表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
485/580

76 九尾の子たちと芋の怪異(6)

 下半身に自由を求めた奴が二人も暴かれた。もう駄目だよこのパーティー、おしまいだ。

 けっきょく脱ぎ捨てられた下着はツキミ(ノーパン)の面倒見のよさがそっと拾い上げてくれたみたいだが。


「……いくぞノーパンども、さっさと終わらせよう」

「待ってくださいあにさま! それ九尾院フルメンバーを示してるんですか!?」

「コノハちゃん、まさかぱんつはいてるの……?」

「なんではいてるのがおかしいような形式で尋ねられてるのか理解できませんよ!? 殿方がここにいるのにそんな配慮に欠けたことに触れないでください!」

「畜生、あとでお前らのクランマスターに一言物申してやるからな」


 俺は身軽そうな五人(下半身的な意味で)を連れてまた進んだ。

 ぬるぬる歩けば開きっぱなしの扉だ、さっきエントランスでコノハに覗いてもらった通路がある。


『RTTTTTTTTTTTTTTTTTT……』『RTTTTTTTT』『RTTTTTTTTLLL……』


 曲がった先からあの音を感じた。

 数匹ほどがひたひた歩く調子もあった、こっちには気づいてなさそうだ。


(たぶん三匹か……影は差し込んでるな)


 通路の一角をそっと確かめた。

 差し込む日の光で【シャドウスティング】おあつらえ向きの環境だ。


(動きを止めるなら十分ですね。どうします?)

(俺たちで二匹止める。万が一の時はツキミに任せるぞ)

(はい、わたくしにお任せください……)


 振り向けば下着なき連中が物静かに頷いた、今やこの集まりは感覚的に連携がとれる仲だ。

 近づいた茶黒い狸耳に腰のクナイを抜いて。


(コノハ、こいつを使え。こっちの方が刺しやすいぞ)


 一仕事決める前にストレンジャー作の投擲武器を渡しておいた。

 輪突きの握りに油まみれの手でも心地よさそうだ、(ありがとうございます)とかすかに感謝が聞こえる。


「ゴー」


 いまだ、曲がり角から姿を出す。

 ばらけたポテトリフィドの群れがエントランスめがけて伸びている。

 身を晒せばクリック音が音色を変えた、三匹の緑色がぐりっとこっちを向くも。


「奥は無理ですね、手前の掃除から始めましょう」


 ずっ、と隣にコノハが続く。

 さっそく向こう遠くの敵へとクナイを投げ放ったようだ。


『RTTTTTTTTTTTTT……!?』


 そしてシャドウスティングが重なった、動きが一つ分止まる。

 続けざまに追いクナイだ、壁に影を作るもうやつにめがけて投擲。

 どすっと影を縫い留めた、口を開けた瞬間が止まったのを見て駆け出す。


「これで最後……だといいんですけどねっ!」


 クナイからの小刀へ切り替えた狸なニンジャの一撃がまず先だ。

 一足早く足止めを食らったやつが切り抜けられた、幹が裂けて致命傷だ。

 と思ったら羽を広げた茶髪ッ娘が滑るように横入りしてきて。


「滑ってたのしーーーーーーっ!」


 せっかくの油を生かして、滑空混じりの蹴り上げを決めた。

 ハーピー由来の爪先は剣のごときだ、止まった獲物を確実に切り落としつつ。


「ぎゃー」


 ……その先にいたもう一体を通り過ぎて、エントランスまで直行である。

 どういう転び方をしたのか受付からざばーんと音がした。

 お前の犠牲は無駄にしない。利き手の振りで迫った巨体を叩き斬る。


『RTTTTTTTTTTッ』


 油の無駄な滑りが災いした、半分の手触りだ。

 それと同時に中途半端に断たれたポテトリフィドがぎゅっとツタを絞るが。


「……たしかに動きやすいかも」


 ダウナーな声がついてきた。すぐにニクの黒さが脇を抜ける。

 駆け抜けてきた男の娘姿が跳躍、俺の隙を埋めつつ穂先でばっさり切り落とす。

 ついでに本当にはいてなかったのも理解した、二匹同時の撃破が決まれば。


「キャロル姉様――【セイクリッドプロテクション】!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおねえちゃんに任せろおおおお!」


 ツキミの防御魔法を受けたキャロルが大剣掲げて突撃だ。

 三枚の青い盾を纏って敵の間を抜ければ、慌てたツタが大きく払いのけるも。


 ――がきんっ!


 その勢いを音だけ残して無効化だ。

 続く連撃も弾かれて、小さな大剣使いはとんっと跳ねて勢いをつけると。


「てええいっ……!」

「キャロルねえさまスカート!? 見えてますからそういうの控えてください!?」


 剣の重み一杯にその首を斜めに刈りとった――ノーパンの証拠を誇らしげに。

 「ざっくり」された生き残りが虚しいクリック音を遺言に倒れる。

 今日一日で撃破数が激増したせいか、見事に決めたキャロルは最後にとても得意げな顔で。


「やったねみんな! これで館内の敵は全滅させたよ!」


 リーダーらしく俺たちの勝利を告げてきた。

 念のため開きっぱなしの部屋を確かめるも、どこにもあの巨体はいない。

 つまりやっと終わったってわけだ。油まみれになりながら。


「……とりあえずはここに研究員の尊厳が戻ったってわけか」

「……油でそこらじゅうねとねとしてますけどね、どうしましょうこの格好」


 残骸と油でまた一つあたりが汚れてるけど俺もコノハも「もう知らん」だ。

 つややかになりすぎて明るさ倍増、やかましさももれなくなキャロルも勝ち誇ったように大剣をしまうも。


「あっ……ピナちゃんは!? なんかさっきすっごい滑ったよね!?」

「ダイナミックに退出していったなそういや。いい感じにダイブした音が聞こえてきた気がするけど」

「ピナねえさま、もしかしてシーちゃんのいる水中に落ちたんじゃ……」


 どっかにつるっと消えたピナを思い出した、あいつはどこまで滑ったんだ?

 心配になってエントランスの光景に帰ってくると。


「あ、おかえりなさい皆さま。すごい戦いぶりだったみたいですね、もうあの芋の悪霊の化身みたいなのがいませんよ」


 俺たちの活躍を感じてたのか、そこでシーちゃんが待ち構えてた。

 オリーブオイルにだいぶ侵食された館内に少し嫌そうな顔だが、そんな彼女のそばでは。


「……すっごい冷たかったけどさっぱり!!」

「びっくりしちゃいましたよ、いきなりこの子が私の水路に飛び込んできましたから……派手な立ち回りをしたようですけど、ここの機材とかは壊してませんよね?」


 ずぶぬれの羽毛にちょっと寒そうにしてるピナがちゃんといた。

 まあ、この眼鏡人魚は俺たちよりも研究所の方がよっぽど心配らしい。


「犠牲者は今のところ俺たちだけだぞ。あとはあいつらがぶちまけた油でえらいことになってる」

「部屋に侵入してたお芋さんはいなかったからね! 通路がつるつるになっちゃったけど無傷です!」


 姉弟揃って「あんな感じ」と開きっぱなしの東側通路を示した。


「なるほど……ほとんど通路で処理されたようですね。いえ、それにしてもほんとにオリーブオイルを蓄えているとは……」

「いい知らせだ、別に舐めても大丈夫らしいぞ」

「お味も確かめてくれてありがとうございます。つまり当研究所は現在油まみれということらしいですね」

「不本意な形でな」

「はい、あなた達の姿を見ればとても分かります。このまま火が付いたら揚げ焼きになりそうです」

「そうなったらもれなく焼き魚と焼き鳥と焼き兎、焼き犬と焼きお姉ちゃん、それから焼きストレンジャーだろうな」

「そうならないように勤めてくれて本当にありがとうございます。ひとまずこれで館内は静かになったようですが……」


 シーちゃんは収穫されたポテトフィリドとそれに伴う油の流出に悩ましそうだ。

 そこからぐるっと反対側の通路を見れば、研究室の前で積み重なる数々に関心して。


「いつの間にこれほど増えていたんですね……栽培室に他の芽があるかもしれません、ただちに職員を呼び戻して回収しないと」

「回収? 処分の間違いじゃないのか?」

「気色の悪い生態系ですが食用油を生成するんですよ? これは大きな発見です、せめて一体は残してフランメリアの発展に生かそうかという考えまでに至ってますけど」


 あのじゃがいもぶん投げモンスターに見出すものがあったらしく、人様の苦労も知らずとんでもない発想に行きついてる。


「……ええ、まあじゃがいもは食べられそうにないですけどね」


 そんな様子にコノハが油のぬめりに苦労しながら何かを見せた。

 俺の目にはあいつらが撃ってきたじゃがいもがあるが――今気づいた。


「なあコノハ、その芋って……」

「……緑のじゃがいも?」


 ニクもかくっと首をかしげる、そんな緑色をしてたからだ。


「実は先ほどから撃ってきた芋を見てたんですけど、どれも青いんですよね……。食べられそうにないぐらい硬くて毒々しいのばっかなんですよ、あのじゃがいもお化けが撃ってくるのって」


 更に実践してくれた。もう一つ別のじゃがいもを取り出した。

 一見普通の慣れ親したんだ見た目をしてるが、小刀でしゃりっと皮を剥けば。


「……思いっきり有毒ですね、これ。ご存じかもしれませんけど、青いじゃがいもは食べられないただの毒物なのですよ、つまりゴミです」


 シーちゃんの眼前にどう頑張っても毒々しい色合いが残った。

 そう、あのじゃがいも全部毒だったのだ。ポテトフィリドどもはこんな形で自分の強みを見つけたらしい。


「じゃがいもとオリーブオイルが一緒に取れるっていうのがコンセプトじゃなかったのか?」

「なるほど、これは仮説なんですが品種改良の際にじゃがいもとオリーブが相反する作用をもたらしたと考えてます」

「じゃがいもとオリーブの相性が悪いって?」

「オリーブは日当たりが大事ですけど、じゃがいもは真逆なんですよね。日光浴びるとこんな風にソラニンっていう毒を生みまして」

「……太陽光駄目だったのか、じゃがいもって」

「そうですよ。お日様の光を受けてオリーブは育ちますが、じゃがいもは毒々しくなる一方です。そしておそらくあれはオリーブよりだったんでしょうね、日光で元気にはなるでしょうけど、じゃがいもは毒されるわけで……いわゆる相反するものですね」

「つまりコンセプトからしてもう無理だったんじゃないのか?」

「無理した結果がこれだと思います。じゃがいもの防御反応が極まって、ソラニンで対抗するどころか物理的に訴える手段を覚えちゃったんじゃないんでしょうか」

「じゃがいもを飛ばしてくるぐらいにか」

「ええそうですね。でも身体にオリーブオイルを蓄えるってすごいですよね、大発見ですよある意味」


 あまつさえ俺たちをぬるぬるにしてくれた油に何かしら価値を見出してる始末だ。

 まあ、そこまで良く喋り終えると。


「そうなると興味深いですね……他に何か変わった点はありませんでした? 良ければポテトフィリドがどんな様子だったか教えてほしいんですけど」


 今度はあの化け物の顔色について伺ってきた。

 依頼の一環と思って話してやることにした。仕方がなく。


「芋飛ばすわ叩きにくるわで迷惑極まりないやつだった」

「そうですね、迷惑してたのは我々もです。そばに置きたくないのは間違いないですけど」

「そういえばあのお芋さん、果物食べてたよね……?」

「思いっきり植物が植物食べてましたよシーちゃんさん、どうなってるんですかあれ」


 俺の第一印象はとにかく置いといて、キャロルとコノハの言葉に相手は首をかしげてくる。

 向こうも想定してなかったような情報みたいだ。


「シーちゃんさん……? いえ、あれが果物を食べるってどういうことですか?」

「二人の言う通りだよ? あのじゃがいもお化け、大きな口でメロンとかむしゃむしゃ食べてたんだ」


 寒そうなピナの証言も入り込めば、その様子はますますなもので。


「ん、お腹空いてたんじゃないかな……?」


 ニクがそういい出せば、はっと何か分かったような顔が浮かんだ。

 考えながらも続く言葉は。


「……多分ですけど、あの生態を維持するために体力をつける必要があったのではないかと思います。太陽のみに生きるにあらず、といいますか」


 考察だがあいつがフルーツ食べ放題に走った理由だった。

 そりゃあんだけ甘い果物喰えば身も心も満たされるだろう。

 そう考えれば栽培室を遮るように待ち構えてたのも頷ける。


「そうか、カロリーの摂り方が増えたみたいだな。その次はなんだ? 虫と小動物に続いて猫と人間か?」

「はっきりしてるのはフランメリアの発展に貢献するということですね、反面教師として。もし外に流出してたらとんでもないことになってたかもしれません……」

「下手したら外がポテトリフィドだらけだったかもな」


 あいつのやばさがようやくはっきりした、あれは人類を脅かす危険種だ。

 あのバケモンのヤバさをこうして確認したシーちゃんはよーーーーく頷いて。


「やはり処分するべきかもしれませんね、不慮の事故で流出しようものなら牙を向いて世界やばいことになるパターンです」

「よくわかってるな。ついでに言うと庭園にまだ一匹いらっしゃったけど」

「屋外のはもう燃やしてしまった方がいいですね。可能なら職員の皆様が戻る前に早急に始末をお願いしたいのですが」

「あんな場所で焚火していいのか?」

「あっちは見栄え重視ですからね、遠慮なくどうぞ。報酬も幾分吊り上げますので」


 研究所のため、あるいは都市のため、庭園にいる一匹の始末を頼んできた。

 報酬アップなら喜んで。みんなで納得して仕上げに取り掛かることにした。


「俺たち、知らないうちにクラングルの危機を救ってたみたいだぞ。5000メルタでな」


 油でぬるぬるしながら外へ出ると――太陽の温かさがいつになく染みる。

 具体的には気持ち悪い。これで世の平穏が守られるのは安いものなんだろうか。


「もしあのまま放っておいたらクラングルが大変なことになってたかもね! 早くやっつけちゃおう!」

「ああ、風呂のためにも」

「服がぐじゅぐじゅして気持ち悪いよね……おねえちゃんと一緒に入ろっか! 洗ってあげるからねっ!」

「チェンジで」

「おねえちゃんとお風呂入るの、そんなにいやなんか……!?」


 横に同じくぬるぬるなお姉ちゃんが意気込んでる。ただしはいてない。

 二人で光を反射しながら庭園に向かえば、木の床の道のりが見栄えのいい庭園まで続いてたものの。


『RTTTTTTTTTTTTTTTTTT……』


 問題はその奥だ。

 左右どこを見ても見栄え重視の植物の中に、一際妙な大きさがあった。


「……ところでちょっと質問。こいつ他よりボリューム感ないか、気のせい?」

「ご主人、これなんだか妙だよ……? 近づいても何もしてこないんだけど」

「ほんとだ、おっきいね……? もしかしてボスか? ボスなんか……?」

「ポテトリフィドってこんなに大きかったかなー? お花も紫だよ?」

「いやこれ、ぜったい普通じゃないでしょう……!? みなさま、気を付けてくださいね。これはなんかこう、ボスのフラグではないかと思うんです」

「なんて大きく面妖な……! お気をつけてください、ただならぬ気配を感じます……!」


 俺たちがぞろぞろ向かう先で、さっき人にジャガイモを打ち込んだポテトリフィドが根付いていた。

 今までよりも幅広い三本足が大きく落ち着いており、そういえば妙に輪郭が太い。


『RTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT……!』


 そいつは他とは一味違うクリック音、いや、唸り声をあたりに響かせた。

 足をぐぐぐっと重たく持ち上げれば、めくれた地面から植物らしい体が出てくる。

 そこでようやくわかった、そいつの『根』なのだと。

 戦車の横幅に匹敵しそうな半身を引きずり出すと、それは他とは違う紫の花の生えた頭をこっちにもたげ。


『RTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT……LLL!』


 世紀末世界の悪趣味さを投影したような姿が、相応の振る舞いで威嚇してきた。

 普通とは違うイレギュラーさを発揮して、胴に乗った幹から足も妙に伸ばしながら構える――やる気だ。


「……これ、やっぱりミュータントだよね。どうする?」


 が、ニクは世紀末世界寄りの姿に怯みもしてない。ノーパンぬるぬるも厭わず構え。


「おっきい……! でもわたしたちがやらないと! いくよみんなー!」

「こ、こんなのいるなんてボク聞いてないよー……! やるしかないの!?」

「いやおっきすぎますってしかも気持ち悪い! これもう一人5000でやる仕事じゃないですよ!? コノハ付き合ってられませんよもう!」

「なんて、おぞましい……! このようなおぞましきものは、見逃すわけにはゆきません……!」


 九尾院のロリどもも戸惑いも隠せず、それぞれの獲物に身体が動くが。


「なんだただのデカい敵か。シーちゃんのお願い通り早急に始末するぞ、全員下がれ」


 一方でストレンジャーは「待ってました」だ、デカい獲物はとっくに慣れてる。

 そいつに向かってクナイを抜いた、ただし絶好したら誰かの刺客に変わる方のだ。

 残念なことにたった今縁を切った――リングを引いて信管をONだ。


「あ、あにさま!? 一体なにするつもりなんですか!? 今かちっていいませんでした?」

「何って焚火だよ。全員伏せろ! フラグ投下!」


 柄の中でしゅうしゅういい出したそれを幹に向かって投擲。

 狙いは紫の花を咲かせた頭部、ではなく『腹』にあたる大きさで。


『RTTTTTTTTTTTT――!』


 ざぐっと先端がうまく刺さった。硬い表皮に確かに食い込んでる。

 その程度でやられれば苦労はしない。刺さったクナイを確かめて距離を置いて。


「全員退避! ドカーンだ!」

「なんですって!? 今なんて言いましたあにさま!?」

「ドカーン!」


 コノハから求められた説明にも応じてやりながら走った、その少し後だ。


*zzZZBaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaamM!*


 後ろから激しい爆発を知った。

 衝撃から逃れて振り返れば、万能火薬の爆発を食らってずたずたにへし折られる『ポテトフィリド』だった。

 しかもしみこむ油やらのおかげで一瞬で火だるまだ。地面にまだ埋まったアンバラスな身体ごと燃える。


「ほんとにどかーんっていっちゃった! なんてことするのいち君!?」

「ついでにこんがりだ。これで確かにトドメはさしたぞ、大急ぎでな」

「だからって爆破しますか普通!?」


 キャロルとコノハからお咎めありなものの、可燃性に満ちたそいつはツタをじたばたさせて火を味わって。


『RTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT……!!』


 金切り声みたいな叫びを最後に、まとった熱ごと地面に半身を打ち付けた。

 良く燃える体積がクラングルに白い煙を立てていく――派手な焚火ですこと。


(ど、どうしたの!? 何か爆発音があったけど、まさかあの人たちに何かあったんじゃ……!?)

「店長落ち着いてください! きっとイチさんの仕業ですから! 危ないから戻りましょうね!?」


 後ろで植物の焼けるいい香りが漂う頃には、門の方が騒がしくなってた。

 オリーブオイルまみれのまま向かってみれば、ラブホの店長が野次馬を兼業してる瞬間だ。

 向こうで燃える何かよりも、俺たちを見て驚きがいっぱいだったようで。


「ああどうも店長、片づけてきたぞ」

(す、すごいてかってるけど大丈夫なの皆さん……? ここで一体何があったのかな?)

「あ、どうも……? 店長が心配だから来ちゃったみたいです。それよりイチさんたちがてかてかしてて気になってるようですが……」

(ただならぬことがあったみたいだね。よかったらうちのお風呂貸しましょうか?)


 シュガリの店員たちも駆けつけてきて、じゃあどう説明すればいいのか困った。

 一度キャロルを見た。光沢の付いた金髪が油で一際輝いてる。


「オリーブオイル生み出すバケモンと戦ってきた。んでたった今逆に利用してやったんだ」

「じゃがいものお化けがいたからやっつけたんだよ! すごいでしょ!」


 お姉ちゃんと一緒に「やってやった」と研究所の方をアピールした。

 そこで、ちょうど油に回った火がぼふっと香ばしい火柱を上げた。

 あいつの油の染み込んだ体はただ派手な焚火を残すだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] このポマトから着想を得て生み出したみたいな素敵なトンチキ生物が、クリューサ先生の手によってスーパーバイオディーゼルに生まれ変わるなんて素敵な話だなぁなんて思ったけれど、ACⅥプレイ後だとコー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ