楽しいことは二人分、悲しいことは半分
「単刀直入に言えば、探査者の金銭感覚は狂いがちなんですよ」
なぜ、F級探査者は最低品質のものしか買えないのか。なぜ、等級ごとにサービスを制限しているのか。
そこのところの疑問について、御堂さんは二つ目の答えを教えてくれた。
「ご存知の通り、探査者はダンジョン踏破者であれば高給取りです。内勤とて、かなり下がりますけどそれでも、他の職種業種よりは遥かにお金がもらえます」
「それは、まあ、はい」
そこは他の誰より俺が一番、恩恵を受けているところだ。
モンスターが倒れた際に稀に落とす素材は、人間社会においては相当な高値で売買されている。薬にすれば難病に効果があったり、好事家に愛されるような奇抜な見た目をしていたりと、とにかくダンジョン以外ではお目にかかれないような代物ばかりなためだ。
それゆえ、たとえばF級探査者でもスライムやゴブリンを倒していって、万一にも素材をドロップした場合、それだけでそこそこの収入となる。
ダンジョンコアも安いのでも100万からやり取りされている以上、たとえ見習い程度だとしても十分、一攫千金は狙えるわけだね。
しかも俺の場合、さらに特殊な事情がある。
俺の称号効果の一つに《モンスターが必ず素材をドロップする》というトンチキ極まりないものがあるのだ。
まさしくこいつが効果抜群で、何しろどんなモンスターでも倒せば必ず素材を落とす。換金すれば一つ、ウン十万からなる貴重品を毎度、俺は手に入れられていた。
さすがに俺くらいインチキなやつも早々いないにせよ、それでも探査者ってのは、一番等級の低い状態で既にお金を稼げる職種ってのが分かると思う。
だからなんだろうな……今しがた香苗さんが言ったとおり、金銭感覚を狂わせてしまい、身を持ち崩すケースがそこそこあるそうだ。
「ギャンブル、酒、女あるいは男……その辺は、公平くんにするには早すぎますし、話したくもありませんが。上級探査者ともなれば装備に凝るとか、アイテムコレクターという手合もいますね。とかく金遣いの荒くなる探査者が多くなるのです。手に入る金額の多さに、色々箍が外れるんですね」
「お金を使いすぎておかしくなる、と?」
「探査者専用のオークションですとか、高級パチンコとか。バーにパブに、あるいはまあ、女性や男性と一緒に過ごす施設であるとか。そういう探査者ビジネスは今や、世界規模のコンテンツですから」
嘆かわしい話ですが、と、香苗さんは呆れたように首を振る。
うん……話には聞いてたし、実際にそういうお店が立ち並ぶ通りを、興味半分で歩いてみたこともあるよ。明らかに金払いの良さが見える区画で、身なりの良さげな人たちが多く、歩いていたのが印象深い。
正直ね。大人になったら行こうと思ってますよ、何なら。
だってさ〜、興味あるじゃ〜ん! 女の人とお酒とか飲みたいじゃ〜ん。ギャンブルは興味ないけど、行ってみたいじゃ〜ん!
でも今の話の感じ、香苗さんはそういうの嫌いみたいだ。まあ、この人何だかんだすごく真面目だしね。てなわけで下手すると俺、大人になってもそういうお店に行こうとすると止められる可能性、あるよね。
残念、無念。でも香苗さんに嫌われるくらいなら行かなくて良いや、うん。
「まあ、そういうわけでして。探査者の質が落ちていくことを懸念した界隈は、そうした探査者ビジネスと協議を行いました。等級ごとによって、受けられるそうした店のサービスと、使えるお金の上限を設定すると」
「それって、探査者用ホームセンターと同じだ……」
「あれも探査者ビジネスですから。それ専用のメーカーやブランド、流通センターまでありますよ」
「ああ、何かやたら高いのがありますよね。靴とか、カバンとか」
俺には全然遠い世界の話だけど、A級とかB級用の品物には結構、ロゴが目立ったり統一された模様の様々なものがあったりする。大抵の場合、マジのガチでべらぼうに高価なので、ああいうのがいわゆるブランド品なんだろう。
道具にそこまで高級感なんて、求めてない俺としてはどうでも良いんだけど。そういうのにドハマりすると、いくら稼いでも金が足りないことになるんだろうなって思う。同じくギャンブルも、酒も、男にしろ女にしろ、のめり込むと果てがないイメージだ。
「E級になるとそのうち、そうした金の無駄遣いを阻止するためのセミナーも行われます。ですが肝心なのはまず、新人のうちから節制を心がけることが言うまでもなく」
「だから、等級ごとに身の丈に合ったものしか買えないんですね」
「先程にも言ったように、強力な装備によるゴリ押しを戒める意味もありますけれど、ね」
そう締めくくる、香苗さんの探査者としての風格はさすがのものだ。
A級トップランカーという、国内に10人しかいないS級探査者を除けば紛れもなく日本最高峰に位置するこの人は、いつだって界隈のことを考えているのだろう。
「公平くんの場合、もちろんそうした金の浪費などしないとは思っています。救世主とはいえその手の欲があろうことは承知していますし、そこを否定する気もありませんが」
「え。香苗さん?」
「ですがご安心ください、私がいます。大人になったら一緒に、浴びるくらい酒を飲みましょう。賭け事も、ソーシャルゲームとかくらいなら一緒にできますし。その、いかがわしいことも……その、あの、アレですアレ」
「香苗さん? ちょっと?」
「とにかく! お金を使いたいなーっとか、あれが欲しいな、これが欲しいなーっとか思ったらまず私にご相談を! 救世主の身の回りのお世話まで、しっかりバッチリしてみせましょう!」
「香苗さん!?」
自分でも勢い任せでとんでもないこと言った自覚あるな、この人。顔真っ赤じゃないか。
年上なのにどこかうぶなこの人に、まあ、香苗さんだしなと俺は、生暖かい目を向けていた。
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