一度ならず二度までも救われてる地域だ。面構えが違う

　お出しされたお茶とお茶請けのおまんじゅうをありがたく頂戴する。味の善し悪しなんて分からないけど、とにかく甘味に少し渋めのお茶がよく合う組み合わせだ。

　用意してくれたミュトスはヴァールの隣りに座り、リーベは俺の横に座る。それぞれテーブルとソファに半数ずつ腰を落ち着けた段階で、ヴァールが軽く咳払いして切り出した。

「こほん……落ち着いたところで何から話そうか。ひとまず山形公平、これがご覧の通りミュトスの新居だ。ワタシが手配したもので立地的には山形家からそう遠くなく、御堂香苗の近所ということで諸々支援が受けやすい環境下にある。無論、御堂香苗もこのことは承知済みでアレコレと世話を焼いてくれているところだな」

「ああ、うん。まあそれは分かるしすごく良い場所だと思うよ。用意してくれてありがとうな、ヴァール……あのー、それはそれとしてその、さっきの信者さん多めってな話なんですけど」

「そうだな、そこについてだな。ミュトスの言う通りで、実のところこのマンション、というかこの近辺は救世の光の信者、あるいはあなたのファン、そうでなくとも好意的な人間が多い土地柄だというのも調査の結果、判明している。そこも新居に選んだ理由の一つだな」

「えぇ……？」

　何をおいてもまず聞きたかったのは、先程ミュトスがポロッとこぼした、この階層の住人さん達のなかに少なからず救世の光信者がいるってところについての説明なんだけれども。

　そこについてさらなる爆弾が投下された気分だよ、そもそも地域的な話としてやけに俺に寄った人達がいるなんて怖ぁ……マジで伝道師さんなんかやったんじゃないのそれ？　つい疑っちゃうほどに意味不明な流れだよ。

　ただし、話すヴァールは至って真面目な面持ちで、伝道師さんが絡んだ時によく見せるドン引き混じりの困惑って感じでもない。WSO統括理事としての顔で、この近辺カルトに染まってきてるよ宣言をしてきたのだ。

　なおのこと引くんですが？　首を傾げつつ顔を引き攣らせる俺に、左右のリーベとシャーリヒッタも把握済みのようで説明してきてくれた。

「んふふー。実はこれ、公平さん自身の御活躍によるものなんですよー？　ほら、この近辺は特にいろいろありましたしー」

「いろいろ？　なんかあったっけこのへん、そもそも立ち寄る機会も少ない場所なんだけど」

「それがあるんだぜ公平サン。いやそん時ゃまだオレは現世にいなかったけど。領域からアドミニストレータ計画の進捗を確認してたんで分かるんですよ、今年のGW頃のこととか！」

「…………ドラゴン騒ぎか！　アイの！」

　二人のヒント、特にシャーリヒッタによる時期の言及を受けて一気にピンと来る。俺が絡んだ何かしらで、この地域にも特に影響が及んだ事象なんてその時期、一つしかない。

　未だアドミニストレータ計画が進行していた今年のGW。そこで俺が参加した、隣県とうちの県の全探組が合同して催した探査者ツアー……もっと言えばそのなかで邪悪なる思念が引き起こした騒動、ドラゴン騒ぎだ。

　あの局面であいつは端末を使って関口くんにちょっかいをかけた末、俺と交戦して敗れ退却した。

　その引き際に己の腕を切り取ってS級モンスター・ドラゴンへと変質させたのだ。そしてそのドラゴンは瞬く間に地上に出て、少しの間ながら周辺地域に莫大な損害を撒き散らした。悪意なくともその挙手すべてが周囲を破壊し、死の空気を蔓延させ、地域住民全員の生活と安寧を脅かしたんだ。

　最終的にはそのドラゴンは、俺や香苗さんやマリーさん並びに地域の探査者全員で打倒された。

　そしてスキル《ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で》による変生効果によって、今やすっかりWSOの公式マスコットとなった我が家のミニチュア・ドラゴンことアイへと新生したんだけれど……

　そうか、そういうことか。

「そう言えば地理的にこのへんも被害に遭ってたな、たしか……気づかなかった。俺あの時、隣県からドラゴンの下まで移動してたからな」

「御名答ー！　……その時の公平さんとミッチー、それにマリーおばあちゃんが直接ドラゴンを倒したことを、この地域の人達は深く感謝しているんですよー。自分達の生活を護ってくれた、それこそ命懸けで。あと、それだけじゃありませんよー？」

「こことはちょっと位置がズレますけど、火野源一のバグモンスター体。野郎を仕留めたのも場所的には近くです。あん時も一騒動だったもんで、このへんの人達はドラゴン騒動も忘れられてない頃合いだったからすっげー不安だったそうだぜ」

「そこにまたしても山形様が仲間とともに現れて速やかに排除した……もうそこまでされちゃったら、二度も救われちゃったんなら。ここら周辺に住まう人達はみんな、山形様のファンになる以外なかったんですよ。なんなら、伝道師さんの存在もあって入信しちゃう人も続々増えたりなんかしちゃって」

「そ、それで文字通りの宗旨変えとかしちゃったのか？　……ありがたいと言うべきなのか、それほどのことはしてないのにと慄くべきなのか」

　ようやく話が見えてきた。ドラゴン騒ぎに加えて倶楽部事件の際における火野源一との決戦。どちらにも俺が絡んでいたことで、ここらへん一帯での俺の人気が爆発しちゃったってところなんだな。

　うーむ。思いもよらない成り行きだな、正直。