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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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92 適当にやれ

「お前、ほんとにニンジャになれたんだな……」

『……うん、まさかアレク君も【アーツ】が使えるようになるなんて……』


 ダイナミック物資拝借作戦が決まってから、俺は宿で飯を食ってた。

 大盛のマカロニアンドチーズの向こうでは世紀末の忍者が姿勢正しく座っていて。


「修行の成果があったぞ。やはりお前の言っていたことは間違っていなかったな」


 褐色男子十五歳は感無量な感じでにっこりしていた。

 やっとこうして話すことができてうれしいが、残念ながらあの綺麗な胸は隠れてしまってる。


「聞いてくれよイチ……じゃねえストレンジャー。こいつよぉ、あの後ずっと朝から晩まで「ヒカガミのジュツ」だのなんだの叫んでてクソやかましかったんだぜ」

「仕方がないだろう、修行のためだ。そのおかげでこうしてニンジツが使えるようになったんだぞ」

「ボスがとうとうこいついじられ過ぎておかしくなったかって言ってたぜ」

「おめーの頭がイカれたのかって姉ちゃんどもが心配しててさ、笑っちまったよ」


 ヒドラとアーバクルにすらいじられてるが、どうも【アーツ】の練習をしてたら発動するようになったらしい。

 なるほど、もしかしたらミコの言う通りスキル値が上がったのかもしれない。


「どんな修行をしてたんだ?」

「ああ、最初はお前が渡してくれた【氷鏡の術】を試してみたんだが、全然使えなくてな。それからいろいろと試したのだが」

『……そういえばアレク君、他にも忍術使ってたよね?』

「そのことだが、賊を狩っていたら似たような板を持っていたんだ。【風走の術】だとか【黒槍の術】というものがあってな」

『忍術の【アーツ】だ……!』

「それも覚えて試してみたんだが、段々と使い方が分かってきた。近頃ようやく安定して使えるようになったぞ」

「……俺よりニンジャしてるじゃん」


 羨ましいが、アレクは努力で忍者への道をこじ開けたらしい。

 ちょっと得意げに話す様子を見ていると、


「他にも分かったことがある。色々とニンジツを覚えたが、どうもミコの言う『マナ』とやらが発動に必要なものもあるようだ」


 褐色の手がテーブルの上に何かを置いた。

 スティムの注射器だ。中身は真っ青な液体で満たされてる。


「……なんだこの身体に入れたくない注射」

『……え? この色と感じ……もしかして、マナ……?』

「これはドクが作ってくれた薬だ。マナポーション、というのをスティムと同様に注射できるようにしたのだ」

『マ、マナを直接注射しちゃうの……!? 大丈夫なの!?』


 俺の知らぬ間にとんでもないものが生まれてたらしい。

 手書きのラベルには『マナブースター』とある。とてもじゃないけどこの色は血管に馴染みそうじゃない。


「……マナポーションを直接身体に打つのか。俺もそれは考えていたが、なるほど、少し工夫すれば効率的かもしれないな」


 食欲によろしくない青色を見てると、お疲れのご様子なクリューサが興味津々に覗いてきた。

 マスクのない疲れた顔にどことなく気づいたんだろう、アレクは少し嫌そうだ。


「貴様は……メドゥーサ教団の奴か。しぶとく生きていたようだな」

「久しぶりだな、元メドゥーサだ。生憎だがお前のそんな態度に構ってる暇はないぞ、怪我人だらけで休む暇もなくてな」


 どうやらこいつはお医者様らしく負傷者の治療にあたってたらしい。

 避難してきた市民、戦闘の負傷者、今なら仕事は死ぬほどあるだろう。


「む、お前褐色肌だな。ダークエルフか」

「違いますよ、そういう人なんでしょう。紛らわしいですね」


 ……にんじんときゅうりをかじる褐色&白エルフも乱入してきた。


「……本物のエルフもいるとはな。夢でも見ているみたいだ」

「夢なんかじゃないぞ、本物だ」

「こっちはダークエルフですよ、まあ私には何が違うのかさっぱりですが」


 宿屋にかりかりぽりぽりと変な異音が流れ始める。

 こいつらほんとになんなんだろう。ずっと野菜かじってるし。


「クラウディア、分かったから小腹がすいたらにんじんを食うのをやめろ」

「心配するな、うまいから大丈夫だぞ」

「違う、お前の嗜好味覚の問題じゃない。やかましくて気が散るんだ」

「きゅうりもありますよ」

「野菜を食うなと言ってるんだ。なんなんだこの馬鹿エルフども……!」


 クリューサはいつも苦労してそうだ。アレクが同情するほどには。


「――これが現実だ。今時のエルフってのはキュウリかじるわタバコは吸うわ射的感覚で人射るわ、ろくでもねえババァだ。残念だけどみんなこうだぞ?」

「変人ばっかでみんな幻滅してるよな。これで俺たちより強いって言うんだから残酷すぎるぜ」

「エルフにはもう少し清楚なイメージがあったんだがな、たった今幻滅した」


 向こうでオレクスが牛と熊の獣人とテーブルを囲みながらこっちを見ていた。

 諸悪の根源は「野菜も食べましょうね」ときゅうりを差し入れてきたところだ。


『マカロニアンドチーズにきゅうり……』

「さっきからほんと何なんだあのキュウリの化身」


 とんでもない組み合わせになってしまったが、チーズの塩気をおかずにきゅうりをぽりぽりしてると。


「くくく、貴様がアバタールを継ぐ者か……!」


 フードのついた赤黒なドレスを着た、ホワイトブロンドの髪の女の子がずかずかと入店してきた。

 困ったことに向かう先はストレンジャーだ、きゅうりの相手で精一杯なのに。


「探していたぞ、追い求めていたぞ。アバタールの血を引くものよ、我との約束を果たすときが来たぞ」


 ブーツを控えめにかつかつ鳴らしながら自信たっぷりの顔が近づいてきた。

 それはちっこいほうのリム様よりわずかに上といった感じの年齢ほどだと思う。

 真っ赤な瞳に、ドヤ顔からあふれる尖った歯、耳はうっすら尖った――さっき自称夜をすべるものとか言ってたやつだ。


「……何これヒロイン?」

『ヒロインじゃないと思うよ……アバタールっていってるし……』


 きゅうりと共にミコに尋ねたが、まあヒロインじゃなさそうだ。


「そいつは吸血鬼のお偉いさんだぞ」


 そんな姿に困ってるとミノタウロスのおっさんが補ってくれた。フランメリア人らしい。

 心当たりはないのでどう返したものか。とりあえずきゅうりをどうにかしよう。


「……おい、こら、人が話しているというのにきゅうりをかじるな」


 きゅうりは駄目みたいだ。飲み込んで見上げた。


「どちら様でしょうか」

「我はブレイム、夜をすべる吸血鬼だ」

「今昼じゃん」

「我ほどの吸血鬼となると日光ぐらい何ともないぞ。で、貴様は本当にアバタールではないのか? 我のこと覚えてる? 知らない?」


 とりあえず吸血鬼を友人にとった覚えはない。

 間違いなくアバタールの知り合いだろう、お前どんだけ顔広いんだ。


「人生で血を吸う友達を作った覚えはまだないな」

「吸血鬼、だと……? 実在していたのか……!」


 なんだかアレクが目を輝かせていたが、返答は「誰だお前」だ。


「そうか、うむ……ならば仕方あるまい。……血をくれるって約束したのに」


 するとしゅんとなってしまった。どういう関係だったんだろう。


「まあ、できる限りアバタールの代わりは努めてやりたいと思ってたところだ」

「……本当かっ!? では我に貴様の血をよこすのだ!」

「こ、殺すつもり……?」

「そんなわけなかろう馬鹿者! ちょっとだけだ! 死ぬほど吸ったら大変だろう!?」


 せめてアイツの代わりにと思ったが、予想以上にアレな頼みだった。

 優しさがにじみ出てる言動だから大丈夫だろうけど、アバタールお前ほんとにどんな交友関係だったんだ。


「一応質問、アバタールとどういうご関係で?」


 念のためそう聞いてみるが、そいつの自信ありげな顔はすぐ曇ったようで。


「ただの古き友だ」


 と、落ち着きのある感じで答えがきた。

 ここに嘘はないと思う。良く知っている顔だったから。


「まったくあいつめ、我にいつか血を飲ませてやるとか言いながら消えるとは。馬鹿者め」

「もどきにできることはないか?」

「うむ。血を飲ませてほしいのだ。今後に支障が出るほど頂きはしないぞ、安心するがよい」

「変な病気とか持ってない? 狂犬病みたいなのとか」

「あるわけないだろう!? 犬猫じゃないのだぞ我!?」

「待て、吸血鬼に噛まれると支配されると聞いたことがあるぞ!?」

「そんなので眷属増やせたら我ら苦労してないぞ!」


 ……ここまでやって来た理由が血よこせか。

 別に支障が出ない程度なら構わないが、ご本人はものすごく欲しがってる。

 一応、周囲を見るに「見てみたい」が多数か。びびるアレクを除いて。


「本物の吸血鬼まで現れるとはな。実際にどのように血を吸うんだろうな、興味深い」


 何ならクリューサがやってみろ、とばかりに促してる。


「確かあんたも今夜の夜襲に参加するんだったか?」

「うむ。夜の吸血鬼の恐ろしさを披露してやりたいのだ」

「分かった。血ならくれてやるから今晩頑張ってくれ」

「本当か!? 本当にいいのか!?」

『い、いちクン……血、吸われちゃうんだよ? 大丈夫なの……!?』

「どうかお手柔らかに」

「心配するな物言う短剣、貴様が思っているほど抜き取るつもりはないぞ。よしよし、辛くなったらいうのだぞ? いいな?」


 召し上がれ、と構えると吸血鬼は抱き着いてきた。そういうやつだったか。


「ではいただくぞ! あーむっ♪」


 どうにでもなれ、で迎え入れると――首筋に噛みつかれた。

 随分かわいく食いついて来たなと思った矢先、血管がぢくっとした。覚悟してたけど結構痛い。

 そしてぢゅるぢゅるとかすかな音を立てて……ヤバいぞ、結構怖い。


「マジで吸われてる…………」

『……大丈夫だよね!? すごく嫌そうな顔してるけど本当に大丈夫だよね!?』

「んむんむっ♪ んん、うむ……!」


 パワーあふれる献血を敢行してると、やはり運の悪さが働いたみたいだ。

 タイミング悪くとうとうボスがやってきた。メイドを連れて。


「なんのプレイっすか」


 しかも第一声がロアベアのそれだ。


「献血」

「献血プレイっすか」

「……なにおっ始めてるんだいあんたは」

「餌やりしてるらしいっすよボス、いやまさかほんとに血くれてやるかね」


 ヒドラの言う餌やりはほどなくして終わった。

 うっすら口元に血を残しつつ、吸血鬼は顔を持ち上げると。


「――まあまあだなっ!」


 ひどい食レポをされた。人の血を吸っといてそりゃないんじゃないか。

 けっこう吸われたが、さほど変な感じが残ってないのが唯一の救いだと思う。


「せめてもっとうまそうにしてほしかった」

『……まあまあなんだ』

「だが満たされたぞ! やはり血は静脈に限るな!」


 吸血鬼様は満足してらっしゃるから、まあよしとしよう。


「くくく……♪ 味はともかく清々しい気分だ。そうだ我にしてほしいことはないか? なんでもするぞ? ん? ん?」

「……あんたに友達選びのコツでも教えるべきだったね。さて、リラックスタイムは終わりだよ」


 急に馴れ馴れしくなった献血対象を押し退けていると、続々メンバーが入ってくる。

 ノルベルトにチャールトン少佐に、それからハヴォックやドワーフも。

 宿に集まったのは三十名にも満たない数だが、これが今回の作戦の主要メンバーらしい。


「集まりな、手短に説明する。プレッパーズ流にね」


 そういうとボスは空いたテーブルに戦前の地図を広げた。

 スティングの西側、俺たちが制圧した中央部からやや離れた場所に元自警団事務所がある。

 そこの周辺に防御線が作られてることから、ここが戦いの拠点になってるようだ。


「スティングの西側はいまだ敵の支配領域だ。北の方は勇敢なバケモンどものおかげで解放できてるみたいだが、だからこそ今がチャンスさ。こいつらの不利になるように戦線が変わりつつある」


 街の北側が大雑把に「×」で打ち消された、二分の一を奪還したらしい。

 それはつまり西から入り込む隙が埋まったといってもいいはずだ。


 さて肝心の敵の居場所は、地図を見る限りなんとなく思い浮かぶ。

 あの時ツーショットのお迎えで助けてもらったわけだが……その途中だ。


「でだ、ここに誰かさんが刺された時に派手にお邪魔したホテルがあるんだが、今じゃここは敵の待ち構える最前線になってる。反対側にある安ホテルにうちらも構えて、ハイウェイを挟み込むように対峙してるところさ」


 命の恩人がへらへらしながら指を挟んできた。

 車の馬力に物を言わせて突破したあのホテルだ。ここで中央部にいる俺たちとにらみ合ってるらしい。

 そこから南に広がるひらけた土地には何もない、しいて言えば小競り合いが起きてるようだが。


「その上で俺たちは元職場にお邪魔して、そこにある物資を頂いてく寸法らしいな。でも武器弾薬が沢山あるってのは確実な情報なのかまだ不安だ。それに保管するにしても、どうしてこんな前線に近い場所を使い続けてるんだ」


 何名かの団員を連れたオレクスが事務所のあたりを見ている。複雑そうに。


「事態が急に動き始めたからさ、もうちょっとのんびりやるつもりで構えていたんだろうが想像以上に戦況が変わっちまったのさ。向こうも、私らもね」

「つまり気が付いたら火薬庫が最前線に取り残されちゃったわけじゃな!」


 ボスにドワーフの爺さんが付け加えた通りか、急な変化についていけてないんだ。


「事実かどうかなら我が尋ねてやったぞ?」


 オレクスが知りたがってることについては、このブレイムとかいう吸血鬼が答えた。


「……どうやってだ、吸血鬼さんよ」

「くくく、我の血を少し与えて親しくなっただけだぞ? 『物資を移動できずに、仕方がなく守りを固めている』そうだ」

「そりゃ貴重な情報だな、それでそのお友達はどこいった?」

「うむ、知らんな。日の光で灰にでもなったのではないか?」


 情報提供者は命をかけてくれたらしい、ありがとう。


「確かに指揮が乱れてんなら「いっぱいある武器をすぐに移動しろ」だなんてそう簡単にできそうにねえしな。どれくらいの物資があるんすか、ボス」

「好き放題やってる戦車の砲弾がクソほど、市が保管していたり外から持ち込まれたりした武器が山ほど、略奪された食い物やらもかき集められて、これからくたばるやつらがうじゃうじゃさ」

「なるほど、吹っ飛んじまったらさぞ困るだろうなぁ」


 ヒドラの質問からして相当の物資が蓄えられてるみたいだが、コルダイトのおっさんが不穏な物言いを挟んできた。


「まるでここを最後の砦にしてるみたいだね!」


 ……ハヴォックもだ。最後の砦だとすればさぞ強固だろうな。


「ここを中心に戦車が稼働してるって言ってたよな、そういえば」


 俺はふと思った疑問を投げかけた、戦車のことだ。


「寝返った自警団の戦車が数両に加えてライヒランドが持ち込んだ装甲車両もあるらしいぜ。ただまあ戦後の模造品だ、夜間戦闘能力はなさそうだ」

「ツーショット、この世界の戦車には暗視装置とかついてないのか?」

「確かにあれば便利だけどな、そういうのを揃えるのはお前が思ってる以上に大変なんだぜ」 

「見た感じライヒランドですら戦前の劣化コピーを作るので精一杯だからね。ウェイストランドの戦車はダーリンが思ってる以上に視界が狭いんだよ」


 ツーショットもハヴォックも口をそろえている、戦車の視界の悪さは俺の想像以上らしい。


「つまりその気になれば突っ込んでぶっ壊せるんだな?」


 別に冗談なんていうつもりはないが、本気でそう確認した。

 すぐに笑い声が聞こえてきた。ジョークか何かと勘違いされてしまってる。


「できるもんならぜひともお願いしたいな、ストレンジャー。やるならアホみたいな爆発力でぶっ壊すか、装甲の薄いところをぶち抜いて乗員をぶっ殺せよ」

「それか手榴弾でもぶち込んでくるんだな、そういうの得意だろ?」


 ツーショットはともかく、コルダイトのおっさんは「お前ならできる」みたいに信用してくれてはいた。


「そんな馬鹿な真似しないように陽動が必要なのさ」


 そしてついにボスの指が地図のとある場所を指す。


「今、シエラ部隊の馬鹿どもが南部で暴れはじめてるところだ。ファンタジー野郎どもと一緒にね」


 街の南部、ちょうど俺たちがいる中央部と敵だらけの西部に挟まれたところだ。

 その気になれば裏切り者どもの詰所にまっすぐお邪魔できる地形と距離だ、人はそれをかなり接近してるともいうが。


「この後、チャールトン率いるタフな連中にも暴れてもらうつもりさ。時間差で行動してもらって敵の戦力を分散する」


 そして敵の拠点である事務所からずっと北へ、道路を横断したその向こうには戦前の学校が残された通りがある。

 ここは相手の支配地域だ、北側が押されてさぞピリピリしてると思う。


「敵の意識を乱し、その隙に押し掛けるのだな。釘付けになるぐらい活躍してやろうではないか」


 そんな場所で暴れてやる、とばかりにノルベルトはニカっとしてる。


「まとめるとこういうことさ。南と北で敵の拠点を挟むように陽動をしかける、戦闘が長引いてきた間にこっそりと近づいてお邪魔してやって、あるもん貰ったらそのまま帰るなりお土産を残すなりご自由ってね」


 そのためのヒドラとコルダイトか。

 最悪事務所を綺麗に吹っ飛ばす、というか最初からそんなつもりなんだろうな。


「次の陽動は吾輩たちに任せるがよい。貴公らはぞんぶんに拝借して参れ」

「何人かで班を作って分担して動いてもらうよ。ここにいる隠密行動に自信があるやつを選抜してね」


 そして俺たちは夜分遅くにこそこそしにいくそうだ。

 さてメンバーはどうなるのかと思ってると、


「そこでだよ、ちょっとこのお爺ちゃんたちにいいものを作ってもらったんだ」


 ハヴォックがニコニコとそばにいるドワーフを紹介した。

 そのおじいちゃんとやらも満面の笑みだ、いい仕事ができたような。


「もうちっと時間があればしっかりとした作りの奴が作れたんじゃがの。突貫工事で申し訳ないが、こんなの作ったぞ」


 小柄で筋肉だらけの身体は浅くて広い木箱をテーブルに乗せてきた。

 かぶさっていた布をどけると――ワーオ、鉄パイプがいっぱい。


「……なにこれ」


 銃剣の全長にも及ばない短いパイプがどうしてこんなに?

 そんな疑問を誰かに向けるが、


「おいおい冗談だろ……もうこんなに作ったってか」


 ツーショットは引きつった笑いと共にそれを手に取った。

 よく見ると九ミリ口径の弾が詰まった弾倉のようなものもあって、パイプにはそれを受け止めるための部分もある。

 グリップと弾倉を兼ねてるんだろう、差し込まれるといい感じの拳銃になった。 


「すごいよね、メモリスティックの青写真だけで完成させちゃうなんて」


 ハヴォックも同じように装着すると、銃の後部を回して――ボルトを引いて初弾を込めた。

 なるほど、よく見るとパイプには照準やトリガがついてたか。


「わし、なんかしちゃったかの?」


 そんな変わった武器を作ったドワーフの爺さんはにいっと笑った。


「へへ。いい仕事をしちまったなぁ、爺さん」

「こっちに来てからずっとこういうのとか弄って調べてたからのう。楽しくて仕方なかったわい」


 試しに手に取ってみた。マガジンを突っ込んで、銃を握ってボルトを九十度回転、引っ張ると確かに弾が込められた。


「よーし、じゃあこれの説明するね。これはウェルロッドっていう銃だよ。この銃そのものが消音器みたいなもので、かなりの静音性があるんだけど」

「こいつでお眠りいただくってわけか」

「そだよダーリン。さっきテストしたけど動作は問題ないし命中率も悪くない、これを役立ててほしいんだ。あっ弾は九ミリだよ、弾は六発まで入るけど動作不良防止のために五発以内に収めてね!」


 ……そんなものを半日足らずで作ったのか、このドワーフ。


「即興の割にはかっけーじゃねえか、爺ちゃん」

「え~? そうかの~?」

「いやマジですげえよ、芸術(アート)だ、こいつはすげえ。静かな殺意が具現化されたみてえだ」

「芸術……いい響きじゃな、なんかお前さんと気が合いそう」

「俺もそう思ってたよ爺ちゃん、こいつは家宝にしてえ」


 無骨で「ぶっ殺す」ためのデザインはヒドラも納得するほどだ。

 満足のゆく道具が配られたところで、


「よろしい。状況開始まで各々自由に過ごせ、班分けはツーショットたちに一任するよ。必要な奴はこの芸術(アート)の練習でもしときな」

「ボス、今日の活動の心意気を一言頼むぜ」

「適当にやれ、だ」

「はっはっは! 適当にやれ(・・・・・)、か! 吾輩たちの扱い方を心得てるな!」

「くくく、気持ちの良い心構えではないか。良いだろう、我もその通りにやらせてもらうぞ」

「うちのボスはこういうやつだからな、みんな覚えとけよ?」


 活動方針は「適当に、全力で取り組め」だそうだ。

 ツーショットもよく納得してる。お言葉に甘えて夜襲の時がくるまで好きに過ごさせてもらおうか。


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