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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
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46 狩人からのご案内


 ――それから、例の依頼をこなす時がとうとう訪れた。


 夜明けが過ぎて間もなく、俺たちはギルド支部二階の談話室に集まった。

 そこに揃ったのは緊張した面持ちばかりだ。

 日本人らしさの抜けない旅人が『白き民』討伐依頼を前に耐え忍んでる。


「今から参加者を確認する。まずアイアン等級のシナダ」


 中でも唯一顔をきりっとさせてるのは点呼を取るタケナカ先輩だ。

 身軽な鎧に荷物を重ねて、鞘入りの長剣も我が身に馴染ませてるらしい。


「ちゃんといるぞタケナカ、朝飯もちゃんと食ってきたぜ」


 付き添う同僚――シナダ先輩も身の丈ほどの槍と共にやる気が立ってる。


「朝飯の報告まで聞いてねえ、やばい時の補佐は頼んだぞ。次はカッパーのキリガヤ」

「ああ、準備は万端だ。いつでもこい」


 キリガヤも応じた。茶黒い革鎧の格好が籠手付きの片腕をびっと上げる。

 いるだけでその場が体感0.5度は暑くなるほど元気だが、今は少し違う。

 しかも得物は己の拳と足、あの白き民相手に武器なしで挑むらしい。

 一応は『受け流し』というスキルを20ほど上げたそうだが不安だ、実戦は数値で決まる行儀の良い場所じゃない。


「現場行く前に緊張してどうするんだ、少し気を抜け。次、サイトウ」

「はい」


 そのまた隣の前髪隠れな黒髪青年、サイトウも控えめに手を上げた。

 革の防具を揃えた最低限の装いで、丈の短い弓と矢筒をしっかり背に収めてる。

 それほど大きくない身長は白いやつらと比べたら一ひねりされそうだ。

 でもこいつは素早く動くし【跳躍】や【登攀】とかいうスキルもあって機動力がある、一番生き残りそうだが。


「ヤグチ、アオ。顔色悪いが大丈夫か?」

「は、はい……よろしくお願いします」

「大丈夫です、ちょっとドキドキしてますけど……」


 そこにもう二人。

 いまいち頼りない雰囲気が漂う大きな男は片手剣と盾で戦うヤグチ。

 穂先に刃がついた『パルチザン』という長柄武器を使う小柄な女性のアオ。

 この二人は大学生カップルで、どういう経緯でこの依頼にダイブしたかは謎だ。


「ホンダ、ハナコ、お前らは無理はしなくていい。とにかく死なねえことだけ考えて実戦から生還した『ストーン』になれ」

「が、頑張ります……!」

「でっ、出来る限りのことはしますから、どうかよろしくお願いします」


 そして中でもおどおど二倍な新米二人、ホンダとハナコの地味コンビだ。

 ストーン等級で見込みがあり、本人たちの希望もあってこうして加わった。

 片目隠れの初々しい野郎は剣に振り回されそうだし、黒髪眼鏡の地味顔は杖が抜け落ちそうだ。


「……そしてイチ、ニク」


 最後に俺たちも呼ばれた。

 普段よりだいぶ厳しい声を辿れば、壁際でタケナカ先輩が続きを溜めて。


「お前らはいざという時が来ちまった時のための切り札だ。俺が何を頼みてえか分かるか?」

「派手にやりすぎるな、誤射するなって?」

「ん、みんなにあわせればいいの?」

「今の全部ひっくるめてこうだ、その時必要ならお前の判断で立ち回ってくれ。静かにやる時は静かに、火力が必要なときは派手に、俺たちが誰も死なないようにそっちのセンスと能力でうまくあわせてくれないか?」


 と、注文してきた。

 要するに戦場での振る舞いが分かってるストレンジャーに、新米どもの命のおもりをしてくれってことらしい。


「じゃあ必要なときはお構いなしにやらせてもらう。基本は他の連中みたいにあんたの指示で動くからな」

「白き人の匂いはなんとなく覚えてるから任せて」

「頼む。どうしてもダメって時にはお前に森ごと焼き払えとでも言ってやるさ」

「そりゃ名案だ。ガソリンでも持ってこようか? ナパームも作れるぞ?」

「笑顔で言うな馬鹿野郎。まあとにかく、お前らは最悪の事態向けの切り札ってわけだ」


 最悪森を焚火にしていいそうだ、まあ周囲の顔は「冗談だよな」と苦いが。

 でもそんな物言いの隣であんまり快くなさそうな人物が立っていた。


「そちらが噂の『キラー・ベーカリー』のイチさんですか、本当に銃をお持ちみたいですね……? とりあえずあの、森は大切な国の資源ですので放火だけはどうかご勘弁ください」


 フードつきの野外向けな格好をした男が人様の身なりをじろじろだ。

 初めて知るくたびれた中年男性の顔と気だるげな声は俺の二つ名を知ってる。


「この人は狩人ギルドに所属するミナミさんだ、俺たちと同じプレイヤーだからな」


 そんな知らない顔が「どうも」とヘコヘコする様子をタカナカ先輩は紹介した。

 この人が例の狩人ギルドのメンバーらしい。


「こんにちは、狩人ギルド所属のミナミです。依頼についてご説明するようにとこちらに派遣されました。また現地においてあなた方の活動をサポートする役割も兼ねています、どうかよろしくお願いします」


 そうやって俺たちに頭を下げればこっちだって「よろしく」だ。

 彼はこの場を確かめれば、すぐ仕事について話す気分に移ったらしく。


「ではタケナカさん、早速ですが依頼についてお話しても?」

「説明してくれ。お前ら、茶化さず聞けよ――特にイチ」

「まだ何も言ってないだろ?」

「あはは、別にいいですよ? さて……皆さまへご依頼するのはクラングル郊外にある森、そこで砦に住み着いた白き民を討伐することです。そうするにあたって今回我々狩人ギルドから三名ほど行動支援と視察のために派遣されますのでご了承ください」


 今回の仕事についてさっそく持ち掛けられた。

 ボードに貼られた手書き地図で大雑把に表現された森がそれだ。

 話が本当なら『砦』と書かれた建造物らしきものが木々の間でひっそりしてる。


「質問なんですがミナミさん、ここはどういう場所なんでしょうか?」


 最初に食いついたのはサイトウだ、俺たちの()()の様子が気になるらしい。

 しかし返答には困った様子だ、というのも。


「ここから東にある小さな山のふもとに広がる森林地帯です。砦の跡地がある以外は特に際立ったものはない穏やかなところですよ、大して大きくもないし迷うのが困難なぐらいですから」

「それほど重要な場所ではないんですか?」

「知る人は野外活動の練習の場にしたりする程度の場所ですかね、かくいう我々も新米が腕を磨くにはうってつけな場所として紹介されてまして。薬に利用できる植物が自生してたり、危険な動物も生息していないことから見逃せないのは確かですね。白き民を倒せばもっと豊かな場所になるでしょうけど」

「そうだったんですか。でもどうしてそんなところに砦が?」

「そうですね……その昔、フランメリアで内乱があったことはご存じですか?」

「なんとなくですが知ってます。開拓者に便乗して敵対的な国が仕向けてきた……とかでしたか?」

「よくご存じですね、まあそういった事柄から戦場になったことがありまして。ですが砦が作られたのはいいものの誰も攻め込まず、結果として今の今までずっと放置されてたんですよね」


 別に大層なものが籠った森じゃなさそうだ。

 もちろん、白き民がいるであろう『砦』に当たるイラストにすぐ指をついて。


「こちらの砦はほぼ崩れていて近寄るのも危ないぐらいぼろぼろだったですよね、まあ我々狩人ギルドも触らぬ神になんとやら、森の一部としてそのままにしておいたんですが……」


 曰く、その廃墟に白き民の食指が動いたらしい。

 森の平凡さも持ち主を得た砦のせいでずいぶん刺激的になったそうだ。

 おかげでみんな「だったら壊しとけそんなの」って気分だが。


「そしたら今度は"捨てる神あれば拾う神あり"か。良かったな、白き民がいるってステータスがついてスリルが付与されてるぞ」

「いやあ、何にも言い返せません……そもそもですけど、そういった遺物に手を出せるのは我々狩人の管轄ではなくて」


 代表して皮肉を言えば痛いとこを突かれたような笑いだ、笑ってる場合か。


「……あの、もしかして白き民を目撃したのってミナミさんですか?」


 続いて背で大人しい声がした、ハナコの地味眼鏡顔が手で疑問を浮かべてる。 


「そうなんですよね……現地の調査をしてたら噂のあれを初めて目の当たりにしてしまいまして。報告したらしたで発見者である以上、こうして今回の依頼に私もとことん付き合うように指示されてまして」

「なんだかいやいややってるような言い方じゃないですか」

「そりゃあ、あんなお化けみたいなの見ちゃったら嫌ですよ……我々も給料が出るから仕方がなくやってますけど、噂にたがわぬ不気味さはちょっと面と向かいたくない部類ですね」

「ちなみにお給料はどれくらいですか?」

「臨時の仕事ということで一人一万ほど貰えるそうです」

「いやいやでも私たちよりずっと支払いがいいんですね」

「我々は適度に手を抜けって言われてるんですけど、正直それが原因でこうなったとしか……いえ私は見ただけですし?」

「よしお前の質問はそこまでだハナコ。他に聞きたい奴はいるか?」


 ずばっと切り込む遠慮なさとのらりくらりとした対応の応酬になったが、タケナカ先輩の一言でストップだ。

 

「では俺からも質問だ、敵の規模はどれくらいだったか分かるか?」


 新人たちに設けられた質問時間にキリガヤも動いた。

 どれだけ白いやつらがいらっしゃるのか気がかりらしい。


「最初の目撃では十数人といったところです、崩れた砦の周辺でうろついていたのが遠目に見えました。直近の調査でも数は変わっていないそうですが」


 答えはその数十数人、こっちの頭数といい勝負だ。

 さほど離れてない人数差に全員が明るい話題を見出したのは言うまでもない。


「俺たちと同じぐらいか。そいつらはどこから来たんだろうか?」

「仲間としばらく監視したんですが、山側を背に陣取ってるようでしてね……おそらくは森を超えた先から降りてきたんじゃないかと思ってます。以前変わりなく砦の向きと同じくしてクラングルの方角へ構えておりますし」

「今はそのまんまの数がいると想定して動くべきだろうな。だが実際の数が20に増えたっておかしくないことを頭の片隅にぶち込んどけ。あいつらは謎の原理で増えるし、いい場所を見つけると遠くから援軍がやってくるからな」


 が、すぐタケナカ先輩が嫌そうに補ったのだ。

 その理由はしれっと増えるわ援軍は来るわで数を揃える生態系にあるらしい、まるでゴキブリだ。


「仲間とメッセージ機能でやり取りしてますが今なお現状に変化なしだそうです、どうも向こうも悠長にやってるようなので。とはいえタケナカさんの言う通り、壁の外は何が起こるか分からないものです。万が一を想定しておくべきですね」


 で、最後はこっちの倍はいるかもしれない可能性にみんな「マジかよ」だ。


「最悪俺たちの倍ぐらいか。そいつらの装備はどうだったか分かるか? 気が付いた範囲でいいから教えてくれ」


 でも俺からすれば普通だ、戦場での想定外はそろそろ腐れ縁になってきた。

 じゃあそんな白いのがどんな準備をしてるかって言うのがこっちの質問だが。


「そうですね……まず、取り回しのいい武器を持った軽装のやつがいっぱいいました。上半身にだけ鎧をつけた、いわゆる『ソルジャー』ってやつでしたっけ?」

「いいかお前ら、ソルジャーはあいつらの下っ端みたいなもんだ。強いことには限らないけどな」


 ミナミさんの返事にタケナカ先輩が重なって、まずあの小回りの利くのがうじゃうじゃなのが分かった。

 ついでにいえば指揮する誰かがいたっておかしくない。


「他には? なんか装備がいいやつとかいなかったか?」

「弓を背負ってるのが周辺を数人ほどうろうろしてましたね。それぐらいでした」

「アーチャーだな。兜をかぶってるやつ、全身鎧のやつはいたか?」

「そういうのは見ていませんよ。我々が確認したのは身軽そうなのが砦を中心に練り歩いてるところでした」


 他にいるかと聞けば弓持ち程度である。

 これほど群れてるってことは、やっぱり誰かが率いてるだろうな。


「……メイジがいないってことは()()()かもな」


 はぐれ。そう槍使いのシナダ先輩は言葉を漏らした。


「……シナダさま、はぐれってなに?」


 俺たちの疑問はニクのダウナーな声に一任された。

 二人の先輩はどう説明しようか迷った挙句。


「群れから抜けて独自で行動する一団のことだよ。あいつらはたいてい律儀に指揮官やらの元で動くもんだが、たまにそういうのから抜けてさまようやつもいるのさ」

「そう考えてみればここから割と近い場所にいるのも、そんなとこに居座るのも関係してそうだ。たまたまやってきたとかな」


 両名とも言うには指揮官不在で好きにやってるような連中かもしれないらしい。

 そんなのもいるのか、と全員仲良く納得できたわけだが。


「こちらのギルドマスターが言うには、今回の報酬はそのはぐれがいると想定した上だそうです。万が一それ以上の危険があった場合は報酬も上乗せするとも言っておりましたので」


 このお仕事はそんなやつらを相手取ると決めた上でのものらしい。

 報酬を上げてくれるなんていい話に聞こえるが、実際は予定以上にヤバイかもしれないけどよろしくってことだ。

 

「他に質問は?」


 タケナカ先輩がそうぐらいにしばらく沈黙が続いた。

 背景や状況、報酬を確認した全員は「いけるんじゃないか」って空気だ。

 それに狩人ギルドから現地を知る奴らがそばにるのだ。

 俺だって質問ない、後は森が死に場所にならないよう最善を尽くすぐらいだ。


「……質問がなければ最後にこちらからお願いが。一応は資源のある場所ということですので、どうか道中で森の資源を乱獲したり、無暗に自然を傷つけないようにお願いします。白き民を倒して豊かな土地にしたいというギルド側からの意向もありますので」


 聞きたいことが見えなくなった後、ミナミさんは良く言い聞かせにきた。

 そりゃそうか、狩人ギルドからすれば無傷のまま豊かな森になればうれしい話だ。

 しかし直後に集まってきたのはみんなの視線、届け先はまさしく俺で。


「となると森を傷つけるような振る舞いに気を付ける人物はこいつだけだな、安心してくれ」


 特にタケナカ先輩が人のことを環境破壊家みたいに見つめてる。

 ちょうど足元にR19突撃銃やら弓がまとまってたあたりが特にそうだ。


「NGのラインはどこまでだ? 森を全焼させるぐらいか? それとも木に穴開けちゃうところから?」


 心配なのはこいつか、と件の得物を見せた。

 ベルトの信管つきのクナイとショットトラップ式の擲弾も見せつけると、ミナミさんは少しびくっと引いた。


「あ、あの……こちらもそういう武器を使える人間がいると良く耳にしていますが、なるべくでいいので環境に過剰な刺激を与えないようにお願いします。いえ、万が一の時は遠慮なくやってもいいとギルドマスターから言われてはいますけどね?」

「やばいと思ったら遠慮なくやれってのは間違いないんだな」

「ええ、そうでないと私も危ないので是非とも」

「オーケー聞いたなみんな、やばいと思ったら俺が森ごと吹っ飛ばしてやる」

「そんなことをしたら私の首も吹っ飛ぶのでどうかご勘弁ください……」


 でも自然より大切なものが時折あるらしい、その名も人命。

 この依頼で一蓮托生になった狩人は「お願いしますね」と擲弾兵を頼ってるようだ。

 そこでお話は途切れて。


「……よし、こいつのひどく攻撃的な冗談が最後でいいな?」


 頭に叩き込んだ俺たち新米に最後の問い掛けがやってきた。

 聞くこと聞いてどいつもこいつも憂いなし、心配はその時死なないかどうかだ。

 各々で「はい」「問題ない」「いけます」だとか答えて覚悟を決めさせると。


「30分後にここに集合したのち出発だ、それまで少し気を楽にして頭を休ませろ。装備の点検、スキルやアーツの確認もしとけよ」


 坊主頭が良くうなずいて、ミナミさんを連れて一足先に出て行った。

 途中で緊張している誰かの肩を叩いた――ホンダのやつだ。

 見れば顔がぎゅっと硬くなってるが、俺も倣って大丈夫だと叩いてやった。


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