大体なんにでも先駆者はいる
「これで……終わり! っと」
「ぴぎー!」
最後に残ったスライムに貫手を放つ。半透明のゼリー状物体の中に小さく存在する、この種のモンスターの本体とも言える核を狙ってのものだ。
強化された肉体、スキルによって極端な倍率のパワーアップを果たした上でのその貫手は、寸分違わずに極小サイズの核に命中。そのまま撃ち抜いて、存在そのものを粒子へと変じさせていった。
後に残るはドロップ品の『スライムゼリーの刺身』。袋に詰めて、持ってきていたリュックに入れる。
見た目、完全に刺身こんにゃくだ。微妙な心地になりながらも呟く。
「食ったら美味いんだっけ、これ……」
「美味しいですよ。醤油よりかはベリー系のジャムが合います」
「食べたことあるんです!? ていうか、これスイーツ系なの!?」
ビックリ発言をいともたやすくしてのけた、御堂さんに目を向ける。
モンスター食……ドロップした素材を食べる行為は、聞かない話じゃないけど、ジャンルとしてはいわゆるゲテモノ食いに含められる。昆虫食とかあるじゃん? あれの同類。
調理とかすれば食えはするけど、たとえば町中を歩いていて、お昼だしさあ何食べる? ってなった時の選択肢にはまず入らないんじゃないかなあ。そのくらい、正しく珍味ではある。
別にそういった趣味嗜好について、悪く思ったりとやかく言うつもりはないのだが、御堂さんがそうだとは思わなかったので率直に、驚きだ。
御堂さんは続けて言ってくる。
「大規模ダンジョンの探査中、遭難したことがありましてその時に。人間、調味料さえあれば追い詰められても、何でも食べられるものですよ」
「そ、そうなんですね」
「他にもいくつか食べましたが、意外に美味しいものばかりでしたね。ただまあ、私生活の中で食べようとは思いませんが」
「なるほど……」
さすがはA級探査者トップランカー。生々しくもためになる話をしてくれる。
俺もいつか、一人でダンジョンを迷子になった時には覚悟を決めよう。なあにモンスター食は先駆者がいれば愛好家すらいるんだ、やれなくはないだろ。
そんなこんなで最奥にたどり着く。決まり決まった構造の最深部に、やはりこのダンジョン独特の鉄臭さが漂う。
なんか、だんだんちょっとずつ気分悪くなってきた。鉄の匂いって、嗅いでると血の匂いにも感じられて来ちゃうんだよね。注射とか嫌いだから、血を想起させるものも割と苦手だったりする。
さっさと帰ろう。そそくさと中央の柱に近寄ってサクッ、とコアを取り出す。
うし、これで帰れば踏破完了。行きが10分ちょいだったので帰りもそのくらいとなれば、精々30分くらいの工程になるか。
佐々木さん家のダンジョンもそんなくらいだったし、トータル一時間ってとこかな。
残るは郊外の丘にあるE級ダンジョンだけだ。こちらは俺の昇級にも関わってくるから、難易度の差もあって緊張してくる。
「E級ダンジョン、どんなですかね……」
「出てくるモンスターに少しばかり追加があるくらいで、公平くんならF級ダンジョンと変わりないでしょう。気負わず、いつも通りで大丈夫ですよ」
怖がる俺に、御堂さんが慰めをかけてくれる。
まあ、たしかに今の俺ならEでもFでも似たようなもんじゃないかな、という気はしている。
何しろスキルによる強化ぶりがえげつないのだ、いくら俺がネガティブでもこの状態でそこまで卑屈にはなれない。
でもな〜。メンタル的にはやっぱ不安なんだよな〜。
昔から試験とかテストと名の付くものには弱いんだ。試されてる、後がないって思っちゃうと気後れしがちで、結局それが元で力を発揮しきれなかったりする。
……単純に勉強ができなかったってのもあるとは思うけど。とにかく、実力的な余裕と精神的な余裕は話が全然、違うのだ。
「なんか、コツとかあります? ダンジョン探査の」
「F級ダンジョン二つをここまで華麗に迅速に踏破しておいて、なんで一つ級が上がったくらいでそこまで弱気なんですか……コツならありますよ。自信を持ってください」
「じ、自信かぁ」
「自信を持てば、あなたは誰にも負けない最高の探査者です。そう、次なる時代を切り拓く救世主としてもね」
そう言って俺の手を握り、指を絡ませてくる。
御堂さんの手の温もりが、なんだか落ち着く……
救世主がどうの次なる時代がどうの、相変わらず信仰心溢れる物言いだけれど。
そこにあるのは紛れもない俺への信頼だ。
応えなきゃ、きっと俺は探査者でいる資格がないだろう。
「……頑張ってみます。ありがとう、御堂さん」
「そろそろ香苗って呼んでくださいよ、公平くん」
「あー、じゃあ。そうですね、無事に昇級できたらってことで」
「言いましたね!? 撮影してますから言い逃れはさせませんよ!!」
「どんだけ信用ないの俺、怖ぁ……」
そろそろ俺もこの人に対して歩み寄りたいなあって、思った途端にこの始末!
わざわざ証拠を押さえたことを言わんでよろしいのに、まったく、そういうところも御堂さんらしい。
ま、頑張ってみようかな。
自分のためだけじゃないなら、俺は、なんだかやれる気がしていた。
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