伝道パワーアップイベントだけは明確にご遠慮願いたい救世主くん

　そんなこんなでミュトスの住むマンション周辺地域において、いつの間にやら信仰されることとなってしまったシャイニング山形くんのことはとりあえず理解した。

　大袈裟すぎる……と率直に思うものの、好感をいただいている分には恐縮ながらありがたいとも考える反面、無理して入信とか帰依しなくて良いんですけどという本音も正直なところある。

　

　とはいえ、最終的にはやはりその方々御自身の思想次第だもんで、俺としては救世の光という組織そのものに対しくれぐれもそうした人達を変な方向に誘導しないでくださいねと願うばかりだ。

　結構折に触れて、香苗さんや宥さんにはそのへん言い含めてるし彼女達も当然のこととして理解してくださっているので、そこは問題ないと信じているよ。

　

「……さて、そのへんの話はここまでにして本題に入ろうか。えーっとミュトスの新居については綺麗なもんだから、生活ぶりを不安視してるわけでもないけど」

「は、はい！　仮にも元水の女神でござんす、整理整頓清掃清潔躾はバッチリキッチリ徹底しておりがんす！」

「あ、うん。さすがだよ、俺やリーベも見習わなくちゃなーって思うほどに。なあ？」

「最近ではすっかり家事万能系精霊知能ちゃんと化したリーベちゃんに言いますー？　公平さんもそこはしっかりしてますし、言うべきはこの場にいないけど優子ちゃんでしょー」

「だなァ。オレもたまに優子の手伝いしてっけど、ありゃあなかなかのもんだぜ」

　

　いつまでも俺への信仰がどうのと話していても仕方なし、さしあたり本題のミュトスの新居に対してコメントする。

　いや実際、しっかり丁寧暮らしぶりなのが分かるくらいに綺麗で整然としてるんだよね。生活臭がまだちょっと薄いかな？　となるのは越してきたばかりなので当たり前だけど、それを差し引いても結構ミュトス自身も、ここでの生活に馴染んだ感じ出てるしね。

　

　反面、リーベの我が妹たる優子ちゃんへの言葉に、シャーリヒッタがうんうんとうなずいた。たぶん優子ちゃんがこの場にいたら、冷や汗のひとつくらいは垂らしていることだろう。

　というのもリーベは最近、家事周りについて母ちゃんから教わっていることもあって身の回りの整理整頓はバッチリできているんだけども……実はぐうたら気質の優子ちゃんはそのへん、かなり大雑把なもんで部屋の片付けとかめったにしないのだ。

　

　そのへん、シャーリヒッタが結構世話を焼いてくれているんだけどね。それでもなかなか腰が重いもんで、度々母ちゃんが小言をこぼしているのが印象的だ。

　いやまあ、アレであの子はやるとなったらやれる子なんだけどね。特に学校周りでは相当スマートにやってるもんで、成績優秀で人望も厚いから、小言って言っても本当にちょっとした程度で概ね見逃されてるんだけどね。こないだの夏休みボケの件では普通にガチ目に叱られてたけど。

　

　ちなみにかく言う俺ちゃんも最近ではしっかり身の回りのことは自分でできてるし、なんなら学業もそれ相応に頑張れてると思うよ。

　いくらなんでもコマンドプロンプトがグータラピーして私生活グダグダなんてのは良くない自覚もあるからね。探査者活動と学業を両立させる必要がある学生探査者なのもあって、そこはしっかりやるよう気をつけているのだ。

　ヴァールがひとつうなずき、ミュトスに話しかけた。

　

「山形優子の私生活についてはともかくミュトス。ワタシとしても現状特に生活に問題がなさそうな点についてはひとまず安心している。近隣との関係も問題なさそうなのは、山形公平や御堂香苗や救世の光にも感謝すべきだな」

「いやーホント感謝です！　香苗さんもいつもホクホク顔で伝道に磨きをかけなければー！　って燃えてますし、近くに支援してくださる方々がいるというのは大きいですねえ」

「えぇ……？」

　

　怖ぁ……今よりもっと伝道に磨きをかけて何するつもりなんだあの人。というかやっぱり近隣住民に信者の方が多いことにハッスルしてるんだなあの人。

　しかしまあ、言う通りで近くに応援してくれる人達がいるってのは、それはとても救われることでもある。ミュトスだけでなく香苗さんもいろいろ御多忙なんだから、そうした声援に励まされる環境ってのはそう悪くないんじゃないかとは思うね。

　

　これ以上の伝道のパワーアップとかは勘弁してほしいかなー、なんて内心にてしみじみ願う。

　そんな俺ちゃんの隣で、シャーリヒッタがふんふんと相槌を打ってそれならばとミュトスに返す。その顔は先程までと打って変わって真剣な、精霊知能としての顔つきになっていた。

　

「んじゃよォミュトス。その私生活ってところも含めてここからが本命の、インターフェイサーについての話なんだがよ……どうだ？　ぶっちゃけここ、オレらのアジトとして使っていけそうな感じか」

　

　彼女の問いかけ。それはシステム領域による、システムを悪用する犯罪能力者や概念存在を取り締まるべく結成された組織・インターフェイサーの総隊長としてのもの。

　ミュトスの新居を、同時にインターフェイサーの拠点として活用するにあたっての、利便性についての質問だった。