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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
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69 うおおおおおおお冷凍ブリトー冷凍ブリトー冷凍ブリトー冷凍ブリトー冷凍ブリトー(略)


「あ――ああ! なんてこと! 我が兄弟カインドが……!?」

「きょ、兄弟!? しっかりするのです! 兄弟ぃぃぃ!」

「兄弟がやられた! こ……この悪魔ども!?」


 ぶっ倒れた誰かに続くのは信者のおばちゃんだ。

 唐突の冷凍食品に、いっぱいの白髪と妙に輝いた目が慌てふためいてる。

 倒れた誰かさんを抱きとめ、ざわめくご同類を周りに険しい顔を始めて。


「よくも兄弟を……! その悪しき行い、我らが神はお前たちを決して」


 まっすぐな背筋で「よくも」から始まる何かをぎゃーぎゃーいい出したので。


「こんにちは! ブリトーをどうぞ、死ね!」


 めんどいので【朝食用ブリトー】をぶん投げた。

 開きかけたお口に具沢山が祟ってぐしゃっと沈黙、あまりのお味に説教は赤白混じりのどろどろで途切れた。


「ぎあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

「ようこそ冷凍ブリトー祭りへ! 野菜はいかが? 召し上がれオラッ!」


 口を押えて騒ぐ様子にタカアキの追いブリトーがかけつけた。

 鼻先に菜食主義を謳う緑色が当たってぶっ倒れる。

 偉そうなご老人も「は、早くいけっ!」と促して、クロスボウを抱えた信者たちがたじろぎ半分で押しかけるも。


「我が姉妹もやられた……!? この悪魔どもがぁぁぁぁッ! 我々の儀式を妨げるどころか、大切な家族に」

「あ、そうそう。これ温めると体力回復アイテムになるんだわ」


 と、タカアキが説明混じりまた何かぶん投げた。

 氷を纏った【スシ・ブリトー】だ。

 まずそうな絵柄が飛んだ、見開く目に150年ほどの重み(具材重量込み)が沈む。


「おああああああああああああああああああああ……っ!?」

「このブリトー食えるのか?」

「そりゃあ冷凍食品だから食えるだろ。うまいから回復量もすごかったなそういや」

「じゃあ後で食うか」

「おう、プルドポーク&チーズは投げるなよ」

『なんだあいつらは!? またやられてしまったぞ!?』

『ひっ……怯むな! 誰か行けえっ! 追い詰めてるのはこっちなのだぞ!?』

『師よ、お待ちください!? どこへ行かれるのですか!?』


 こに冷凍食品、攻撃力が高い。こうして重なる犠牲者に向こうは大混乱だ。

 しかもこれ食えるらしい、美味しそうな味は残して他はお見舞いしてやろう。

 二人で段ボールを覗けばまだまだ数多のブリトーがぎっしり待ってる。


「――どけお前たち! もたもたしてないであの悪魔を早く射貫いてしまえ!」

「白き神の仇だッ! 死ね、冒険者ども!」


 そこにまた何人か押しかけてきた、致死的に満足した仲間を押し退けてくるも。


「ビーフ&ポテトは?」

「じゃがいもはいらね、ビーンズ&チーズは?」

「豆より肉食いてえからパス。おっスパイシータコス風味だ」

「オーケーいらない味はこっちに寄せろ。今から全部お見舞いしてやる」


 二人でいらない冷凍ブリトーを取り除いておすそ分けした。

 厳選したまずそうな味をぶん投げれば、先立つおっさんの怒り顔に『肉&芋』が衝突だ。

 「ぐああぁッ!?」と脳機能を損ねたように崩れた、だけど敵はまだまだ来る。


「よお皆さん、ブリトーのおすそ分けだ」

「いっ……!? なんなんだこいつ……!?」

「悪魔だ! 早く撃て! 撃つんだァ!」


 まずそうなのを一気に抱えて立ち上がった、すげえ嫌に感じるであろう笑顔で。

 仲間がどんどんやられて向こうは「ひぃっ!?」と怖気づいてるようだ。

 狙いを損ねた矢が倉庫の在庫をぶち抜く。対してこっちは胸いっぱいの不良在庫で。


「オラッ! 召し上がれッ!」


 カチカチに凍えたブリトーをそいつら目掛けて解放した。

 豆とチキンのお味が第二射間近の信者に命中、怯える顔が潰れた。

 続けざまに南米風米料理入りを付き添いの一人にプレゼント、額をカチ割る。

 ダイナミックおすそ分けで信者のおばちゃんにひき肉&豆の重みも召し上がれだ。


「ああああああああああああああっ!?」

「だ、だめだ……こいつ強あがぁっ!?」

「なにをするのおうふっ!?」


 【ラピッドスロウ】乗せの冷凍ブリトーにカルトどもが罰された、総崩れだ。

 まだ在庫はいっぱいある、入り口向こうの姿にもあらん限りぶん投げる。


「あいつ一体何を投げあああっ!?」「痛っぎゃああぁッ!?」「逃げうふっ!?」


 左腕いっぱいに抱えた冷凍ブリトーを無遠慮におみまいした。

 投擲スキルが乗ったカロリーに『行くかどうか』で躊躇う顔が損なわれていく。

 すごい威力だ……! 信者たちの勢いがどんどん向こうから散ってる。


「お兄さんからも召し上がれ☆ チーズ&ハムはいらねえな喰らえっ!」

「トマトパスタ入りはまずそうだ、くれてやるよオラッ!」

「ベジタリアンミートは論外だ、これでも食ってろクソカルトどもがよぉ!」

「逃げろッ! あいつは……本物の悪魔だあふぅ!?」

「に……逃げろおおおおおおおおお!」

「待てどこ行くんだよ!? 置いてかないでくれ! 待ってェェェ!?」


 また誰かがブリトーの犠牲になれば、白い方々がわーわー騒いで逃げ出した。

 入口周辺に重なった被害者に何人かが足を取られるほどの勢いだ。

 逃げ遅れが悪夢でも目の当たりにしたような顔で這ってる――もう逃がさないぞ♡ 

 そんなやつらに印象深くしてやるため、タカアキと「にっこり」してやれば。


『……お兄ちゃん、俺たち悪い夢でも見てんのかな。なんだよあのやべえの』

『悪夢そのものですよあれ……妖精さん、ちょっとあまりにおぞましいので見ちゃだめですよ。救援来るまでここで大人しくしましょうね』

『な、なにがおきてるんですかー……!?』

『ここにちっちゃい子いるんだぞ、配慮してくれよあの人たち……』

『しっ、今は黙っておきましょうね弟よ。こっちもお見舞いされますよ』

「追うぞタカアキ! まだまだいっぱいあるからなぁ!」

「ヒャッハー! おかわりいっぱいだ遠慮すんなよぉ!」


 後ろで兄弟のドン引きが届くが、構わずタカアキに箱を持たせて駆け出した。

 床上で大人しくなった方々を踏みにじれば、白い背がこぞって広場へ逃げてる。


「うわあああああああああああっ!? 来たっ、来やがった! 早く逃げろみんな! 殺されてしまうぞ!?」

「やっぱり本当だったんだ! あれは悪魔だ! 師の教えは正しかったんだぁぁぁッ!?」

「師よ! 置いてかないでください! ああああ悪魔が、悪魔があぁぁッ!」


 人のことを悪魔かなんかと定義したい連中が命からがらのご様子だ。

 本気の走りにもつれた何人かが取り残されようがお構いなし、悲鳴混じった生き様が助けを求めててた。


「魔王の使いめ! あなたの行いは必ずしかるべき報いが回るわ! 今に見てなさい、白き神はあなたがたを――」


 中には現世への逃走をあきらめたおばちゃんが堂々と説教を始める始末である。

 お前らの罪はこの冷凍ブリトーで罰してやる、パッケージを掴んで駆けた。


「オーケー分かったブリトーをどうぞおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

「神は我らと共にいや、いやっいやあああああああああああああがああっ!?」


 逃げようとしたようだが、カッチカチに凍えたブリトーを顔面に叩きつける。

 目の間にかなりずっしり入ったはずみで、派手に壁に当たって物静かになった。

 どうやらチキンとライスは気にくわなかったらしい、次の獲物はどーこだ。


「来ないでっ! 来ないでえええええええええええ!?」

「おらっ! ブリトー喰らえッ!」


 立ち直ったばかりの信者を発見、今度は幼馴染が追いうちの冷凍ブリトーだ。

 首に刺さった、「おぼう!?」とこの世で一番苦し気な声を上げてダウン。

 ぎせい……希望者が他にいないかと早足で物色すれば、スイングドアをばぁんと破った先で。


「きょ、兄弟たちが……! う、うわああああああああああッ!?」


 パスタ用のソースの間であたふたする奴と遭遇、迷った挙句に鈍器を拾った。

 半狂乱な様子にはやっぱりブリトー……ではなく、幼馴染が箱を捨てて寄り添い。


「兄弟の元へご案内だ! 死ねェェッ!」


 すっげえ楽しそうにドロップキックをお見舞いした。

 退け腰の構えが退け飛んだ、ボロネーゼやらペストやら巻き込んで棚ごと崩れ。


「来た……!? あっあっああ……く、来るな来るな来るな……!?」

「こんにちはブリトーどうぞ!」

「いかれてる……! この頃の冒険者はおかしいやあああうっ!?」


 こっちは朝食コーナーに隠れる信者を発見、冷凍ブリトーを後頭部に進呈だ。

 箱を抱えて進めば広場へ逃げる数名を発見、追いかけながら背にご馳走を振舞う。

 逃げ遅れたちはさっきの儀式の場に逃げ道を求めてる、冷たい飯を食わせてやる。


「冷凍ブリトーをどうぞ! 遠慮するなオラァァァッ!」

「おいブリトー食わねえか! お見舞いしてやるぞ!」

「みんな逃げろ! あいつはあのキラーぐげあああああああああっ!?」

「み――認めんぞ……! あんなのが冒険者だと!? あんなのただの首輪のない狂人があああああああぁぁ!?」


 二人で手当たり次第に投げてると、がんっ、とそばに矢じりが伝わった。

 横合いの150年なお健在のパンの袋から辿れば、広場の方に白色が集まって。


『迎え撃てェ! 何をしてる! 矢を放ってこちらに近づけさせるなぁ!!』

『しかし、まだ同志たちがあそこに……!』

『構うもんか! 撃っちまえ! 俺たちがやられるんだぞこのままじゃ!?』

『師よ、もう矢がありません! ここは退くべきです!』

『馬鹿者、たった二人だぞ!? このまま逃せばもう我々には後がないのだ! 確実に始末しなければ……!?』


 さっきの偉そうなご老人がそこで指揮を取ってるようだった。

 乗り気じゃないやつらのおかげで命中精度はひどいものだ、少し良ければ簡単に射線が外れる。

 とりあえず集まる皆さまに冷凍ブリトーを投擲、遠くで誰かの脳を打ち据えた。


『ぎゃあああああああああっ……!?』

『あああああっ……!? もうだめだ! 俺たちは悪魔を怒らせたんだ……!』

『逃げろおおおおおおおおおおお! もう付き合ってられるか、何が白き神だあああああっ!』

『逃げるな馬鹿者! こらっ! 神を見捨てる気かァァァッ!?』


 擲弾兵によるブリトーの一撃は意外と反響を呼んだらしい、悲鳴という形で。

 際立つ白さのおかげで逃げ道を追うのも容易い、もう一つの出口は向こうありそうだ。

 ところが――


『おいなんだこの騒ぎは!? まさかあの馬鹿野郎なんかやったなそうだな!?』

『みんな、こっち……! ご主人のにおいがする!』

『いちクンまた暴れてる……!? 早く! 急がないともっと大変なことになっちゃうよ!?』

『待てどうなってるんだ説明しろミコ!? こんなものが地下にあるわあの信者どもが軒並み倒れてるわで理解がおいつかんぞ!?』

『ぎゃー何ですかこの死屍累々は!? 冷凍食品と一緒に血の池が完成してるんですけど!?』

『えっこれ死んでないよね大丈夫!? 団長の目の前でスプラッターなこと起きてるんだけど、まさかこういう儀式だったりしない!? それか悪魔でも召喚した!?』

『なるほどキラーベーカリーという名は伊達じゃないようで……うわあ……!?』


 ずっと後ろからものすごく騒がしい調子が追いついてきた。

 タケナカ先輩の怒声から愛犬の心配さ、更にはミセリコルディアの悲鳴とミナミさんのドン引きな様子すらある。

 さすがにそんな声が混ざれば、広場で待ち構える連中も狼狽えたようだ。


「くっ……くそおおおおおおおおおおおっ! 認めんぞ! こんな終わり方など、私は認めんぞおぉぉぉ!」


 身構える白い集まりの後ろで、ご老人がついに神様を捨て始めた。


「じゃあブリトーでもどうぞ!」


 だが逃がさん、スパイシーチリの絵面を掴んで後頭部に放り投げる。


「十年にも及ぶこの屈辱をまた味わえというのかそんなおっっっっふぅっ!?」

「こっ……降参だ! 降参する! 頼む命だけはぁぁぁ!?」

「師が……! もう終わりだ……どうか助けてくれ……!」


 メキシコ料理の歴史がそいつを転ばせた、そうなってしまえば周りは武器を捨ててお手上げだ。

 引退した信者をどけて追いすがるが、教祖様はそれでもなお立ち上がろうとしてる。


「だったらてめえが味わうのは冷凍ブリトーだ! おらっ死ねッ!」

「ブリトーが足りてねえみてえだなぁ! はっはぁぁっ!」


 二人で追い打ちだ、おいしくなさそうな冷凍ブリトーをご賞味させた。

 よろよろ逃げ出そうとした姿がごっ、ごっ、と連続直撃に怯んだ。

 諦めのついた信者たちは「どうぞ」とばかりに散っていく。


「く、おっ……おのれぇぇぇ……!?」


 ようやくたどり着いたクソジジイは痛そうにしながらもまだ逃げようとしてる。

 ならここで決着をつけてやろう――ブリトーを手放した。


「逃がすなタカアキ! ここで確実に仕留めろ!」

「ヒャッハー! 逃がすかよぉ!」


 そのままよろめく教祖様を囲んだ、真っ赤な顔からお気持ちが出かけてる。

 二人で「こいよ」と小躍りしつつ招いた、すると歯をむき出しに立ちあがり。


「この悪魔どもがあああああッ!? 貴様らのせいで、あの時の私の屈辱が――!」


 タカアキへと突っ込んでいった。手には隠し持っていたであろうナイフだ。

 ところがあいつはそんなの知ったことかと刃先の軌道で屈んだ。

 攻撃が成り立つよりも早く、狙いを外して足がもたつく教祖様へ潜り込むと。


「うお、おおおおおおおおおおおおおお……!?」


 刺突の動きでがら空きになったそいつの腰を掴んで、ぐっと持ち上げた。

 空振りした挙句ふわっと浮かされさぞ驚きだ、ところがこっちに身をよじり。


「へいパーーーーーーーーーーーーース!」


 ……何考えてやがる、掲げた『師』をこっちに流してきた。

 浮遊感に「んふぅ!?」と息を飲むご老体が飛んでくる。

 後は煮るなり焼くなりお好きなようにする権利が与えられたようだが。


「パアアアアアアアアアアアアアアアアアス!」


 承った。送られてきた教祖様を背中で受け止める。

 ――と見せかけて後ろに転んで地面にパス、罰を込めて背中から叩きつけた!


「や、やめろおっぐぉぉ!?」


 あの世寄りへのパスに教祖様もご満足だ、かなり苦しそうにぶっ倒れた。

 信者たちがこの世の終わりでも見たような顔をしてるけど「どうぞご自由に」というサインということにしておこう。

 そういうわけでこのジジイの余命は俺たちのものだ、タカアキとハイタッチした。


「よし、どうしてやるよこいつ」

「こんなんギルドに納品しちまえ。へっへっへ、もう逃げ道はねえからなぁ?」

「じゃあ楽園に連れてってやるか」


 今後の処遇は即決定した、納品所にぶち込んでやる。

 「おぉぉ……!」と死にそうな声の教祖様でファイヤーマンズキャリーを作ると。


「いちクン、大丈夫なの!? 今助けに…………ええ…………」


 やっと後ろから相棒が駆けつけてきた。

 杖を握って実戦モード全開なミコが一番だが、この有様に喉が硬直してる。

 続くミセリコルディアの連中も「ええ……」だ、どう理解しようか困ってた。


「……こういう時、お前が無事だったこととに喜べばいいのか? それともこの地獄みてえな光景について問い詰めりゃいいのか? 死屍累々じゃねえか」


 タケナカ先輩たちもぞろぞろ押し掛けた頃だ。

 こっちを見るなり、取り残された信者どもと一緒に困惑した様子である。

 次第に「師を助けて」とか「師よ、どうか」という声も混じってきたので。


「じゃあ後頼んだ、このクソ野郎納品してくる」

「えっ――ちょっと待っていちクン!? 今なんていったの!? 納品って!?」

「おいそいつどうするつもりだお前!? まさか……」


 このままギルドにお届けすることにした――!

 信者どもの未練もここできれいに片づけてやろう、広場の奥にある通路へ向かった。


「ヒャッハァァァッ! 納品だぁぁぁッ!」

「止めれるもんなら止めてみやがれえええええッ! あっちなみにそこにでっかいテュマーいるから気を付けてね!」

『やっぱりいちクン暴走しちゃってる!? だっ誰か止めてぇぇ!?』

『……いや、ああなっちまったら好きにさせとけあの馬鹿野郎は。とりあえず俺たちはここにいる連中を捕らえるぞ、今のうちにギルマスになんて説明するか考えるしかねえよもう……』

『い、いっぱい人が倒れてますよタケナカ先輩……!? こ、これ死んで』

『死んでないよホンダ、まだ半分生きてるみたい。なんであの人、変な人たちに捕まったと思ったら総半殺しにしてるんですか……』


 仲間たちもクソジジイにすがる信者も振り切れば、そこに【地下交通システム】と通路を発見。

 三人で邁進すると、すぐにあの小さなトンネルとレールが走った空間に触れた。

 歩道橋を抜ければやっぱり階段も構えられてた、感覚的に街の北西のどこかに通じてそうだ。


「やっぱりあったか……どのへんだ?」

「地下スーパーの構造からして多分北西のどっかだろうな。問題は通じる先だぜ」


 しばらく段を踏まないうちに温かい空気を感じた。

 そうして上り切って先はどこかの一室だ。

 質素な内装と整えられたベッドがある。まるで今なお使われてるような営みに匿われてるようだが。


「――はっ!? 我らの師が!?」


 そこへ部屋の外から第三者が来る。都市住まいの身なりをしたおっちゃんだ。

 一般中年男性は不法侵入を果たした俺たちを見るなりひどく身じろいでる。

 まあ、その手には片手斧が握られてるわけだが。 


「いまだやれ、タカアキ!」

「こんにちはブリトーです!」


 邂逅間もないブリトーが最初で最後のご挨拶になった、頭蓋骨への衝撃に倒れる。

 そういうことか、ここは信者のお住まいでこうやって匿ってたわけか。

 ぐったりする教祖を背にドアを蹴とばせば、あの入り組んだ路地裏も見えてきた。


「なるほどな、北西が怪しいっていうのも大当たりだったらしいぞ」

「やっぱりここらに隠れてやがったんだな。ったく何するつもりだったんだか」


 二人で存分に呆れてから、覚えのある道を頼りにギルドを目指す。

 見える複雑さを東へ横切るようにすれば、人通りの多さがすぐ触れた。

 道行く人々が「なにあれ」と不思議がってるが知るか、突破だ。

 次第にヒロインや日本人も見えてくれば「なんだあれ」と視線が飛ぶが。


「――いいか良く聞け、お前たち! あんな馬鹿でもここの仕事仲間だ、あいつらが何しでかそうとしてるかはともかく俺たち冒険者を舐めてやがることには違いねえ! クラングルのために一仕事しやがれ!」


 そんなものもガン無視してホールに帰ってくると、ギルマスの厳つい声が響く場面と鉢合わせだ。

 そこで新米先輩問わず、人間ヒロイン等しく混じった連中が硬く向き合ってた。

 受付前で構えるミノタウロスが鼻息荒く覚悟を決めさせる傍らでは。


「いやはや、大騒ぎですなあ……というかたった今、とんでもないものをお持ち帰りになられた方がおられるようですが」


 緑髪の眼鏡エルフが他人事のようだけど、もちろんすぐに気づいてくれた。


『……あれ、あいつ帰ってきてね?』

『イチさん帰ってきてんじゃねーか良かった』

『あっこれ自力でどうにかしちゃった奴ですね』

『パン屋のお兄さんこのタイミングで帰って来ちゃった……』

『ジャガイモ入りフォカッチャください……』


 アキが「お帰りなさい」と手を振れば、この緊迫が崩れたのは言うまでもない。

 何時にもなく厳しい顔をしてたギルマスも「は?」と呆気に取られてる。

 まあそんなのどうでもいい、唖然とする様子を素通りして受付の端っこについた。


「こいつを楽園に入れてやれ、病院食が出る方のな」

「変なカルトのおじいちゃん確かにお届けしました、そんじゃ」


 【納品所】と書かれたブースに背負ったおじいちゃんを放り投げた。

 「おうぅ」と苦し気に出荷されたブツに担当のお姉ちゃんがとてつもなく嫌な顔だけど、後はぶん投げて逃げた。


「…………いや、お前ら、一体何があった……?」


 一仕事終えてすっきりしてると、周囲のざわめきを乗せてギルマスが伺ってきた。

 どう説明しようか。とりあえずタカアキの段ボールからブリトーを取って。


「街の地下に白き民を連れ込んだカルトがいたんだ。んでたった今黙らせてきた」

「首謀者はそこの背中やったお爺ちゃんだ、たっぷり尋ねるといいぜ」


 【スパイシービーフチリ】と描かれた冷凍食品を見せつけた。

 「ええ……」と困惑極まりない様子が返事だったが、まあ後は一任しよう。

 しれっとカチカチの雄っぱいにタッチして後はよろしくと伝えると。


「その方たちもお気の毒ですなあ、よもやあなたと関わってしまうとは死亡フラグを掴んだようなもので。それで何があったのか教えてくれますかな?」


 久しぶりに会うアキがすたすたついてきた。

 お気に入りのスラックス姿はどうも事情聴取を引き受けたような感じだ。


「アキか、どうもお久しぶり。悪いニュースとして言わせてもらうけど、どうもクラングルの地下に転移した建物があったみたいだ」

「アキの兄ちゃんじゃねーか。いやそれがな、向こうの地下建造物が丸ごと転移したみてえでよ、そこに変なカルトが居座ってて……」

「それは大変ですなあ……まあ"ストレンジャー"の名に恥じぬ活躍ぶりで何よりです。ひとまずお茶でもいかがですかな? いろいろイチ殿のお話は楽しく耳にしておりますよ」

「今日で解散したよ。ブリトー食べる?」

「またその手の輩をやっつけたようですな。ところでどうして冷凍食品など抱えておられるのですかね?」


 ギルドの空気が戸惑ってるけど、構わず今日の出来事をゆっくり語ることにした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] きっとこのブリトーのパッケージは虚無った表情の三日月顔が描かれてるはず そしてカルト信者を追い回す二人の走り方は癖の強いあの独特なフォーム((´∀`*))ヶラヶラ
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