幻獣:陰キャにやさしいギャル
結論から言おう。俺の勘違いだった。
佐山さんは最初から俺とサシで遊ぶつもりで──いわゆるデートだ──一方の俺はてっきり、みんなと一緒に遊ぶものだと思っていたのだ。うーん、不覚。
「山形くぅん、そりゃないっしょー……女の子があそこまで言ったんじゃん。普通にデートっしょー」
「すみません、ごめんなさい……女子から遊ぼうって言われたの滅多になくて、分かりませんでした……」
「ウケるー、いやウケないわ。山形くんはさぁ……」
「はい、モテない人です……」
さすがに、これは俺が悪い。全面的に悪い、何も言い訳できない。
佐山さんももう怒り以前に呆れ果てている。そりゃそうだ、異性を誘うなんて勇気のいる話を、俺は思いっきり無下にしたんだから。
やべぇ、申し訳ねえ……縮こまる俺に、ついに見かねたのか佐山さんは、ため息一つ吐いて。
「良いよ、山形くん」
「い、いやー、でも」
「はっきり言ってなかった私も悪いし。山形くん、見るからに女の子慣れしてないもんね……ごめん。私も言いすぎちゃった」
「お、俺の方こそごめんなさい! 酷いことをしました……」
「別に、酷くないって。そんなに思い詰めんなー?」
心底からの俺の謝罪に、彼女も仕方ないなと思ったみたいだ。俺の頭をポンポン叩いて、撫でてくる。
いい子いい子止めてぇ、ほれてまうやろー……
なんて良い人なんだ。下手したらその場でキレて帰りそうなものを、許してくれるなんて。女神か? 女神佐山さんなのか?
「ま、気分アゲて行こうよ。せっかくのデート、休日は待ってくれないぜ〜」
「う、腕ぇ!?」
「デートなら組むじゃん、普通ー……こういうの私も初めてなんだけどさ。なんか、照れるけど、良いよね。えへ」
突然腕を組まれてキョドる俺に、飄々としつつも頬を染めてはにかむ彼女。
せ、青春……? 俺もしかして今、青春してるの? 間違ってないタイプのラブコメできてそうなの? 俺が?
感動すら覚える。思えば探査者になってから、年上の香苗さんとはいくらかデートめいたことはしてきたけれど……同学年女子とこんな風に逢瀬するなんて、これまでの人生で一度とてなかった。
そんな俺が、今まさに。
デートなるものをしようっていうのか。
「幸せ……」
「しあ……ちょ、山形くん止めてよ、恥ずいし! しみじみすんな!」
「あ、ご、ごめん。こんなこと、今までの人生でなかったことだから。ああ、良かったなあと」
「だから止めろし! ほら、行くよもう! まったく、仕事の時はあんなにカッコよくてスゴイのに、なんでプライベートだとこんな……」
ぶつくさ言いながら腕ごと俺を引っ張り回す。ちょうど、ショッピングモールの各店舗の開店時間だ。
まさかのデートだったことへの驚きはさておき、それならそれで楽しんじゃおうかと、俺と佐山さんはモール内を歩き出した。
「色々あるねー。あ、どっか行きたいとこある? 山形くん」
「え? いやあ……そうだなあ。俺には映画館とか本屋とか、ゲームセンターくらいしかパッとは、思い付かないかなあ」
「あは、うちの父さんと一緒! 母さんと出かけても、毎回映画か電気屋か本屋か、たまにゲーセンのUFOキャッチャーだって、いっつもボヤいてんの!」
「そ、そうなんだぁ」
佐山さんの父ちゃん、気持ちは分かる! こんだけ色々店が立ち並んでたって、ほとんどファッション関係じゃないか。しかもどう見ても女性をメインターゲットにしてるし、俺にはちょっとハードルが青天井。行くとこなんて限られてくるよなあ。
あっ、でも民族衣装っぽいの売ってる雑貨屋は興味あるかも。ああいう独特さは好きだ、性に合う。
「んー、じゃあ映画行こうぜー、映画! なんか良さげなの見てさ、終わったら昼時じゃん? いい感じの店でランチしながら感想とか言い合ってさ、そしたら午後から、ゲーセンで遊ぶとかにしよ?」
「あ、う、うん。佐山さんが良ければ、それで」
煮えきらない俺に先んじて、予定を組んでくれる佐山さん。良いかな? みたいに聞いてくるけど正直、俺には判断能力がないから佐山さん任せにならざるを得ない。情けない限りだけども。
するとそういう、主体性のなさも引っかかったようで、俺は正面に回り込まれて、めっちゃ近くからまっすぐに顔を覗き込まれてしまった。
か、可愛いし怖いぃ〜。めっちゃ瞳がキラキラしてる。すごぉ……やばいレベルで可愛いこの人ぉ。
動揺する俺に向け、唇を尖らせて彼女は続ける。
「山形くぅ〜ん、そうじゃないっしょ? 山形くんがしたいかどうか、なの! オーケー?」
「お、オーケーです! 佐山さんと、映画見て、お食事して、ゲーセンで遊びたいでぇーっす!」
「よろしーい!」
ニッカリ笑う佐山さん。
なんか……敵わないなあ。
俺はすっかり気の抜けた笑みで、彼女の行く先に付いていった。
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