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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
489/580

80 ドワーフがいる安心の職場

 がんがん。ぎゅりりり。

 ギルド支部の木造建築と景気の良さを、電動工具の音がぶち壊す。

 呆然とする冒険者やら、職員やら、ギルマスやらも「知ったことか」なリフォーム工事がいつの間に始まっていた。

 

「たった今からぶっ続けで配線工事すんぞおめーら! 屋根にブラックプレート取り付けるから誰か手伝え、小遣いやるぞ!」

「案の定壁とか傷んどるな、あの頃からよくもまあきれいに残っとるのう。よっしゃ修繕がてらドワーフ流にいじってやっか!」

「なんだよ、てっきり賑やかになってるから酒場復活してるかと期待してたら集会所になってるじゃねーか。まあしょうがねえか」


 世紀末色のある作業着やリグを着た爺さんたちが身勝手に忙しくしていた。


「タブレットにここの図面落としてあっからよ、それ参考に地下室作らねえか!」

「冒険者どもの力借りりゃ週で終わるわこんなん! まずは内装からな! 時計回りに行くぞ!」


 例えば、タブレット片手にざわめく室内を「ここからやるか」と物色したり。


「蓄電池設備とかどうすんじゃノープランで来ちまったぞわしら!」

「最悪外に増設するなり地下に作るなりしちまえ! おーい、道具とか運んどくれんかお主ら!」

「見た感じ床はまだ綺麗みたいだ。ついでに壁材も運んどくぞ親方」

「これが冒険者ギルドってやつか……もっとこう、幻想的で古めかしいのがさっきまで頭に浮かんでたんだけどな」

「これじゃ建物丸ごと古美術品だな。ストレンジャー、あんたこんなお洒落な場所で勤めてたのか?」


 付き添いのウェイストランド人に工事に使う資材を運ばせたり。


「あいつらの注文しとったラボとかどうする適当な部屋にぶちこんどくか!?」

「空き部屋いっぱいあるのう、よっしゃ大部屋もらい工房つくろ!」

「暇かおめーら、ドワーフのジジイどもから依頼あんぞ! 仕事に使う道具やら運んでくれりゃメルタくれてやらぁ!」


 車の馬力に物を言わせて運んできた旋盤やワークベンチの搬入を、そこらの力強そうなヒロインに『依頼』したり……。

 騒がしく現れた連中はまた一段とクラングルをこうやってお騒がせしてる。

 

「……俺は確かに「お前がまたなんか呼ぶんじゃないか」とは口にしたけどな、別に今すぐ呼べなんて言ってねえぞ」


 ギルド支部をいじくり回すそんな図にタケナカ先輩の戸惑いが向かってた。


「何か招き寄せる体質なのは覚悟してたけどこんなにも早いとは思わなかった。しかも全員俺の知り合いだ」

「ありゃドワーフってやつだよな? それと……外国人か? あれが全部お前の知り合いだって?」

「ああ、ドワーフの爺さんたちとウェイストランドの奴らだ。ストレンジャーの名前を知ってるってことは大体はいい奴」


 この間にも「運べ運べ」といろいろ運ばれて、ここが改築されてるのだが。


「おうバサルト坊主、元気しとったか」

「久々じゃのうバサルト、頼まれたから来てやったぞ。冒険者どもが賑やかにやっとって楽しそうじゃなここ」

「いやいやいや待ててめえら!? 何勝手に弄繰り回してんだ!? まずその説明をしやがれ!」


 ギルドマスターぐらいのミノタウロスがそれはもう困惑させられてる。

 いきなりずかずか入ってくるなり挨拶もなしに工事をおっ始められたらフランメリア人だって困ると思う。


「なあミコ。あっちにいた頃よりも爺さんたち生き生きしてないか? すごい勢いで工事してんだけど……」

「な、なにがあったんだろうね……? ていうか、勝手にここの改装しちゃってるけどいいのかな? いやよくないよね? ギルマスさんあんなに困ってるし……」

「ドワーフのおじいさまたち、なんだか楽しそうだね。みんないい顔してる」

「そっすねえ、おじいちゃんたち向こうで培った技術を遺憾なく発揮しておられるようっす。近代化しようとしてるっすよ」

「ウェイストランドの経験を遺憾なく発揮しておられますわね。ふふふ、あの転移で一番得をしたのはドワーフの方々かもしれませんわね?」


 ……本当に何やってるんだろうこいつら。

 生き生き二倍なドワーフの仕事ぶりにミコたちと困り顔を見せ合うも。


「市と国から許可は貰ってきたぞいバサルト。いきなりで悪いんじゃが、ここにわしらの仕事場作らせてもらうからの!」

「おうこれ書類な! ついでにギルド支部の修繕もしといたるわ! 床から天井までな!」

「費用の心配はせんでいいぞ、たんまり貰っとるしな! これでお互いWIN-WINじゃ! わっはっは!」

「これ工房作るなら増築した方がええじゃろなあ、よっしゃ壁ぶち壊して快適なの作ってやっか!」

「は!? 市……国!? いや待てどうなってやがんだジジイども!? 俺の知らねえところで勝手に話をすっ飛ばすんじゃねえ!」


 押し付けた小難しい書類を理由に、爺さんたちが配慮の欠けた工事を広げていく。

 次第に集会所方面から壁の破壊音が聞こえてきたけど、それすらも「OK」を出す何かのもとでああもやってるらしい。

 ドワーフ族のノリにヒロインたちも外からあれやこれや運び始めれば。


「……イチ、お前はあいつらの知り合いみたいだな? あの突然やってきて勝手に工事始まるような所業について何か存じてたりしねえよな?」


 そんな工事テロリストとの仲良し具合について、ギルマス直々に質問された。


「いや全然、誰か勝手に工事発注したりした?」

「そうか。あいつら人の仕事場でエンジョイしてやがるな、つーことは……」


 でも俺だって知らん。予期せぬリフォーム工事に「いいえ」気味に首を振った。

 そうやって古い壁が壊されるのを背景に疑いが晴れると、そんな合間にすたすた誰かがやってきて。


「いやはや、ご自由にとは言ったのですがまさかここまでやるとは思いませんでしたなあ。まあこれでタダでギルド支部が新品同様に生まれ変わりますぞ、バサルト殿」


 犯人としての価値しかないような奴がやってきた――アキ、お前か!

 地下スーパーにあったトヴィンキーでむしゃむしゃ糖分補充するその姿は、間違いなくこの犯人の振る舞いだ。


「ご覧の通りだぞギルマス。良かったな、アキのおかげで修繕費用が浮いてるらしい」

「お前の仕業かアキ!? 手短に言えこの馬鹿眼鏡野郎!」

「難しい話ではありませんよ。ちょうど彼らは新たな技術を世にお披露目したいと意気込んでおりまして、例の『地下交通システム』に手を貸す条件として、腕を振るうための活動の場をこの街に設けさせてもらう……という流れですよ。そうするにあたって都合がいい場所がここでして」

「なるほど、ここの居心地の良さにドワーフの皆さまがあやかりにきたと――おい、このこと報告連絡相談のどこにも触れてないぞどうなってんだ」

「そういうことか、市の連中はドワーフどもを抱えるならうちに押し込んどきゃいろいろ都合がいいって判断したわけか――っざけんな!? んな話一つも聞いてねえんだぞ!?」

「それがですなあ……彼らも冒険者ギルドの余剰スペースのことを覚えておられるようで、そこから『ギルド支部改造計画』に火がついてしまったようなのですよ。ロマンというやつですなあ、面白そうなので賛同してしまいましたよあっはっは」

「修繕するならまだしも壁ぶち壊して屋根もいじくり回してんだぞこの野郎!?」


 大体この眼鏡エルフのせいだったらしい、何笑ってんだお前は。


「……あ、あはは……こっちの世界に戻っても相変わらずみたいだね……?」

「それどころかもっとひどくなってね?」


 ミコも俺もウェイストランドな雰囲気が長続きしてることに安心したのやら、呆れたのやら。

 そんな様子から小奇麗なダスターコートに弾帯を飾ったおっさんの姿もやってきて。


「ま、あんたがいるって耳に届いたのがでかいけどな? スティングの英雄さんが活躍してるって聞けば、同郷のもんも気楽になるもんさ」


 スティングの市場で会った弾薬商人――『ヘキサミン』がよろよろ木箱を抱えてた。

 「開けてみろよ」と促されてみれば、そこに折りたたみストックつきのロケット弾頭らしい姿が見えて。


【勝利のコツその1! 笑顔で慈悲の一撃(ミセリコルデ)を!】


 と、正しい使い方が横腹に書かれた『スティレット』対物擲弾発射機だ。

 前より弾が少し大きくなってるし、細かな部分が変わって簡略化されてるようだ。


「スティレットか。お久しぶり、ちょっとイメチェンした?」

「ろ、ろけっとらんちゃー持って来ちゃってる……」

「爺さんどもに手を貸してひと工夫してやったぜ。なんでも『白き民』とかいうのに難儀してるみたいだからな、炸薬をちょいと調整して、充填量もぎりぎりまで増やして装甲目標、軟目標に広く対応できるようにしたのさ」

「なるほど、あんただったら火薬には詳しそうだからな。こういう時は「これからもよろしく」っていったほうがいいか?」

「伊達にスティングで何十年と火薬いじりしちゃいないからな、ドワーフ以上の経験とカンあってこそのこの人生だ。旋盤やら運んだから弾薬も作れるぜ、これからもよろしくな擲弾兵殿」


 ヘキサミンはフランメリアにあるまじき魔法の杖をどこかへ運んでいった。

 そこに軽々木箱を運んだドワーフも追いかけてきて。


「ヘキサミンのやつのおかげでわしらも火薬の造詣が深くなっとるよ。これお前さんのために作ったスティレットな、気に食わん奴いたらこいつでぶっ飛ばしてこい」

「あー、おい、まさか俺のために持ってきてくれたのか?」

「お前さん擲弾兵の奴らになんていわれとったか知っとる~?」

「さ~? せいぜいイチ上等兵か?」

大砲鳥(カノーネンフォーゲル)じゃとさ、その名通りにこの世界でもデカい一撃振舞ってやれ」

「大砲鳥……?」


 俺に新しいあだ名が増えてることをにやっと教えてくれた。

 スティレットで満載のそれをまたどこかへ運んでいくあたり、ここの攻撃力がまた一段と増していきそうだ。

 んで大砲鳥。殺人パン屋の次は今度は空飛ぶ生物か。


「ご主人が鳥……?」


 ニクも鳥類扱いに傾げた首で疑問を呈してる。

 「飛べないぞ」と開いた手で表現したが、俺の上官たちは知らない間に変な名前をお付けになったらしい。


「イチ様ぁ~♡ 一本貰ってきたっす~♡ 久しぶりっすねこれ!」


 それからロアベアがスティレットを嬉しそうに掲げながら戻ってきた。

 爆発物片手の危ないメイドに周りがざわめいてる。返してこいロアベア。


「おい、お前そんなのもらってどうするつもりだ」

「ロアベアさん!? なんでしれっとそれ持ち帰ってきてるの!?」

「せっかくなんでお屋敷に持って帰ろうかと思ったっす!」

「なるほど、それならリーゼル様のお屋敷も安心だな――返してきなさい」

「そんな~」


 発射器ごと爺さんたちの後を追わせた。

 ここのどこにこんな物騒なもんをため込もうとしてるのやら。

 向こうではもう止めようがないドワーフの進捗具合に、ギルマスも「もう好きにしろ」とばかりに諦め気味で。


「……もうこっちの財布が痛まねえっていうなら別に構わんがな。ただしドワーフども、うちに酒が絡むような場所は作るんじゃねえぞ」

「んなことわかっとるわいバサルト坊主! わしらがその辺配慮しないデリカシーに欠けた種族だと思っとるのか!?」

「すでにだいぶかけてると思わねえのかクソジジイども」

「ちゃんと外で飲むから安心しやがれ。こうしてみると、ここから酒場を遠ざけるっつーのは正解だったんだろうなぁ……昔はもっと荒れ果ててたよなこの辺も」

「あのときゃ入ってすぐ目の前で酒盛りするような場所だったよのぉ……これも時の流れよ、わしらも今にあわせてアップグレードしとかんとな」


 ちゃんと理解してくれるちっちゃい爺さんどもに(納得のゆかなさそうな)頷きを残して戻っていった。

 いいのかそれで、と俺含めた同業者たちが心配になるのは仕方ない。


「はっはっは。ああはいっておられますが、バサルト殿はドワーフたちに世話になった人生を送ってこられましたからなあ。よって心配はいりませんぞ、彼なりに信頼しておられるだけですから」


 と、アキがミノタウロスの背中を補ってくれたんだ、大丈夫なはずだ。

 良く知ってるようなそんな口調に周りも「そうなのか」と少し安心である。


「そ、そうなんですね……ギルドマスターさん、ドワーフのおじいちゃんたちと面識があったんだ……」

「というかですなミコ殿、あのお方もドワーフらしいノリにずいぶん振り回されてたのですよ。ずいぶん苦労のある面識だったのは間違いないかと」

「……わたしには今も振り回されてるように見えますけど」

「昔から気苦労の絶えないバサルト殿ですが、これからも続きそうですなあ」


 まあ、気にかけたミコによってギルマスのご苦労加減がこうして明かされたが。

 集会所あたりからのごりごりという音はまるで我が家が荒らされてる気分だ。

 実際に、そこで内観に壁材を重ねてチェックしたり、そこらをくりぬいて配線を施そうとしているところで。


「なんだいこのガチドワーフは、なにをしてるかしらんがわたしからリクエストだ。キッチンみたいなものをこしたらえてくれたまえよ」

「料理ギルドに相応しい場も用意してくださるとうれしいですわー!」

「いやなんで料理ギルドマスターおんの? ここ冒険者ギルドじゃよな?」

「なんでお主いるんじゃリーリム! まあいっか、ラボの隣に適当に作ったるわ!」

「さすがドワーフだ、わたしのだいすきなのりだぜ」

「さすドワですわ! せっかくですしじゃがいも畑も作ってくださいまし!」

「おいしれっとわしらに畑作らせようとすんなこの芋が! おめーわしらの里に芋畑作ったこと忘れんからな!?」


 料理ギルドの手も回って、更にここの機能性が向上しようとしてる。

 どうなってしまうんだろう冒険者ギルド支部。そんな不安が行き交うも。


「……ミコ、俺たちも手伝うか?」


 人手がまだ欲しそうな仕事風景を見て、なんだか手伝いたくなってきた。

 世話になった恩を少し返そうか、とミコたちに伺うと。


「ふふっ、手伝っちゃおうか? ドワーフの人達ならいい仕事をしてくれるから大丈夫だよね……?」」

「まあやってることはタダでやってくれる改装だ。俺たちの職場の快適さのためにひと働きするか」

「ん、ぼくもひと働きしたい」

「おじいちゃん手伝うからお小遣いほしいっす~♡」


 小遣い求めてダメイドがふらふら先立ったけど、俺たちも手伝うことにした。

 周囲のざわめきを抜けてタブレットの画面とにらめっこするドワーフがいた、近づけば「おおっ」と見てきて。


「まるで手伝ってくれそうな顔で来たじゃないの、イチ。とりあえずわしらの仕事道具をここに置いて最低限の用意ぐらいはさせてもらおうと思ってての」

「最低限だけでも忙しそうだな。じゃあストレンジャーの手はいるか?」

「おう、性別種族問わず手は借りたい状態じゃよ」

「あの、お爺ちゃん? わたしもお手伝いさせてもらってもいいでしょうか?」

「ミコの嬢ちゃんも手伝ってくれるなんておじいちゃん嬉しいぞ。よっしゃ、ちょっとあれこれ運ぶもんあるから空き部屋に持ってってくれんかの」

「了解、爺ちゃん。荷物は車にある感じか?」

「トレーラーとトラックの荷台に満載じゃよ、頼むぞ。なんだかお前さんとミセリコルデのが一緒にいると感慨深くて、ちょっとおじいちゃん嬉しい」

「ふふっ、わんこもいますよ?」

「ん、ぼくもいるからね」

「おおそうじゃったな、まったく再開するなりいい光景じゃないの」


 こうして一仕事任された、外にある車が積んだ数々の荷物がそうらしい。

 窓からはいいようにこき使われてるようにも見えなくない、そんな人間人外問わずの様子があった。

 周りを振り回すのは向こうで見てきた通りか、いつもどおりだな。


「おーいそこの坊主頭の! お前さんもちっと手伝え! 工房予定地に鍛冶道具運んどくれ!」

「勝手に改造されてるんだがいいのか、ギルマス……? キリガヤ、サイトウ! お前らも暇なら手伝え! ちゃんと金は払ってくれるみてえだぞ!」

「力仕事なら俺の出番だぞお爺ちゃん! 何すればいい!?」

「きょ、今日も冒険者ギルドは大騒ぎですね……? 一体どうなるんでしょうか、ここ……」


 そしてタケナカ先輩たちももれなくその仲間入りだ。

 なんやかんやで手伝ってくれる冒険者に、爺ちゃんたちはさぞご機嫌だった。


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