やたら良いとこ見せる劇場版ガキ大将
「隣の彼、彼氏? ちょっと似合わないねえ」
「いや、穏やかそうだし顔は悪くはないんだけどさあ。ちょっと不釣り合いって言うの? 俺らのがきっとマッチしてると思うよ? プリクラ撮ろ? めっちゃかわいいやつ」
何とも分かりやすい二人組だ、下心しか見えない。
いかにも遊んでまーすってな感じの彼らは、概ね俺や佐山さんと同い年くらいに見える。ちょっと幼気な顔付きだから、下手すると中学生とかかもしれなかった。
しかし最近のナンパは丁寧というか、何というか。邪魔者な俺に若干、気を使った物言いなのが微妙にほっこりくる。
悪い人たちではないんだろうなって感じるわ。下心はめっちゃあるんだろうけど。
そんな思いでいる俺とは裏腹に、佐山さんはかなり気分を害したみたいだった。冷たい言葉で、にこやかに告げる。
「へぇー、釣り合わないんだ? 私、あんたらなんかとお似合いなんだ。ふーん」
「え? いや、そりゃ俺達のが似合いだけど」
「そこの彼の方がお姉さんに釣り合ってないって意味でさあ。地味だし、影薄そうだし? 優しげな目ぇしてて、良い人っぽいけど」
「……山形くん、証明書見せてあげてよ」
「えっ……」
彼女は青筋すら浮かべて俺にそう、促してくる。怖ぁ。
証明書ったら、探査者のだよな? え、見せんの? 彼らに?
いやいや、何でそんな……普通に忙しいんでーとか、警備員の人呼びますよーとかで良いじゃん。なんでわざわざ俺の素性を明らかにする方に行くんでしょうか。
困惑した目で見つめ返すと、佐山さんは彼らナンパさんたちには一切見せない、爽やかな笑顔で俺に言う。
「私が馬鹿にされるのは構わないけど、山形くんを馬鹿にされるのは絶対に許せない。ほら、見せたげてよ。山形くんが他のどんな男よりすごいってとこ、ほら」
「あっ、はい。あの、わたくしこういうものです」
圧ヤバぁ……どんだけキレてんだ。
普通におっかないので大人しく見せる。怒った女の子には敵わないんだ、俺は知ってる。父ちゃんと母ちゃんが自然体で教えてくれてる。なんなら優子ちゃんも俺に教えてくれる。つらぁ。
「たっ……探査者!?」
「おい、ヤバいって! 探査者さんの彼女かよ!」
俺が探査者だと知った瞬間、ナンパさんたちの態度は劇的に変わった。
驚愕、困惑、恐怖。それに罪悪感なんかも見える。大方、まるきりパンピーな俺が探査者だと思わなかったからゆえに驚いて困り、次いでヤバいと恐怖したんだろう。罪悪感的なのはよく分かんないけど……
「す、すみませんでした! いつもダンジョン探査、お疲れ様っす!」
「俺ら、こないだのスタンピードの時に探査者さんに助けられて、そっからマジリスペクトなんす!」
「そ、そうなんですか……その、ご無事で良かったです」
なるほど、前にやらかしたのを助けられてから、探査者そのものに頭が上がらないわけか。
にしてもスタンピードか。助けた探査者……まさか俺じゃないよな。シャイニング山形の場面にたまたまいたのかもしれないけど、テレビとか見てたんなら例のインタビューで俺の顔も知ってるかもだしなあ。
微妙に悩む俺に、ナンパさんたちは答えを教えてくれた。
「知ってますか? 関口さんって探査者さんなんすけど!」
「俺らもう、駄目だーってなった時に颯爽とやってきてくれて! あっという間にモンスターを蹴散らしてくれたんすよ!」
「関口くんが? そうなんだ……」
「へぇ……あいつが人助け」
俺も佐山さんも、思わぬところで出てきた関口くんにびっくりしつつも感心していた。
彼、スタンピードの時は狼人間絡みでやらかしてた印象が大きかったけど……そうだよ、そりゃそうだ。探査者だもんな、考え方や感情はどうあれ、人を助けるために戦ってたに決まってるんだ。
色々あって俺が出てきたからおかしなことをしちゃっただけで、それまではちゃんと仕事してたんだ。なんだか、嬉しくなる。
「でもあいつが山形くんの邪魔をして、私らが死にかけたことは話が別だけどね……」
「……………………」
佐山さんはそうでもなかったみたいだけどね!
まさしくごもっともな話で、関口くんがナンパさんたちを助けたのが事実なのと同様、関口くんが俺を阻んだ結果、危うく佐山さんたちが死ぬところだったのも事実なのだ。それぞれ別の話で、プラマイゼロとかチャラとかそんなことになるわけもない。
やったことはやったこと。良いことも悪いことも。そういうことだった。
「じゃ、じゃあ俺たちはこれで……」
「すんませんしたー!」
ナンパさんたちは結局、詫びを入れつつそそくさと退散していった。何のかんのと憎めない感じの人たちだったな。
変なナンパの成り行きから、まさかの関口くんの善行発覚まで。中々濃いやり取りだったわ。
この話を投稿した時点で
ローファンタジー日間、週間、月間1位、四半期4位
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