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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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73 そは永久に横たわる死者にあらねど


 そういえば、死んで生き返るたびに気づいたことがあったな。

 人が何をきっかけに死ぬのか、っていう話だ。

 哲学的なものだとか、そういう難しい話じゃない。

 人間は重要な臓器が動かなくなればやがて死ぬし、十分な血が抜けても死ぬ、脳が十分な働きをできなくなっても死ぬ。


 何度も死んだときに気づいたんだ。

 死ぬ寸前は意識が段々と抜け落ちていくが、俺はそれを「魂が抜ける」という感覚だと思ってる。

 身体が持ちこたえられなくなって、どこかにへばりついてる魂が抜けてしまう。

 そしてやっと死ぬ。だが世の中には奇しくもそれを繰り返す人間もいた。


 だからこそ分かるんだ、俺はまだ、どうにか踏みとどまってる。

 腹の奥、おそらくどこかの内臓が傷ついたんだろう。死ぬほど痛い。

 腹の中をこじ開けられるような鋭い痛みが止まらない。死ぬほど苦しい。

 体を動かそうとするたびに、胃の奥が焼き解けるような感覚が神経を削ぎ落す。一歩も動けない。


『うぅ……うう……っ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……! わたっ……わたしのせいで……!』


 立て、歩け、止まるな加賀祝夜。

 腹の中で泣く相棒をこれ以上悲しませていいのか、とにかく歩けクソ!


「……いいんだ……一緒に、逃げるぞ……」


 ようやく繋がった。麻痺しただけかもしれない、体が動く。

 どうにか起きて、立ち方も思い出した、二足に戻った瞬間ぶぢゅっと血があふれ出す。


『血が――! いちクン……! 血が止まらないよぉ……!? どうしよう、どうしよう……!?』

「血……止めないと……、いや……後だ……」


 腹も周りも騒がしい。ここはどこだ。

 動かすだけでも難儀する首を向ければ、そこはスティングのどこかだ。

 あたりは暗くなってる、しかし間違いなく俺を探す誰かが光を照らして探っている。


「ストレンジャーだ、いたぞ、いやがった! 逃がすな!」

「生け捕りにしろ! 殺すんじゃねえぞ!」

「ヒャッハァァッ! 20000チップだァァ! 待てやコラァァァッ!」


 道路から外れるように、民家に溶け込むように、ふらふら逃げる。

 ここには通りに沿って戦前のボロボロな家屋が幾つもある。ということは住宅街か。

 暗くてはっきりとまでは分からないが、だいぶ遠くにさっきのビルの姿もある。

 ということは間違いなく市内のどこか、宿からかなり離れてるわけでもない。


『敵が来てるよ……! 急いで、逃げて……! 早く!』

「…………またこのシチュエーションか、はは」


 少し慣れてきた。腹を抑えたまま早足で強引に進む。

 PDAで包帯でも作ろうと思ったが、周囲の騒がしさからして間に合わないだろう。


「油断するな、そいつは何をするか分からないぞ!」

「おいミリティアの旦那! そいつは俺の獲物だ! 手を出すな!」

「くそっ、なんてしぶてえやつだ!」


 うまく住宅の中に溶け込めたが、余計に人が集まってきた。

 武器はない。スティムもない。ノルベルトも、ニクもいない。

 もうダメだ――絶望するな、あきらめるな。明るいことを考えろ馬鹿野郎。


「は、は……。こういう時、チート能力があれば、ほんとに英雄に……なれるな」

『……いちクン……? だめだよ、いかないで、お願い……!』

「うるさいな、少し、静かにしてくれよ。いまから……どうにかする……」


 木造りの塀で道を探りながら、とにかく足を動かす。

 血が止まらない。腹の中の痛みが鈍って、だんだん冷たくなる。


 そういえば、俺は何人殺した?

 いろいろな奴を、いろいろな手段で殺したな。

 俺はもうおかしいやつだ、「仕方なかった」で甘える人種じゃない。

 でも、そうだな、向こうの世界にいちゃいけない人間なのかもしれない。

 その結果がこれだ、自分がもたらした死が、今度はそのまま返ってきている。


「ごめん、ミコ」

『……いちクン』

「ごめん、本当に……使うなって約束、守れなかった。使わせちゃったな……気持ち悪いだろ……? すぐ抜くから……」

『……いいよ、大丈夫だよ。いちクンは悪くないもん。だからお願い、わたしを一人にしないで。もうひとりはいやだよ……!』


 あーあ、ミコが泣いてる。やっちまったよ。

 腹の奥で泣く短剣をそのままに、家と家との間を抜けて道路へ出たが。


「いたぜぇ! 撃て撃てェ!」


 向こうの車線から車が走ってくる。銃座に人がいて、味方してくれない方だ。

 いかにもな奴が遠くから何か向けてくる――。ライトの光と、機銃だ。


*PAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAM!*


 小口径の掃射が始まる、実際その通りの弾が周囲をかすめた。

 出血をこじらせること覚悟で軽く走るが、びすっ、とふくらはぎを突かれるような感触が走る。


「うあ゛ッ……!?」

『っっ! いちクン……!』


 ああそうだとも、撃たれた。足にじわじわと熱と痛みが広がる。

 片足からも力と血が抜けていく感じがした。身体から意識が落ちていく。

 さっき思った通りだ。魂がするすると抜ける感覚が始まった。


「お、おいバカ! 殺すつもりか!? 慎重に撃て!」

「うるせえええぇッ! 殺してもいいんだろ!? チップが欲しくねえのか!?」


 きっと、幾分か既に抜け落ちているのかもしれない。

 身体の重さが急に消えた、駆け足でその場から離れた。

 口から鉄臭くて酸っぱいものが溢れてきたが、飲み返す。

 こんなところで意識を失うほど、弱弱しい育てられ方はしてない。


『っ……うそ……でしょ!?』


 だが、行きつく先はミコの望みが立たれたような声が表す通りだった。

 数々の民家と道路を横断してたどり着いた先は、どこかの駐車場だ。

 しかしそこで待ち構えていたのは俺を助けてくれる仲間たちでもなく、まして謎のヒーローでもない。


「ご苦労だったなストレンジャー、もう逃げられないぜ」

「やつが来た、ようやく追い詰めたぞ!」

「撃つな! まだ撃つな! 全員そいつを取り囲め!」


 レイダーか、ミリティアか、ライヒランドか、好ましくないものがかき集められていた。

 世紀末らしいつぎはぎの改造車、実戦に向けた無骨な車両、戦前の技術を蘇らせた戦闘車両、そのすべてが行く道を塞いでいる。

 武器を手にした有象無象が前から横から後ろから、ぞろぞろやって来た。


「おらっ! 跪け……!」


 目にした光景に判断が遅れてるうちに、横から薄汚い奴に銃で殴られる。

 横腹のあたりにめり込む小銃に、内臓がひっくり返りそうな痛みが弾ける。


「ぐおあ……!?」

「こいつがあのストレンジャーか? 生意気なツラしやがってよぉ」

「おい、殺すなよ。そいつには用があるそうだ」

「まあ死なないならいいんじゃないか、もう少しいたぶっておけ」


 向けられた言葉通りに地面に倒れた。どうにかミコを守るように丸まった。

 そこに周りの奴らが寄って集ってくる。

 この世の倫理観を忘れた下衆な笑いが、拳を足を向けてきて――そのままのことをされた。

 あらゆる場所を殴られる、蹴られる、腕で覆った腹にすらねじり込まれた。

 「痛い」「やめろ」「助けてくれ」 思いつく限りの言葉すら出ない。この世から全て集めてきたような数多の痛みのせいだ。


『……やめて……っ! お願い……!』

「やめて、だってよ! ほんとにしゃべってるぜこのナイフ!」

「いいぜぇ、やめてやるよ。まずはお前を引っこ抜いて――」


 とうとう取り囲んだ奴の一人がミコに手をかけようとして、必死にやめさせようとした時だ。


「全員、静まれ! そいつに用がある、馬鹿な悪党ごっこはそこまでにしろ」


 そこに言葉が挟まった。威圧的で、歳を取ったことが分かる低い声だ。

 この状況を鎮静化させるほどの力があるんだろう、殴る蹴るの暴行は収まり。


「……こいつが、あの忌々しい擲弾兵か」


 声の持ち主が、良く見せるために顔をのぞかせてくる。

 艶のある白髪を立ち上がるようなオールバックに仕立てた男だ。

 蓄えた髭も眉すらも白く、確かに年老いてるのが分かるが、顔は間違いなくウェイストランドのものだ。


「……お前さえいなければ!」


 と、そいつは俺を睨みつけた。

 人を殺すために研がれた黒目は恨めしそうに形作られている。

 このまま俺にとどめを刺そうと思ったのかもしれない、指先まで力強そうな太い腕がぴくりと動くが。


「まあいい、お前のことは少しばかりだが知ってる。もっと苦しんでもらおうか」


 白髪の男はコートの中から何かを取り出す。

 注射器だ。液体の赤色からしてスティムか何かかもしれない。


『だ、ダメ……! いちクンに、もうひどいことはしないで――!」

「喧しい短剣だ、そんなものを連れて邪魔にならないのか?」


 必死にミコが止めようとするものの、お構いなしに腹に撃たれた。

 血と一緒に空気が喉から洩れる。打たれた薬のせいか、おかげか、痛みが少しだけ和らぐ。

 この感覚はスティムだ。どうしてそんなことを?


「……誰だ、お前。擲弾兵が怖い人種のやつか?」


 少し生まれた余裕で、軽口で仕返しした。

 言葉が伝わった相手はいかつい顔を不機嫌にして。


「その軽口、その目、その生きざま、何もかも気に食わん。クソ忌々しい擲弾兵の模造品め、我々に復讐をしにきたのか?」


 こっちを見下ろしたまま、やはり俺の中にある擲弾兵を否定してきた。


「たまたま、奇跡の再開を果たしただけだろ。本当にあんたらは怖がってるんだな」


 喋れるようになった腹でそう返す。

 ますます気に食わなさそうな表情が生まれるが、口は閉じたままだった。

 気を緩めば喉の奥から罵詈雑言のお祭りがこみ上げるほどに顔は赤いし、手も震えている。その原因は怒りだ。


「同志たちが長い年月をかけて積み上げて来た計画も、この日の為に敷いて来た我々の働きも、お前が全て台無しにした。お前は一体、なんなんだ? お前はどこからきたんだ?」


 おそらくライヒランドの誰かであろう男は、恨みばかりの言葉だった。


「同志ヴァローナ、お言葉ですが今はそのような――」

「少し待て。なに、すぐ片を付ける。それより同志たちに報酬を配ってやれ、たっぷりな。お前たちにも後で褒美をやろう」

「は、はあ……」


 そいつの周りに立っている、えらく装備のいい連中は戸惑っていた。たぶん部下か何かだろう。

 邪魔者を制すると、お偉いさんはしゃがみ込んできた。


「お前が何をしてきたのかは耳にしたぞ。お前は本当に人間なのか? どうして、なぜお前ひとりでここまで、バラバラになった世界をこうも変えられる? 答えろ」

 

 そしてやって来るのがこの変な質問か。

 でも、そうだな、こいつはどうやら勘違いをしてるようだ。

 こいつは俺が一人でウェイストランドをせっせと糸か何かで結んだように思ってるんだろう。


「俺一人の力じゃない、みんながいた。みんなが勝手につないでくれたんだろうさ。俺のことを過大評価しすぎじゃないか?」


 残念だが違う、物好きな誰かが俺の旅路を勝手にたどってくれたからだ。

 今までの人生は俺一人のものじゃない、みんながいたからできた。それだけだ。


「なぜだ、なぜなんだ? 我々の考えだってそうだ、ウェイストランドを一つに、等しく、不平なくまとめる使命と大義があるというのに」


 老いた男は悔しがっている。

 その本質なんて知る余地もないが、きっとこの擲弾兵が憎いんだろう。


「なのにお前はなぜ、たった一人で成し遂げようとしているのだ。途方もない時と力をかけて根を回してきた、我らのものであるそれを横取りしようというのか」


 ――思わず鼻で笑った。

 さぞ効いたんだろうな、そいつの瞳孔も鼻の穴も怒りで広がったらしい。

 ああそうか、そういうことか。

 擲弾兵っていうのはこういう生き物だったんだな。


「ウェイストランドを手に入れられると思ってんのか、イカれジジイ」


 腹に短剣が刺さろうが、血があふれ続けようが、構わず中指を立てた。

 そして笑った。こいつが一番嫌がるであろう物を作って。


「ここはお前らの庭でもない、みんなのものでもない。お前らごときじゃ持て余す――いい場所(・・・・)だろ?」


 そう言ってやった。

 今まで俺が敵に繰り出してきた攻撃の中で、たぶん一番強力だったに違いない。


「擲弾兵ッ!! お前はまた、わたしの、我々の想いを妨げようというのか!?」


 きっと嫌なものに触れた老人が踏んづけてきた。

 抑え込もうとしたが腕ごと踏まれる、重たい痛みに「お゛ぁぁ……!」と悲鳴とも息とも分からないものが漏れるが。


「なぜだ、なぜ我々の邪魔をする! 擲弾兵!」

「邪魔してるのは、お前らの方だ……っ! 人の道を邪魔するから、こうなる」

「お前の通り道の邪魔だったからとでもいうのか!? 我々の悲願が!」

「今度から、邪魔にならないように道を譲るんだな……!」


 足が止まった。

 怒りは頂点までいったようだ、顔から引いた血の気が震える手に集ってる。

 その様子を気にした一人が近づくが、押し倒す勢いで退けられた。


「お前に大義などないくせに、よくもそのようなことが言えるな。お前はただの模造品(パロディ)だろう? こんな世界を救おうとヒーローごっこを愉しんでいるのか?」

「ああそうだ、俺はあんたの言う通りだろうな。いろいろなところから寄せ集められた粗悪品かもしれない、でもな、これでも幸せなんだぞ」

「幸せ、だと?」

「ああ、幸せさ。ありがとう、あんたのおかげで大事なことにやっと気づけた」


 中指を下ろして、荒野を見た。

 こいつらには広すぎる誰のものでもないウェイストランドがある。

 この世界に「成り上がりたい」だとか「救いたい」とか、そんな大層なことを想ったことは一度もない。


 あるのは――


「俺の役割は面白おかしくやって、せいぜい「世の中捨てたもんじゃないな」って周りに思わせるぐらいだ。お前らみたいに全力でなりふり構わず必死こいてるバカとは格が違うんだよ」


 俺にあるのは、今までつながった人たちと過ごした時間だけだ。

 その人たちの姿を見て、魂で思った言葉がストレンジャーのすべてだ。


『……あなたにはきっとこの世界が悪く見えてるのかもしれないけど、わたしはそう思わないよ。だってたくさんの人たちが、わたしたちを支えてくれたから』


 やっと、ミコもそう言ってくれた。

 そういうことだ、こいつらの目当てが金だろうが豊かさだろうが、ウェイストランドを受け入れなかった時点で終わりだ。


「…………はは、ははは、ははははははははッ! 何を言うと思えば、面白いガキどもめ!」


 相当ダメージが入ったんだろうな、白髪の男は知的さも破って笑い出す。

 周囲の目なんかも気にしない、腹の底からくすぐったがると。


「ストレンジャー! お前の言う、その面白おかしいやり方には感謝しないとな! お前のおかげであのクソ忌々しいシド・レンジャーズにも一矢報いてやれたからな!」


 そいつが今までの振る舞いも捨てて語り始めた。

 ……一矢報いただって?

 シド・レンジャーズの名前も出てきて、目で話の続きを促してしまう。


「あの役立たずたちも少しは役に立ったな。仕事ぶりなど期待なんてしてなかったが、ついでであの神父を始末できた。お前のおかげもあってな」


 あの神父。

 この場に挟まった言葉に、とても嫌なものがどこかに走った。


『……おじいちゃんを、始末……? なに、言ってるの……?』


 腹の短剣はその意味をすぐに理解してしまったらしい。

 こいつの言ってることは、いや、まさか、もしかして。


「……どういうことだ、言え……!」

「あいつは元レンジャーだ! ()()()()()()()()、とバカげた名前をつけられたイカれた兵士だ! あのクソ忌々しい"シャープシューター"の戦友を、まさかお前たちが殺してくれるなんてなァ!?」


 今、なんていった?

 シャープシューター? そうか、ボスのコードネームだ。

 アルゴ神父がその戦友――同じレンジャーの仲間だった?

 まて、そんな、そんな、嘘だ。


「ちがう、俺は、殺してなんか」

『いちクン、だめ……! こんな話、信じちゃだめだよ!?』

「お前が殺したようなものだろう? 期待の新人、などと噂されてたようだが、シャープシューターのやつは長年の戦友をこうも無様に殺されてどんな気持ちだったろうな? シド将軍は古き友を失ってさぞ悔やんでいただろうな? どうだ、これでもお前は「世の中捨てたものじゃない」と思えるのか!?」


 ……そうだったんだな、

 馬鹿か俺は、思い上がってた。

 ボスの戦友を見殺しにしただけじゃない、シド・レンジャーズの人たちにも傷跡を残していたのか。


『いちクン!? き、気をしっかり持って!?』

「はは、はははっ! やった! やったぞ! 私は、擲弾兵に屈していなかったわけだ! 我々は負けてなどいなかった!」

『う、うっ、ぅぅ……! お願い……あきらめないで……!』


 しかも、またミコを泣かせちまった。

 血も流し過ぎたんだろう、意識も、心もなくなりそうだ。


「お前は確か、死ねないといったな。本当かどうかは分からないが、どうやら中身はただの人間らしいな」


 太い指が迫ってきて、首にずっと下げていたタグをぶちっと引きちぎられた。

 取り返す力も湧かない。いや、もう必要ないか。


「ストレンジャー、ならば私はお前を何度でも殺し続けてやる。死が訪れるその時まで永遠にだ」


 クソジジイが立ち上がった。

 言いたいだけ言い終えると、側にいた兵士の一人を手招いて。


「宿を攻撃しろ。跡形も残すな」

「……しかし攻撃はするなとの命令ですが」

「構わん、従うな。あんな馬鹿に従う必要なんてない、私が勝者だ。そうだろう?」


 そう言い伏せてしまった。もうこいつに逆らうものはいない。

 ……あれだけ防ごうとした宿の攻撃が、始まってしまうみたいだ。

 『そんな……!』と声を上げるミコを抑えた。せめて、こいつだけでも。


「終わりだ、擲弾兵。次も、そのまた次も――この私が終わらせてやる」


 白髪の男が実戦向けの黒色をした自動拳銃を腰から抜いた。

 見上げた視界の中央に銃口の暗闇が見えた。このままトリガを引けば終わる。

 ごめん、みんな。やっぱ俺って駄目だな。


 ――びすっ。


 目を瞑ったその次の場面を待っていると、すぐ間近で何かが抜けるような、はっきりとしない音がした。


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