表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

198/1892

ふるさと離れて決戦へ

 そして金曜、期末テストも終えて家に帰った昼下り。

 俺とリーベは荷物をまとめて、家の玄関前にて立っていた。

 もうすぐ待ち合わせ時刻だ。決戦に向けて、いよいよ事態が動き出すわけだ。

 

「あ〜いよいよだなぁ〜」

「軽っ。軽いですよ公平さんー」

 

 背筋を伸ばしながらこぼした俺に、リーベは呆れた声を出す。まあ、軽いというか緊張感がないのは認める。気が抜けてると言うか……期末テストが今日で終わったもんだから、ちょっとした達成感で力が抜けてたりする。

 仕方ないじゃん? 学生の身からすればもう半分、夏休みに入ったもんなんだし。

 

「ちゃんと本番はしっかりやるからさ、今日明日は勘弁してくれよ。疲れた〜」

「モンスター相手にするよりよっぽど、消耗してますねー……まっ、どのみち泣いても笑っても決戦ですから。日曜までに心身を調えてもらえれば良い話ですよー」

「んー」

 

 気の抜けた返事。我ながらどうかなと思わなくもないけど、こういう若干アンニュイな気分の時は、下手に抗わずにそのまま浸っといた方がむしろ、早めに切り替えられるような気がする。

 そんなわけで垂れ山形くんって感じのメンタルな俺。見かねて見送りに出ていた家族みんなが、俺に言ってきた。

 

「あんたねぇ。何かよくわかんないけど、大変な仕事なんでしょ、これから? しゃんとなさい、しゃんと!」

「そうだぞ? リーベちゃんに御堂さんとも一緒なんだろ? カッコいいとこ見せないと愛想尽かされるぞ?」

「兄ちゃん、気合い入れなよ」

「いや、まあ……そうね、うん……」

 

 母ちゃんと父ちゃん、それに妹ちゃんの、いかにもな叱咤激励が飛んでくる。分かってるよ〜、でもちょっと今は、やる気出ねぇんだよ〜、とそこはかとない反発も浮かぶけど、だいたい正論なので言い返せない。

 ポリポリ頭をかく俺を庇うように、リーベが二人に釈明した。

 

「まあまあお父様お母様。公平さんはやるべき時にはしっかりきっちり、やるべきことをなさるお方ですから。そんなにご心配されることはありませんよー、ありがとうございますー」

「リーベちゃん……良い子ねえ」

「まったく、公平には過ぎた娘さんだなあ」

「私が男だったらほっとかないのに!」

「公平さんに過ぎてるなら誰にも過ぎてますよー、うふふー」

 

 めちゃくちゃ仲良くやり取りしている、うちの家族とリーベ。

 なにこれ怖ぁ……完全に山形家の一員みたいになってるじゃん。懐柔されるにしたってもうちょっと時間かけろよ。チョロさ3000倍ってくらいチョロいよ。

 

 と、そうこうしているうちに迎えの車がやって来た。まさかまさかの黒塗りの、いわゆるリムジンだ。えっ、聞いてない。

 胴長の猫を思わせる車体の、運転席と助手席から黒服のおじさんたちが降りてくる。もうこの時点でうちの家族は顔面蒼白、まるで何かやらかした負債者を見る目で俺を見ている。つらい。

 そんな黒服のコワモテおじさんたちは、意外にも折り目正しく俺とリーベに頭を下げた。

 

「山形様、リーベ様。お迎えに上がりました」

「すでに御堂様は車内にてお待ちです。さ、どうぞお入りください」

「は、はあ……あの、なんでリムジン?」

「WSO統括理事からのお達しです。くれぐれも丁重に、日本支部局までお連れするように、と」

「怖ぁ……」

 

 だからってリムジンはないだろ。こちとら一般市民もいいとこなんだぞ。

 ご近所さんだってなんぞやと窓からこちらを見てらっしゃるし。かつてこんなに我が家が注目を浴びたことがあっただろうか。いやないな。

 

「あ、あ、あんた本当に大丈夫なの!? 何しに行くの!?」

「おおお前、なんか悪いことしてるんじゃないだろうな! 本当のことを言えよ!?」

「気持ちは分かるけどちょっとは息子を信頼しろや!!」

 

 すっかりビビリちらした山形母と山形父が、失礼通り越して無礼千万なことを言いやがる。むしろこれからやることは良いことだ! たぶん!

 

 リムジンのドアがオートで開く。中にいるのは言葉通りに香苗さん。優雅になんだろ、シャンペン? なんか嗜みながら、こちらに手を振っている。お嬢様かよ。

 香苗さんの向かい合っての席──車内がまるでリビングみたいだ、怖ぁ──の、ドアが開いた。そこから顔を覗かせるのは。

 

「マリーさん!?」

「ファファファ、久しぶりさね、公平ちゃん。元気してたみたいで何より。ファファファ!」

 

 決戦スキル《ディヴァイン・ディサイシヴ》保持者。S級探査者であり、しかもWSOの特別理事でもあらせられるところの、マリアベール・フランソワさんがそこにいた。相変わらず仕込み杖を懐に抱いて、いかにも穏やかな貴婦人然としていらっしゃる。

 まさかこの人が迎えに来るなんて、思いもしなかったな。

 

「さあさ、お乗りよ。大体の話はソフィアさんから聞いてるさね……そこの、リーベだったかえ? も含めて、中で話そうじゃないか、ファファファ」

「わ、分かりました……リーベ?」

「ひ、ひえぇえぇー……」

 

 いつまでもこんなところにリムジン停めて、ウンタラカンタラしてるわけにもいかないし。とりあえず出立するかと思ったところだ。

 リーベがやたら怯えて俺の背中に隠れている。マリーさんにビビってる? なんで?

 

「…………? あっ、そうかお前、アイの騒ぎの時にガチギレされてるから」

「言わないでくださいー! あ、あれ以降、このおばーちゃんだけはどうにも怖くて……ううう」

「ああ、まあ、うん。分かるわ」

 

 あの時のマリーさん、めっちゃ怖かったもんなあ。

 とにかく震えてしがみつくリーベを、はいはいと宥めながら。

 家族に手を振って俺は、リムジンに乗り込んだ。

 

「行ってきます!」

この話を投稿した時点で

ローファンタジー週間7位、月間6位、四半期1位、年間5位

総合四半期10位

それぞれ頂戴しております

本当にありがとうございます

引き続きブックマーク登録と評価の方、よろしくお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 下手すればリーベ、アイ並みにトラウマ化してない? 近所の優しいお婆ちゃんが極道の現役トップ(悪さしてバレたらヤバイ)に激変したぐらいの落差あったし
[一言] とりあえずごめんなさいしなさい?(_’ まぁマリー姐さん、あまれい気にして無さそうだけど。
[一言] 大金を手にしたであろうに身を持ち崩さず、小市民的な山形家のみなみなさん…こういう家族だからこそ、ハム平のような考え方のできる子が育ったんだろうな…。 それにしても、この時点では期末テスト>異…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ