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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
480/580

71 九尾の子たちと芋の怪異


 ひどい騒ぎが過ぎてから少し経った。

 自分で神の使いだとか名乗り、頭おかしい持論を偉そうに押しつけがましく語り、騒がなきゃ見向きもされない連中は楽園にいった。

 ああ、もちろん重病者兼犯罪者としてな。

 偽りの終末に得意げだった馬鹿どもは人さらいと『白き民持ち込み罪』で逮捕だ。


 なんでも市民一同がやかましい演説の鬱憤を晴らすように協力してくれたとか。

 そこに総意と殺意が混じれば晴れてクラングルから追放だ。

 冷凍ブリトーで命を半分損ねた奴らは新天地へお勤めらしい。

 アキが言うには、重体になった皆さまは誰かさんに「天罰が下る」だのと元気に次をこぼしてるそうだ。


 なのでそのしぶとさに伝言を送ってもらうことにして。

『また会えたらご馳走してやるよ、良く冷えた方のな。心臓と脳どっちがいいかサインしとけ』

 と送った、悩ましい選択なのか返事はまだ来ない。


 こうしてやかましい口が閉じればクラングルも一安心……なわけもなく。

 今度は謎の地下空間である、いつの間に足元にあった異世界の建物に大騒ぎだ。

 構造や用いられている技術、そして未知数の危険から世紀末世界帰りのドワーフに協力を仰ぐことになった。

 それまで『地下交通システム』のトンネルはノータッチだそうだ。

 今や*突然の地下空間*は、珍しさに足を運ぶ市民や物色目当ての冒険者が交わる不思議な場所だ。


「――あいつらけっきょく何したかったのかほんと分かんねえ、勝手に盛り上がって全員病院送りにされたエンディング迎えただけじゃん」


 そんな背景のもと、集会所のどこかで幼馴染がつまらなさそうにしてた。

 俺はテーブル向こうで鼻で笑うサングラス顔を前にして、手元のR19突撃銃のパーツにオイルを垂らした。


「派手なことしてたけど、実際は十年前ガン無視された屈辱を晴らしたかっただけとかひどいオチだよな。勝手に作った教えに「十年後ここ滅びる」とか「災いやってくる」とか「悪魔がどうこう」あったのが、たまたまあの転移に重なるなんてすごい幸運の持ち主じゃないか?」


 トリガとそれに連なるバネやらエジェクターが見せる、機械らしい姿があった。

 指でそこに潤滑を広げた。トリガの根元から反対側に伸びる撃鉄まで馴染ませる。


「そりゃあ、そこまで熱心なやつらの足元にいきなりあんなんできたら奇跡か何かと豪快に勘違いするかもしれねえけどさあ。それが世界の終わりのサインとか飛躍しすぎだろ」

「大嫌いな人外の皆様が急に増えまくったせいで、あいつら世の中が終焉に向かってるって思いこんでたんじゃないの?」

「クラングルに住んでるくせにか?」

「元の世界でもいただろそんなの。で、適当ながあんな形で不幸にも重なって、何を間違えたのかテュマーが堕天使見えたそうだけど」

「そこからどーして妖精さん拉致して生絞りにするって発想が生まれるかね。ましてそれを白き民に捧げて「さあ召し上がれ」はねえわ流石に」

「ヒロインが気にくわないのと拉致するのにお手頃なサイズだったからじゃないか? ていうかそもそも白き民って口ないじゃん、どうやって飲ませるんだよ馬鹿か」

「もうどこからどこまで行き当たりばったりじゃねーか。何怖いって、本気でそれ信じちまってわざわざ馬車で白き民テイクアウトしたってところだよ。あいつらやべえわマジで」

「そのやべえやつらは今頃こぞって病院食で最後の晩餐してそうだな」

「二名ほど意識不明の重体らしいぞ。気の毒に」

「二名ほど半分楽園入りしてるな、良かった良かった」

「ついでに頭の方でも見てもらってるんじゃねえの」


 仕上げとしてトリガを引いた。かちかちっと軽やかな引きを感じる。

 グリップに潤滑油しみこむトリガ・システムをセット、セレクターも差し込んで元通りだ。

 続いて清掃した機関部を突撃銃の『ガワ』に差して、先ほどのパーツを組み込んでピン止めした。

 ぶっ放すのに最低限機構が備わったところで木製銃床を後部に固定して――清掃&組み立て完了。


「……なあイチ、こんな場所で物騒な話しながら銃整備するなよ。しかもなんだよその恐ろしいぐらい手慣れた動き」

「今日もイチ君殺意にじみ出てるねー……実は元の世界じゃ殺し屋だったりする?」

「そう言われたって俺は疑わないぞ。つーかここ数日、こいつらが冷凍食品でカルトの人達全滅させたことで話もちきりじゃねーか」

「みんな病院送りにしたんだってね。私たちが駆けつけた時すごい有様だったよねあれ……」


 完成した突撃銃に物申すシナダ先輩とその彼女がいたが、まあ無視するとして。


「そういえば床にパスされたクソジジイはどうしたんだろうな」

「ああ、半身不随だとさ」

「そうか、落ち着いた老後が過ごせるみたいだな。もしこれ以上お気持ち表明したらもう半身も揃えてやる」

「へっへっへ、じゃあお見舞いの品は決まりだな。冷凍ブリトーなら地下の冷凍庫にまだ突っ込んであるぞ」

「なら良かった、何かあったらお見舞いしに行くって予約も取ってある」

「ちなみにだけどあそこにある物資は酒以外好きに持ってけって話になったらしいぜ。ドワーフの爺さんどもが「150年ものはわしらのために取っとけ」って」

「なるほど、そういえばあの人たち酒好きだったな。帰還組の爺ちゃんたち元気にやってるみたいだ」


 タカアキいわく教祖様は地下スーパーの床と結ばれたみたいだ、もう現世には戻れないだろう。

 その他の有象無象が搬送先でくたばってようが知ったことか。

 そいつら(家族も含む)が報復しにきたら、うるせえ口を動かす前に45口径の低致死性弾で黙らせるつもりだ。

 ただし気分次第で致命傷になる。あくまで低致死性だ。


「あのなお前たち、朝っぱらから平然と物騒な話するんじゃないよ。冷凍食品で地獄を見せるわいきなり暇そうに来るなり銃いじり出すわで一際異彩を放ちすぎだおめーら」


 回収品のアルコールティッシュで手を拭いてると、シナダ先輩が絡んできた。

 その視線を辿ればもっと後ろの入り口近くで、ヒロインたちがたむろしていて。


『……パン屋のお兄さん、すごい大暴れしたらしいね』

『冷凍食品でみんな病院送りにしたんだって……』

『信者の人達が魔王って呼んでたそうだよ……」

『ミセリコルディアの人たちドン引きでしたよ……? セアリ先輩が地獄絵図って言ってました』

『っていうか、なんで銃のお掃除してるんだろう……まさかまだ暴れたりないのかな……!?』


 新入りらしい身なりが変わり者でも見るようにひそひそしてた。

 なんなら似たような視線の肌触りは四方八方からきてる、つまり俺は異物である。


「他に武器がなかったんだよしょうがねえだろ」

「冷凍ブリトーは武器だぜシナダパイセン、覚えとけよ」

「だからって迷いもなく人の顔面にお見舞いする奴がどこにいるんだよ。頭のおかしいやつらとはいえ、数十人相手が全滅だぞ?」

「あいつら大したことなかったぞ。でも追いかける時に手元に武器がなくてひどく後悔したのは確かだな、だから今日からパン屋の勤務中だろうが必ず備えとくことにした」


 まあ今に始まったことじゃない。完成した銃を今の気持ちと一緒に見せた。

 あの一件を踏まえて今後は必ず得物を忍ばせる。そこがたとえパン屋であってもだ。

 なお奥さんに話を持ち掛けたらあっさり許可された、カウンターには口径九ミリの短機関銃がスリープモードだ。


「どんな反省の生かし方だよ。あのパン屋に機関銃でも置くつもりかお前」

「惜しいな、短機関銃だ。奥さんがあんまり目立たなきゃいいってさ」

「へー短機関……っておいほんとに物騒なもん置きやがったこいつ!? いやあそこの奥さんもどうかしてるぞ!? いいのか店にんなもん仕込んで!?」

「これでまた何か起きても安泰だねー、泥棒来ても穴ぼこチーズ不可避」


 よく見せたところで突撃銃もクリーニング・キットも下ろして片づけた。

 先輩とその彼女のドン引きを今日も受け止めながらテーブルをきれいにすると。


「でもあいつらの定義する『悪魔』のおかげでクラングルが平和になったのは違いねえさ。街の人達も感謝してるし、行方不明者も無事見つかったし、市のご機嫌のよさがメルタって形で配られたろ?」


 カルトをぶちのめしてせいせいしたサングラス顔が隣から離れてく。

 人生でやりたいことリストの『カルトを足蹴にする』をこなしたのかご機嫌だ。


「つまりあれくらいやって正解だったってことだな。実際、事件に首突っ込んだ奴にけっこうな額が配られてるし」

「ま、俺たちからすりゃ気の行くままにただ暴れただけだ。昔いろいろあってああいう手合いマジ嫌いだからな、特にイチ」

「ああ、手元にこいつがあったら次の仕事は「ご遺体を棺桶に詰めるお作業」だったかもしれないぞ」

「何が言いたいかって? おかげでスッキリしたよありがとう、楽園に落ちろクソ野郎だ」


 すがすがしいサイコな笑顔でどこかへ行ってしまった。

 「どこいくんだ」と背に聞けば「地下スーパー漁ってくる」らしい。

 カルトに苦しめられた二人がカルトを苦しめるなんて皮肉すぎる話だ。


「あー……そういうので苦労したような感じだったか、お前」


 席から一人消えて間もなく、シナダ先輩は察したような口ぶりだった。

 もれなく同情もされてるようなもんだけど気遣いは無用だ、昔を思い出して鼻で「はっ」と笑った。


「答えはアル中で支配欲強い父親とカルトにはまった母親の不幸セット」

「うわあ、揃ってほしくないものがちょうど揃ってるな」

「だから俺は酒は絶対お断りだしカルトはあの世にお帰り下さいだ。おかげで反骨精神が鍛えられたよ」

「笑顔で言うことかそれ」

「大変だったんだねー、イチ君……こうしてみるとなんだか逞しいと思うよ」

「とりあえず、次またああいうのが俺の職場に押し掛けたらウェルカムサブマシンガンしてやる――あっそうだパン食う?」


 いろいろあったけど、今じゃカルトを潰しながら元気にパン屋務めだ。

 「マジでやる気じゃねーか」という先輩に鞄の中から紙包みを差し出した。

 『海岸都市』とかで取れた新鮮な鯖を焼いて解して、トマトと玉ねぎのサラダを挟んだ一品だ。


「この話の流れでさらっとサンドイッチすすめるな!? っていうかまた持ってきやがってお前は!?」

「鯖だー、お魚大好き! まさかネコマタに気遣ってくれた感じ?」

「シナダ先輩たちに食わせようと思って持ってきました。ちなみに心配するな、魚焼くの怖いから宿の親父さんに焼いてもらった」

「しかも重要な工程が他人まかせじゃねーか」

「ウキウキして買ったのはいいけど焼き方分からなかったんだ……!」


 こうして自分で焼いたパンに具材を挟むぐらいの趣味もできてるんだから、昔と比べて上等な生き方をしてる気がする。

 それと食べてくれる気のいい知人も。大きな二つを「どうぞ」と差し出した。


「まあ、くれるんなら昼飯にするけどよ……ただで貰ってもいいのか? 材料だってただじゃないだろ?」

「店のもんじゃなくて趣味で作ってるやつだから別にいい、その代わり感想教えてね」

「つくづく思うけどお前ってほんと変わったやつだよな。いや、スイッチ入った時とそうでないときのギャップの差っていうかさ……」

「訓練の賜物さ。でもまだ面接は怖い」

「お前はいつまで面接嫌いなんだよ」

「これでお昼ご飯はサバサンドだね、シナダ。あっ、次のサンドイッチはアボカドとマグロステーキとかどうだろう!」

「キュウコ、しれっとサンドイッチの具をリクエストするな」

「マグロステーキってなんだ……? ちなみにバックパックにまだいっぱいあります」

「どんだけ作ってんだよお前!? いやサンドイッチだらけじゃねーか!?」


 ついでに物足りないならまだあるよ、とバックパックの中も見せた。

 休みなのをいいことに包みが一分隊を賄えるほど詰まってる、作りすぎちゃった。

 お魚からピリ辛サラミペーストまで味わい豊かだ。おかげで三食サンドイッチになろうとしてる。


「まあ、なんつーかな、お前のそういう一面は大事にしておくべきだと思うぞ。お前からあそびが抜けたら正直ただのバーサーカーだ」

「じゃあ今の俺はパン屋兼バーサーカーなんか……?」

「混ぜるな。正直、隣に置くならそう言う攻撃力特化型の恐ろしいやつよりも親しみのあるやつの方がずっといいからな」

「趣味は大事だよイチ君、お魚サンド楽しみにしてるね」

「頑張って魚焼いてみる……」

「……冷凍ブリトーでカルト追い回してたやつがなんで焼き魚でこんなびびってるんだ。それじゃそろそろ依頼の集合時間だ、行ってくるぜ」

「いってきまーす、お昼ご飯ありがとねー」

「了解、お気をつけて二人とも」


 シナダ先輩とキュウコさんは「じゃあ行って来る」とお仕事へ向かった。

 話し相手がいなくなってしまった。さてどうする、誰かにサンドイッチでも配るか。

 そういえばニクはどうした? そう気が向いた時――


「……ん、こっちだよ」


 ダウナーな声を全身に感じた。入り口側にまさにじとっとした顔がある。

 スカートの後ろで揺れる尻尾がちょうど誰かを導いてて。


「おはようございます人間さん、あのとき助けていただいた妖精さんですよ!」


 そんな愛犬の背中からぱたぱたっと何かが回り込んできた。

 橙色の髪を伸ばした小さな女の子だ。

 笑顔が柔らかくて、ゆったりな白い服と鞄に『ストーン』の首飾りがある。

 ただし二十センチほどという補足がつきまとうが――この前の妖精さんだ。


「どうもそうらしいな、あの時助けた妖精が見える」

「ご主人に会いたがってるから連れてきたよ」

「そのせつはありがとうございました、人間さん! レフレクはこのご恩を一生忘れませんからね!」


 レフレクだった、ニクのジト声からしてこうしてお礼を言いにきたらしい。

 ちっこさに親さを浮かべて、耳をくすぐるふんわり声で近づいてくると。


「もしお困りでしたらレフレクになんなりとお申し付けください、この身をもっておにーさんに恩返ししますので!」


 底なしに明るくそう言われてしまった。

 ふわふわ浮いてる妖精サイズに、果たしてストレンジャーのどのあたりまで恩を返せるのか心配だ。


「あー……うん、そりゃどうも、まあ身の丈にあったお返しを期待してる。それと俺の名前は『人間さん』じゃない、イチだ」

「イチさんですね!」

「そう、んでこっちのわん娘がニク」

「ん、ニクだよ」

「ニクさんも! レフレクが必要なときはいつでもどこでも飛んで駆けつけますからね! フレンド登録をどうぞっ!」


 そして超元気だ。喜びいっぱいにフレンド登録申請が送られてきた。

 受諾すればとうとうフレンドリストに妖精ッ娘が追加だ、その名もレフレク。

 向こうも増えたフレンドに嬉しそうにしつつ、はたはた距離感を詰めてくると。


「…………おにーさんはレフレクの勇者さまです、えへへっ♡」


 一瞬、目と鼻の先にあった元気過ぎる幼い顔が急に熱っぽくなった。

 声だって「お前どうした」と心配したくなるほど音色が変わると、ほんのり恥ずかしそうに眼を瞑って。


 ――ちゅぅ。


 サイズ相応の小ぶりな唇が頬のどこかに当たった。少し長めだ。

 それでも確かに感じる柔らかい口当たりと人肌以上の温かさに目をやれば、てれてれした妖精が上目遣いで。


「……で、ではっ……失礼します!」


 ご機嫌な羽づかいで、弾丸のごとく集会所を突き抜けて退室してしまった。

 周りもキスの奇襲を受けた俺にうっすら困惑してる。

 ストレンジャーは何時からキス無料のフリー素材になったんだろうか。


「良かったなアバタール、魔王の次は勇者だぞ――くそっ、俺の周りにはスキンシップ強い奴しかいないんか……?」

「ご主人、またキスされちゃったね」

「もう慣れたよ。どいつもこいつもこうだ」


 ついでに「何見てんだ」も込めて周りを見てから、とりあえず視線から逃れようと足が動くも。


「――おねえちゃんだよ!!」


 間が悪いって言うのはこういう時を示すんだろう、青白ワンピースなロリがひょこっと現れた。

 見下ろせばクリーム色のふわっとした髪がドヤ顔つきで待ち構えてた。

 キャロルだ。相変わらず姉を称する不審さには目を瞑るとして、小さな手には破られた紙一枚がある。


「お前の朝昼晩の挨拶は「お姉ちゃんだよ」か? どうした急に」

「おはよういち君、今お暇かな? お暇だよね?」

「ああそうだな、居心地の問題で出てくところだった」

「お暇なんだね? じゃあおねえちゃんと一緒に依頼なんてどうかな?」


 しゃがんで視線を合わせると、そっ……と両手でその文面を持ち上げてきた。

 紙で隠れてしまった期待感のある表情の下では。

【農作物研究所で制御不能になった魔法植物を駆除してください-料理ギルド】

 と必要等級『カッパー』以上、現状お一人様5000メルタほどの価値があって。


「にーちゃんおはよー! 良かったらボクたちと一緒にどう? 来てほしいなあ?」

「あにさま、クラングルの歴史に乗るようなすさまじいことをしたそうですね。そのパワフルさにあやかってコノハたちのお仕事に手を貸してほしいんですけど」

「おはようございます、いち様。前触れもなく急に押しかけて申し訳ございません、ご助力していただければ幸いなのですが……」


 その後ろから元気さと気だるさとお淑やかさがぴょこぴょこついてきた。

 九尾院のメンバーだ、ピナリアにコノハにツキミだったか。

 鳥に狸に兎、ヒロイン的に置き換えれば『ハーピー』『バケダヌキ』『ヴォーパル』とかいう種族のガキどもで。


「……まるでついさっきノリで破いたやつをそのまま持ってきたみたいだな、そうだったりする?」


 そこに剥がしたての依頼書と比べてみればキャロルはふんすと強気になって。


「いち君が大活躍したって聞いたから、お姉ちゃんも街のためになることをしようと思ったんだ! 一緒にやろう!」

「……と言っておりますけど、実際のところはお菓子食べ歩きしすぎてお財布が空になったので小遣い稼ぎがしたいし、あにさまと親睦を深めたいから適当に見繕ったとキャロルねえさまは言ってます」


 やる気控えめな狸耳ッ娘、その名もコノハにより本音と建て前が表明された。

 ブリトー半殺し事件を終えたばかりのストレンジャーの先にはかなり切実な思いを込めた上目遣いがある。


「そんな理由で誘われるの俺初めてなんだけど、こういう時はどう返せばいい?」

「ぶっちゃけあにさまとニクちゃんいれば楽勝だと思うので、来ていただければコノハたちも気が楽になります」

「いち君にきてほしいな~?」

「そうか……」

「……だめかな?」


 次第に金髪ロリ一人分の切ない顔が訴えてきた。

 どうしてこの世界の女性どもは人様をフリー素材かなんかと定義づけたように扱ってるんだろうか。

 ニクの顔を伺っても「いいけど」みたいな感じだ、付き合えってのか俺に。


「依頼主が気になるけどお前らがいるしな……オーケー、だったら気分転換がてら、ついでにサンドイッチの具材代のためにひと働きさせてくれ」

「……あにさま、ほんとに冒険者の片手間にパン屋さんと化してますね」

「なんなら今もサンドイッチいっぱいだぞ、食べる?」

「ええ……」


 しかしこれでも全員『アイアン』等級なのだ。

 あの時みたいなクソデカゴーレムが出ない限りは安泰なはず。

 少し考えた末に答えを出すと、キャロルどころか他の面々もぱあっと明るい表情で。


「ほんと……!? じゃあおねえちゃんと一緒に受けよっか、頑張ろうね~♡」


 姉を称する変なやつが心底嬉しそうに抱き着いてきた。

 親しみが籠りすぎて、絡みつく腕が二度と離さんばかりの馬鹿力を発揮してる。


「カルトの次は魔法植物か――っておい待て、依頼の場所が市内だぞこれ。まさかと思うけど制御不能云々がクラングルにいるとかそういう話じゃないよな?」

「それがね、街の奥に研究所があるんだって。そこで研究してたすごいのが逃げちゃったから助けてほしいみたい、まずはそこにいって依頼について話すところからだね!」

「なんでその脱走するようなすごいのを都市で研究してるんだよ、大丈夫かクラングル。いや大丈夫じゃないな、地下スーパーで喜んでるようなやつばっかだし」


 まあ、カルト案件よりは気楽なもんか。

 行って来ると周りに一声かけて受付へ向かった――ちっちゃい姉を抱っこしながら。


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