山形公平、昼メシの流儀
大ホールには既に探査者さんたちが結構いて、テーブルに並べられた様々な料理を思い思いに皿に移して食べている。和洋中に、多国籍料理。それぞれがゾーニングされて、腹ぺこなみんなを待ち構えていた。
うわぁ〜テンション上がる! よだれが溢れて止まらない!
期待に胸躍らせる俺に、望月さんがニコニコと笑いかけてきた。
「公平様、どうか席にお着きください。料理は取ってきますよ」
「え? いやいや行きますよ自分で。楽しみを取らんでください」
「ですが……あの行列ですよ?」
そう言って指差すのは料理に並ぶ人たちの群れだ。おおう、壮観なり行列。むっちゃ混んでる。
どのコーナーも混んでいるみたいだったが、割合で言うと多国籍料理──トルコとかメキシコとかベトナム、タイ。その辺がメインかな? が、若干抜き出て人気に見える。
分かる。めったにお目にかかれない料理って、好奇心湧くよね。
たとえばそばやハンバーグや餃子と比較して、ケバブやタコス、生春巻きやバイン・ミーを日常で見かけるかって言うと、中々なかったりするし。
せっかくだからあまり機会の無い味覚に触れたいと思うのも、俺からしたら納得の話だ。
「一緒に行きましょうよ、望月さん。年上のお姉さんにパシらせるなんてしたくないですし」
「……分かりました。お心遣い、深く感謝いたします」
「大袈裟ぁ……」
俺の分まで料理を持って来ようとしていた望月さんを言い包める。厚意はありがたいけれど、彼女は俺をヒモみたいにしたいのだろうか?
ものすごく甘やかしてくる傾向にあるのが、香苗さんとはまた異なる狂信者性に思える。いや狂信者性ってなに。自分で自分の言葉のチョイスにドン引きだわ。
ともかく二人で行列に並ぶ。トレイだけ持ってうふふ、色んな料理が俺を待っている。
テーマパークに来たみたいだぜ〜なんて考えながらも暇に飽かして望月さんと話す。
「そう言えば望月さんは、先程の男の人たちと今日は行動するんですか?」
「あ、いえ。あの人たちはさっきいきなりやってきただけの、いわゆるナンパですね。私と一緒のメンバーは……あ、ほらいました。あそこです」
促される先、視線を向けると女の人たち。3人いて、集まって喋りながら食事をしている。おっ、こっち気付いた。望月さんに向け、にこやかに手を振っている。
それに笑顔で応えつつ、彼女はさらに続けた。
「ツアー参加者が一人と、向こう所属の探査者が二人。男の人が交じるとややこしくなりがちですから、基本的に女性とだけ組もうと考えています」
「望月さん、モテますもんねぇ」
「見た目だけ目当てにされても、こちらとしては面倒なだけなんですけどね」
どこか苦み走って呟く。ああ、結構色々、苦労してそうだなあ。見目麗しくても、人の欲望に晒されがちなら、それは大変なことだ。
おっと、料理の前まで来た。俺たちは今、洋風料理のコーナーにいる。へへへ、ハンバーグ! おっとスクランブルエッグ! あらら、ウインナー! チキンステーキなんかも添えて、野菜も忘れずに。
多種多様な料理を、肉中心にサラダも添えて盛り付ける。器とトレイのスペースも考えなきゃだから、地味にセンス問われるよね、こういう場面。
ひとまずこんなもんかな。程々にトレイを埋める料理の入った器に満足感。気になったけど今回は止めといた料理だって、時間はあるんだしまた、何度でも来れば良い。
隣の望月さんはサラダメインだが、それでも肉もそれなりに食べようとしているみたいだ。探査者はどうしても力仕事だからね。
「じゃあ、行きますか」
「はい」
席に戻りがてら、望月さんと組んでいる女性探査者さんたちに挨拶しておく。というか、せっかくなんだし一緒に食べないんだろうか、彼女。
聞いてみたら、何とも言えない答えが返ってきた。
「せっかくの機会なので、公平様のお世話をするようにと応援されまして。私が自己紹介がてら、公平様に救われてからの話をしたらもうすっかり、応援されるようになっちゃいました」
「…………そ、そうなんですね」
「はい! もちろん公平様はみんなの救世主、私一人が独占だなんて世界のためになりません。ですけど、御堂さんや公平様のクラスメイト、佐山さんに負けるつもりもありませんから! 精一杯、あなたを想う信徒としてがんばります!」
「あ、ありがとうございます……その、御自身を最優先にお願いしますね」
にこやかにとんでもないことを言う望月さんに、俺はそう言うのが精一杯だった。
信徒って何だ。お世話って何。
あなたがどこに向かおうとしているのか、本格的に分からなくなってきました、俺。
「望月さん、ファイトー!」
「救世主くーん、その子泣かしたら承知しないぞー?」
「打倒、御堂香苗! 敵は強大だけど負けちゃだめよ、宥ちゃん!」
望月さんのお仲間さんの、好き放題な応援まで聞こえてくる。
ありがたいし嬉しいけど、どうにも根底に深く根付いてそうな信仰心を垣間見た気がして、反応に困る俺なのでした。
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