表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
270/580

46 ホワイト・ウィークスを黒く染めろ

『いちクン、あれってもしかして……キッド・タウンで見たロボット?』


 向こうでセンサーが見渡してきたのを目にして、肩の相棒と一緒に引っ込む。

 そうだ、あれは以前俺たちが見たロボットに似ている。

 自分より何倍も大きな姿、あの両足の重さを感じる歩き方、キッド・タウンで目にしたものにそっくりだ。


「間違いなくお仲間だろうな。問題は前よりご立派ってことだ」


 しかし今回は出来が違う。鋼鉄の下半身に相応の上半身がくっついている。

 雑多な部品で組み立てられた胴ではなく、角ばった装甲をいたるところにまとった人間の形だ。

 隙間から見える黒い素体の関節は人類に近い挙動で可動して、アンテナの伸びた頭部パーツがなめまわすようにあたりを見渡す。


『ストレンジャーを生け捕りにすれば50000チップ、ぶち殺せば半分だ! お前ら逃がすんじゃねえぞ!』

『ウォーカーに続け! あいつらはこのあたりにいるぞ!』


 遠くで巨大な二足がずんずん近づく音に混じって、拡声器に通した声や車両の走行音もついてくる。

 ぎゅらぎゅらという履帯の音も――もしやと思ってわずかに顔を覗かせれば、細い砲身を向ける小柄な戦車すらいた。


「エミリオよ、あのゴーレムはなんなのだ?」


 車の残骸に背丈を押し付けていたノルベルトもそう聞かざるを得ない相手に違いない。

 当のエミリオたちはストレンジャーを求める姿に気持ちの良くない顔立ちで。


「あれはウォーカーだ、オーガ。戦前の企業が作ってた有人型のロボット、それもただ歩くだけじゃなく実戦向けのやつさ」

「……エミリオ、ありゃもしかしてニシズミ社のウォーカーじゃないか?」

「待て、待て、まさか強奪されたウォーカーってあいつらの仕業か!? ってことはだぞ……!?」

「……あー、更に言うとだね、ちょっと説明しづらいんだけど」


 一体あの光景にどんな事情があるのかは想像もつかないが、何か思い当たるものがあるエミリオたちの様子にまた音が重なる。

 ウォーカーの足音に似たような重量感が混じってきた。それも何個もだ。

 まさかと思ってまた覗けば――


『ホワイト・ウィークスに楯突いたのは間違いだったなあ、ストレンジャー!』

『俺たちの収穫を邪魔するなんて世の中を知らないみたいだな、じっくりなぶってやるぜ!』


 最初の人型に続いて、巨大な姿が何体も続いていやがった。

 先頭のそれに比べれば一回り小さい姿だ。逆間接の足で道路を踏みつぶし、両腕代わりの二問の砲が上半身ごと獲物を探ってる。

 説明しづらい理由が詰まってるのは良く分かった。どういうことだエミリオ。


「状況が状況だ、手短に言ってくれ」

「前にブルヘッドのとある企業の貨物が強奪された事件があってね。ウォーカーが何台も行方不明になってたんだ」

「なるほど、やっと所在がつかめたみたいだな」

「そうだね。どういうルートか俺たちには計り知れないけど、こうして窃盗犯が見つかったわけだよ」

「それも全員か」

「そう全員――所在不明のウォーカーごとね」


 聞きだせばイケメン顔が青ざめていく。

 取り巻きを連れたロボットの足音がまた近づいて、俺たちはやっと気づいた。


「どうするんすか皆さん。これってまずいと思うんすけど……」


 下手に動けば何が起こるか分からない状況、最初に口にしてくれたのはロアベアだった。

 相変わらずによっとした顔だが、こうしてはっきりと尋ねてくるあたり余裕がなさそうなのは確かだ。


「おっきなゴーレムがいっぱい近づいてますけれども……エミリオちゃん、あれってやっつけられないのかしら?」

「あの数を目の前にしてぶち壊せ、だなんて発想が浮かぶなんてすごいと思うよリムサマ。答えはこうさ、逃げるしかない」


 リム様がちょこっと尋ねて来た瞬間、急に足音がとまった。

 かと思えば機械の駆動音が聞こえて――


『隠れてないで出てこいストレンジャー! 俺たちと遊ぼうぜ、クソ野郎どもが!』


 どんどんどんっ、と小さな爆音が連続して響いた。

 俺たちの周りが土煙を上げてオレンジ色に吹っ飛ぶ。離れた建物の壁すらも火花を散らして砕けてしまった。

 銃撃、いや砲撃だ。あのウォーカー一体何積んでやがる?


「……おい、今のなんだ? 何ミリクラスだ?」

「オートキャノン、三十ミリのやつが左右のアームに二問、それから――」


 お次はどどどどどどどっ、と五十口径の連射音も続いた。

 あたりにまき散らされた弾がばちばち音を弾けさせて、身を隠していた車ごしに着弾の衝撃が伝わる。


「胸部に対人用の二連装の五十口径、歩兵対策もばっちりなウォーカーだ」

「なるほど。で、なんで俺を名指しした上でそんなんぶっ放してるんだ?」

「それだけあいつの気持ちに触れたんじゃないかな?」

「そうか。さぞ嫌な思いをしたらしいな」


 軽口はいくらでも出るが、マジでまずいのは分かった。

 どうする? 手持ちの武器は? ノルベルトが持ってる迫撃砲や収束爆弾程度でどうにかなるのか?

 いや、あの数とあの火力を前にそもそもどうやって逃げればいいんだ? 

 落ち着けクソ、固まってる場合か、全員無事な方法を考えろ。


「……逃げられそうか?」

「トンネルに全力で戻るしかないだろうね。そうすれば入ってこれない」


 段々と迫る巨大な気配を全身で感じながら、俺たちは周囲を見た。

 少し下ればまたあのトンネルに飛び込めるはずだ。問題はそれまでの間、一体どれだけの火力が叩き込まれるのか。

 砲撃でも頼むか? いやダメだ、近すぎる。それでも爆撃の中を突っ走った方が安全か?

 周りの建物に敵は? どこか他に逃げ込める場所は? そう探ってるうち。


「待て、奴らはどうして私たちの存在を知ってるんだ?」


 全員があのトンネルに活路があると感じていたところで、クラウディアがそんな疑問を挟む。


「……確かにそうではないか。なぜここに皆がいると分かって立ちふさがってるのだ?」


 ノルベルトもそう言いつつ、大きなバックパックから武器を取り出す。

 集束手榴弾を取り出すと俺に手渡してくれた。理由は分かる、少しでも怯ませれば俺たちの生存率は上がるからだ。

 あんな人型ロボットに効くかは怪しいがないよりはましか。

 いやそれよりだ、二人の言う通りどうしてあいつは俺たちのことを――


「……ご主人、あの建物!」


 トンネルめがけてどう逃げるか、そう意識が揃い始めた時。

 ニクが急に犬の手を持ち上げる。つられてみれば向こうの通りのアパートだ。

 身動きが取れない俺たちが見上げれば、そんな街並みから小さな光が反射して……ああ、まずいぞ。


『へっへっへ……お前ら、ストレンジャーをあぶりだしてやれ! 当てるんじゃねえぞ!』


 その瞬間、背後のウォーカーから不愉快な声が響き渡る。

 あちら側の景色でぱぱぱぱぱぱぱぱっと銃撃が始まった。

 軽機関銃の弾が足元に背後に頭上に小気味よく当たって、俺たちはとうとう捉えられたわけだ。


「――走れっ」


 止まってたら死ぬ、お手製の対戦車手榴弾を手に動こうとした時だった。


 ――ぼんっ。


 砲声、すぐ後ろが爆ぜた。熱い火花が散ってあたり、破片と衝撃が背を襲う。

 三十ミリ弾だ。アーマーが守ってくれてまだ動く、どうにか地べたに倒れる。


「……イチ!? 大丈夫か!?」


 今まさに駆けだそうとしたノルベルトたちと目が合った。

 そんな間にまた爆発が挟まる。丸くなったオーガの巨体がみんなを守ってくれた。

 意識に耳鳴りが混じる。だがこれくらいで気は失うほど弱い男じゃないぞ、

 おかげさまで頭が良く回った。ストレンジャーをご所望、向こうは調子に乗ってる、いいお膳立てが二つもあるじゃないか? ええ?


「――ニク、ノルベルト! みんな守ってトンネル行け!」


 あたりで小規模の爆発が嵐のように起きる中、俺は立ち上がって駆けた。

 いきなりの言葉に犬っ娘とオーガがエミリオたちと仲良く戸惑うが、すぐ動いてくれた。

 物陰から飛び出し、トンネルから遠のいて街へと走る。これが俺の最適解だ。


「けっして死ぬなよ! よいな!?」

「北で合流だ! お前らこそ死ぬな、さっさと行け!」


 背後でそう声がして、みんなが遠のくを確かに感じた。

 だが効果ありだ。一人で逃げ出したストレンジャーに、あいつらの攻撃が確かに止んだ。


『なっ……なんだぁ!? 何考えてやがんだこいつ――』


 ウォーカー越しのまぬけな声がそう躊躇うのを感じて、俺はすぐに自動拳銃を抜く。

 横目に足を止めて搭乗者ごと戸惑うロボットがいた、距離にしてさほどない、図体めがけてトリガを引きまくる。


*Pathththth!*


 当然45口径程度が効くはずもないが、気を引くには十分だったらしい。

 すぐにどんどんどんっとオートキャノンの攻撃が迫ってきた。背後で次々と起こる爆発に身体が押される。

 そこに五十口径が、小口径の連射が、本気で一人の人間を追いかけてきた。

 足元が割れて、皮膚を掠め、アーマーがばちっと弾に叩かれ、それでもフォート・モハヴィを踏んだ。

 

「悪いなミコ、どうも俺はこういう運命らしい!」

『大丈夫、わたしもう分かってるから! 絶対に死なないでね!?』

「ありがとう相棒!」


 呆れのある肩の短剣の言葉を受けて、熱と金属飛び交う中を突っ走る。

 人様の頭上を飛び越えた砲弾が、逃げ込もうとした建物の外壁を砕く。

 『待ちやがれ!』という興奮した声が、障害物を踏みつぶすウォーカーの走行と混じってやってくる。

 ストレンジャーに興味をもった装甲車両すらこっちに向かっている――ボルターにいた頃とさほど変わらない。


「逃がすかよォ! 何がストレンジャーだ、ぶっ殺せばみんな同じだァ!」


 障害物に恵まれた道路を突っ切ろうとすると、目の前の車列が大きく崩れた。

 こじんまりとした戦車が戦前の名残を押し退けながら行く手を塞いできた。

 ハッチから身を乗り出した白アーマーの男が機銃を向けてくるが、邪魔だ。


「スタルカー、聞こえるか! 支援してくれ!」


 俺は走りながら拳銃を突き出した、揺れ動く照準で砲塔ごとこっちを向く車長をエイム。

 目の前でどんどんと野太い砲声が連続して重なるが、トリガを何度も引いて機銃を掴む人の姿を撃ち抜く。


『切羽詰まった声じゃないか、どうした?』

「ウォーカーの群れに追われてる! さっきより30m奥に狙って撃ちまくれ!」

『おいおいおいおい……どういう状況か知らんがすぐやってやる、待ってろ!』

「もう狙いは適当でいい! とにかく足止めしてくれ! 砲撃の中を突っ切る!」


 鼓膜をぶち破るような機関砲の迫力をすり抜けて、邪魔な戦車に駆け寄った。

 ハッチの中から別の人間が仲間を押し退けて出てくるが、手元の手製の対戦車手榴弾のピンを抜いて。


「こっ、後退しろ! ストレンジャーがきてんぞ! 早く早く――」

「邪魔して悪かったな、じゃあな」


 見上げる頭に数発叩き込んだ。大人しくなったところによりまとまったパイプ爆弾をぶち込む。

 遠くで81㎜の音が混じって来る最中、俺は踏み台にした戦車からまた走り出して。


*zZbaaaaaaaaaaaaaaaaM!*


 背後で温かい爆発が起こるのを感じながらまた駆け抜けた。

 それでもあきらめきれないウォーカーたちの砲撃があたりを襲う。

 逃げる先が、左右が、殺傷力のある火花を立ててあたりを土煙色に染めていく。


『着弾来るぞ! くたばっても文句言うなよ、走れ!』


 そこにスタルカーの怒鳴り声が耳を突く。

 目の前にあるのは住宅街に溶けこんだドラッグストアだ。中途半端にぶち壊された防犯シャッターが中への道のりを示してる。


『待ちやがれ! ホワイト・ウィークスから逃げられると思うなよ! お前が逃げてるのは俺たちの縄張り――』


 背中に自信にあふれた大声が当たるが、すぐに爆発音がそれをかき消す。

 一体どんだけ撃ったんだろうか。おびただしい炸裂音が短い間隔で何度も響いて、『ひぃっ!?』とウォーカーごと誰かが怯む、

 ありがとうスタルカー、俺はスモーク・クナイを抜いて足元に叩きつけた。

 【ニンジャ・バニッシュ】が煙と共に発動、81㎜の爆音にかき消されて建物の中へと潜り込む。


「ストレンジャーが逃げたぞ! 絶対に逃がすな!」

「くそっ! スカベンジャーどもを味方につけやがったな!?」

「どこだ! ここら辺にいるはずだ!」


 荒れた店内が見えてくると、そこにどんっ、と裏口のドアが蹴とばされる。

 めぼしい薬は荒らされて好き放題になったところに、おそらくここまでしてくれたであろう白いアーマーの奴らが何名も押し寄せてきた。

 だがこっちに気づいちゃいない。姿が見えないストレンジャーを銃口と共に探ってくるところに迫ると。


「――よお」


 そいつらの目の前で透明化が切れる。

 滅茶苦茶になったドラッグストアの有様に難儀しながら進もうとした姿は、当然「は?」とこっちをみて疑ってきた。


「……す、すとれっ」


 手近な場所にいた奴が引く、そこに寄って捕まえた。

 銃口先のオイルフィルターを首の根元に当てて射撃、ばすばすっと45口径が叩き伏せる。


「いっ、いきなりでや…うわああああっ!?」


 驚く次の相手に接近、向けられた銃を反らして組み付く。

 そして脇腹にめがけて銃を押し当て――


*PHT! Phtt!*


 至近距離から内臓めがけて二連射、苦しそうな声と共に倒れる。

 最後の一人が「あっ、うあっ」と逃げ始めた――クナイを抜いて振りかぶり。


「――シッ!」

「あっあっ、で、でたっ、でやがあああああああっ!?」


 【ピアシング・スロウ】で防具ごと背中をぶち抜く。

 赤色と悲鳴にまみれた店内はこれで制圧完了だ。あいつらの出てきた扉に向かって脱出しようとするが。


「……おっと」


 道中、スナック菓子の棚が見えた。

 トルティーヤチップスが一杯だ。急ぎ足のままかき集める。


『……いちクン、それどころじゃないよね?』

「スカベンジャーを見習っただけだ、使えそうなものは持ち帰れってな」


 追手の気配が一瞬薄まった今、俺は赤い袋を開けて外へと出て行った。

 ついでにばりばりと食しながらだ。ボルターの時に比べればこんなの楽勝だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ