてくれるぞ。ほれ、お前さんの注文の品もう一個追加じゃ」


 話を聞きつつ荷物をまとめてると、布包みのブツがごとっと置かれた。

 重量感のある着地音だ、さっそく広げれば――


「こいつもやってくれたのか。悪いな、無茶頼んで」


 出てきたのは銃口を三つを持つ、ソード・オフされた散弾銃だ。

 グリップも片手持ち向けの形に変えられて、ハンドガード手前まで落とされた銃身が即応性を高めてた。


「銃口からグリップまで接近戦向けに改造しといたぞ、専用のホルスターも一緒じゃ。ったく、せっかくノルベルトの坊主が持ち帰ったもんを切り詰めろとかもったいない……まあ、頼まれたからにゃとことんぶち殺しの道具に変えてやったがの」

「フハハ、別に気にしておらんさ。イチがこうするときは何かしらの理由があることぐらいよく分かっているからな、それにしても短くする前よりも洗練されているとは流石ドワーフの腕前だな」

「もっとお手軽に散弾をぶちかましたくてな。二人とも、俺のわがままに付き合ってくれてありがとう」


 こいつはスパタ爺さんに頼んで切り詰めてもらった。

 かなりでかいが、いざというときは12ゲージが三発だ。

 さっそく大型ホルスターを太ももにつけた。差し込めばすっと形が重なる。


「こいつはこうだ。嫌なやつが出たら速攻でぶちぬく」


 すかさず、収めた得物を腰だめに抜いた。

 そこに敵がいるとして、銃身を上から掴み押さえてクイック・ドロウらしく構え。


 かちん。


 空撃ちが決まった。銃口の前に誰かがいたらいいサプライズになったはずだ。


「なるほどな、そのような真似をされたら敵もさぞ肝を冷やすだろう」

「わはは、そーゆーことね。いきなりこんなもん作れとか言うかと思ったら、粋なことしたかったわけじゃ」

「これならもう手放さないさ。大事にするよ」


 俺は感心するオーガとドワーフの顔立ちにそいつをよく見せた。

 ストレンジャーは散弾銃あってこそだ、誰かさんの代わりに祝福を与えてやるさ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ハーレムメンバーも武器もどんどん増えてくヤッタネイッチャン! しかし、その四方を囲んだ壁はムカつくモブを閉じ込めて遊ぶものであって、プレイヤーの避難所としては意味を成さないぞ。 [一言] …
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