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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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95 報復(対戦車地雷)

 「――聞いてくれボス、仕上がりは完璧だぜ。……さっきの爆発はなんだって? いやちょっと道をどいてもらっただけだ、気にしなくていいぜ。なに? ついでだよついで、いいことづくめだろ?」


 ミリティアのボディアーマーを脱ぎ捨てていると、足元でツーショットが楽しそうに話してた。

 ハッチから見る光景には、車列が見慣れたガソリンスタンドのそばを曲がり抜けて安全区域へ直進していた。

 さっき至近弾を食らって脱輪した一両だけは別だ。不安定な走りの末に、ふらふらしながら停車する。


「あのトラック止まったぞ、大丈夫か」

「サスペンションやられたんだろうなぁ、まあここまで来れば大丈夫だ。心配いらねえよ」


 心配になったがコルダイトがそう言うんだから大丈夫だろう。

 それに車列の横から、荒野と同じ色をした軍用車がこっちに向かって――シエラ部隊の車両だ。


「聞いてくれ、陽動が終わったシエラ部隊の連中が戻ってきたみたいだ。ついでに南の一部を奪還したんだとさ」


 ツーショットの報告によるとあれは一仕事終えて帰って来たってことらしい。

 向こうから来たってことは、街の南からまで繋がる道路も確保したってことか。


「ああ、ちょうどいま向こう側から来てるぞ」

「確か我らがボスも支援に行ってたらしーぜ。そりゃ楽勝だろ」

「陽動ついでに取り返してきたのかよあいつら、やることが派手だねぇ」

「どこに"ついで"でそこまでする奴がいるんだ……本当に何なんだお前たちは」


 あの人も同行してたなら納得だ。ヒドラとコルダイトは良くわかってるが、オレクスだけは信じられない事態らしい。

 そうやって話してると、力尽きたトラックのそばでレンジャーの車が停車した。

 シエラ部隊の面々とボスも出てきた。最初はトラックを気にかけてたみたいだが、こっちに気づいた。


「さて諸君。ボスはこの状況に対して説明を求めてるみたいだが、何かいい説明の仕方はないか?」


 操縦手はそういいながら戦車をご本人たちに近づけている。

 残念なことにルキウス軍曹もボスも「何しやがったあいつ」な顔だ。


「おっさんにいい考えがあるぜ、ストレンジャーのせいにするってのはどうよ」


 そんな姿を照準越しに見てるんだろう、コルダイトがまず笑う。


「そりゃいい考えだな! 車長の命令には従うしかなかったってことでいいか?」

「じゃあ俺も一票入れるか。オレクス君よ、お前はどうする?」

「……あんな殺意むき出しで指示出してたんだ、残念だがこの車長殿の擁護はできないな。俺も一票だ」

「おい、まさか俺に責任転嫁するためにこんな特等席に座らせたのか!?」

『……やる気満々だったよね、いちクン』


 しかも今回の責任は全てこの車長にあるらしい、ミコもフォローできないほどに。

 今のうちに権限を使って連帯責任にでもしてやろうと思ったが、


「……なるほどな、婆さんの言う"適当"がこれか。何もかも奪ってぶち壊しながら帰ってくるとはな、お前ら頭は大丈夫か?」

「確かに物資を奪って来いとはいったよ、私は。それがどうして戦車に乗って堂々と帰ってくるのか説明してもらいたいもんだね」


 シエラ部隊の隊長と、この世界で一番おっかないおばあちゃんの呆れる姿の前でぴたりと履帯が停まる。

 車内に顔を向けるものの、みんな「あとは一任する」と見上げてるところだ。


「メンバーの総意で近道をしてきました」


 俺は全員巻き込みながら、親指で自警団事務所がある方を指した。

 ……その瞬間、どーん、と派手に爆発したらしい。

 振り向くとずっと遠く、細かく言えば事務所のあった方から爆炎が上がってる。

 きっと誰か引っかかったんだろう、オレクスたちの職場がこれで消えた。


「……あー。あの爆発はなんだい?」

「オレクスの退職届だそうですよ」

「ずいぶん派手な退職の仕方じゃないかい。で、馬鹿やった連中は全部中にいるんだね?」


 大爆発の原因が足元で「聞いたか、すげえ音したぜ」「やったなぁ、大爆発だ」などとうきうきしている。

 俺の顔でも見て判断したんだろう、ボスは呆れを込めたため息をして。


「ヒドラ、コルダイト、見てみな。あんたらのおかげで馬鹿デカい反撃の狼煙ができてるよ」

「えっマジっすかボス。おいどけよストレンジャー、どうなってるか知りてぇ!」

「はっはっは、そんなにかよボス。今どうなってんだ」


 そんな呼びかけに二人が這いあがってきたので、降りて道を譲ってやった。

 道路を辿ったはるか先に上がる爆炎の塊を見て「すげえ!」だの「びびっただろうなぁ」だとか楽しそうなご様子だ。

 ルキウス軍曹は俺を見るなり「またなんかやったな」みたいな顔をしてきた。


「戦車に問題児ばっか詰め込んだみてぇだな。マジでどうかしてやがる」

「その問題児っていうのはまさか俺もカウントされてるのか」

「ああ、かなり前からな。ちゃんと自覚してるようで何よりだ」

「良かったな、あんたの上官もちゃんといるぞ」


 そんなやり取りをしてると、砲塔下のハッチが空いてツーショットが顔を見せに来た。

 無言でニヤつくだけの挨拶にかなり嫌そうな顔だ。いい上司に恵まれたようで何よりだ。


「プレッパーズの教育の賜物ってか? 今日も元気だなストレンジャー」

「ったく、俺たちが時間稼ぎしてる間に馬鹿騒ぎしたみてぇだな? そっちに行きたかったぜ」

「今頃あっちで慌てふためいてるでしょうね。こっちはミューティたちが大暴れするせいで大変だったわ、確かに心強いんだけどね」

「俺たちは命令通り適当(・・)にやっただけさ」


 嫌な再会を果たした隊長はさておいて、他の部隊員たちはいつも通りに親し気だ。


「そういうわけだルキウス軍曹、おたくの工兵殿を貸してくれないか? あっちの調子を見てやってくれ」

「了解、少佐。ところであの馬鹿みてえな数のトラックはなんだったんです? ずいぶんと沢山お買い物をしたようですが」

「連中が馬鹿なもんで拾い物がいっぱいあったのさ。だからみんなで持ち帰った、それだけだぜ」

「代金もしっかり払ったようですな。カーペンター、見てこい」

「了解お二人とも。それではカーペンター伍長、トラックのご機嫌を伺ってまいりますよっと」


 上官の指示を受けてカーペンター伍長は身動きの取れないトラックの方へと行ってしまった。

 しかし再会を喜んでるところに、


*PAPAPAPAPAPAPAPAPAM!*


 乾いた銃声が挟まる。反射的に向いた先は西側、北部との境目あたりか。

 少なくともこっちに向けられたものじゃないが、「今のは?」とみんなを見るも。


「あの野郎、まだいやがったか。鬱陶しい奴だ」


 ルキウス軍曹は音のした方を向いた。

 すると道路を西に進んだ先から駆動音――銃座つきの車と、いつぞや目にしたあの小さな戦車が横切るのが見えた。

 確かオコジョとかいう戦車だ。だが、一瞬だけ見えたいかにもな車両は覚えがあった。

 車体上部についた投光器、それにあの小口径の銃声、まさか。


「ルキウス軍曹、今のはなんだ?」

「さっきから市街地で好き放題やってる誰かだ。あんな風に馬鹿みたいに走っては無差別に撃ってくるもんで困ってるところでな」

「あいつら今度は西に行きやがったな。あそこは確かハイスクールのある方だったか、確かチャールトン少佐が行動中だよな」

「どうせ活動できる範囲が狭まって焦ってるのよ。ほっといてもそのうち捕まるわ」


 シエラ部隊の三名の言う通り迷惑な馬鹿なのは間違いないだろうが、俺にとってはひどく思い入れのある誰かだ。

 あれは確か、いや、誰が忘れるか、きっとあの時のレイダーだ。

 人の片足に穴開けてくれたあのバカに違いない。ぶち抜かれたふくらはぎに覚えが残ってる。


『……いちクン? ど、どうしたの……?』

「おいストレンジャー、どうした。シャレにならねえ顔してやがるぞ」


 ミコに言われて気づいて正そうとするが、あの怒りがふつふつと戻ってきた。

 あの足に広がった熱さ、痛み、脱力感、もうないはずのそれが想像力で蘇る。

 残念だが、もう俺には恨みを晴らすチャンスにしか感じられない。


 ――場所はここより西、さっきぶち壊した二つ目のホテルの裏側あたりか。


「ツーショット、先に帰っててくれ。すぐ戻る」


 あの晩のことをここで断ち切ってやる。

 俺は停まったトラックの方に向かうが、


「おいおい、こういう時「先に行け」「すぐ戻る」だとかはNGだ。言い換えろよ」


 行くな、だとか、やめろ、だとかそんな声は来なかった。

 代わりに戦車の車体ハッチから、ツーショットがニヤリと見送ってる。

 ボスも大体そんな感じだ。顔は硬く真面目だが、絶対止めはしないだろう。


「やり返してくる」

「へへっ、分かってんじゃないか。行って来いよ」

「よろしい。しっかり返してきな」


 行っていいそうだ、まっすぐトラックの荷台に向かう。

 武器弾薬に食糧すら重ねられたそこで、よく見るダークエルフが窮屈そうに缶詰を物色してるところだった。

 そのすぐそばでブロンド髪の伍長が工具を広げていたので、


「む、イチか。どうした、腹が減ったのか」

「あ? どうしたストレンジャー? トヴィンキーならここにはないぜ?」


 俺はバックパックから例の箱を取り出してぶん投げた。

 「おおっ!?」と嬉しそうに驚く姿を無視して荷物を漁る。


「おい、いいのか!? トヴィンキーがいっぱいじゃねえか!」

「後にしてくれ、ちょっと仕返しに使う道具を探してるんだ」

「仕返しか? どんな奴だ?」

「あんたらがさっきから鬱陶しいと思ってる馬鹿野郎だ。何かないか、強い奴が欲しい」


 使えそうな武器は、ダメだ小火器ばっかだランチャーぐらい置いとけクソが。

 あるのは丸形で取っ手のついた――対戦車地雷ぐらいか、これでいい。

 信管はどこだ、とごそごそしてるとカーペンター伍長もよじ登ってきた。


「おいおい、地雷でも踏ませるつもりか? まあ待てよ、工兵様に任せな」


 ずっしりと重いそれをぶんどられる。

 でも俺より扱い方は慣れてるみたいだ。自分の荷物から安全ピンのついた信管を取り出して、


「こいつは感圧式以外にも時限信管も取り付けられるんだぜ。そうすりゃあっという間に馬鹿デカい手榴弾に早変わりだ」


 対戦車地雷をクソでかい手榴弾に変えてくれた。

 やり方も教えてくれるみたいだ、もう一つ信管を取ってこっちに渡してくる。

 中央の穴に差し込んでくるくる回して接続して完成だ。一つをバックパックにねじ込む。


「いいか、投げたら全力で走って隠れろ、死にたくなかったらな。こいつは十秒で爆発するぞ」

「ありがとう、カーペンター伍長。届けてきてやるよ」

「おう、行ってこい」


 「気を付けていくんだぞ」とクラウディアの声も受けながら急いであの車の行方を追った。

 道路を西へ、いやショートカットだ、斜面を登ってその先にある民家まで進む。

 登り切った先はスティングの西側を見渡せる場所だった、良く見える。

 あいつらはどこだ、とハイスクールのある通りを探ると。


「……あっち、だよ」


 急にそんな声がした。頭上からだ。


『あ、サンディさん……!』


 ミコの言葉の先に向かうと、丘の上に建てられた家からその名の通りの人物がこっちを見ていた。

 サンディだ。スコープ付きの小銃を保持したまま、片手でどこかを指してる。

 単眼鏡を取って同じ方向を見れば――いた。

 さっきの二つ目のホテルの北側、その道路上でのろのろバックしてる。どこかに銃をぶっ放してる。


「オーケー、これから仕返しだ。ありがとう」

「……いって、らっしゃい」


 全力で走れば追いつける、対戦車地雷を掴んだまま斜面を滑り下りていく。


『……いちクンが何をしても文句は言わないけど。怪我しちゃだめだよ?』


 時限信管のついたお友達と道路を横断してると、肩からそう声がした。


「――巻き込んでごめんな、個人的な問題なのに」

『ううん、大丈夫。もう何があってもいちクンについていくから』

「俺もだよ」


 その先にある住宅街に近づいてくると、銃声がはっきり伝わってきた。

 小回りの利く戦車がぎゅるぎゅると動き回る独特の音もだ。

 道路に向けて作られた腰ほどのフェンスを飛び越え、通りの方から聞こえる音の発生源に向かっていくと。


「ワンッ!」


 後ろから声がした。ニクだ、同じように飛び越えてこっちに来たようだ。


「ニク、付き合ってくれるのか?」


 移動しながら訪ねると、黒いジャーマンシェパードは自信満々に見上げてきた。

 そうして民家に挟まれた道路を進んでいくと、それは現れた。

 人の足をぶち抜いてくれた世紀末スタイルな装甲車と、砲塔と車体に機銃を積んだあの小さな戦車だ。


『引け! 引きながら撃て! ヒャハハハハハハァッ!』


 じりじり後退しながら射撃してるようだ。銃座からマスクとゴーグルをつけた男が指示を飛ばしてる。

 もっと後ろに回り込んで背後から、と思った直後。


「ウォンッ!」


 ニクが一吠えしてから、急にそいつらに向かって走り出す。

 一体何を考え――いや、あいつを信じよう。


『わ、わんこ……っ!? 【セイクリッドプロテクション】』

「ニク、走って隠れろ!」


 その後ろ姿にミコの防御魔法がかかって、黒い犬は後退する戦車の前を通り過ぎていく。

 俺もあわせた。少し間を置いてからじわじわ近づく。


『ヒャハハ――あぁ!? なんで犬がこんなトコにいんだァ!?』

『馬鹿! ただの犬なわけあるか! ありゃアタックドッグだ撃て!』


 向こうの意識は完全にニクに向かったようだ、銃座と砲塔が目の前を横切る姿を狙う。

 かきんっ、と魔力の盾で弾を弾く音を立てながら遠ざかっていく……掴んでいた対戦車手榴弾からピンを抜いた。


「……10・9・8!」


 3カウントしながら体を思い切りひねって、かなり重いそれを戦車に向けて放り投げる。

 しゅーしゅー音を立てて、円盤状のそれがいい感じに戦車の目の前に落ちた。

 がらっとアスファルトに落ちたのを見て、急いで適当な民家の陰に避難する。


『おいッ! なんか落ちて来たぞ!? いや、まさかこいつはッッ』


 建物の向こうからそんな怒鳴り声が聞こえた直後、


*zZZBOOOOOOOOOOOOOOOOOOMM!!*


 人間の手には余るほどのとんでもない爆音が響いた。

 爆風がこっちまで流れ込み、濁った煙が立ち上がってあたりを包むほどの威力だ。

 耳がきーんと鳴る。あまりの爆圧がこっちまできて、足の筋肉がぶるぶる震える。


「……カーペンター伍長がああまでいう訳だな」

『……すごい音だったよ……耳、大丈夫……?』


 覗けば、熱と煙が濃く立ち込める十字路であの戦車が無残な姿を晒していた。

 吹き飛んだ、というより、叩き割られた、という方がいいかもしれない。

 至近距離の爆発のせいでひっくり返ったままずたずたに裂けてしまってるからだ。


「ワゥンッ!」


 借りは返せたかと近づくと、煙の向こうから興奮気味な犬の声がした。

 煙の色に溶け込んでしまいそうなニクが走ってきた、撫でてやった。


「さて、あいつはどこだ?」


 肝心の人の足をぶち抜いたバカはどこだ、と戦車の後ろを見ると。


『うっ……あ゛あ゛……っ、なに、考えて……やが……』


 いた。あの男だ。

 戦車のおかげで威力がそこまで届かなかったんだろう、どうにか姿を保ったまま、黒焦げであちこちひしゃげた装甲車のそばだ。

 身体は焼けて、腕は変な方向に曲がり、爆圧でとれたであろう機関銃に潰されていた。


「あの時世話になったな」


 燃える車に近づいた。

 きっと嫌だったに違いない、身動きが取れないままおどおどと見上げてくる。


「お……おい……擲弾兵、だって?」


 俺はそいつを踏みつけていた機関銃を手に取った。

 【ミニミ】だそうだ。箱形の弾倉がついてて、まだ5.56㎜弾はたっぷりある。


「は、はは、まてよ、なあ、お前、なに……」


 ずっしり重いそれを持ち上げて、そいつに向けた。

 うつ伏せのまま動けない人間の――足に銃口を向けてトリガを絞る。


*PAPAPAPAPAPAPAPAPAM!*


 重量感のある得物からはさほど反動なんてこなかった。

 発射炎の先にいた男の足はずたずただろう。小口径弾は肉を貫くんじゃない、抉るのだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーッ!? て、てめえッ! なんて、なん……ッ!?」


 足をじたばたさせて悶えるそいつにかける言葉は思いつかない。

 あるのはもっと別の何かだ。

 機関銃を立てかけて、バックパックに手を突っ込んで、


「なあ、なああああ……おい、なんとかいえよ、なんなんだ、なんなんだよぉ……!」


 そいつの背中にあるものを置いた。

 ニクに「走れ」と西の方を示して、人の足をぶち抜いたそれを担ぎ直し。


「は、ははっ、そうか、擲弾兵(グレネーダー)だって? ちげえ、ちげえよ、こんなの人じゃねえ、お前は、お前は――」


 背骨に乗せられたそれから、安全ピンを引っこ抜く。

 遅延信管が焼けて作動すると同時に、一番近い民家に向かって走った。


「化け物――!」


 少し離れた建物の陰でじっと待っていたニクと合流すると、そんな声がした直後。


*zZZBOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOMM!*


 スティングに二発目の大爆音が響いた。これで跡形もなく吹っ飛んだに違いない。


「はっ、せいせいしたな」


 そこまでやってようやく口が開いた。清々しい気分だ。

 さて、機関銃を担いでボスたちのところに戻ろうか、なんて考えてると。


『くそおおおおおおおッ!? 今度はなんだ、なんだってんだ!?』

『こっちで爆発が起きたぞ!? どうなってる!?』

『あいつらはどうした!? 援護しねえのかよ!?』

『レイダーなんか信用するんじゃなかった! あいつら逃げやがったんだ!』


 向こうの通りの方からそんな色とりどりな声が聞こえてくる。

 敵だ。獲物がいる。家屋のそばを走って、その先にある塀を乗り越えた。

 待ってたのは住宅地を通る道路を何人もの黒と緑が横切っていく場面だ。

 全員武器を手にしていて、必死に駆け足を続けつつ。


「……ひィィィッ……!?」


 一人に気づかれた。緑服の軍人が立ち止まる。

 連鎖的に全員が停まってしまうあたり、よっぽど切羽詰まってたに違いない。

 が、それがどうした――腰だめに機関銃を構えて、トリガを引いた。


*PAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAM!!*


 立ち止まる群れへと掃射した。腰を捻じって行く先戻る先に念入りにばらまいた。

 慌てふためいて逃げようとする姿も、取り残された誰かも、5.56㎜弾が全て等しくなぎ払う。

 筋肉も内臓もかき回されたライヒランド兵はもう立てなくなったようだ、


「ひっ、あっ、あっ……擲弾兵……擲弾兵が……」


 そこに居るのは最後の一人だけだ。

 箱型弾倉にまだ弾が残ってるのを確認してから近づいた。

 仰向けにどうにか息をするそれがこっちを見上げて何かを訴えてきたが。


*PAPAPAPAPAM!*


 頭に向かって短連射。静止の手と顔ごと引き裂いた。

 【LevelUp!】と視界に浮かんだ。ようこそ、仕返しからのレベル11へ。


「――おお、イチではないか! 陽動は効いたようだな!」


 最後の一人を片付けると、横から頼もしい声が挟まった。

 ノルベルトが親しく笑ってた。返り血だらけの得物を担いで嬉しそうに近づいてくる。


「ノルベルトか。作戦はうまくいったぞ、帰ったら驚くだろうな」

「本当か? 先ほど派手な爆発があったものでな、もしやと思ったのだがそうか、良い知らせだな!」

「吾輩らもちょうど片付いたところだぞ。ちと逃がしてしまったが貴公が平らげたようだな、はっはっは!」


 遅れてぞろぞろとチャールトン少佐やら自警団やらプレッパーズもやってきたが。


「殺意高えなお前。脳みそぐちゃぐちゃだぜそいつ」

「容赦ないわね、よっぽど恨みでもあった?」

「さっきの爆発ってまさかあなたのせい? 何やらかしたの?」


 アーバクルや双子たちにドン引きされてしまった。

 というかファンタジーな連中以外はあんまりお近づきになりたくなさそうな顔だ。


「この前の仕返しだ」


 引き気味な赤毛の機関銃手に「ほら、やるよ」と新しい得物を放り投げた。

 「貰っていいのかこれ!?」という声は無視してさっさと拠点に戻ることにした。


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