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芸能クラスに人気アイドルの双子がいるひとりぼっちな同級生は、俺にだけ姉に負けない素顔を見せてくる。  作者: ななよ廻る
第1部 第3章

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第7話 田舎な街にある球状の建物

 電車から見える風景が次々に移り変わる。あまり下り方面は使わないから知らない景色ばかりだ。電車に乗るぐらいだから都心に出るのかと思っていたけど、予想は真逆。

 どこで降りるんだろうと、金網の上にある路線図を見上げるけど、知ってはいても降りたことのない駅名ばかりで予想なんてつかなかった。


 車両の隅っこ。短い席でユウさんと二人、電車に揺られているとまた一つ、駅に止まる。

「ここ」

 不意に立ち上がるユウさん。油断していてあわや扉が閉まるかと思ったけど、どうにか降りられた。「ごめんなさい」と謝る彼女に、大丈夫と手を振る。


 後ろで電車が通り過ぎていくのを感じながら、柱に書かれた駅名を見る。普段使う駅と同じ路線内の駅。名前は知ってるけど知らない土地だ。降りたことなんて一度もなかった。

 上りと下りの路線が同じホームにある。屋根はあるが壁はなく、駅周辺が見渡せた。ホームには人がいない。寂れた駅という印象が強く、ひび割れた石の床や錆びた屋根がよりそう思わせた。


 遊びに来たはずだけど、遊興施設からは遠ざかった気がする。駅から出ると余計にそう感じる。

 なにもないなー。

 駅に降り立った最初の印象だった。駅前にあるのは見慣れた系列店のコンビニとハンバーガーのファーストフード店だけ。バスステーションなんて、いまどきどこにもありそうなものはなく、ちょこんっと古びたバスの時刻表が立っている。


 閑散としていて、人なんてコンビニやハンバーガー店内に数人見える程度。それも、店員を合わせてだ。家の最寄り駅も都会というほどではないけど、駅前にスーパーぐらいはある。

 同じ路線内でこうも田舎と思わせる光景に、もはや感動すら覚えてしまう。これなら、たとえ芸能人が素顔で歩こうとも、騒ぎにはならないだろう。その点だけは安心する。


「はー……」

 まるで別世界。服を着たうさぎに導かれる少女アリスの気分になっていると、「こ、こっち」と臆病なうさぎが案内してくれる。尻尾の代わりに揺れる黒毛を追って歩く。


 静かな街だった。

 賑わいとは正反対で、駅から近いというのに人通りの少ない住宅街を歩いている気分になる。都心に人口が集中して、地方は過疎化が進むなんてニュースを聞いたことがあるけど、駅間でも似たようなことが起こるのだろうか。

 並木の道。脇は畑が広がっていて、反対側に道路があって車が走る。道路の脇で畑なんて耕すのか。なにを植えてるんだろうと土から伸びた緑の葉っぱを注視していると、さっとユウさんが道を曲がったので「あ」と早足で追う。


 そうして、田舎のような、そうでないような。

 郷愁を感じさせる光景に目移りしていると、丸い球状の大きな建物が見えてきた。都会の喧騒から離れた、物寂しさすらある周囲の雰囲気から一変して、どこか現代さのある建物だ。

「ここ、だから」

「ここ」

 ユウさんの言葉を復唱して、改めて見上げる。どうやら、目的地はここだったらしい。予想外である。


 遊ぶ場所なんてなにもなさそうな街だったから、もっと違うものを想像していた。それこそ、幼少期に体験したさつまいも掘りとか、いちご狩りとか。

 でも、よくよく考えてみれば今日のユウさんはおしゃれさんだ。土いじりとは真逆な格好で、外れて当然な気がする。だからって、他に予想もできないのだけど……図書館とか? ここまで来る必要ないよね。


 どうあれ答えは目の前。

 悩むより先に入ってしまった方が早いと、建物の前にある開けた場所を、道しるべのように並んでいる石畳に沿って歩く。都会の便利さとは遠い道を歩いてきたせいか、自動ドアに小さな感動をしつつ中に入る。

 空調か、それとも雰囲気なのか。

 入った瞬間に切り替わったしんっとした空気に圧迫感のようなものがあった。図書館……というよりは、美術館が近いかもしれない。そんな厳かな空気。


 天井高いなーと見上げているうちに、ぴょこぴょことユウさんが受付であろうカウンターに向かっていた。カウンター内には僅かに黒を残す白髪の男性が立っている。

 目元のシワが年齢を感じさせる年配の男性。夏だけれど屋内は冷房が効いているからか紺色のセーターを着ており、優しそうに垂れる目がスタッフというより、優しい近所のおじいさんを思わせた。


 そっとユウさんの後ろに並ぶと受付の男性の目が俺に向けられる。すると、驚いたように僅かに目を見開いた。ん? と、首を傾げるけど、瞬きのあとにはユウさんに向けていたものと同じ穏やかな笑顔を浮かべていた。

「こんにちは」

「あ、はい。こんにちは」

 落ち着いた声音だった。見た目相応の声に応えて軽く会釈をすると、彼の笑みが深くなる。


「この辺りの子ではないですね。

 ユウちゃんのお友達でしょうか?」

「はぁ、まぁ、そんな感じです」

 曖昧な返事が口から出る。

 濁すようになったのは友達という部分に違和感があったから。それは恋人とか、より上の関係を口にしたかったわけではなく、そもそも友達なのか? という疑問があった。

 同級生というのが一番しっくりくる。関係の深さに短いも長いもないとは思うけれど、ユウさんとの関係はどうあれ浅い。……家に来た、という一点の事実においては、ただの同級生とは言えないのかもしれないけども。


 曖昧に笑って誤魔化すと、「そうですか」と受付の男性が頷いてくれる。納得してくれたのか、それとも深く訊く気は最初からなかったのか。どうあれ、助かったという思いがあった。

 この件に関しては俺の中でデリケートで、現状あまり触れられたくない話題だったから。


 受付の男性が俺からユウさんに視線を戻して口を開く。

「次の上映は三十分後ですが、その回でよろしいでしょうか?」

「はい」

「……?」

 上映?

「映画でも観るの?」

 こそっとユウさんの耳元で訊いたのだけれど、距離が距離だったので受付の男性にも聞こえたらしい。


「おや? なにも言ってないのですか?」

「……はい」

 悪さをした子どものように頷くユウさん。「なんとなく、言いづらくて」とこれまで目的地を言えなかった理由を口にする。そのなんとなくにどんな思いがあるのか。

 わからないけれど、肩をすぼめる彼女を見ると責める気にはならない。それは受付の男性も同じようで、一つ頷くとユウさんの代わりにここがどこかを教えてくれる。


「星を観るんです」

「星?」

 屋内で?

 一瞬、そんな疑問が浮かんだけど、星と屋内という単語を頭の中で並べて、すぐにわかった。あぁ、と納得を込めて相槌を打つと、受付の男性がにっこりと目元に深いシワを作って笑う。

「ここは星観のやかた、プラネタリウムを上映しております」


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