52 歩く嵐に壊れたウォーカー
都心部を抜けてビルの群れから距離を置くと、幅広な道路に差し掛かった。
右も左も適当な商業施設や住宅がみっちりと詰まり、今までとは違う落ち着いたコンクリートの佇まいがそこにある。
はるか遠くにはウェイストランドの山々と荒野もあった――もうすぐだ。
ウォーカーにそんな光景を歩かせていると。
『お、俺たちの拠点がどんどんなくなってるぞ!? どうなってる、応答しろ!』
『助けてくれ! どっかから迫撃砲を打ち込まれ――!』
『ぶ、武器がねえ! 旗も消えちまってる! 何がおきてんだ!?』
『誰でもいい、攻撃中の部隊を引き戻せ! このままじゃ俺ぎゃああぁっ!?』
ごちゃごちゃとした有様の無線が流れ着いてきた。
と、会話を裏付けるかのように周囲でまた爆音。遠くに映るホテルから赤い熱と煙が舞う。
白旗はためく屋上からは火だるまになった人影が落ちていた。
しばらくすると灰色のシルエットがたちが白いやつらのシンボルを放り投げたようだ。
『こちらモスコミュール。俺たちが見えるか? あんたが通り過ぎようとしてるホテルの上だ』
路上の車を時々踏みつぶしているとヘッドセットに言葉が届く。
モニターに浮かぶスカベンジャーたちが手を振ってる。アームを持ち上げてそれっぽく返した。
「こちらストレンジャー、こいつの気さくなハンドサインが見えたか?」
『確認できたぞ。なんてやつだあんたは、まさかウォーカーを奪って暴れ回るなんて……人間か疑わしいぞ?』
「人のことをバケモン扱いしようがお前の自由だ。で、お前らは?」
『うちのモンを助けてくれたみたいだな?』
「どいつだ? ちょっと待ってくれ、今思い出す」
『前例がいっぱいで何より。人前でイチャつく仲睦まじい男女だ、今ここにいるぞ』
そう言われて同期した上半身を捻ってあわせれば、こっちに踏み出す男女の姿があった。
まだ少し辛そうだが寄り添いながらこっちに手のひらを振り回してる。
「面白そうなことしてたから俺も混ざってやっただけだ。盛り上がっただろ?」
『あいつらもさぞ萎えたろうな、まあそのお礼もあるが白いカスどもに個人的なお返しをしてるところだ。あいつらの邪魔をしてやる』
「そりゃどうも。ところでこのチャンネルを使ってるってことは――」
『こちらスタルカーだ、お前が助けた連中と合流して仕事に取り掛かってる。そちらへの支援はできうる限りする、テュマーに追いつかれるなよ』
そんなところにスタルカーからの無線も入ってきた。スカベンジャーたちは結託してるってわけか。
通信が終われば違法滞在者を追い払った連中がホテル屋上から消えた。
頼もしいこった。また前を向いて進めば、視界の中で確認できる限りの白旗が次々と倒れていくのが見える。
『指揮が滅茶苦茶だ! どうなってんだよ今の俺たち!? ムストさんはどうしたんだ!?』
『あいつはもうくたばってるよ!』
『なんだって!? なにやってんだあのゴミ!?』
『ストレンジャーのやつがやりやがった! 演説中に焼き殺したんだ!』
『おしまいだ! 俺たちここで死ぬんだ!』
機体の無線からお届けされる現場の声もごちゃごちゃ二倍だ。
また違う形で騒がしくなってるフォート・モハヴィをウォーカーで進むが。
『あいつらどういうつもりだ!? 後ろからテュマーが迫ってんだぞ!?』
『自分で物事を考えられない連中なんだろうさ!』
『そりゃ気の毒な奴らだな! で、どうすんだ!? このままじゃ進めないぞ!』
『スタルカーどもがいってる援護とやらはいつになったら来るんだよ!?』
モニターと音響システムにまた戦闘の光景が入り込んできた。
路上で寄り集まって戦うスカベンジャーたちが見えた。
拡大すると交差点北側を陣取る車列に攻撃されてるようだ。車に隠れて命がけで応戦してる。
白い姿の連中はリーダーを失ってパニック状態だ――こいつらか。
「残弾に気を付けてくれ! オートキャノンの残量が四割、二連機銃が半分切ってる!」
そんな場面へフルスロットルで駆けつけると後ろの声に注意された。
言われて気づくが小さなモニターが残弾を示してた。50㎜が四十発、五十口径が六百発、それからこんな報告もある。
【警告、脚部に損傷】
赤黒いアラートが搭乗者の気を害さない程度の控えめな警告を発してる。どういうことだ相棒。
「なあ、なんか損傷とか出てるんだけど……気のせいか?」
「敵に撃たれまくって短時間で二度もオーバーライドを起動したからだよ! 脚部に負荷がかかりすぎてる!」
「たったそれだけでこうなってんのか!? 欠陥品じゃねーか!」
「あんたの使い方が荒っぽいだけだ! もっと大事に使ってくれよ!?」
「お前のもんじゃないないだろ!?」
「でも整備したのは俺なんだぞ!? それも全機だ!」
後ろのやつが言うには俺の使い方が悪かったらしい。こうなったらもうゴールまで足腰が持ってくれることを願うだけだ。
ウォーカーが戦いの場に差し掛かると、こっちに背を向けていた連中は嫌でも気づいた様子だ。
「待たせたな! ロボで来た!」
『…………あいつらが言ってたのって、こういうことかよ』
『ずいぶん大層な援護が来ちまったな……』
『マジかよ……いやもうなんでもいい! 誰だか知らんがあいつらをぶちのめせ!』
唖然と見上げる団体は「どうぞ」とばかりに道を譲ってくれた。
スカベンジャーたちに変わって前に出ると、向こうで構えていた装甲車両やらの攻撃が静まった。
まるで信じられないといった様子だ。もっと信じられなくしてやろう。
俺は後ろの相棒にそこはかとなく促して、機体内の無線システムを開かせ。
「お前たちをぶち殺しに来たぞ。残念だけど降参は無駄だ、なんたって白旗がもうないからな」
両腕の狙いをホワイト・ウィークスの顔ぶれに向けてトリガを引いた。
どどどんっ、と短連射。残り少ない砲弾で車両も人も破壊する。
その余波に巻き込まれた人型がぼふっと弾けるのが良く分かる。続けて逃げようと走り出す姿も機銃で追う。
『あ、おい……あれ、もしかして』
『ストレンジャーだ……!』
『……頼む、見逃して』
途中逃げるのをあきらめてこっちに向いたやつがいたが、知るか。
五十口径という慈悲で命乞いごと吹っ飛ばした。無線からはパニックめいた言葉がざわざわ飛び交うありさまだ。
「な、なにしてんだ!? あいつら降参してただろ!?」
「あいつらの指導者はくたばったんだ。今ここにいるのはただのレイダー、それにもう立てる白旗もない、よってぶち殺す、オーケー?」
「……頭イカれてるよ、あんた」
「脳ならちょっと吹っ飛んだもんでな」
大人しくなった邪魔者たちを道にして進むと、突然背中に「かんっ」と音が立った。
気にせず進もうとしたところで「かかかかん」と違うリズムも刻まれた。
まさかと思ってラザロと顔を見合わせた。手元のスイッチでサブカメラの視点を変えれば――
「……ああ、まずい! こっちに来てる!」
無理やり相棒にした男が言う通りのヤバさがそこにあった。
勢いづいたテュマーの波が無人兵器を盾に迫ってきていたからだ。
デザートハウンドが走りながらこっちを撃ってる。こいつの装甲が五十口径を防いでくれてよかった。
「やっべ……! 走れ! ウォーカー! 走れ!」
「オーバーライドは使っちゃだめだ! 今使ったら負荷で動けなくなる!」
「何のための機能だよ!」
「こういう時のための機能だよ! 敵との間合いを詰める手段じゃないんだ!」
迫る大軍にもう一度加速しようとしたが、ラザロが半ばブチギレながらサブモニターを示してくれた。
『機体の熱量が平均レベルを超えてます』『発熱量70%』だのよくわからない報告が人型ロボットの姿を赤く染めてる。
ついでに足の損傷率もだ。グリーンが正常だとすればどん底は赤、そして今はオレンジ色だ。
『くそおおおおおおおっ! 調子乗ってんじゃねえぞ! ラザロ、この裏切りものがァァァ!』
機体が予想以上にまずいことを思い知ると、集音された声に引き戻された。
横から軍用の装甲車が突っ込んできた。機銃手が放つ12.7㎜の弾がウォーカーを軽やかに叩く。
気づいた頃には手遅れだ。オートキャノンをぶっ放すも外れ、懐に潜り込まれて。
――がんっ!
足元に酷い揺れがきた。機体もぐらっ……と一瞬よろめく。
【警告。脚部に致命的なダメージ】
付け加えられるのは足がやられましたという表明だ。やりやがったなクソが!
突っ込んできた車はウォーカーの足めがけてぎゅるぎゅる前進し続けてる。どうにか追い払おうとすると。
「たっ、対人散弾! 早く!」
背中の相棒がコクピット側面のスイッチを勝手に押した。
するとぼんっ、と耳に炸裂音が響いて。
*zzZZbbBAAAAAAAAAAAAM!*
まるで落ちてくるような爆発が周囲に生じた。
モニターを見るに何かが爆発して、ざばざば降り注いだ何かが装甲車を弾き上げたのは間違いない。
足元を塞ぐ感覚は消えた。少しぎこちない動きでウォーカーはまた駆ける。
「なんだ今の!? 車吹っ飛んだぞ!?」
「まとわりつく歩兵に使う装置だよ! 爆弾を打ち上げて地面にでっかい散弾の雨を降らせる!」
「さっき使ってくれなくてありがとう、本当に!」
「いきなり飛びついてきてそれどころじゃなかったんだよ馬鹿野郎!」
なんてもん積んでんだ、あの時使われてたら問答無用で死んでたに違いない。
こいつがビビりだったことに感謝しつつ早足気味のロボットに鞭打つと、ごごん、と変な音すら混ざっていく。
不安定な駆動音で通りをどんどん抜けると、前方の小さな書店から人が出てきた。
『逃がすな! 足を狙え!』
『よお裏切者! お前必ず引きずり出してぶち殺してやるからな!』
お手製感あふれるパイプ・ランチャーを担いだ白い連中だ――まずい!
よりによってこんな時に持ち込みやがって! 機銃を向けるも数人分のロケット弾が飛来してくるのがはっきりと映った。
何発か当たった。すぐそばで着弾の衝撃と熱がうっすら伝わって機体がひどく揺れる。
それでも動くウォーカーを頼りに機銃を撃つが、店の中からどんどん新手が――
『そっちにお仲間がいったぞ! 待ちきれなかったみたいだ!』
そんな時、タイミングよくスタルカーの報告が入る。
いや、言葉通りの物だって画面内に割り込んできた。
黒いパーカーを着たわん娘がしたした道路を走破して、人混み溢れる書店へと突っ込む。
第二射というところで構えた白い連中に横やりが物理的に入る――ニク、来てくれたのか。
『うっ、わあああぁぁぁ……!? なんだこいつ、ミュータントかっ!?』
『なんだてめえ! じゃ、邪魔するなあぁぁぁぁっ!?』
『お邪魔するっす~、ここの本屋さんってロケットランチャー売ってるんすか?』
反対側から見覚えのあるメイド姿も回り込んできて、逃げ場を失った奴らが断首される現場も見えた。
『あっ……みんな、来てくれたんだ……!?』
「お、おいなんだ今の変な奴ら!?」
「俺の知り合いだ、後で紹介してやるよ」
「いやしなくていいから! それより早く街を抜けないと、もう少しだ!」
【致命的なダメージ】のお知らせが増えたところで、またまた前方に敵が現れる。
道路に飛び込んできた牛鬼たちだ。逆関節の脚部が忙しく追いかけにきた。
『ただじゃ逃さねえぞ! ストレンジャー!』
『俺たちはもうおしまいだ! てめえだけでも道連れに――』
ところが、急にそいつの片割れが爆ぜた。
横っ面に謎の爆発が起きたウォーカーがごろっとバランスを崩すがそこに再び爆音、ようやく81㎜クラスの物だと分かった。
迫撃砲弾を二度もぶちかまされた一体が火を漏らしながら倒れてしまう――まさかと視界をたぐれば。
『な、なんだぁぁぁぁッ!? おいどうした、一体なに』
三度目の爆発が生き残りの横っ腹を襲った。
狙われた個所と炸裂の音からすぐ正体は割り出せた。さっきの書店の屋上に見知ったオーガが立っている。
いや、今がチャンスだ。頼もしい援護をきっかけにウォーカーを進ませて。
「先に地獄に行ってろ、じゃあな!」
バランスを失った敵の機体に鋼の拳をぶち込んだ!
受け入れられなかった一撃にひしゃげたボディが派手に転倒、控えめな火柱を上げて戦闘不能だ。
通り過ぎる寸前に分かったのはノルベルトが強い笑顔で手を振ってるところだ。ありがとう相棒。
「何がどうなってんだよ……! とにかく、街を抜ければあいつらもあきらめる! 急ぐんだ!」
「オーバーライドなしでか!?」
「使ったらこいつはぶっ壊れる! 絶対ダメ!」
「どうしてもダメなのか!」
「ダメ!」
そうこうしてる間に機体内部の警告を表す赤色が点滅し始める。
いよいよこいつもだめかもしれない、そう思った矢先に。
【そこのウォーカー、停まりなさい】
十字路までこぎつけた俺たちの前に、とても嫌な姿がのしのし近づいてくる。
曲がり角から交通法を守ってやってきたのは……20㎜弾でいっぱいの砲塔を担いだクモみたいなロボットだ。
『セメタリーキーパー』とかいう無人兵器だ。くそっ、邪魔するな!
オートキャノンをぶちこんでやろうとしたが、そいつはそばまで近づいてくると。
【道路交通法に基づき信号を厳守してください、フォート・モハヴィでは交通法を守りましょう。年間の死傷者はここ最近の情勢の変化により急激な増加を――】
砲塔とアームの動き込みで急に説明を始めやがった。
ちょうど俺たちの目の前で戦前から変わらぬ赤色が【止まれ】と永遠に訴えてるようだ。
そんなものを指しつつ、無人兵器はテュマーの群れにも構わず延々と……。
「……」「……」
無言で後ろの相棒と目が合った。
視線で話し合った結果浮かび上がった答えはこうだ。
機体を微妙に動かして、胴体の機銃を150年も道路を滞らせる信号に向け。
*ddDODODODODODODOM!*
信号機ごと交通法をぶち壊した。これで自由だ。
仕事がなくなった無人兵器は【適度な休憩をはさみましょう】と残して我先に離れていった。ぽんこつめ。
後ろ姿に「馬鹿め」とアームで侮辱の印を作ってからペダルを踏んだ。
「――って! 前! 前!」
そしてようやく街の終わりが近づくところで、いきなり背中の相棒が極まった声を上げた。
原因をカメラで探ると、なるほど、建物の陰から巨大な人の姿がこっちに飛び込んでくるところだ。
それも二足でどっしりとした――なんてこった、俺たちが乗ってるのとまったく同じ姿が現れた。
『逃がすかボケがァ! よくも裏切りやがってクソオタクめぇ!』
そいつはいきなり現れるなり鋼の拳を突き出してきた。
ウォーカーによる格闘戦だ。ががんっ!とひどい音を立てて視界がぶち抜かれる。
【センサー破損】などと報告を出しながらも周りが揺らめいて、画面にひどいノイズが混じってしまう。
『そんなもんに乗ったのが運の付きだなァ! このまま! くたばれ!』
「せ、センサーがやられた!? 予備カメラに切り替えて機体前面を……!』
しかしラザロもパニくりながらも冷静だ。ぶっ壊れた視界を捨てて予備のモニターで周囲の状況を拾う。
小さな画面に頼りなく浮かんだのは二撃目に続こうとするもう一機の鉄鬼だ。
「こういう時はどうすればいいか知ってるか? こうするんだよ」
が、俺は迷わずオーバーライドのスタートボタンを押した。
ぎゃりりりと嫌な音を立てて激しい駆動が鳴り始めると、俺は迷わずアームを振りかざしながらウォーカーを走らせた。
ラストランだ。殴り抜かれるところの腕を片方のアームで遮って、そいつに向かって突進する。
『う、おおおおおおおおっ!? なんだ、てめっ、やん』
結果的にいきなりの体当たりを食らった向こうの機体は押された。
壊れかけのウォーカーに飛び込まれて、ずんずん押し出されたそれは背後にあった建物に衝突。背中から突っ込んだ巨体のせいでマンションの一部が崩れる。
「な、何考えてんだあんたああああああああああああ!?」
「簡単な話だ、ぶち殺す!」
ウォーカーは視界いっぱいに【機体破損】【致命的なダメージ、行動不能】などとお告げするが、構わず俺は席を立つ。
ハッチを開けた。後ろで身を丸めて震える相棒を乗り越え、土煙立ち込める外の空気を感じた。
操縦席から広い世界に飛び出し、取っ手を掴んで乗り上げ、そして向かうはその正面。
ぶっ壊れてしまったウォーカーに縫い留められ、必死にもがく敵の機体だ!
『……直接乗り込むつもりなの!?』
ミコのお言葉通りだ、再び動き出す敵ウォーカーに飛び乗った。
それと同時に俺たちが乗っていた機体を押し退けて立ち上がるも手遅れだ。
あの時やったのとまったく変わらない形で背中に回り込んで、背中に晒されるレバーを掴んだ。
――がしゅん。
そして開けた。上下に分かれたハッチから「なぁ!?」と悲鳴が聞こえる。
迷わずその中に潜り込む。見ればこっちを振り向いて困惑する白い姿が一人。
「よお、こっちで勝負だ」
結局勝負にはならなかった。その馬鹿野郎の首元をねじり上げるとあっさり放り出せた。
二階建て以上の高さから墜落した男が「ぐへぁっ」と苦し気に悶える。
俺も地面に帰ろう。後を追うように飛び降りた。
「ふ、ふ、ふざけんなっ……こんな、馬鹿みたいなっ」
ぐじゃっ。
這い逃げようとした後頭部にナイス着地。そいつの背中がごぎりと潰れた。
それでもなお逃げようと腕が外の世界めがけて伸びるが、念入りに白いヘルメットごと脳天を踏んで抜く。
最後の一言は「ひぎゃっ」だった。これにてウォーカー撃破完了だ。
「……おいラザロ! こっからは徒歩だ! 急げ!」
水を差すやつもいなくなったおでウォーカーに残った相棒に声をかけた。
すぐにあの小さな男の姿が機体をひょろひょろ伝って下りてきた。乗り物酔いでもしたのか顔が青ざめてる。
「あんた、やっぱりおかしいよ……!」
今にも泣きだしそうだが無事だ。そいつの手を引いて倒壊した建物から離れると。
「ご主人!」
ものすごい勢いで向こうからダウナー顔の女の子が飛び込んできた。違う男の子だ、その名もニク。
「ただいま、一仕事やってやったぞ」
「……ん、ちゃんと守ったよ」
「えらいぞ。さあ行くぞ」
「分かった。ところでその人、誰……?」
抱き着いてきた犬の相棒を抱き返すやいなや一緒に走り出した。
通りの向こうではノルベルトやロアベアが武器を手にこっちを待ってくれてるようだ。
ニクが後ろの男を怪訝にしてるが「相棒だ」と短く告げて、みんなの待つ場所へと駆けこんだ。
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