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14 Day3


 目が覚めると自分はまだ生きていた、ひどい目にあったがもう大丈夫らしい。


 今回は夜明けとともに地上に出ることにした。

 まずかったとはいえ久々の食事のおかげか元気が戻ってきた。

 内臓がひっくり返りそうなぐらいの吐き気と一晩中戦う羽目になったが。


「……誓おう、スパゲッティはもう二度と食わない」


 朝食はMREに突っ込んであったプレッツェルだ。

 袋に棒状のものがみっちり詰め込んであって塩味がかなり効いてる。


 そんなおやつをポリポリしながら昨日と同じ場所へ向かう。

 やはり喉が渇いたのでドクターソーダも飲んだ、シェルターの寒さで良く冷えてる。


 ふと空を見上げると今にも雨が降り出しそうな曇り空だった。

 空気は湿っていて、背中から生暖かい風が吹いている。


「……いやな天気だな」


 それになんだかむずむずする。首と胸と脇腹のあたりからだだ。

 誰かに傷の跡をほじくられるような気持ちの悪さがした。

 おかげで忘れかけてた傷のことを思い出してしまったが、無理やり忘れた。


 空っぽになった瓶を『分解』して道路を辿る。少し見慣れた道を進むと昨日やってきたエリアへとたどり着いたものの、


「うっ、うわあああああああああああああああッ!」


 足を踏み入れるなり誰かの悲鳴が向こうから飛んできた。

 あわてず廃車の陰に隠れる。

 そして音の発生源を辿る――向こう側にあるレストランからだ。


「ォォォォォォオオオオオオオオオオ――ッ!」


 黒い毛むくじゃらの怪物――ドッグマンがいた。

 歩道の上でぱんぱんに張ったバッグを抱えていた男を押し倒している。


「くっ……くっそおおおおぉッ! まだいるのかよォォッ!」


 格好からしてアルテリーのやつか。

 男は咄嗟に手にしていた銃を化け物の顎に突き立てていたものの、

 

「なっ……た、弾がでな……だ、誰か助け――」


 何度も引き金を引いても弾が出てこない。

 まさか弾詰まりか? その原因がなんであれ化け物は容赦してくれるはずもなく。


「オガァァァァァッ!」


 爪を体に突き立てて、あの大きな口で男の喉に食らいついた。

 悲鳴すら出させないつもりであっという間に骨ごと噛みつぶすと、


「……グフゥ……!」


 あー……まずい。

 哀れな犠牲者をぱくっとくわえた化け物と目が合ってしまった。


 物陰から小動物みたいこそこそしている俺を灰色の目でしっかりと見ている。

 それも臨戦態勢で。今にもこっちに飛び掛かってやるとばかりに。


「…………!」


 一瞬出かけた悲鳴が引っ込んでしまった。だがなんとなく感じる、下手に動くなと。

 相手が獲物を手放してこっちに来ないことを祈りつつ、静かに見つめる。


 ……こうしてみると距離が離れていても分かるぐらいにデカい。

 少なくとも自分を軽く追い越す身長で、そこに犬のような体毛も重なり大きく見える。

 しかもそいつは二足で不格好に立っていて、頭は完全に犬なのだ。


 総じて「犬人間」だとかそういう感じだ。

 そんな見た目なのに機敏でパワーもあって……つまりヤバイ。


「……ガフッ」


 あれこれ考えてるとドッグマンはふいっと顔をそらした。

 すると獲物ごと飛び上がって――近くの店舗の屋根に飛び乗った。

 ちょっと待て、なんだあのジャンプ力は。


「くっそ! 遅かったか!」

「ドッグマンだ! シープハンターがやられてるぞ!」

「ぜったい逃がすな! アイツをぶっ殺せ!」


 そこへ遠くからアルテリーたちがぞろぞろとやってくる。もう手遅れだ。

 そいつらは思いつく限りの罵倒を吐きながらドッグマンを追いかけていった。


 しかしアレを見てもこうして冷静でいられるなんて、俺もだいぶ慣れたな。

 そりゃあんな惨たらしい死に方を繰り返せば肝も据わると思う。

 あるいはもう感覚がマヒしてるのか。


「……待てよ」


 ここにはもう誰もいない。だがレストランの前にはあのバッグが転がったままである。

 ……持ち主は死んだわけだ。少し考えて、急いで廃車から飛び出す。

 開けっ放しの扉の前に満杯のショルダーバッグがある。

 しかも近くに銃が置いてある。確かライフルとか言うやつか。


「ありがとよ、ドッグマン」


 所有者永久不在のバッグと銃を手に入れた。ずっしり重くて期待できそうだ。


 「……よし、よし! 一旦帰るぞ!」


 オーケー、今日は上等だ。

 下手な冒険はやめてこれをシェルターに持ち帰ることにしよう。


 いそいで大通りを引き返し、廃車を辿り、あの道路へと戻っていく。 

 中身がなんなのか分からないし銃の使い方なんて知るはずもない。

 だが大きな収穫だ、これでまた一歩前進できたわけだし――


「……!」


 見慣れた殺害現場へと近づいたときだった。不意に、妙な感覚が背中のあたりに走る。

 最初は見過ごそうと思ったものの立ち止まった。

 これ(・・)を絶対持ち帰ろうと慎重になってるからかもしれない。


 だから俺は冷静に感じ取ることにした。

 何か原因がある。それになんだか嫌な予感に変わってきたからだ。


 見る限り周囲には誰もいない。自分が死んだ痕跡だけだ。

 しかしなんだろう、ほんのわずか、空気に汗臭さを感じた。


「……誰かいるのか?」


 意識をさらに集中させてる……風の音に混じって、ざりっという音が挟まった。

 足音だ。誰かの歩く音を感じる。確実にこっちに向かってる。


「……まさかな」


 どうしようか悩んだ。だが、もうためらわなかった。

 俺は自分殺害事件のあった廃車のボンネットの中にバッグを放り込んだ。


 手元に残ったのは使い方の分からないこの銃だ。

 傷だらけの木製ストックに触れると『シングルショットライフル』と表示された。


 ひとまずそれっぽく握って、構えてみて、それでどうすればいいんだ。

 そうだ映画だ、映画でこういうのを見たことあるだろう。

 よく見ると撃鉄の近くに留め金がある。

 動かして力をこめると銃身が折れた、中に銃弾の姿が見える。

 銃身を戻して撃鉄を起こした、よし、これで撃てるはずださあ来いこっちに来てみやがれ悪魔どもやって(・・・)やる。


「……おい! 見つけたぞ! 獲物がいやがった!」


 向こうで声がした。くそ、やっぱり近くにいたか。

 二人だ、倒壊した民家の前に男が二人、こっちを指さしてる。


「ってありゃシェルターの住人じゃねえか!?」

「こいつはいい、ハンズリー様のとこへ持ち帰ろうぜ。さぞ珍しがられるだろうよ」

「そうするか。おい、そこ動くんじゃねえぞ!」


 ナタを持ったやつがずんずん近づいてくる。

 向こう側で弓を持ったやつがこっちを狙ってる。

 そうか物陰で銃が見えてないのか、それなら……やってやる。


「よう兄ちゃん、あそこの生き残りか? ちょっとお話ししようぜ? 大丈夫何も――」


 ナタ男がさらに前進、薄汚れた顔とイってしまった目を確認。

 銃を持ち上げた、絶対外さない距離だ、頭を狙う。

 構えた、良く分からないが照準の間にカルト野郎の脳天を捉える。


「……はっ? なんだお前銃なんてもってやが」


 トリガを引き絞った。


*ダンッ!*


 肩を突き飛ばされるような反動、破裂するような銃声。

 銃身の向こうでアレが吹っ飛んだ。

 視界の隅で【LevelUp!】という文字が浮かんだ気がする。


「てっ……てめえ、なんてことしやがるこの死にぞこないがァァッ!」


 やっと一矢報いてやったぞこの人殺しのクソ野郎ども。

 ところがすぐに自分の眉間に矢が飛んでくるのがはっきりと見えて。


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