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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
502/580

8 サクラメント・ステーション(4)


「おおおおおぉぉぉぉぉああああああああぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「カリフォルニア州では屋外での泥酔児童虐待マリファナの所持および電子的ウィルスの非感染は死刑に当たります死ねや!」

「病んでる自分は好きですか? 私は好きです貴様も病め病め病め」


 土嚢の向こう側で別の群れが仲間の背を踏みにじっていた。

 警察官の格好が来た――銃口で出迎えて数連射、脳天に休暇をやった。

 そのまま弾をばら撒く。付き添いにきた病んだやつらの勢いを食い止めると。


「うぅぅぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 テュマーよりもずっと張りのある声が駆けつけてきた。

 追いついてきたキリガヤだ。突出した一人に迷わず正面堂々向かっていく。


「お前たちの境遇は気の毒だが容赦はせんっ! 今楽にしてやる、覚悟しろッ!」


 いったいこいつらに何を思ってるかはさておき、素早い拳がその顔面を打つ。

 【クイック・ストライク】だ。アーツの威力にそいつが「め゛っ」と倒れ。


「非感染者を検知! 脅威レベル大、繰り返す! 脅威レベル――」

「っっっっうおらああああああああああああああっ!」


 一瞬で刈りとられた仲間に連れが唖然とするも、そこへ回し蹴りが炸裂。

 ナノマシン入りの身体がぐらりとよろめく威力だ。次のテュマーが膝をつく。

 だが追撃は続く、さらけ出されたそいつの首裏に手刀が入ってトドメになった。

 更に痺れが解けた敵が続くも――降りかかる鈍器を流して胸を一突き、続けざまの首への肘で見事に狩った。


「くっ! まだ来るのか!? 起き上がる前に数を減らすぞ!」

「エルさん、銃に気を付けて! 【セイクリッド・プロテクション】!」


 切り込むキリガヤにミセリコルディアも「誰がデカケツですか!」と続く。

 すぐに迫る一団に狙いをつけてぱきぱき撃った、怯んだその途端にトカゲ系女子が踊るように割り込む。


「銃撃に気を付けて進めッ! 敵の勢いに飲まれるなッ!」


 エルの剣さばきが着弾にばらけた数人を追うように斬りなぞった。

 150年分の命を叩き斬ったそのままの動きが続いて、また一人袈裟斬りに落とす。


「プレイヤーさんたちもやるようになりましたね! 行きますよフランさん!」

「団長たちも負けちゃられないねー! いけセアリッ! デカケツで潰してトドメだー!」


 セアリとフランも転んだ連中を仕留めつつ、エルの左右をカバーするように拳と槍で敵を食い止め。


「イチ! 上から来てやがるぞ! 爺さんどもを援護しろ!」


 そこへ敵陣深く飛び込みながらのシナダ先輩が注意を促してくる。

 起き上がりかけの姿をぐさりとぶち抜くと、殺到する敵めがけて槍を円に振り回す。

 アーツ込みの穂先が老若男女問わずに何体も切り裂いた、鮮やかな活躍だ。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオゥ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!」「肉を検知! 我々のたんぱく質だ!」「脳みそおおおおおおおおおおっ!」「この音はなんだ? 敵だ! 敵だ!」


 次の獲物をなぞればあの歩道橋が急にやかましくなった。

 地上への繋がりを感じるそこから戦前の多様性が押し寄せる――敵の増援だ。

 大雑把な照準を重ねて連射、金属音混じりの銃声が群れをばたばた転ばせる。


『いいぞ! 冒険者どもが押してる! このまま突っ込んで引き受けるぞ!』


 切り込む冒険者にあわせてディセンバーの一声がカートを突き動かした。

 5.56㎜から12.7㎜までを喰らって車体はぼろぼろだが、俺たちをやらせまいと戦車さながらの佇まいが加速する。

 そして冒険者か戦車か、狙いに迷うテュマーの陣地に突っ込んだ。

 バリケードが豪快に押し退けられて道中の元軍人も潰されて敵は大慌てだ――またカートに銃撃が集っていく。


「ニク、タカアキ! カートが突っ込んだぞ、こっちに火力よこせ!」


 敵のエグゾは退きながらカートをしつこく狙ってる。俺の出番か。

 冒険者がテュマーを斬って殴って突いてなぎ倒す傍らで、俺は次の土嚢につく。

 得物を変えた――脇腹から抜いた【白殺し】だ。

 歩道橋の根元あたりでカートに釘付けなエグゾを目視、そっと構えるが。


 びすっ。


 そんな中、とうとうこっちに着弾を感じた。

 遮蔽物に刺さるような食感からして5.56㎜か。

 戦車モドキをあきらめてこっちを狙い撃つ軍人テュマーがいた。


「……ふぅっ」


 慌てずに一呼吸。バリケードから半分覗かせる敵を発見、狙った。

 近距離用照準器に青目とヘルメットが重なった――息を止めてトリガを絞る。


*BAAAAM!*


 向こうで頭の守りごとはじけ飛んだ。撃鉄を起こして次を選ぶ。


「ったく! どっからともなくお友達増えるのは忠実に再現してんだな!?」

「ご主人、あっちは大丈夫そう……!」


 タカアキとニクが冒険者に援護射撃をしながらそばについてきた。

 後ろを見ればちょうどミコが「たぁっ!」と流れた一体を杖で打ち据える場面だ。

 倒れる背中にエルが一突き、見事な連携だ。


「エグゾが邪魔だ! やるぞ!」

「どうやってだ!?」

「今考えてる!」


 幼馴染の12ゲージが離れの陣地を薙ぎ払った、散弾に煽られた軍人が転んだ。

 だがそれだけだ。いい防弾性のお召し物のおかげですぐに立ち上がる。


*BAAAAAM!*


 すかさず白殺しで45-70弾をお届けだ、今度は確実に死んだ。

 次の標的を探った、敵の光学照準器とばったり射線が合う――


「……敵の守りが厄介。どうするの?」


 が、そいつらの射撃とニクの槍先が重なった。

 見れば仕込み銃のトリガに指が触れていて。


*Baaaaaaam!*


 308口径の射撃が弾けた。軍人らしい銃の構え方がぐらっと崩れる。

 小銃弾をぶちかましてもうちのわん娘は澄ましたジト顔だ、感謝の気持ちを込めて突撃銃を引き絞った。

 結果はこっちの撃ち負けだ、ぱぱぱぱぱぱっと濃い弾幕に急いで引っ込む。


「エグゾをどうにかすりゃいい話だ! 向こう撃ちまくって抑えてくれ!」


 直後に弾が途切れた、打ち切ったか。

 すかさず乗り出してリボルバーを土嚢にマウントするが――ちょうどこっちに向かう重突撃銃と銃口が合ってしまう。


『非感染者と接触! ドーザータイムだ、死ね!』


 どうもエグゾの片割れが戦車カートに代わる獲物を探してたらしい。

 ヘルメットの獰猛な熊の表情はまさにいい獲物を見つけたとばかりだ。

 放熱ジャケットに包まれた銃身に目が行く、照準を重ねた。


*BAAAAAM!*


 十字があてがわれた途端にトリガを引いた。

 三十メートルもない向こうでエグゾが小さく身じろいだ。

 当然、相手は直した狙いでこっちを狙うも。


 ――がこっ。


 射撃に連なって前後するはずの銃身が不自然な形で前に突き出てきた。

 不発だ。相手はそれでもトリガを引いたようだが。


*zZBaaaaaam!*


 エグゾの手元で大きな火花が散った。

 レシーバーを覆うカバーのおかげで爆発も増してるようだ、銃の構造ごと弾倉が吹っ飛ぶ。


『――火器が損傷! 繰り返す、火器が損傷!? 作戦継続、ブル・ドー・ザー・タイムだ! ブッ潰れろ!』


 中身のテュマーもさぞびっくりだ、射撃をあきらめて迫ってきた。

 こいつはレンジャーから教わった知識だ。

 五十口径は頑丈だが、銃身と機関部のかみ合わせがずれれば簡単に動作不良を起こす。

 つまり銃身をダメにしてやった――うまくいくとは思わなかったが。


「何やったんだお前!?」

「要するに弾詰まりだ!」

「狙ってやったならすげえぞお前! まあこっちに来てやがるけどな!」


 タカアキもびっくりしたらしい。何せそいつが逆さに持った重突撃銃で殴りにきてるんだからな!

 二人で散弾やら45-70やらを浴びせるも、迫る姿はカンカンといい音を奏でて「今殴りにいきます」とばかりだ。


『ブル・ドー・ザー参上! 復唱しますブル・ドー・ザー! そこをどけ!』


 銃弾を無視する巨体はすぐそこだ、その場をあきらめて下がろうとするも。


「またエグゾを相手にするなんてな! 伏せろお前ら、とっておきだぞ!」


 すると後ろからばたばた騒がしさがやってくる。

 流れ込んだテュマーの顎下にざっくりナイフを捻じり込むクラウディアだ。


「いやお前伏せろって――」


 ところがだ。そいつを仕留めるなり背中の得物を器用に抜いた。

 ドワーフ製のクロスボウだ。引き絞った弦に金属筒のついた太矢が――爆発するやつだ!

 すぐに「馬鹿野郎!」と一言添えて幼馴染と愛犬を引っ込めると。


*zzBAAAAAAAAM!*


 土嚢の隔たりの向こうで小さな爆発を感じ。地下も爆音と破片で賑やかだ。

 ちらっと見れば装甲ごと胸上をずたずたにされた持ち主が棒立ちのままだ。

 ひでえことしやがる。リボルバーの銃身を折って排莢、弾を込め直して次へ。


「うむ、やはりドワーフの作った爆発ボルトはこういう時便利だな!」

「ブルヘッドを思い出すな、ありがとう次からもっと早く言え!」

「ご主人、まだ来る!」

「爆発するクロスボウとかぶっ飛んでるなオイ! ありがとうダークエルフの姉ちゃん!」

『敵の勢いが鈍ったぞ! いけ! 戦車前進!』


 そこに戦車カートがまた勢いづいた。崩れた陣地にまた突っ込んでいき。


*BRTATATATATATATATATATATA!*


 車載機銃が軍人テュマーの塊を薙ぎ払った。ダメ押しの五十口径も追加だ。

 射線向こうの土嚢が崩れ始めるが、最後のエグゾも負けじと身を乗り出す。

 弾倉を交換した重突撃銃をまっすぐ堂々構えて、魔改造カートの進路を断ち塞ごうとしたらしい。


『ハッハァァ! 食らいやがれ! ディセンバー・スペシャルをどうぞだ!』


 しかしカートは止まらない、むしろ操縦手の掛け声もろとも加速した。

 何を考えてるんだか、俺たちを運んできたそれは機銃をぶっ放しながら突っ込んでいったのだ。


『敵装甲戦力を再び検知! 迎撃、げいげ――』


 重機関銃を打ち込む勇敢な姿に不幸にもカートの重みが突っ込んでいく。

 直後にがしゃーん、と派手な音がまき散らされた。

 戦車モドキの質量を喰らったエグゾが奥へと弾き飛ばされたようだ。


『敵の戦車を検知! 回避! 回避!』『センサーに危険を感知、撤退せよ!』『敵の装甲車両を発見!』『敵の潜水艦を発見!!』『駄目だ――』


 おまけとばかりに『ディセンバースペシャル』がその先にも達した。

 奥に固まっていた軍人モドキが大掃除とばかりに跳ね飛ばされていった。


『イィィヤッホォォォゥウ! ジャックポットだ! ざまあみろ!』

『こーゆー時のために頑丈にしといたんじゃよ! このまま陣取って撃ちまくれ! わしちょっと降車してぶち殺してくる!』

『ディセンバーがハイになっとるぞ、少し落ち着かんか!? 目につくもん撃ちまくって敵を足止めしろ、味方に当てんなよ!』


 防御を食い破ったカートはどっしり居座って機銃を撃ちまくりだ。

 おかげさまであれだけいた敵の勢いがとうとう止まった。

 目の前じゃ突進を喰らったエグゾがよろよろ起き上がってた――やるか。


「相変わらず大胆だな爺さんたち。突っ込むぞ、誰でもいいからついてこい!」

「ん、わかった」

「やることが派手だねえ! 俺も行くぜ、こういう時は突撃が妥当だ!」


 決まりだ。敵が崩れた瞬間を逃すわけにはいかない。

 土嚢から広場に抜ければ、タケナカ先輩が数匹のテュマーを食い止める場面だ。


「――おおおりゃあああああああああああっ!」


 【チャージドスマッシュ】が決まったところか。

 そこに集まっていた胴体を二つまとめたざっくりとぶった斬られた。

 が、アーツの隙を狙って縋るやつを発見――横腹めがけて緊急射撃、転んだ。

 「どうも」と言いたげな顔が一瞬見えた。どういたしまして先輩。


『イチ様ぁ、こっちはお任せっすよ~♡』


 すると頭上から声がした。いつの間に歩道橋まで忍び寄ったメイドだ。

 なんてやつだ、鉈やら斧やら持った連中に一人で立ち回ってる。

 叩きこまれる武器を弾いてひと狩り、続く攻撃を避けて切断、雪崩れる敵に仕込み散弾を浴びせて冥土送りだ。


「――いくぞ、突撃!」


 騒がしさに乗じて敵へ突き進んだ。

 左手に『白殺し』を移して、右手にマチェーテを抜いて群れに潜る。

 身を起こして重突撃銃を拾おうとするエグゾまっしぐらだが、タイミングの悪さが挟まった。


『暴徒を検知! 暴徒を検知! 暴徒を検知! 了解鎮圧します!』


 遮蔽物で機銃掃射をうまくしのいだ軍人テュマーだ、突撃銃を向けてきた。

 ぱぱぱぱっと連射が身体を気持ち悪く掠めるも。


「――敵の銃火に突っ込むとか相変わらずじゃのう! ほれ行け! できれば無傷で鹵獲しとくれ!」


 後ろからずばっと独特の銃声と青い光線が走った。

 振り向かなくても分かる、スパタ爺さんの援護射撃だった。

 敵さんはレーザーに顔をミディアムレアにされた。対価は無茶な注文だ。


「……そこっ!」


 横で土嚢を踏み台に軽く飛ぶサイトウもいた。そのまま軽やかに弓が放たれ。


「敵の接近を検知! 迎撃せよ! げいげっ……」


 こっちの手助けをしてくれたらしい。空中からの一矢が軍用ヘルメットを抜く。

 予期せぬ矢に敵は混乱だ、そこにあいつは着地するなり文字通り()()()()に矢を浴びせる。


「……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 チャンスだ、青いレーザーと矢の援護を受けて敵陣へと飛び乗った。

 崩れたバリケードもやられたテュマーも踏みにじれば、五十口径の深い銃口が持ち上がるのを感じた。

 すぐそこで立ち直ったばかりのエグゾがXLサイズの得物を俺に向けていた。

 だからこそ都合がいい、身を小さく丸めつつマチェーテ片手に踏み込み。


 *がきんっ!*


 突撃銃の形を織りなすそのガワごと、銃身の根元をぶった斬る。

 次に瞬間には鈍くもいい音を立てて大事な部分が大胆にソウドオフだ。

 弾の道のりを失ったそれがぼふっとむなしくガスを散らす――ジャンプスーツ越しに熱さを感じた。


『――理解不能!? 繰り返す、理解不能!?』


 次に見えたのは呆気に取られて一歩退くあのエグゾだ。

 しかし向こうも馬鹿じゃない、銃を捨ててアクチュエーターの乗った拳で殴りかかってくる。


「ほっ……! 横から失礼するぞ!」


 迫るそれを横に避けると同時に後ろからクラウディアが飛んでくる。

 突き出た腕に軽々乗っかれば、そのまま器用に背後に渡りついて。


「確かこうだったな? 後はご自由にだぞ!」


 強制排出レバーを覚えてたんだろう。戸惑うエグゾの背面に手をかけた。

 手早く腰あたりをいじれば『がしょっ』と頑丈な装甲が観音開きになり。


「え、エグゾをロスト! メーデー、メーデー……!」


 気の毒なことに装甲の持ち主がはじき出されてきた。

 じたばた逃げ出す背中をマチェーテで追いかけた――【ピアシングスロウ】でな!

 結果はぐっさりだ、電子的な声で「おぅふっ」と断末魔を残して死んだ。


「……いやお前当たり前のように機関銃叩き斬るなよ。人間やめたか?」


 タカアキの散弾銃もにゅっと伸びた。機銃に叩きのめされた残党を手当たり次第打ちのめす。

 俺も乗った、片手握りの自動拳銃を腰だめに連射して念を入れた。


「ん……これでこっち側は最後みたい、やったねご主人」


 ニクも弾を喰らってもたつく首を穂先を斬り落とした、グッドボーイ。

 逃げようとする背には308口径の仕込み銃が追いかけていった、胸を貫かれた警察官姿が殉職だ。


「そっちはどうだ、お前ら!?」


 目の前のだいたいを片づけると、ステーションの騒がしさも弱まっていた。

 セアリの腕がとっ捕まえたテュマーをぶん投げ、その隙を埋めるようにフランの炎の槍がまとめて数体貫き。


「成仏、しろおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「アアアアアアアアアアアアアッ!? メーデー、メーデー、メーデ――」


 元ラグビー選手なテュマーの突進を軽々いなして、カウンターの突きを喉元に撃ち込むキリガヤもいた。

 電子音声が途切れるほどの一撃だったようだ。苦し気に倒れて機能停止だ。


「はっ、はぁっ……! こいつら、数が多いぞっ! 冗談じゃねえ!」

「もう少しだっ! 押せェ!」


 特に目立っていたのは坊主頭とトカゲ女子の活躍ぶりだ。

 近づかれては切り伏せて、近づいては斬り払って、あの二人のおかげでテュマーの攻撃がよく削がれてる。


「みんな、無理に突出しないで……! 少しずつ敵を削って!」

「増援も片付いたっす~♡ 後は奥だけっすよ!」


 「このっ……!」とミコの杖が斬り漏らしを叩き伏せれば、歩道橋から飛んで来たメイドがその頭を串刺しにし。


『装填完了! お片付けだ、全員伏せろ!』


 仕上げとばかりに戦車カートが陣地を完全にぶちやぶってきた。

 数も勢いも減ったテュマーを相手取っていた全員が慌ててその場で転ぶと。


*DODODODODODODODODODODODODOM!*


 ディセンバーの銃座があたりを派手に撃ち払った。

 銃声がひどく響くが効果は絶大だ、奥にいた群れをズタズタに砕く。

 重機関銃が目に付くものをひと薙ぎすれば、バリケードの残骸なのか元人間なのかも不確かなものだけが残った。


「……銃ってのがいかに便利か良く分かったな。死に様が自分で選べるなら機関銃だけは絶対にごめんだ、ミンチよりひでえ」


 最後は耳を塞いでいたタケナカ先輩が這いつくばりながらのため息だ。

 一緒に戦場を見れば力づくで楽にされた「元テュマー」が散らばってる。


「タケナカ先輩、あいにくこんなので撃たれるのは日常茶飯事だったぞ」

「ああそうかよ、どこに重機関銃向かって迷わず突っ込む奴がいやがるんだ、ほんとお前どうか……いやもういい何言っても無駄だ」


 俺はリボルバーを持ち直しながら残りを確かめた。

 斬る蹴る殴る貫かれるで片づけられたテュマーでいっぱいだ。

 ニクが「ん」とマチェーテを拾ってくれたので鞘に納めた、グッドボーイ。


「……やった、のかな? 静かになってるし、もう敵はいないかも……?」


 まだこびりついていた戦場の空気がミコのおっとり声で解れた気がする。

 が、目前の死体だらけのステーションに俺たちの緊張感はまだ抜けない。


「ここらの敵は片付いたみたいだぞ。奥の方も気になるがお仕事完了ってところだ、帰ったらドワーフの爺さんどもに一杯奢ってやんねえとな」

「あー、おい槍使いの。こーゆーときにそーゆー縁起のないこといっちゃだめじゃぞ、この空気でそんなこといったら――」


 何人も仕留めたシナダ先輩も「一仕事してやった」とばかりに清々しそうだ。

 まあ、今はちょっと余計な言葉だったかもしれない。

 スパタ爺さんがどことなく不吉な物言いをやんわり遮ろうとするも。


 ――がこん。


 ほらみろ。広場の奥で大きな壁が開いた。 

 どうも電子広告の下に隠し扉があったらしく、分厚い金属が持ち上がる。


『死亡希望者を検知! 私は人間ブルドーザーだ! 復唱します私は人間ブルドーザーだ! ようこそサクラメント・ステーションへ! 次の行き先は*あの世*です!』


 そして狭苦しそうな通路からえらく物騒な身なりのエグゾが現れた。

 元々の姿を1.5倍ほど大きく見せる装甲に、銃身が二本も束ねられた外骨格向けの機関銃を腰だめに掴んでる。

 極めつけはバイザー越しの青い瞳と胸元の【Security】という白文字だ。


『こんにちは侵入者ども、こちらサクラメント・ステーション警備主任。ただいまより【キル・ドー・ザー】に改名します――道を開けな、キルドーザーだ!』


 そいつはずんずんと大きな二歩で自慢の得物と装甲をこれみよがしにした。

 俺たちに今にもぶっ放さんとばかりの格好が、ステーションの白い照明に大きな影を作っていくのだが。


「……シッ!」


 そこへ抜いたクナイを持ち上げるように放り投げた。

 まっすぐな銃口を構えるエグゾの足元へヒット、影に吸い込まれた投擲物が【シャドウスティング】を発動だ。


『――エラー!? 身動きが取れない、キルドーザー行動不能! メーデー! メーデー!』

「シナダ先輩、俺がいてよかったな」

「……畜生、次から気を付けるよ。口は禍の元ってやつだな」


 シナダ先輩が申し訳なさそうにするのを確かめてからテュマーに近づいた。

 タカアキもついてくると、電子的な声で騒ぐボスらしい風格は動こうと必死だ。


「なるほどなあ、エグゾにもこっちのアーツ効いちまうのか。勉強になったわ」

「向こうで勉強済みだ。ところでこいつなんだ? ボス的なあれか?」

「だと思うぜ。なんつーか相手が悪かったとしか思えねえわ、気の毒」


 背中に回り込んだタカアキが強制排出レバーを探って押し下げた。

 緊急事態と思い込んだ外骨格が背中の装甲を開くと、相まみえたのは中に収まったまま逃げようとするテュマーだ。


「警告! 法律により警備チームの職務を妨害した場合罰金100――」

「休暇を与えに来たぞ、警備の仕事ご苦労さん」


 身動きが取れないそいつの首にマチェーテをざっくり差し込んだ。

 法を説き始めたようだが物理には勝てなかったらしい、永遠に静かになった。 


「制圧完了だ。とりあえず他に敵はいないか探るか」

「ここが剣と魔法のファンタジー世界でよかったな。おいスパタ爺さん、無傷で鹵獲したぜ」


 片づけたエグゾを背に「終わったぞ」と広めた。


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