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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
Journey's End(たびのおわり)
381/580

19 ハーバー・ダムの生き残り

 ディアンジェロとの因縁がやっと断ち切れた後、俺たちは買い物へ向かった。 

 ファクトリーは武具の製造で栄えているだけあって内も外も賑やかだ。

 特に倉庫の傍らから続くマーケット・エリアあたりがそうだろう。

 あのひと騒ぎが落ち着いたせいか、町の住人や外部からの人間が等しく買い物に頭を悩ませてる。


「無人兵器を倒したい? 群がるテュマーを吹き飛ばしたい? なら南生まれの新兵器はどうだい? 最新の対物擲弾発射器の『スティレット』だ! 弾頭は対戦車榴弾、多目的榴弾、お好きなやつを選べるぞ!」

「いらない弾薬はないか? うちじゃなんでも買い取るぞ、無人兵器の砲弾だって買ってやる!」

「なんであれ防具だ! 日ごろのおしゃれも込めてマダム特製の防弾加工済みの服なんていかが? 今なら一着2000チップだぞ!」

「冷たい武器はいかが? 銃剣、マチェーテ、剣、槍、斧、なんだって取り扱ってるぞ。最高品質の再生鋼と腕利きのエンジニアが作った傑作だ、興味はないか?」


 通りの両脇に立ち並ぶ店は様々だ。

 地べたに品物を並べた露店もあれば、コンテナ住まいを弄繰り回したような店舗、キッチンカーのごとき改造を受けた装甲車。

 その形はなんであれ外からのゲストを引き留めてるようだ。それからそいつらの財布の中身も。

 そんな場所をみんなで各々自由に探ってると。


「あれからいろいろあったみたいねえ? お姉さんいっちゃんが元気そうで何よりよ」


 金髪碧眼な美女――に紅茶中毒者を詰め込んだお姉さんが絡んできた。

 もっと言えばどこかの国の女王様だ。今日も歩く国際問題は年甲斐もなく元気そうである。


「俺もどこぞの女王様が元気にやっててよかったよ、特にさっき助けてくれたあたり」

『ふふっ、女王サマ、相変わらずお元気そうですね?』

「だってチャールトンに会ったのよ!? あいつめ、私を差し置いて一足先にこの世界を堪能してたんだから!」

「スティングに留まってるところに襲い掛かったって聞いたけどマジなのか?」

「フランメリアじゃ普通の挨拶よ。お付きのオーク二人と一緒に棒で軽く倒してきたわ」

「なんてひどいことをするんだこの女王様は」

『た、倒したんだ……』

「そしたら周りから一斉に銃口を向けられちゃってね。だからあなたの名前を伝えたらみんな納得してくれたのよ」

「反応は?」

「オレクスって子が「あいつまた変な友人作りやがったな」って言ってたわ」

「よくわかってるじゃないかあいつ。その通りで困ってるところだ」

「誰が変な友人ですって? おらっ! 今夜一緒に寝るわよッ!」

「ナチュラルにセクハラするのやめてくれない?」


 ばいんっ。

 そんな音を立てるのがふさわしい大きさに背中をどつかれた。

 白い衣装いっぱいに輪郭を立てる胸をこんな風に使う人間は他にいないと信じたい。


「ふふ、いっちゃんとまた会えて嬉しいわ。あっちでもいろいろあなたの噂が飛んできてね、何してるのかなって思ったの」


 女王様はくすっと笑って抱き着いてきた。人の尻を触りながらだが。

 こんなやつを一国の主に向かえた民は大変な思いをしてると思う。


「何してたって? テュマーに追われる、泥棒どもに喧嘩売られる、企業に賞金かけられて傭兵と戦う、かと思えば無人兵器大暴走に巻き込まれてたんだぞ?」

『フランメリアの人達とずっと戦ってたよね……うん』

「ブルヘッドの出来事なら道中会ったフランメリアの民からたっぷり聞いたわ。私と別れてからすんごい長い戦いをしてたみたいね?」

「ああ、おまけにアバタールについても良く知る羽目になったからな。もうストレスで死ぬかと思った」

「それも耳にしたわよ、やっぱりその力が偶然じゃなかったとか色々ね。大変だったでしょうに……よしよし」

「今の課題は「向こうでどう過ごそう」と「ダムに敵いそうだけどどうしよう」の二つだ。あと尻撫でるな」


 組み付いて痴漢してくる女王様を振り払った、しかし見事な返しでまたくっつかれた。

 よっぽどこうして会えたのが嬉しいんだろうか。ずっと胸を押し当てられながら通りを歩く。


「……ん、戻った」


 そこにてくてくニクが戻ってきた。おかえりわん娘。

 ジトっと横からくっつかれてサンドイッチにされた。広い通りが狭苦しい。


「道中あったフェルナーちゃんがこう言ってたわよ? あなたがだいぶ無理してるみたいって」

「あいつか。どの辺が無理だって?」

「アバタールだと分かってカミングアウトしたあたりから無理に元気になってたとか」

「否定できません」

「何意地になってるのいっちゃん、そんなんじゃ疲れるわよ」

「ああ、だから好きにやらせてもらうことにした。ドーナツでテュマーぶっ潰すぐらいにはな」

「相変わらずパワフルに振舞ってるわね。よし、そんないっちゃんを癒してあげるわ! 今夜一緒に」

「だからセクハラするなつってんだろ話に織り交ぜてくるなこの紅茶」

「だっていっちゃん可愛」

「やめなさい」

「いっちゃんじゃないと私いやだ! 身体の相性的な意味で!」

「畜生、やっぱ再会したくなかった」

『女王サマ、せめてこんな場所でセクハラはやめてあげてください……』


 もうちょっと感動的な再会でもできると思った俺が馬鹿だった、この紅茶め。

 すり寄って来る女王様VSストレンジャーの必死の攻防を繰り広げたのち、どうにか押し返すと。


「……ねえイチ君、その方がどこかの一国からきた女王様というのは本当かい?」


 ヌイスも戻ってきたみたいだ。かなり訝しむ形でだが。

 白衣姿のクールさは国際問題を感じてるようで、そうとは思えぬ女王様の振る舞いをじっと見ていて。


「どうもイグレス王国の女王です、趣味はフランメリアの密入国と紅茶、好きな物も密入国と紅茶、嫌いなものはコーヒーよ。よろしくね?」


 そんなことをドヤ顔で返されて、そろそろ俺の人付き合いを疑ってる。


「ヌイス、お前はたぶんこいつ見て正気を疑ってると思うけど真に受けないでくれ。女王なんていないし国際問題なんて起きてない、それが一番だ」

「私としてはこんな国から抜け出して嬉々として生きてる女王様なんて悪い冗談だと思ってるし、そんなのとお友達になってしまう君の交友関係も信じたくないよ。あれこれもしかしてほんとに言ってる? ぐらいには思ってるけれども」

「もー、ほんとよ? ついでにいっちゃんとは一夜を共にした仲だわ! ベッドの上で」

「ねえなんでこの人はそんな下の話でマウント取ってくるのかな? どうして得意げなんだい?」

「ふっ、安心しなさい。マウントならベッドの上でも取ったわ」

「イチ君、今後の君はもう少しお友達を慎重に選ぶべきだ。そもそもこんな肉欲まる見えで野蛮な女王様がいてたまるかと思うよ」

「この人のことは女王を自称する蛮族のお姉ちゃんかなんかと思ってくれ、いいな?」

『蛮族……!?』


 すり寄って来る女王様から離れた。そこにすれ違うようにメイド姿もやってきて。


「久しぶりっすねえ、女王様。また会えて嬉しいっすよ~♡」

「私もよ、ロアベアちゃん。イっちゃんと仲良くやってたかしら?」

「最近ノリ悪いっす!」

「それはいけないわね、よし今夜襲いに行くわよ」

「了解っす女王様~♡ あひひひっ♡」

「再開して早々になんて話してるんだお前らは」

「……君、この世界に来てからだいぶ不健全な夜を過ごしてるみたいだね」

「好きでこうなったわけじゃないんだヌイス、あいつらが強いだけなんだ」


 ろくでもない襲撃計画が企てられてるし、そろそろストレンジャーの人柄を疑うヌイスの視線もやってきたが無視した。

 あとで部屋に鍵かけてバリケードでも築いてやるとして、買い物に集中することにしよう。

 ニクの揺れる尻尾と一緒にその辺の店を物色してると。


『こんにちは、市民。ファクトリーの拳銃に興味はございませんか? 単発の大口径ハンティングピストル、バッテリーによる半永久的な装填アシスト機能つきのリボルバー、様々なニーズに合わせた拳銃を取り扱っております』


 横からの電子的な声に捕まった。

 コンテナの外装をくりぬいた店舗が大小さまざまな拳銃を客に向けて佇んでいた。

 もっとも中で勤めてるのは――ロボットだ。何度か見ている友好的な人型のそれがカウンターに並べた商品で「おいで」と誘ってる。


「拳銃ならもう持ってるぞ、ファクトリー製だ」


 人間に似せた骨格にホルスターから『リージョン』を抜いて見せてやった。

 すると店主は機械のくせに納得したように頷いて。


『これは失礼しました、ではオプションパーツはいかがでしょうか? 延長弾倉、コンセンペインター、新型照準器、ファクトリー規格に合わせたものがありますが』


 所狭しと並ぶ拳銃の隣、それに合わせた付属品まで視線を導いてきた。

 22口径の得物から45-70クラスのリボルバーまで幅広く対応したパーツが置かれてる。

 もちろん自前の拳銃に合うものだってある。45口径用のアタッチメントは特に多い。


「45口径用のパーツがずいぶん多いな?」


 まず手元にあった延長された弾倉を手に取った。ファクトリー規格の形をしてる。

 斜めに伸びた姿は普段使いしてるものよりも幾分大きくて、重さも相応だ。

 弾倉の形を確かめてると。


『ええ、ここはアメリカですから。45口径を信じる者は救われると聖書にも書かれております』


 ロボットの店主は店奥から何か取り出してきたー―本だった。

 そいつが聖書と名付けたそれはどう見ても戦前の銃のカタログだ。

 表紙に『38口径はクソだ』と偏見が書かれてるが、三流紙あたりだろう。


「確かにこいつがあって良かったと思うことが何度もあったところだな」

『それは何よりです。そちらの拳銃は『リージョン』のようですが、当店では対応したパーツを多数取り揃えております、ご覧になってください』

「こいつに付けて見ていいか?」


 俺は45口径用の延長弾倉をちらつかせた。返事は『どうぞ』という人工音声だ。

 装填済みのものを抜いて、薬室から弾も外してしゃこっと差し込む。

 するっとグリップの中に通ったものの……少し重い、弾を込めたらなおさらだ。

 ついでに言えばこのままホルスターに収めてもアンバランスだろうが。


『そちらの弾倉は45口径モデルに対応した延長式弾倉です。弾は最大で二十五発入りますが』

「あえて二十だな?」

『ご理解が早くて助かります、市民。確実な動作のため五発ほど装弾を省くとスムーズです』


 やや重くなったそれを見て考えた。カービンキットに組み込めばちょうどいいんじゃ?

 さっそく腰から取り出して自動拳銃を差し込めば――まさにそうだった。

 重さが気にならない。これなら全弾装填したところで安定して取り扱えるはず。


『そちらはカービンキットでしょうか? 当機のメモリにはファクトリーにそのような製品があった記録が残されておりませんが』

「知人が作ったんだ。こいつをつけると取り回しが良くなる」

『なるほど、であれば延長弾倉との相性はよろしいでしょう』

「いくらだ?」

『一本につき1000チップが妥当と判断しております。いかがでしょうか』

「二本もらおうか」


 チップを払った。安心のファクトリー製だ、それだけの価値はある。

 照準器やらも便利だろうが、組み立ての際の手間やアイアンサイトに慣れてる身からすればいらないか。

 一礼してからその場を去ろうとすると。


『そちらの犬のようなお客様、当店で何かお気に召すものはありましたか?』


 ニクがじっと店を覗いていた。

 どうも拳銃をじーっと見てたらしい。尻尾を振って一つ一つ確かめてる。


「ニク、どうしたんだ?」

『ニクちゃん? もしかして……拳銃が欲しい、とか?』


 そんな後ろ姿、犬の耳に問いかけるとぴこっと動いた。

 特にミコの言葉が強かったに違いない。振り向いてこくっと頷き。


「……ん、ぼくも買おうと思う」


 犬の手がチップを掴んでいた。倒した敵からはぎとった血痕付きのプレミアものだ。

 しかしまさかニクが銃を欲しがるなんて以外だ。どうしたんだろう?


「まずは「どうして」から聞いたほうがよさそうだな」

「みんなを守るには槍だけじゃ間合いが足りないから、その補助」


 ダウナーな声はじとっと答えてくれた。武器の距離感が足りないらしい。

 槍で突っ込みわんこの足で蹴り倒すのがこいつの戦い方だが、言われてみればその通りか。

 得物の間合い以上に離れた敵と最高に相性が悪いのが現状。であれば一手欲しがるのは当たり前かもしれない。


「なるほどな。で、選んだのが拳銃か」

『……確かにニクちゃん、槍で戦ってるけど離れた相手には対処しづらさそうだよね』

「ん、ダメ?」

「銃を使ったことがあるかないかの話はともかく、いい判断とはいいがたいな」

「どうして?」

「拳銃は扱うのが一番難しい武器だ。まあボスの受け売りなんだけど」


 しかしいつぞやボスに言われたが拳銃=単純な武器である。

 だからこその弊害があった。使い手の腕がそのまま結びつく分、技術の習得に一番時間がかかるのだ。

 銃を抜いて適当に撃つだけならともかく、瞬時に狙って撃ち抜くならあらゆる動作を極めないといけない。

 でも慣れてしまえば拳銃は実にいい武器だ。直感的に離れた相手を殺す相棒になる。


「手頃だからこそ面倒なんだよ、こいつは。慣れてしまえば「なんとなく」であっという間に敵をぶちのめせるけど、直感的に使えなきゃ至近距離の相手か脅しがせいぜいだ」

「槍の片手間に使えるからいいかなって思ったんだけど」

「そりゃ銃の反動を……いや、お前なら大丈夫そうだけど、ちゃんと練習しないと逆に危ないぞ」


 ニクの言い分通り「片手で扱える」点もいいところだ。わん娘パワーなら反動も相殺しそうだが。

 それでもけっきょく当たってこその話だ。逆に言えば片手撃ちでも当たれば文句はない。


『でしたらお客様、そのようなニーズに対してはこちらの商品をおすすめします」


 そんな問答をしてるところ、機械の店主は陳列された品物をすすめてきた。

 木製のピストルグリップとトリガ・ガード近くから伸びる反りのない弾倉が印象的な銃だ。

 厳密にいえば『拳銃』ではなく『短機関銃』というのがいいかもしれない。


「……こいつが拳銃だって?」


 確かに目を瞑れば拳銃だ。銃身に向かって折りたたまれたパイプ製の銃床を覗けばだが。

 その気になれば片手で扱いきれそうだが、その主張は苦しくなると思う。


『こちらはV85と呼ばれるマシンピストル。口径は9㎜、弾倉にはニ十発、フルオートの射撃も可能な『サソリ』のような一品です』

「おいおい、このサイズで連射可能か?」

『ご安心ください、ストックを展開して肩当ても可能です。精度、耐久に関してはエンジニアにより入念なテストおよび検査によって確かなものと保障されております』


 手に取ってみると――拳銃にしては重い。

 ニクなら問題なさそうだ。装填は銃身横のボルトを引くタイプで、犬の手でも扱いやすいはず。

 わん娘も興味がわいたのか手に取れば、しっくりきたのか軽々と取り回して。


「……ん、構えやすい」

「そりゃお前の方が力強いからだと思う」

『お気に召しましたか? 本体の価格は6000チップ、予備の弾倉は一本あたり600チップとなっておりますが』

「これ下さい」


 とうとうお買い上げしてしまった。

 愛犬は尻尾をぱたぱたさせながら機関拳銃を手に取ってる。予備の弾倉も数本だ。

 『こちらもいかがですか?』と商魂たくましいロボットがホルスターを進めてくると、やっぱりそれも買ってしまい。


「……ご主人、似合う?」


 ホルスターをパーカーの上につけたニクが少し得意げにしてきた。

 ダウナーでクールな姿に口径9㎜の得物が浮かんだ物騒な姿である。


「あーうん、俺よりきまってる」

『か、買っちゃったんだ……うん、似合ってます……』

「ふふん」


 撫でてやった。ここの店主のせいでわんこがますます物騒になった。



 ニクの火力が一味足されてから、俺たちは少し買い物を楽しんだ。

 ここの品ぞろえは異常だ。目移りするほどの武器や防具がどこを見ても売られてる。

 安心と信頼の銃剣から、ここで生産された『スティレット』すらお手頃価格で販売中だ。

 

「……ほんとになんでも揃ってるな。今までと全然品数が違うぞ」

『店もいっぱいあるよね……こんなに外から人が来るのも納得しちゃうかも』


 通りを見渡していると、機関拳銃を携えたわん娘がとことこ戻ってきた。

 手には串にぶっ刺された何かの肉があって、いい香りを漂わせおり。


「ん、お肉」


 そして肉の存在感をドヤ顔で主張してきた。おいしそうにもぐもぐしてる。

 通りを少し奥に進んだところからは店の顔ぶれも変わっていた。

 武器防具に変わって食料品や雑貨を売り始めてた。世紀末基準のだが。


「うちのわんこもとうとう食べ歩きを覚えたか」

『ニクちゃん、食べ過ぎには気を付けてね?』

「むぐむぐ」


 肉を食らってゆったりしてるわん娘は撫でてやるとして、用件はちゃんとあった。

 せっかくなのでさっき耳にした電子機器の店やらを探していた。

 といってもどこにあるのやら。この通りから一つ一つ探すのは骨が折れそうだ。


「……おっ、あんたかストレンジャー。買い物にきてくれたのかい?」


 悩んだ先にちょうどよい存在がいた。ここのセキュリティの男性だ。

 買い物の空気に浸って緩まってる気分からして、都合よく情報を聞き出せそうなので。


「よお、その通りだ。電子機器の店ってどこだ?」

「電子機器? ならあそこだ、通りの途中にある路地の奥なんだが」


 もぐもぐするニクと一緒にどこだと尋ねれば、あっけなくその道は明かされた。

 道中、コンテナ尽くしの街並みに小さな路地があった。

 まるで後ろめたいように作られた道だ。そんな場所に誰かがいるらしい。


「あそこか、どうも」

「そこに行くならちょっと頼みがあるんだ、いいか?」

「おつかいか?」

「いや、そんな面倒なことは頼まないよ。ただそこの店主は人づきあいが致命的に下手くそでね、ああいや別に悪く言ってるつもりじゃないんだ」

「それは場合によっちゃ面倒ごとにならないか?」

「まあそうなんだが……顔に傷を負っててな」

「どれくらいの傷だ?」

「ひどい傷らしいんだ。ずっとマスクをつけてるんだが、だからって悪いやつじゃないんだ、誠実で気の良い奴だよ」

「あんたがそう心配するほどの奴らしいな」

「もちろんさ。ここの腕利きだぞ」


 どうもそこにいらっしゃる店主さんがコミュ障らしい。

 まあ問題ない、ストレンジャーは差別するときは相手の心を見てするし、こっちには喋る短剣にわん娘もいる。

 一礼してそこへ向かうと、来る人を選ぶような小さな道が奥のコンテナ・ハウスまで続いていて。


「……この匂い……、ご主人?」


 らしい看板が『電子機器はこちらで』と控えめな文字を示したところで、急にニクがぴくっと鼻を効かせた。

 疑問のあるような感じ方だ。何か違和感を感じ取った様子というのか。


「どうした?」

『ニクちゃん、何かあったの? すんすんしてるけど』


 立ち止まって尋ねるも、ニクは「ん」と何事もなく進んだ。

 少し引っかかるが態度からして敵がいるだのなんだのじゃないだろう。

 構わず進むとコンテナに埋め込まれた扉があった。そいつを開けると――


「あっ、い、いらっしゃい」


 若い男の声がした。それもマスクで途中を遮られた感じのやつだ。

 そこには太陽の光に恵まれない(ようにした)ほのかな暗がりがあった。

 テーブルには解体途中のスマホやらノートパソコンが工具と並び、壁周りでは雑多な電子機器が雑に突っ込まれた棚が「こんな店だ」と表現しており。


「――あ、あんた」


 そんな場所でガスマスクを着けた男がこっちを見ていた。

 それも驚きを含んだ言い方を込めて、だ。

 青いジャンプスーツを着たそいつは、ヒビの入ったもう一つの顔を大切そうに被ったままだった。


「お前まさか――」


 しかし、だ。

 とても心に触れる部分があった。

 その作業着はともかく、傷もろとも顔を隠すそれにはひどく心当たりがあった。 

 それにこの声、俺は間違いなく一度耳にしている。


「……うん、たぶん、あんたの思ってる通りだと思う」


 その上で向こうはこういうのだ。

 今感じているこの気持ちが間違いないと。

 このハーバー・シェルターで見たマスク、そしてこの自信のない声、こいつは恐らく――


『……いちクン、知り合いなの?』

「それ以上かもしれないな。お前、まさかハーバー・シェルターにいたやつか?」


 恐る恐るだが尋ねた。椅子に座った男は間違いなくうなだれて見せて。


「ああ、おれだよ。あの時あんたを見捨てた同類だ」


 さぞ後ろめたそうに白状してきたのだった。

 やっぱりだ! こいつはあの時、ダムの脱出劇を共にしたあの男だ!

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