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攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
本編

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なぜ戦う、なぜそっとしておけない

 7月5日、木曜日。

 期末テストを終えて昼で放課後を迎えた俺は、探査者組合の本部内、談話室にいた。

 一人ではない……望月さんと逢坂さんも一緒だ。何やら、決戦を控える俺に、陣中見舞いってわけじゃないけど話をしたかったらしい。

 

 微妙に低くて座りにくいソファに三人、向かい合って腰掛けて。缶コーヒーなんて飲みながら。

 まずは望月さんが切り出してきた。相変わらずおっとりした感じでお美しいお姉さんだが、やはり俺を見る目は狂信の光に染まっている。怖ぁ。

 

「大変な時期にお呼び立てしてしまって、申しわけありません公平様」

「ああいえ、大丈夫ですよ。テストももうあと2教科だけなんで」

「そうなんですね……え。テスト?」

「え?」

 

 きょとん、と俺と望月さん。彼女の隣で、逢坂さんも首をひねっている。

 え、大変な時期ってテストの話じゃないの? 俺、大変なことになってるんですけど。美人家庭教師に教えてもらえた理数系は何とかなりそうなのに、まさかまさかの世界史と古文でヤバいんですけど。

 

 冗談じゃないけど冗談みたいな話はさておき、テスト以外に何かあったっけ、と考える。すぐに思い当たる節が出てきた。

 邪悪なる思念との決戦だわ。この二人とはあんまり関わりの浅い話だから、すぐに結びつかなかった。慌てて誤魔化す。

 

「…………あ、ああ! いえいえ、なんでも。そうですねもう数日で決戦ですもんねハハハ」

「は、はい。それで私たちも、少しでもお力になれることはないかなと思い、こうしてお呼び立てした次第でして」

「なるほどなるほど、それはそれはアハハハハ」

 

 ヤバぁ……これじゃ俺、世界の存亡に何の気もない当事者じゃん。カスじゃん、カス山形じゃん。略してカス形じゃん。

 真摯な眼差しでこちらを見つめる望月さんの視線が痛い。逢坂さんは若干、大丈夫かこの人みたいな目で見てくるのでそれはそれで辛いが、無条件の信頼の方が今回の場合、ダメージはより大きい。

 ごほごほけっふん、とわざとらしい咳なんか二つ三つして、俺はどうにか話を切り替えた。

 

「え、ええと! それで、お力に……でしたか」

「は、はい! この世のすべてを救う戦い、私などには到底、想像もできない領域の話ですが。それでもほんの少しだけでも、あなた様のお力になりたくって! ね、美晴ちゃん!」

「え、あ、はい。そ、そうですね」

 

 意気込む望月さんと裏腹に、逢坂さんはどこか浮かない顔だ。消極的っていうべきかな。

 察するにこの子、単なる付き添いか望月さんの熱意に押されて来たんだな。俺も、香苗さんの勢いに押されることが度々あるからよくわかる。お疲れ様。

 

 ちょっと同情めいた視線をやると、逢坂さんは気付いたのかこちらを見る。戸惑い、疑念、尊敬。何やら複雑な面持ちだ。

 おずおずと彼女は口を開いた。

 

「公平さん、あの……本当なんですか? 異次元からの侵略者と、世界の命運をかけて戦うというのは」

「ん……まあ、大雑把に言うとそうかな」

「どうして、そこまでできるんですか」

 

 単刀直入だな、ずいぶん。どうしてときたかぁ。

 鋭さのない声音。詰問というものではなく、むしろ痛ましげな印象すら受ける。眼差しもどこか、悲しいものを見る目だからか、初対面のつっけんどんな逢坂さんとは別人みたいだ。

 

「望月さんを助けてくださって、そのことは本当に感謝しています……だから余計に思うんです。なんであなたは、あんな巨大なドラゴンと戦ったり、もっと異常な侵略者なんかと戦ったりするんですか? なんで、そこまで誰かのために戦えてしまうんですか」

「なんで、と言われてもなあ」

「学校で、優子ちゃんが言ってました。お兄さんは探査者になってから、まるで自分を捨てているみたいだって。涙目で心配してたんです」

「え」

 

 なにそれ、初耳! 優子ちゃん、俺を心配して涙目になってたの!?

 そういえば首都に行く前、やたら不安がってたなあ。あれももしかして俺への心配から、思わず口に出た感じなんだろうか。

 え、嬉しい。兄として普通にめっちゃ嬉しい。

 

 気を許すとニヤつきそうな俺。しかし眼前の逢坂さんは真剣そのものだ。下手に頬を緩めるといらぬ誤解を招きかねないほどに。

 どうにか己を律しつつ、続きを促す。彼女はどこか、必死だった。

 

「ですから、聞かせてください。どうしてあなたは、そこまで頑張れるんですか? 何があなたを、そんなに動かすんですか」

「公平様、私にもお聞かせくださいませ。あなた様がそこまで身を呈して人をお救いになる、その理由を」

 

 終いには望月さんまで聞いてくる。いやあのー、二人とも、俺を聖人か何かと思ってやしないかい?

 頑張る理由、人に手を差し伸べる理由なんて、大したことじゃないのに。俺は、ちょっと考えてから話し始めた。

この話を投稿した時点で

ローファンタジー週間7位、月間6位、四半期1位、年間5位

総合四半期10位

それぞれ頂戴しております

本当にありがとうございます

引き続きブックマーク登録と評価の方、よろしくお願いいたします

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話数めちゃくちゃ多いのに副題のネタ的にここ数年書いたもんなのやばすぎない? どんだけ筆早いの……
[良い点] 山形さんの普段の小市民感と主人公らしい聖人君子感のギャップが好きです
[良い点] てぇてぇなぁ 公平様の存在がてぇてぇ
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