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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
499/580

5 サクラメント・ステーション(1)


 ようやくトンネル調査に踏み込むことが決まった次の日だ。

 その旨が冒険者ギルドへ届くと、程なくして『依頼』という形に変わった。

 こうして地下交通システムが壁の外まで伸びるものだと分かった以上、都市のためにひと働きしろってことだ。


 参加者はストレンジャーズに幼馴染を足した何か、ミセリコルディア、タケナカ先輩率いる冒険者たちを加えた14名。

 その数をもって『帰還組』を手伝うというのが俺たちの仕事であ。

 支払われる額は一人7000メルタ、調査で得た情報次第で上乗せされる仕組みだ。


「……豪華なメンバーになったもんだな。爺さんたちもえらく気合入ってるみたいだ」

「うん、そうだね……こんなにたくさんの人達と一緒になるなんて、わたしちょっと久しぶりだなあ?」


 相棒と二人で眺める発着場の様子は明るいというか呑気というか。

 人間と人外がいい具合に混じったそこは前哨基地さながらの雰囲気だった。

 トンネルに向けた土嚢陣地と重機関銃の構えが特にそうだ、強固な守りだ。


『どうじゃ! そこのデュラハンメイドが機関銃つけろとかいってたのをいいアイデアにしたぞ! ちょっとした戦車じゃなこれ!』

『ほんとは機関砲ぐらい積みたかったんじゃが、お主らの鼓膜を気遣って五十口径で妥協したぞ』

『その代わりお前ら運ぶための牽引車を用意しといたぜ。これでのこのこ歩く必要もないって寸法だ』

『爺ちゃんたちすげー! 戦車みてえだなこれ!』

『なんか強そうになってるっすねえ。お爺ちゃんたちが一晩で作ったんすか?』

『おう。電子制御に使うもん全部外して手動で動かすようにするついでに、お前さんら支援できるようにと武器とか積んどいたぞ』


 奥では角ばった装甲でごってごてにされたEVカートにタカアキとロアベアがおおはしゃぎだ。

 機銃付きの砲塔に車体の前面機銃は戦車さながらに南に攻め込むつもりらしい。


『今回の依頼はクリューサ先生も同行するらしいが……大丈夫なのか?』


 その離れでは栗毛のトカゲ系女子に心配されるクリューサがいた。

 エルらしい爬虫類の瞳の鋭さに対して本人は落ち着き払った様子で。


『自分の身を守るマナーならわきまえている。それに俺にとって『面倒』という病に処方する薬はこいつでな』


 と、ホルスターから抜いた拳銃と一緒に「こいつ」を顎で促していた。


『問題はないぞお前たち、クリューサはこういう現場も慣れてるからな』


 隣でクロスボウを確かめてるダークエルフ加わって説得力も一つ重なった。


『あいつらに振り回された経験がこうして生かされてるところだ。それよりもお前たちが怪我人を作らないことに気を使うべきだろうな』

『そうか、なら構わないんだが……』


 けっきょくエルは無理矢理納得したようだ。


「……ファンタジーモノに出てくるドワーフが近代技術を使いこなしてるなんておかしな話だな。俺たちよかずっとモノにしてやがる」


 そんな一仕事前の様子を眺めてるとタケナカ先輩がそっとやってくる。

 前とは違うデザインの防具がその身に揃ってた――今までとは違う格好だ。

 現代の機能性を意識した金属製の装甲が胸やら肩やら腰やら、やられたら嫌な場所を保護するつくりだ。

 腰に携えた鞘もあって『現代ファンタジー』という具合で様になってる。


「ウェイストランドでいろいろ学んで帰ってきたらしいな。あっちにいた頃も技術的にいろいろ世話になったよ――ところでその格好どうした? イメチェン?」

「タケナカさん、それってもしかしてお爺ちゃんたちが作ってくれたのかな? そんな感じのデザインしてるし……」

「その通りだ、俺も世話になっちまった。こいつはスパタ爺さんがわざわざ俺のために作ってくれた新しい鎧なんだが、似合うか?」


 本人もけっこう気に入ってるらしい。

 コスプレ抜けしたような冒険者姿に心なしか嬉しそうな様子だ。

 相棒と口をそろえて「似合う」と頷けば、タケナカ先輩はにっと小さく笑い。


「俺もご相伴にあずかって良かったのかさておき、今まで使ってたドロップ品より上等なもんだなこりゃ。着けてる時の安心感が全く違うぜ」


 同じく頼りがいの増したシナダ先輩の格好が続いてきた。

 ストラップで束ねられた多角形の金属板に効率よく守られた、身動きの良さそうな防御性だった。

 ホームガードスピアをワンランク上にしたような獲物もあって、黒髪のいい人柄がいつもより頼もしい。


「いい装備をくれたからにはこの身をもって報いるつもりだ! ありがとうお爺ちゃんたち!」

「こんなものを無償で貰って良かったんでしょうかね。それだけ危険なものだと暗に伝えてきているような感じもしますが」


 茶黒い短髪の熱いやつに前髪隠れの青年、キリガヤとサイトウも追いかけてくる。

 現代性のある軽鎧に装備で存在感が一新されてるようだ。

 キリガヤは【素手】スキルを尊重して、ケブラーの黒い質感を感じる補強金属張りの籠手が。

 サイトウには頭にフィットするフード付きの迷彩外套に、滑車付きの短弓まで用意してもらった充実ぶりだ。


「ワーオ、あの時ご一緒したメンバーがなんかレベルアップしてる。みんなモブから昇格したみたいな感じ」

「お爺ちゃんたち、みんなのために装備を作ってくれたんだね……っていちクン!? その言い方は失礼だからね!?」

「誰がモブだコラ。まあ、単純に仕事を頑張れって意味合いかどうかは怪しいがな。俺たち日本人冒険者に気前よくくれたってこたー……」

「身体で払ってねってやつ?」

「そうだな、それくらいだ。そろそろこの装備の良さ相応にやべえのと鉢合わせそうで不安だ」

「タケナカ、俺が思うに四人揃ってドワーフ装備の広告にも使われてる気がするぜ。よろしくなミコさん」

「これを使ってお爺ちゃんの装備の良さを伝えろということだな! 任せろ!」

「まさか【ブロンズ】に昇格してすぐにミセリコルディアの皆さまとご一緒するなんて思いませんでした。どうかよろしくお願いします」

「キリガヤ君にサイトウ君も昇格したんだ? ふふっ、おめでとう? みんなよろしくね?」


 キリガヤ&サイトウの同期コンビもブロンズ等級に出世したようだ。

 良質な装備で固めた見知った顔がこんなにあれば、先行きのしれないトンネルの不気味さも少しはマシか。


「……ん、そろそろだよ」


 くいくい。

 ジャンプスーツの布地を引っ張られると戦闘用リグを着こんだわん娘がいた。

 ダウナー声によればドワーフの爺さんたちがそろそろ集まってる。


「楽しいトンネル探索のお時間か。ところでニク、その槍どうした?」


 向かう途中で少し気になった。

 肉球つきの手が握っている得物のことだ。

 伸縮式のそれが機能性を小さく見せてるが、なぜか普段と見た目が違う。


「そう言われるとそうかも……? ニクちゃんの槍、こんな感じじゃなかったよね?」

「ああ、穂先の位置が前と違う。なんか銃剣みたいだ」


 それもそのはず、相変わらずの伸縮性はともかく知らない部品が増えてた。

 柄の途中に小箱がついてる。

 まるで弾倉を思わせる配置だ――というのも、握りやすさを邪魔しないように斜め気味なトリガとハンドガードが備わっていて。


「スパタさまがぼくの槍を直してくれるついでに強くしてくれた。どう?」


 じっとりな顔と声がそういう矢先、ニクがその槍を動かした。


 じゃきっ。


 今までより軽くなった作動音がして、伸びた柄が穂先のリーチを補った。

 先端の鋭さは前より肉厚なものの、固定位置が銃剣さながらに下がってる。

 だけどすぐに思った通りだと気づく。よく見ると露出した先端が銃口のようだ。


「…………まさかこれ、銃と槍が合体してるのか?」


 とうとう正体に気づいてしまった――こいつは槍と銃を合わせた何かだ。

 どうやら正解だったらしく、わん娘はポケットから何かを取り出して得意げだ。


「離れた敵と相性が悪いからって銃を組み込んでくれた。穂先も振り回す方が多いし変えてもらったよ」


 淡々な説明で、その手ごろサイズの箱形を見せてくれた。

 弾倉だ。見た感じ数発ほどが妥当な大きさである。


「……おいおい、308口径だぞこれ。小銃と槍合体させたのか?」

「おじいちゃんが火力付け足しちゃった……!? に、ニクちゃん? それ使いこなせるよね……?」


 が、装填してあるのは308口径のきらめき――小銃がぶっ放すデカいやつだ。

 猟銃ほどの威力が秘められた槍か、なんてもんプレゼントしやがったんだ。


「ん、振り回してみたけど使い心地は同じだから大丈夫。これでお二人を守るから」


 しかもニクはすっかり慣れた手つきだ。

 装填用のボルトをちゃきっと引いて扱い方を披露してる。

 見て明らかなのは308口径弾は至近距離で食らいたくない抑止力だってことだ。


「流石グッドボーイだ。爺さんたちめ、ニクの槍見てやるっていうからまさかと思ったらやっぱりなんかしてたな」

「でもすごいよね、お爺ちゃんたちってなんでも作っちゃうもん……」

「スパタさまたちがミコさまに「散弾銃入りの杖でも作ろうか」って言ってた」

「良かったなミコ、お前も散弾ぶっ放せるぞ。アルゴ神父が喜びそうだ」

「そんな物騒なのいらないよー……」


 どうもドワーフ族は相棒の杖に散弾を仕込もうとするほど余裕があるらしい。

 そういえば三連散弾銃を失ってだいぶか――そう思いつつ集まりへ向かうと。


「よっしゃ、お前さんら集まれ! 今からすべきこと説明すんぞ!」

「集合せんかお主ら! 楽しい地下探検の時間じゃオラァ!」


 スパタ爺さんたちの現代風ドワーフの身なりが数名集まってた。

 いつぞや『樽』だとか馬鹿にされた身体に現代の趣の効いた防具がある。

 工具やら携えた戦う作業員みたいな容姿にぞろぞろ駆け足で全員が集った。


「いよいよか。この戦車みたいなのでプチ旅行? お弁当とか持ってきてないぞ?」


 ふと俺の目にはそいつらの背後が気になったが。

 恐らくそこらにあった一台を好き放題にいじくった()()()()()だ。

 八人ほどが乗れるはずだった居住性は前面に集中させた装甲で台無しにされ、敵に突っ込む表現力を得たらしい。


「こいつはわしらが急造した戦車風カートじゃよ。ほんとは機関砲ぐらい乗せたかったんじゃがな、お前さんらを気遣って五十口径ぐらいよ」

「どーせこんな閉鎖空間だ、20㎜以上の相手が必要になる相手なんていねえさ」


 ドワーフ二人分の物言い通りこいつは火力が抜かりない。

 車体前面に突き出る車載機銃、頭上には五十口径の生えた砲塔つきだ。

 その後ろでは人数分の座席がついたオープントップの牽引車が二台連なり。


「これよりわしらは『アーロン地下交通システム』のトンネルを南下して、その先にある別のステーションまで調べにゆくぞ。市からはその先について調べるように言われとるが……」

「もし都市を脅かすような存在がいた場合は根こそぎ掃除しろってのも依頼に含まれてるからな。その場合は報酬アップだ、喜べお前ら」

「金はくれてやるから前向きにどうぞってか」

「そして安全になった暁はわしらのもんになる寸法さ、どや?」

「ワーオ合理的」


 説明はレールが続くトンネルの狭さへと向かった。

 自動車が余裕を持って通れる広さが20kmも長く続いてるらしい。


「そうするにあたってそこの頼もしい乗り物が俺たちを運んでくれそうだな。一晩でこれ作るとかどうかしやがるぞ」


 タケナカ先輩はレールに乗った『地下戦車』が頼もしいのやら呆れてるのやら。

 まあなんにせよドワーフ感覚ではいい誉め言葉だったらしく。


「トンネルの長さは30kmほどじゃよ。もし地上じゃったら未開の地をのこのこ歩かんといかんが、こいつならすぐじゃろうよ」

「そーゆーわけでお主ら運ぶ牽引車も用意しといたぞい。流石に他のカートをバラしちゃうのもったいねーし、簡単な車体に車輪つけたもんじゃがな」

「どうせ200kmも出して走るつもりはねーし客席はむき出しだぞ。その代わりクッションぐらいはしいといたからな」


 スパタ爺さんたちの強い顔がずいぶん得意げに牽引車を紹介してきた。

 火力と装甲の後ろで、手作り感あふれる連結車両がレールにかみ合ってる。


「……あの、こんな物騒なものがあるっていうことは相応の何かがいることを想定してますよね? 化け物でもいらっしゃるんですか」


 そんなスマートとは程遠い無骨さに食いついたのがセアリだが。


「テュマーか。クリューサ先生たちから聞いたが、人間がゾンビに変わったようなものらしいな」


 心構えができたようなタケナカ先輩の言葉が示す通りだった。

 頼もしいことに白き民も黒い化け物も切り捨ててやるとばかりの顔つきだ。


「まさかこんな世界でゾンビ相手するなんざ考えちゃいなかったけどよ、どうせ白き民と何度も戦ってるからな。俺はやるぜタケナカ」

「俺は敵を選り好みなんてせんぞ、たとえ生きる屍だろうが責任をもって戦う!」

「良くも悪くも人型の敵を仕留めるのは普段で慣れてますからね……そういうことで俺も参加を決めたんですが」


 冒険者他三名だって参加するからには大体の覚悟を持参したらしい。


「アドバイスだがあれはもはや人じゃない。あんなものを相手にするのは初めてというやつは、今から余計な考えは捨てろ。さもないと医者の手か棺桶が必要になるだろう――いや、お前たち旅人は火葬だったか?」

「あれは機械で無理矢理動かされてる何かだぞ。一思いに楽にしてやれ、ただし生半可な攻撃は通用しないから容赦はいらんぞ」


 が、クリューサとクラウディアの経験に基づいた一言が伝わるとまた少しためらいが広まった。

 確かにあれは化け物だけど、殺した感触は間違いなく人間だ。

 いざ実戦で「殺せませんでした」を防ぐように付け足しておこうか。


「テュマーは刃物も使うし銃も撃てるし戦車だって乗りこなすけどな、一つはっきりしてるのは俺たちの情けが通用しないやつらだってことだ。倒すときは身体のどこかを必ず破壊しろ、基本は脳天をぶち壊せばいける」


 俺は脇腹から『白殺し』のリボルバーらしさを抜いてそう触れた。

 こいつなら敵もさぞ楽に死ぬだろうが、白兵戦であれを殺すには慣れがいる。


「テュマーって人語を発するんすけど、躊躇っちゃダメっすよ皆様ぁ。とにかく頭を破壊するといいっすよ、あるいは切り落とすとかでも~」


 そばでロアベアもちゃきっ、と仕込み杖の感触を確かめてる。

 テュマーの数々を断首した『エクスキューショナー』がそういうように、人類との共通点は頭を潰せば死ぬところだ。


「万が一噛まれたり引っ掻かれても同族にはならねえさ。心配するのは今日この日元気に動いてる我が命ってやつだ、やるなら思い切りが大事だぜ皆さま」


 最後にタカアキが「こんな風にな」と散弾銃を見せびらかしてきた。

 にやつく顔は12ゲージのポンプアクション式のそれで脳を潰すつもりだろう。


「テュマーは白き民と勝手は違うが一切躊躇するでないぞ。まあおったらの話じゃけどね? 任せたいのは向こうを調査するときのマンパワーじゃ、頼りにしとるぞ」


 テュマーの知識がそう広まると、スパタ爺さんは戦車モドキに乗りかかった。

 ただしその手に握ったタブレットをいじりつつ。


「でな、もう一個お前さんらに伝えとくがあるんじゃけど。どうもこのトンネル、道中で何が詰まっとるらしくてのう」


 こっちにその画面を見せてきた――簡単に表現されたトンネルの図だ。

 時々かすかなカーブを何度も挟んでいて、地上と重ねるなら南西へ向かうような具合だが。


「詰まってる……ってどゆこと? ここで何か通せんぼしてる感じなの?」


 そこへ真っ先に目を付けたフランが竜の角の上に「?」だ

 そう読み解くなら、だいぶ進んだ先でネガティブ気味のアイコンが立ってる。


「実はここ、カートにロックがかかって走られん状態なんじゃよ。端末を調べるにこの南向きのトンネルのどこかでレールの妨げになっとる何かがあるみたいでな? それで事故防止用のシステムが働いて電子制御がストップしとるわけ」


 言われてみればそうだ。トンネル入り口に危険を示す赤色が定期的に輝いており。


【エラー発生。地下交通システムはただいま緊急停止中です、管理者へ……】


 と、電子的な文字が切なげに現状を訴えてた。おそらく150年以上も。


「あーそういうことね。ってことはさ、だからその戦車みたいなカートも手動で操作するやつなんだ?」

「そういうことよドラゴンの。仮に電子制御ですいすいいけたとしても、たどり着いた先で敵が待ち構えとったら後戻りできんからな? こっからは手探りじゃよ」


 そうか、この地下交通システムは正常に作動してないのか。

 車体側面の開きっぱなしの覗き窓から見える窮屈な運転席は、二人の会話通りの事情が絡んでるらしい。


「ついでに俺たちでその原因をどうにかするって感じか? そうしないと帰りにも困るだろうしな」


 一度防御性をこんこん叩いて確かめてみた。

 するとだ、それに応じるようにハッチから誰かがごとごと登ってくる。


「――もちろんだストレンジャー、我々の今後の調査のためにも地下交通システムを正常に戻す必要があるからな」


 ゴーグルつきのヘルメットをかぶった西洋人らしい顔つきがすぐに見えた。

 くすんだブロンド髪をした苦労の強い顔――確かディセンバーだ。


「お取込み中だった? ノックして悪かったな。ディセンバーだったか」

「ああ、スティングからずっと連れ回されてるやつだ。今日はこいつに乗れとさ」

「そいつのコントロールはディセンバーの腕前にかかっとる。なあに心配すんな、スティングの戦いを生き延びたのは伊達じゃないぞ」

「戦車の次はこんな列車もどきだ。まったくいつまで車長を続ければいいんだか」


 ウェイストランドからのゲストはぶつくさ言いながらまたお戻りだ。

 頼もしい戦車もどきの小銃弾ほどは防げそうな装甲を撫でてやった。


「よいか? わしらの目的はあくまで向こうの調査じゃからな? もし手に負えんもんとかあったら退却して翌日火力マシマシで出直したるし、どうしてもだめじゃったら爆破して封鎖するぐらいの心構えじゃよ。つまりいのちだいじに!」

「だそうだぞみんな。他に確認しておくことはあるか? 車内サービスの有無が心配なやつとか閉所恐怖症のやつは?」


 一通り分かったところで俺は牽引車の手すりを掴んだ。

 昇った先の座り心地の悪そうな席はともかく、振り向けばみんなやる気だ。


「ファンタジー世界で地下鉄もどきに乗るなんてお前のおかげだろうな。こいつが地獄へ繋がってないことを祈るか」


 タケナカ先輩もおそるおそるで乗り込んできた。


「一番乗りだなタケナカ、俺はこの依頼が終わったら――いややめとく、こういう話はなしだ」

「こういうのは久々だ! 行くぞサイトウ、お茶とおにぎりも持ってきたんだ!」

「いや、思いっきり楽しむつもり満々じゃないですか……とはいえ、俺もちょっとわくわくしてますね」

「はーい皆さん乗車の時間だぜ、車酔いする奴はいねえよな? いたらお兄さんから距離置いてくれよ」

「行こう、みんな。えっと……どこに座ろうかな? いちクン、私の隣に座る?」

「また車か……クラングルが変なところに繋がってないといいんだがな。セアリは座席を壊さないようにするんだぞ」

「しゅっぱーつ! この椅子セアリが座っても大丈夫? ケツの重みで破壊されない?」

「セアリさんのことデカケツと言いたいんですかあなた方は、いいでしょうその膝に座って粉砕して差し上げましょうか?」

「ん、ご主人の隣でいい?」

「イチ様ぁ、うちのお隣にどうぞっす~♡」

「お前たちの和気あいあいとした様子は緊張感の欠如なのか余裕の表れなのか分からん。クラウディア、前に座って警戒しておけ」

「道中のためにお弁当持参してきたぞ! 旅人のやってる店で買ってきた!」


 それをきっかけにあっという間に全員の覚悟が座って満席だ。

 こんな仕事への姿勢にドワーフの気前は良さそうだ。向こうも次々戦車モドキに乗り込んだ。


『ようし、出発すんぞ! シートベルトはついとらんから立ち上がったりせんようにな!』


 開いた後部ハッチからスパタ爺さんの声が元気に響いた。

 すると魔改造済みのEVカートが静かに唸り始める。

 そうして俺たちの座る牽引車が二台仲良く引っ張られて、最初はゆっくり、次第に加速、段階を経た電気駆動がトンネルの深みへ進んでいく……。



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