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124 百鬼夜行ならぬ百鬼昼行

 買い物通りに生死問わずの傭兵どもがひしめきあっていた。

 破壊されたウォーカーに安全を見出した市民たちもこの場に加わっており。


「――こんなことになっちまったのは、社の景気がすこぶる悪くなったからさ」


 武装解除した集団の一人、その偉そうなやつが噴水近くに腰かけてた。

 どこかが不穏な爆音に脅かされる中、タバコ片手に「一本いいか?」だそうだ。

 周りにもう戦える人間が残ってないことをしつこく確かめてから。


「そりゃよっぽど悪かったんだろうな。おかげでブルヘッドがこの有様だ」


 点けてやった。周りの否定的な視線には応じないつもりで呑気に一服してる。

 けれどもブルヘッド市民たちの嫌悪感混じりの視線には後ろめたそうだ。


「で? お前らは人様の家を勝手に片づけて強制退去させてくれた親切な連中か? これから返答に気を付けろよクソ野郎」


 ボレアスが覗き込めばなおさらだ、誰もが答えづらそうに目をそらした。


「簡単に質問しようか。まずお前らの自己紹介だ、できるよな?」


 ぶん殴りそうな坊主頭をどかして尋ねた。すると相手は諦めた様子で。


「……言っておくがストレンジャー、俺たちはお前がさっきぶっ殺した連中とご同類じゃないぞ。ラーベ社の私兵部隊だ」


 南へ続く死体だらけの道のりを眺めていた。

 たいして心も痛んでなさそうというか、ゴミでも片付けたような達した表情だ。

 確か私兵部隊と言えば、元レッド・プラトーンのイワンが恐れていた連中か。大したことなかったな。


「なんだ、お前らってどっかの副司令が怖がってた連中だったのか?」

「ドミトリーの馬鹿野郎もビビってたよ。ったく、どこにカジノどころか薬中だらけの街を丸ごと一つローストするやつがいるんだ」

「焼け野原にしたのは俺のせいじゃないぞ。まあ、うん、ドミトリーも死んだしお前らの手間も省けたんじゃないか?」

「あの馬鹿が死んでせいせいしたのは違いない。あいつのせいでラーベ社にとって死ぬほど都合の悪い情報がお前らに渡っちまったらしいしな」

「ああ、今頃バロールで大切に保管されてるぞ。返した方がいいか?」

「いらん、もう手遅れだ。知られたくないもんちらつかせて生殺しにしやがって」

「政治って大変なんだな、まあお前らの業績がすごくやばいのは知ってたよ」

「サベージ・ゾーンが消えてどんだけ大損こいたか分かるか?」

「こうしてあんたらが壊滅される寸前まで追い込まれるぐらいか」

「そうさ。俺たちは企業お抱えのベテランだが、そこらに転がってるのは臨時で編成したド三流のクソガキどもさ」


 そういって喫煙中の男はショッピングエリアの惨状を鼻で笑ってた。

 お気持ち表明したウォーカーは特に気に入ったらしい、顔がせいせいしてる。

 なおかつそいつは「いいか?」と付け加えて。


「俺たちは社長の命を受けて南で暴れる自社製品に対処するためによこされたのさ。ところが北部のあちこちでこの有様だ、どうにか送られた増援は質の悪い()()の傭兵連中ときた」


 くたばった増援とやらを目で蔑むだけだ。

 特に火事場泥棒の真っ最中に斬首された姿は情けないものがあるらしい。


「しつけがなってないみたいだな」

「しつけもなにも数だけが取り柄のド素人だ。おかげで俺たちの足引っ張ってくれてこのザマだ。勝手に抜けて略奪に走りやがってクソどもめ」

「そういうのに対処するのも給料のうちじゃないのか?」

「こういうのをどうにかしてくれるうちのオペレーターも音信不通だ、本社はもう混乱真っただ中でまともな支援は受けられんのさ」


 まあ、もっと情けないのは目の前の連中だが。

 連れてこられた素人集団のせいでひと手間増やされて、しかもバックアップも受けられずに彷徨ってたようだ。

 なんだか同情してしまう連中だが。


「言っとくがストレンジャー、お前のせいだぞ。お前のせいでこうなったんだ」


 そろそろ職にあぶれそうな頃合いのそいつは見上げてきた。

 周りのお仲間さんもだ。どんよりとした表情が一斉に向いてくる。


「おいラーベ社の兄さん、こいつがあんたらの業績に傷をつけたって?」


 と、黒人のおっちゃんがカメラを取り返しに混ざってきた。

 ヘルメットから重みが抜けていく中でも、向こうは顔の造形一つも変えずで。


「政治的な話は嫌いだが言わせてもらうぞ。我が社はあのライヒランドと絡んでいて、このストレンジャー様はその取引先を潰してくれたんだ。あの時からもう手遅れだったんだろうな」


 あきらめ気味にそう語っていた。

 周りがざわめくが、レッド・レフトカジノへ強盗に押しかけた俺たちなら良く知っていることだ。

 南のライヒランド、遥か西のミリティアと密かにつるんでいて、その恩恵で成り立っていたという事実である。

 で、ストレンジャーはそれを暴いた挙句にラーベに多大な被害総額を叩きだして大損害を与えたというオチだ。こいつはそのことを根に持っていそうに俺を見てる。


「ミリティアもだろ? それよりこんなところでバラしていいのか?」

「どうせもうおしまいだ、退職金も貰えそうにない。それにそもそもだ、俺たちだって我が社があんな人食い共産主義者どもやロシア崩れどもとつるんでいたなんて知らされてなかったんだ」

「こんな状況で退職金の方が大事か。本当に知らなかったような言い方だ」

「お前らがそれらしい噂をほのめかしてくれたせいでやっと気づいたのさ。そしたらマジだ、だが食ってくためには気味が悪くても何も言えねえ」

「私兵部隊って言う割にはラーベに従順じゃないな」

「上が()()()()()って末端まで染まってると思うなよ? 俺たちはラーベ社の社長の性格じゃなく、金払いの良さを信じてるんだ。まあ、だからってそこのゴミみたいな新入りと一緒にされても困るがな」


 話のできる男は世知辛そうなまま周囲を見渡した。

 いろいろな顔ぶれには、事情を知ろうと肝の据わった市民たちも混ざり始めてる。


「言い訳みたいだね、まさか君たち命乞いしてるのかい?」


 次にエミリオも加わったが、命乞いという単語は半分ぐらい認めたようだ。


「それで死なずに済むなら安いだろ。お前らか? 上納されるはずの多額のチップを根こそぎ奪ってったのは」

「さらわれた美女たちもね。おかげでヒーローごっこができたよ、ありがとう」

「ならもっと言い訳してやる。ライヒランドは半導体に使う貴金属や新鮮な臓器の提供先で、それが潰されたもんだからラーベ社が困ったのさ。だから社長はドミトリーたちに女さらいなんて始めろとか言ったわけだよ」

「でも勝手にやりすぎちゃったみたいだね」

「ああ、上が妙にあの馬鹿どもに怒ってると思ったらそういうことだ。で、調子に乗って指示を無視してあのザマだ。新しい臓器の入手先も潰えたわけだ、ニシズミの娘っていう高級ブランドがな」

「ウォーカーも三機盗まれちゃったね、いや、犯人は俺の隣にいる人だけど」

「こっちの社長が怒りすぎて倒れるぐらいの損害だ。そうか、自殺未遂まで追い詰めたのはお前たちか」

「そういうつもりはなかったよ。ちなみにだけど、今君が話したことは全部知ってたよ。だからそんなに驚かないかな」

「はっ、よくご存じで何よりだ。もう説明しなくても良さそうだな」


 そいつが代表して物語ると、もはやラーベの忠実な兵士たちは意気消沈だ。

 遠くで破壊が広まる光景にも絶望しているらしい。俺は呆れて笑えなかった。


「じゃあなんだ、俺たちがびっくりさせてやるずっと前からお前らは詰んでて、とうとう社長のメンタルに限界がきて拳銃と添い遂げるめでたい日が来たのか?」

「いいか、お前が思ってるほど優しい状況じゃないんだ。提携先が潰れた途端に業績は地獄の方角に向いて、その時からあの社長は血眼でどうにか建て直すための手段を探してたのさ」

「あー、うん、なんか悪いことしたみたいだ。泣きっ面にメドゥーサ」

「あのメドゥーサ教団の怒りも買ったらしいな。お前らの反撃でオーバーキルもいいところだ、部下への給料を払えるかどうか怪しいぞ」


 絞り出される言葉の数々はいかに会社が傾いているかを表している。

 例えるならこうだろう。氷山にぶつかって傾いてた客船が、深海から目覚めしタコの化け物に絡みつかれて水底に引きずり込まれるようなものだ。

 ローレル、マジでラーベ社の経営は倒れかけてたみたいだぞ。


「その結果はもしかしてこんな感じか? 自社の製品にどっかのAIをそのまま積んで『合法無人兵器』でも作ろうとして巻き返そうとしたら大失敗、ご覧の有様ですよと」


 すかさずこの現状についてに言ってやると。


「大体その通りだ。だがな、だからってマジでやるやつがいるかって話だ」


 しぶしぶ頷いてくれた。

 しょうもない話に傭兵以外の顔立ちが呆れるのは言うまでもないが。


「あれに難色を示すやつがちゃんといたんだな、よかった」

「俺たちだってテュマーは怖いさ。だがそれが分からない馬鹿も、分かった上で戯れで過ちをおかす間抜けもこっちにゃ山ほどいるんだ。どうしてこうなったか知りたいか?」

「少しな」

「ライヒランドが崩れてからラーベ社の内情もぐちゃぐちゃだ。社長の命令を守らないやつは増えるわ、上と現場は食い違うわ、開発する連中も独断専行を繰り返してこれだ。ウォーカーが次々ウィルスに掌握されてやがる」

「セキュリティ対策に予算割り当てなかったのがついに祟ったか」

「ストレンジャー様は物知りだな」

「詳しいやつがいっぱいだからな、ただの受け売りだ」


 会社の労働環境まで話すと「そこまで知ってるなら」とばかりの顔をされた。


「認めるよ。エグゾをガワに分からん機械ぶちこんで、ウィルスに心地よい住処を作ったのは紛れもなく俺たちだ。こともあろうにフォート・モハヴィの無人兵器のプログラムをそのまま流用する馬鹿がいて、それで数十年前から埃被ってたウォーカーに感染させやがってな……」


 それはそれは恨めしそうに口走るが、その途中は遠くの足音にかき消される。

 そいつは南へひたすら進む巨大な何かに「くそっ」と吐き捨てると。


「このザマだ。北部だけならまだしも一体どうしてか南下してやがる、事態を収束させようと我が社の保有する戦力がフル稼働中だが焼け石に水ってやつさ」

「現在進行形で社の信用も失墜中だ。株価もクソみたいに暴落して後がないときた」

「おまけにさっき通信でやっと伝わったのは社長の拳銃自殺未遂の表明だ。頬ぶち抜いて意識不明、企業の傘下にある連中は統制も取れずにぐちゃぐちゃだ」


 私兵部隊が口々に続いて、こうして全てがようやく明かされた。

 北で高くそびえる企業がもたらした史上最大のやらかしで都市が滅びそうだ。


「デュオ、これがブルヘッドの危機の真相だとさ」


 爆音続く都市のどこかに報告した、近くでごうごうとタイヤの音がする。


『ばっちり聞こえてるぜ。ヌイスに頼んで集音してもらった』

『なんていうか、うん、呆れて何も言えないね』

『ハハ、全て繋がるとこんなにすがすがしいんだな』


 社長と人工知能二人の声が混ざった、ということは今の発言は記録されたか。

 気づけば通りの監視カメラがじとっとこっちを向いてた、証拠も確保済みか。


『あのラーベ社の社長が自殺未遂だぁ? 別にてめえが何時死のうが関係ないが今はやめとけよ、今はさあ……』


 そして返ってきた言葉はとても面倒くさそうなものだった。


「良かったなデュオ、お前の宿敵みたいなやつは自爆しようと頑張ってたらしい」

『今じゃなけりゃ満点だがな。なあ、お前ってもしかして人様の宿敵とかを呪い殺すパワーでもあんのか?』

「他に居たら紹介してくれ、俺が片づけてやるよ」

『じゃあ街を蹂躙してるデカブツをなんとかしてくれよ』


 事実はこうして軽口が出るほどにしょうもなかった、それだけである。


「……ストレンジャーがやり返す前から死に体だったんだね。俺たち、こんなやつらにずっと振り回されてたのか」


 げんなりする私兵たちを相手にエミリオは脱力するぐらい呆れてるし。


「とうとう天罰が下ったってわけか。生きてるうちにラーベ社が傾く瞬間が拝めて嬉しい限りだ、感動的だぜ」


 スタルカーともども、ボレアスはもはや無力な私兵連中に目もくれずで。


「我々の命を狙う連中がいかほどなものかと思いましたが、よもや自らの業で自らを焼くとは……運がないといいますか、詰めが甘いといいますか」

『ストレンジャー、お見事だ。お前にラーベ社撃墜のカウントをやろう』

『でかしたぞイチ上等兵、図らずとも奴らに一泡吹かせたようだ。素晴らしい』


 その長耳に良く話を聞いていたアキも微妙な受け取りだ。

 無線越しの少尉と中尉のお言葉なんて冗談交じりで褒めてるが。


「――で、お前らはどうしたい?」


 俺は目の前の奴らに尋ねた。手で街の様子を促しながらだ。


「……藁にもすがりたいな。上からの指示もこなきゃ雇い主もこれだからな」


 私兵部隊の男は観念したようにそういってきた。

 そんなタイミングで、ずっと向こうからがらごろと重たい駆動音が通ってくる。

 道路を横断する大きな車体が停まって「ぶぉん」とクラクションが重く鳴った。


「そうか、じゃあ俺たちにすがれ」


 そう伝えて呼び声に向かうことにした。

 「どういうことだ」と視線を受けながら向かうと、そこにはデカいトレーラーが道路の幅を無駄に食っていた。


『お待たせしましたストレンジャー様。素晴らしいものをお届けに参りましたよ』


 無線のエヴァックの声からして実に(・・)いい時に来てくれたらしい。

 ウォーカーを一体横たわらせるほどの幅と奥行きをもった運搬車両だった。

 被せられた濃い緑のシート越しには、あの無骨な人型のラインが浮かんでいる。


「こいつがあんたの言ってた贈り物か、確かに素晴らしそうだ」

『実に! さあ、ウォーカー・キャリアーの荷台に乗って下さい!』


 側面のはしごを登ると、都市の車道を陣取る大きさの上にラザロが待っていた。

 作業着姿のあいつは会えて嬉しそうだった。俺だって嬉しい。

 

「ま、待ってたよ! こんなこともあろうかと用意しておいたんだ!」

「来たな! カバー外して起こせ! 起動準備できてるな!?」

「あんたがラザロの相棒か!? 大事に使ってくれよ!」


 早口な相棒には同僚ができたそうだ。そばを覆っていた布が取り払われる。


「て、鉄鬼を改良したウォーカーだ! あ、あんたの戦い方を思い出しながらて、手を加えたんだ!」


 そして精一杯の声で教えてくれた。それが何なのかと。

 機械の力で軽く背を起こされたそれは、一言でいえばあの鉄鬼だ。

 市街地向けの装甲の色が相変わらず頼もしいが、今回は一段と違った。


「……なんか前より過激になってるな。俺のどこを思い出したんだ?」

『わ、わーお……?』


 ミコと見上げるが、確かに根本的な部分は俺の良く知るウォーカーだ。

 しかし細々とした部分が代わって、結果として見知らぬ機体へと化けていた。


 まず、両腕の50㎜オートキャノンは取り外されてしまったようだ。

 左腕には盛り上がった装甲のようなものが拳を覆っているだけで、あの頼もしい印象がだいぶ遠ざかってる。

 そして足の構造だって違った。

 踵あたりが()()のような形に――ランディングローラーが取り付けてあった。


 外された武器の代わりを務めるのは、車体に差し込まれたウォーカー大の銃火器がおそらくそうなんだろう。

 一つ言い表すなら機関銃だ。銃床のない獲物には弾倉が突っ込んであった。

 もう一つ言うなら、さらに大きな手持ち式の火器が銃身が何本も輝かせていた。

 機体の腰には「これを使え」とばかりに予備弾倉が張り付けており。


「こいつは百鬼(ヒャッキ)だ! か、火力を上げた中距離用の……と、とにかく乗ってくれ!」


 相棒はこんなものに乗れというが、肩に見えるあの武器は何なんだ? 

 見間違いじゃなきゃ、空を狙った極太の砲身がアンテナのように伸びている。

 あの時見た姿を謎の火力で飾ったそれに、乗りこなす自信が引っ込んでしまう。


百鬼(・・)か。戦鬼(オーガ)といい鉄鬼(テッキ)といい、鬼に助けられてる人生だな」


 暗いセンサーとにらめっこしてると作業員たちが「乗れるか?」と伺ってきた。

 乗るとも。寝起きの『百鬼』の背中をよじ登る。

 既にハッチは開けられてるようだ。中からは良く清掃された匂いがした。


「おいあんた! 起動シークエンスは分かるのか!?」


 前より狭く感じるそこに身を捻じり込むと、後ろで誰かが尋ねてくる。

 驚かせてやろう。黙ってウォーカーの操縦席につく。


「まさかまた乗る羽目になるなんてな」

『うん、まただね……いちクン、乗り方は覚えてる?』

「三回目だ。これでもう忘れられないな」


 今度は()()じゃないぞ。俺はモニタの前で腰を落ちかせた。

 知らない装置が手元に増えてるが、ハッチの開閉ボタンから始めた。

 ブルヘッドと隔たれた室内で電源ボタンをオン、画面がせり出してきた。


【Nishizumi Corporation……】

【NISHIZUMI WALKER OS Ver.X.X.X】


 桜と刀が交わったニシズミらしいロゴが頼もしかった。OSがスタートする。


『ストレンジャー、起動手順は覚えてるか!?』


 ラザロが心配してくるが、俺は構わずトグルスイッチをカチカチ動かした。


【リアクター起動中……起動準備完了】

【センサーチェック中……前方監視、側面監視、後方監視、全センサー正常】

【駆動システムチェック中……人工筋肉正常、アクチュエータ正常】

【バランサーチェック中……バランス保持異常なし】

【武器管制システムチェック中……トリガ同期確認完了、全武器システム正常】

【操縦チェック……ハンドトレースシステム、レッグコネクタ同期準備完了】

【全システム確認――ウォーカー・スタンバイ】


 チェックが全て埋まった。一味違う鉄鬼がぶるるっと武者震いを始めた。

 あとは手元で慎ましやかに点滅するボタンを押すだけだ。


「相棒。ウォーカー(こいつ)に乗せてくれてありがとな」


 俺は戦うロボットと結び付けてくれた相棒に感謝しながら起動した。

 周りで機器がカチカチ目覚めると、サブモニタも迫って途端に周りが明るくなる。

 そして大きな揺れが立ち上がる感覚を表した。機体が身を起こす感覚が、自分の身体のようにやけにはっきり伝わった。


【リアクター起動、センサー起動、駆動システム起動、武器管制システム起動、操縦システム起動、全システム正常】


 燃料、残弾、機体バランス、姿勢制御がどうこう、よくわからないが多分ヨシ!

 目の前の黒色が切り替わる――ウォーカーのセンサーが変わり果てたブルヘッド・シティの空を見つめていた。


『……覚えていてくれて光栄だよ。後は大丈夫か?』

「ああ、サポート頼むぞ。ってことでみんな、ちょっとデカいのしばいてくる」


 あいつと一緒に初めて操縦した時の楽しさを、俺は一生忘れないだろう。

 レッグ・コネクタに両足をすっぽり預けて、左右のハンドトレースに腕ごと手を通した。これで俺の身体はウォーカーと一つとなった。


『よし、よしっ! まだ完全に機体が起きてない、ギアを半分にして前進だ!」


 アドバイスが挟まった。コネクタを半分ほど倒してペダルをゆっくり踏む。

 重たい感覚が下半身に伝わると、機体がバランスを取って起き始めて。


 ――がごんっ。


 地鳴りと共に、とうとう視界がウォーカー大まで持ち上がる。

 『百鬼』がようやく立った。両手を左右に動かすと機械の手が倣って動いた。

 速度を調節して更に前進すると、ごんごんと小気味のいい低音が歩行のリズムを取った――鉄鬼と変わらない感触がいっぱいに流れ込んできた。


『ウォーカー動かしやがったぞあいつ!?』

『ラザロ! ストレンジャーの噂はマジだったんだな!? 疑って悪かった!』

『い、いっただろ!? あ、相棒なんだ! ストレンジャー! ラックにある武器を持っていくんだ!」


 足さばきで旋回すると、なおさら小さく見えるラザロが巨大なトレーラーを大げさに指していた。

 ウォーカーサイズのガトリングガンと機関銃という形がそこに収まっていた。両手でそいつを引っこ抜く、これで二挺持ちだ。

 機体が武器を認識したんだろう、画面に二つの照準も追加で表示された。


「いい武器だ、こいつはなんだ?」

『従来のオートキャノンに変わる新しい武器だ、こいつはルツァリみたいな手持ちの……いやとにかく持って行ってくれ! 武器管制システムと同期済みだ!』

「了解、相棒。説明したきゃどんどんしてくれ、しっかり受け取ってやる」

『よし、よし――! 完璧だ! ちゃんと動いてる! そのまま前進してくれ!』


 新しい武器を両手に進むべき場所へ向かうと、高い視野が街奥へと潜っていく。

 重量のせいか前より少し遅く感じるが悪くない。安心のニシズミの心地よさだ。


『ははっ、エグゾより似合ってるぜ! 行って来い、そして帰って来い!』


 どこから見てるのかデュオは愉快そうだ。俺だって愉快さ、親友。

 サイドモニタには動き始めるみんなの姿があった、さあ行くぞ百鬼。


「だからいっただろ? ラザロに教えてもらっ――」

『いちクン! 前! 前!?』


 そのまま乗り心地を慣らそうとするが、ミコの言葉で気を取り直す。

 少し進まないうちにかんかんと機体を打ち据られた――攻撃されている。

 犯人と現場はすぐそこだ。北へ少し進まぬうち、バケツ頭が武器を構えてた。


『前と仕様が変わってるから気を付けてくれ! 腰には機関銃用の弾倉が、左腕のシールドには武器が仕込んである!』


 両手でそれぞれの照準を重ねようとするが、入ってきた言葉はそれだ。

 サブモニタの兵装管理はリンクした武器の残弾を示していた。手持ち式のガトリング、ウォーカーサイズの機関銃、胴部機銃、そして120㎜滑空砲と武装が豊富だ。


「武器がいっぱいだな! 弾倉はどうやって交換すればいい!?」

『あ、後で説明する! とりあえずルツァリを倒せ!』


 そうこうする間にもがんっとどこかに機関砲が当たる。機体が揺れた。

 射撃中のウォーカーを捉えた。しかし向こうも馬鹿じゃない、射線から外れようと細い動きでずれていた。


「こうか!?」


 そこへ左のトリガを絞った。同期したガトリングがぎゅりっと回り始め。


*VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOMMM!*


 左腕からとんでもない連射音が響く――!

 だがよけられた、逸れた砲弾が街のどこかをがらがら吹き飛ばす。

 構わずロボットらしい姿を照準で追いかければ、被弾した巨体が転んだ。


「……なにこれすげー!」

『……う、うわあ……』

『攻撃機も使ってる30㎜だ! そ、それと、肩! 肩に滑空砲がついてる! 左手のグリップにスイッチがある! 親指で押して展開して、三番目のトリガで撃てっ!」


 ずたずたな最期を見届けてると、奥からルツァリがまた増えた。

 そんなときにラザロがいうのだ。左のグリップ表面にあるスイッチがそうらしい。


「こっち向いてるやつか!?」

『それが展開ボタンだ! 押せば砲身が展開されて発射できる!』


 ウォーカーの動きを制御、横に移動しながら狙いを保持。

 そこへ向こうからの機銃やらオートキャノンが来た、目の前の建築物が削がれる。

 並行してグリップを操作した直後だ、左上からがごんっと厳しい金属音がした。


「ラザロ、これなん――」


 ウォーカーの視界の中で、何かが敵へ向かって伸びていくのも見えた。

 肩の砲が半回転したらしい。水平に構えられた砲身が敵をまっすぐ捉えてる。


『ショルダー・キャノンだ! 市街地への被害は心配しなくていいから撃て!』


 続けられた言葉がそういうのだから、俺はすぐに上半身の動きで狙った。

 追加で表示された照準が重なった。狙いは建物陰からバケツ頭――トリガを引く。


*zzVAAAAAAAAAAAAAAAAMM!*


 左耳一杯からの爆音がウォーカーの装甲も、自前のヘルメットも貫いてきた。

 機体も軽く持ち上がる感覚さえも感じたが、その画面の中では――


「……おいおい、なんだよこの威力」

『に、二機同時に倒しちゃった……すごい……」


 遠くからでも分かるほどの大穴(・・)が空いていた。

 障害物ごとぶち抜き、何なら背後にいた別のウォーカーも巻き添えだ。

 高速で叩きこまれた初弾にルツァリは横に倒れ、ついでに後ろでパウークの半身が抉れていた。ダブルキルだ!


『実に素晴らしい! 実に! 一撃で二機も撃墜するなんて!』

『は、はは……すげえ! すげえぞ百鬼! マジでやりやがった!!』


 ……ニシズミ社の二人は和気あいあいとしてるようだ。

 ボタンを押して砲をがごんと背に戻すと、戻った機体のバランスを感じつつ。


「オーケー、強さが良く分かった、このままあのキモいウォーカーやっちまえばいいんだな?」


 ガラクタになったウォーカーのそばを進みながら尋ねた。

 目的地はあの悪趣味極まりない巨体が織りなす重低音の発生源だ。


『まずは西へ向かってくれ! タラントラがヴァルハラに向かってる!』

「了解、害虫駆除だ」

『あ、そ、それと! ランディングローラーがついてる! 足元にギアがある!』


 道路をウォーカーらしく走らせようとするが、ラザロの言葉に意識が向かう。

 膝下あたりでそれに当てはまるレバーがあった。カフカで学んだものだ。

 左手で引いた。すると百鬼が姿勢を作って【ランディングローラー起動中】と出た――ペダルを踏んだ。


 ――ぎゅりりりりりりりりりりりっ!


 高速移動移動装置が作動した。踵の履帯が機体を滑らせていく。

 カフカよりも重く感じるが、加速した速度に街の風景が次々と変わった。


「またこいつが使えるなんて最高だな! どうしたんだこれ!?」

『あ、あんたが奪ったカフカがこっちに送られて、そこから閃いたんだ! でも機体重量で負担が大きい、使い過ぎに気を付けてくれ!』

『こちらダネル、敵の戦力が集結中だ。もしどこかにウォーカーに乗ったお手すきの王子様がいれば聞いてくれ、北部部隊の先輩どもがお困りだ』

「了解、ちょうど暇してる王子様がいたぞ。間違えて撃つなよ」


 標的は西か、それとエグゾ部隊が支援を必要としてるようだ。

 俺は高く見えるブルヘッドの街並みを西へ進んだ。もちろん相棒と共に。


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