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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
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14 キッドタウン(1)

 翌日、シエラ部隊と共にサーチタウンを去った。 

 代わりにラムダ部隊が残るそうで、後の処理はあちらに一任するそうだ。


 イェーガー軍曹がいうにはあそこは前からミリティアに狙われていたらしい。

 あの手この手でなんとか保たれてはいたそうだが、アルテリーの消滅や北部のレイダーたちの南下がきっかけでとうとう攻め込まれてしまったわけだ。


 あの後サーチタウンは残された武器を回収、鹵獲して防御を固めたそうだ。

 もし次に来る時があれば無事に残っているんだろうか、次があればだが。


 そして今、俺はシエラ部隊の保有する車の中にいた。 

 荒野にあわせた色合いのごつい軍用車両で、戦前のものらしい。


「ルキウス、この調子だと昼前にはつきそうだぜ」

「そうか、ならいい。あの神経質な連中のことだ、早く顔を見せてやらねえとうるせえからな。ノーチス、三時方向ばかり注意するなよ!」

「大丈夫、変なのがいたらぶっ潰してやるわ」


 運転手はイェーガー軍曹、助手席にはルキウス軍曹だ。

 頭上の銃座ではノーチス伍長が周囲に目を配らせていて、残りは全員後部座席に押し込まれている。


「――で、どうだ? 手になじむだろ?」

「ああ、少し重くなったけど前よりバランスがいい感じがする」

「そういうこった。重くなっちゃいるがむしろ反動をいい感じに殺せるぜ。重心も整えてあるから取り回しも良くなったはずだ、ストックは頑丈なヤツに交換したから遠慮なくブン殴れるぞ」

「引き金も変えたのか? 照準も合わせやすい、これなら遠くも狙えそうだ」

「おう、トリガも軽くていいヤツに取り換えておいたぜ。おまけの照準器は45-70弾用の小銃のやつを乗せてあるからな、良く狙って撃てよ」

「これの交換用のパーツはどうしたんだ?」

「そいつは戦前の銃器メーカーが復刻したやつだからな、他の狩猟用の銃器と互換性があるのさ。ま、要するにニコイチってことだ」


 そんな窮屈な車両の中で、俺は改造された三連式散弾銃を確かめていた。


 カーペンター軍曹が大幅にカスタマイズを施してくれたようだ。

 ストックは堅牢なものに取り換えられ、代わりにトリガ周りは軽くなり、簡単な照準器が据えてある。

 多少重くはなったが、むしろバランスが良くなった気がする。


「ありがとう、カーペンター伍長。おかげでかなり使いやすそうだ」

「使いやすそうじゃなくて使いやすいんだぜ? トヴィンキーくれりゃ一念保証つきだ」

「そんなに好きなのか? あんなクソ甘いスナック菓子」

「お前らにゃ分からねえさ。あれには夢とロマンと……150年前のろくでなし旧人類どもの英知が詰まってんだよ」

「ストレンジャー、トヴィンキーはこいつにとって麻薬なの。禁断症状が出ると妄言を発し始めるんだけど、つまりこいつは麻薬中毒者みたいなもんよ。かわいそうでしょ?」

「おい、ノーチスは生まれつきユーモアが欠陥してんだ。哀れだろ? 時折クソつまらねえ変なことを口にするが許してやれよ」


 後部座席で二人の伍長による地獄のような掛け合いが始まった。

 ふと気づくとニクが外を見たがっていたので、膝にのせて窓に向けてあげた。

 眠そうな視線の先には生き物の気配すらない退屈な荒野が広がっている。


「おっと、そうだった」


 まだかかりそうだ――いまのうちに成長(・・)しておこう。

 PDAで【PERK】を選び始めると、リストにちょっと気になるものがあった。

 それは【ステータス・タグ】というページの最初にある地味なもので。


【あなたに足りないものがある? それならご安心ください! PERK一回分を犠牲にあなたのステータスポイントを恒久的に上昇させることができます! 筋肉から運まで、何でも補えますよ! 残り三回】


 というものだ。つまりこれで俺のステータスを上げようというわけである。

 謎PERKの効果ですべて1増加されているとはいえ【運】はたったの3だ。

 【運】を選択して上昇、これで4になった。


「なにしてんだよ?」


 少しラッキーになっていると甘党の方な伍長が覗き込んできた。

 職業的にこいつが気になるみたいだ。少し画面を見せてやった。


「成長してるところだ」

「……へえ、軍用モデルのPDAかよ。でもずいぶん古いモデルだな?」

「そんなに古いのかこいつ? 俺からすれば結構ハイテクな感じがするぞ」

「確かP-DIYシリーズの1500だろ? 最新モデルが2500だから結構前のやつだぜ? 使いづらくねえのか?」

「まあ確かに取り出すときに苦労するな、結構デカいし」


 彼が言うにはこの無骨な『ステータス画面』に他のモデルがあるらしい。

 まあ別に困ってる点はない、こいつとは末永く付き合おうと思う。


「ストレンジャー。大事な質問なんだがお前たちはどんな戦い方をするんだ?」


 レベルアップボーナスを配分し終えると、急に助手席から声をかけられた。

 見ると、ルキウス軍曹が顔をこっちに向けて尋ねていた。


「俺たちの戦い方か?」

「そうだ。あの街の連中はそれぞれ自分の得意なやり方があるからな。アレクの坊主は暗殺、ヒドラのクソガキは放火、あのばあさんやサンディ嬢ちゃんは長距離射撃、って感じにな」


 そういわれてみればみんなは何かと特技を持っていた。

 いやでも俺だって特技というかMGO世界のスキルがある、問題はこのシエラ部隊の面々に受け入れてもらえるかどうかだが。

 ここは正直に答えてみることにした。


「……まず俺は物を投げたり、それから忍術が使える。すごいだろ?」


 そう、答えたのはいい、ところが車内が一瞬静まった。

 銃座から顔を覗かせてきた伍長とブロンド髪の伍長が「なにいってんだこいつ」と互いを見てる始末だ。

 しばらくの沈黙のあと、


「いいか、お前に言えるのは二つだ。ふざけるな、と、真面目に答えろだ」


 気難しそうにシエラ部隊のリーダーが言った、呆れを添えて。


「いや、本当なんだ。相手を動けなくしたり、姿を消したりできる」

「……じゃあそっちの喋る短剣のお嬢さんはどうなんだ?」

『わっわたしですか!? えっと……治療したり、離れた人を呼び寄せたり、あと防御魔法が使えます!』

「ファンタジーなやつらだな、くそったれが」


 とうとうため息をつかれてしまった。

 信じてくれてはいるみたいだが、仕方がなく信じてやるという感じだ。

 ウケ狙いじゃなく割と本気なんだけどな、と思ってると、


「いいか。お前も兵士ならちゃんとした戦い方を覚えろ、より実戦的で、攻撃的なやつをだ」

「その実戦的なやつっていうのはなんだ?」

「分かった、教えてやる」


 助手席からルキウス軍曹がこっちを向いてきた。


「良く覚えとけ。姿勢を低くして屈め、素早く敵に向かって動け、そうすりゃ弾丸飛び交う中だろうがそう当たりゃしない。そして大事なのはカバーだ」

「カバー?」

「撃ち合いの時はとにかく遮蔽物に隠れて盾にしろってことだ。姿勢を低くして必ずそのポジションで戦え、前進する際や危険が迫ったときには次の遮蔽物を選んで素早く移動しろ、戦場を渡り歩くんだ」

「えーとつまり……カバー命と?」

「そういうことだ」


 絡みつくような力強い声でそう説明されたが、言ってることは無茶苦茶だと思う。

 だが感覚でなんとなく、かろうじてイメージできた。

 隠れる、撃つ、移動する、それをタイミングよく繰り返すだけである。

 問題はそれをやる技量が果たしてこのストレンジャーにあるかって話だ、まあ割といけそうだが。


「時には隠れず堂々と殺しに行く蛮族女もいるけどな!」

「くそくらえ、ダリク。いい年してベッドにテディベア置いてるような奴に言われたって面白いだけだよ」

「あぁ!? ありゃジンクスで置いてんだよ! 俺にかわいらしい趣味でもあると思ってんのかクソアマ!?」

「そんなんだからサンフォードじいさんになじられるんだぜお前」

「おい、クソジジイの話はすんなよイェーガー! 殺すぞテメエ!?」


 そこへ他の三人のやり取りが飛び込んでくると、ルキウス軍曹は肩をすくめた。


「……で、俺たちがこれから向かうのはキッドって街だ。エンフォーサーとかいうテクノロジーマニアどもが守ってる」

「エンフォーサー?」

「戦前の技術を集めてるやつらだ。あいつらの技術力には世話になってる」


 彼が言うにはどうやら南にあるキッドという街へ向かってるようだ。

 車の向かう先を見てみると、まだまだ目的の姿は見えてはいなかった。


「そこのテディベア好きな天才と気が合う変な連中よ」


 するとすぐそばの銃座からノーチス伍長がこっちに顔を覗かせてきた。


「言ってやがれ、お前らみたいな脳筋どもにゃ分からねえさ」


 そのエンフォーサーとかいう連中と気が合いそうな方の伍長は、そう言うと少しの間を置いて俺を見てきた。


「――おっと、お前らは別だぜ? 人の趣味にケチつける硬い脳みそしてなきゃな」

「安心してくれ、俺の脳みそなら風通しが良くてすっきりしてるからな」

「風遠しだって? 頭に穴でも空いてんのかお前?」


 タイムリーなことを言われたので礼のブツを見せることにした。

 すかさず荷物から脳入り瓶を取り出すと、腐って虫が湧き始めたドッグマンを見たような表情をされた。


「うげっ……なんだよそれ、なんでお前そんなの持ってやがる? 変態か?」

「素晴らしい魔女様がわざわざ記念で保存してくれたんだ。しかも呪いでもかかってるのか何度捨てようとしても戻ってくる」

「おい呪いとかシャレにならねえぞ!? そんなキモいの捨てちまえ!」

「そうだな捨てるか! じゃあなくそったれ!」

『また捨てようとしてる……』


 ちょうどいい機会だし天井の穴から放り投げることにした。

 ところが視界に【電波を受信しました……】と出てそれどころじゃなくなった。


「……いや、ちょっと待った。なんか受信した」

「あぁ? どした? 脳になんか届いたのか?」


 PDAのラジオ画面に『キッド・タウンの救援要請』とある、再生してみると。


【こちらキッド、街がレイダーどもに包囲されている! 誰か助けてくれ! 向こうは物資を要求している、引き渡さない場合は攻め込むと言ってるんだ! 早くやつらが襲ってくる前に――おい待て! なんだあの暴れてるやつは!?】


 切羽詰まった声が聞こえてきて、そこで放送が途絶えた。

 俺たちは思わず顔を見合わせるが、今度は車内の無線機からも声が流れ始める。


【――こちらベースだ。緊急事態だ、キッドの街にて南西からレイダーどもが侵攻してきたとの情報が入った。事態が深刻になる前に速やかに対処してくれ、彼らの信頼に関わる問題だ。オーバー】


 落ち着きのある男の声が車内にそう告げてきた。

 PDAのほうが一歩早かったようだが、どのみち襲われてるという事実は変わらない。


「……ったく、最近は休む暇もねえな。飛ばせ、イェーガー!」

「了解。アイツらに目にもん見せてやろうぜ!」


 シエラ部隊と余所者を乗せた車両が加速して、南へ続く道路を突っ走った。


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