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芸能クラスに人気アイドルの双子がいるひとりぼっちな同級生は、俺にだけ姉に負けない素顔を見せてくる。  作者: ななよ廻る
第2部 第1章

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第2話 教室で急に男女が仲よくなれば、気になるのが思春期の心情

 ユウさんの突然の変化に、夏休み明けの憂鬱や怠さがぽろぽろとこぼれ落ちていく。

 そばにいたいなんてかわいいくて、胸がきゅんっとするようなお願いに応えてあげたくはあるのだけど、動揺して舌がうまく回らない。気が動転していると、自分でわかるぐらい混乱していた。意外と冷静だ。

「どうしたの?」

 その疑問は俺がしたいのだけど、一般的に見て様子が変なのは俺だろうから余計に返答に窮する。


 ん? と小首を傾げる小動物。俺の動揺なんてまるで理解していない反応だった。

 警戒心の強い小動物に懐かれた……というのは、ユウさんと一緒に昼休みを過ごすようになってから感じていたことだ。そこから発展した現状は、さらに懐かれたと思うべきなのだろうか。


 けど、目立つ素顔を隠して教室で息を潜めるように過ごしていた彼女が、こういった行動に出るのが懐かれた先の延長線上にあるのかと疑問が残る。懐き度が十上がろうが、百になろうが目立たず静かに過ごしたいという生き方を変える動機にはなりえない……と、思うのだけど、どうなんだろう。

 訊いてよいものか。机のそばでしゃがむユウさんを見ていると、俺が尋ねる前に蕾のような唇を彼女は動かした。


「お祭り、楽しかったね」

「おまつ」

 咄嗟に意味がわからなくって、なんだか時代劇に出てくる女性の名前みたいになる。お祭り、ってあぁ夏休みのと遅れて理解に至る。

「楽しかった、ね?」

 なんだかさっきからオウムのような返事ばかりになってしまう。波打つ海上の小舟のように心が揺れ続けている。返答に頭を使う余裕がなかった。

 ただ、そんな俺の反応が微妙だったのか、明るかったユウさんの表情が曇ってしまう。

「楽しくなかった?」

 眉尻を下げて、見るからに不安そうな顔になる。そんな顔を見せられて、はいそうです、なんて言えるはずもない。


「そんなことないから」

 実際、夏休み中に行ったお祭りは楽しかった。子どもの頃はともかく、最近は足が遠のいていた。楽しさよりも面倒が勝る。これが大人になるということか、とお小遣いを握ってお祭りを楽しんでいた時を懐かしく思うけれど、足を運んでみると楽しめるものだ。

 だから、答えた気持ちに嘘はない。


 でも、

「いいの?」

 教室で俺と話して。

「……? なにが?」

 言葉が足りなかったのか、ユウさんに俺の気持ちはまるで伝わっていないようだった。以心伝心とはいかないものだ。かといって、こうも堂々とされていると、引っかかっている俺の方が気にしすぎなんじゃないかと思わせられる。

 同級生と教室で会話するのなんて、当たり前。誰もがやってる。

「や、気にしすぎなのか?」

「?」

 一人納得してユウさんを置いてけぼりにしていると、同級生の女の子が一人こっちに近付いてくる。その顔には俺と似た戸惑いを浮かべつつ、なにやら興奮したように頬に赤みが差している。


 その感情って、一緒くたにできるんだ。

 なんて思っていると、「えっと」と言葉を探すように視線を泳がせた同級生の女の子が、意を決したようにぐっと拳を握る。

「ふ、二人はどういう関係、なのかな?」

「どういう」

 今日の俺は本当にオウムなのかもしれない。

 でも、この子の訊きたいことがよくわからない。そう思ったけど、知らないうちに彼女だけでなく、同級生たちの視線が集まっていた。どの顔もコピペしたように興味を示していて、同級生から見てもおかしかったらしい。俺が気にしいというわけではなかった。


 俺が顔を上げたのが気になったのか、ユウさんが追うように後ろを見る。すると、こちらに集まる視線を見て、びくっとなって机の下に頭が沈んでいく。その様子を見ると、人見知りを克服したというわけでもないらしい。

「で、どうなの?」

 焦らしたつもりはないのだけど、同級生の女の子が焦れたように迫ってくる。 後ろでは、彼女に同調するように他の同級生たちも頷いている。

 どうって。

「同級生」

「……本当に?」

 疑う、というか信じていない顔だった。目を細めて、視線が鋭くなる。


 ただ、疑われたところでこれ以上の関係性なんて示しようがない。友達……というと、姉の方が思い浮かぶし、ユウさんとはしっくりこなかった。

 だから、

「本当」

 と、肯定したのだけど、一層彼女の目が細くなるだけだった。そんな目をされても困る。


「天津さんはどう思う?」

 俺から聞き出せないと思ったのか、標的がユウさんに変わる。嘘なんていてないのに、信じてもらえないのは悲しいことだ。普段から、虚言を吐いていた覚えはないんだけど。

 関係を訊かれたユウさんの肩がびくっと跳ねる。

「……あ、え、と」

 顔を上げて、しゃがんだまま同級生の女の子の顔を見上げたユウさんは、呻くような声を出して、そのまま俯いてしまう。

 さっきまでの流暢さはどこに旅立ったのか。

 少し前の人馴れしてない小動物に戻ってしまったユウさんは、殻に籠もるように背中を丸めてしまう。


 これには尋ねた同級生の女の子も驚いたようで、

「あ、あー……なんかごめん」

 気まずそうに謝ると、「お邪魔様でした」と逃げるように離れていく。さすがに怯えた小動物に根掘り葉掘り質問攻めするほど鬼ではなかったらしい。


 もっと騒ぎになると思ったけど、不幸中の幸いだった。

 ただ、残念なことにユウさんは不幸の直中ただなかのようで、怯えたように俯いたまま顔を上げてはくれないけれど。

 とはいえ、クラスの女の子が急に男の子と仲良くしていれば気になるのが年頃の心情。このような反応になるのは目に見えていたし、まだマシだったとも言える。


 ユウさんが冷静になった時、これに懲りてもう教室では近付いて来なくなるかも。

 ふむ。それはそれで寂しいか。

 そう思っていたら、羞恥で重くなっていた頭が軽くなってきたのか、ユウさんの頭がぐぐっとどうにか上がってくる。

 その顔はやや赤らんでいて、泣く寸前のように瞳に薄い水の膜が張っている。

 決壊寸前。

 そんな印象を受けるのに、ユウさんは巣に戻らず、代わりに口を開いた。

「どんな、関係だと思う?」

 ちら、ちらっと窺うような視線を向けてくる。さっき同級生って答えたんだけど、聞いていなかったのかしら。


 羞恥を残す瞳の中に期待が入り交じる。

 その期待は、どういう返答を願っているのだろうか。とりあえず、同級生では満足しないことはわかる。

 校舎裏で一緒にお昼を食べる仲。

 関係を示すにはやや冗長な気もするけど、一番的確なように思えた。

 でもなぁ。

『……(ひそひそ)』

 好奇の視線が後頭部にザクザク刺さる中で口にしたくはなかった。かといって、見上げてくる期待に満ちた大きな琥珀の瞳を無視するのは俺の僅かばかりの良心を痛める。


 アイドルみたいに、話題の渦中にいたいわけじゃないんだけどなーもー。

 ため息をこぼしたいのをどうにか喉元で押し返して、的確ではないけれど、大枠では当てはまる同級生という関係に収めておくことにする。


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