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 結界核はルベルから魔力を吸い取りながら、自らを修復し始めていた。


「くそっ、今くらい大地から吸い取ってくれよ。今は先輩を治さなきゃなんだよ」


 すると、大きな音と共に結界核に剣が突き刺さった。後ろを振り返るとラーカイルが投げた剣のようだった。


 ラーカイルさらにもう一本の剣をそのまま結界核の方に投げつけてきた。その剣も核に刺さったが、刺さったままで止まってしまった。


「ちっ、お前の馬鹿力でも無理だったか」


 次に仕掛けたのはライカだった。ライカが風魔法で刃を作って結界核へ放った。その風の刃は結界核に深く入り込んで大きな傷をつけた。


「くそっ、ルベルのやつ。どんな魔法使ったんだよ。全然切れないじゃないか」


 今度はラーカイルが先ほど突き刺した件のところまでやってきて、直接魔力を送り込んでいた。


「お、お前、何してんだよ! お前の魔力が全部持っていかれるぞ」


 ラーカイルは魔力を込めて火炎魔法として剣に送り込んでいた。剣から大きな火炎が溢れ出てきた。


「お前は黙ってその人をちゃんと治せ。ここは私とライカが引き受けた。この核は何とか止めてみせる」

「何とかって。一体どうするつもりなんだよ」


 するとライカも結界核の近くまでやってきて、風魔法で核を切り刻み始めた。


「ルベル、お前がこの核を壊せるって証明してくれたからな。もうここまできたら壊す方に賭けるしかないだろう。それにな、憶測だが、もうこの核は大地から魔力を吸っていない」


 ラーカイルもライカに続いた。


「そうだ、大地と繋がっていない証拠にこの辺りから急激に吸い始めたと考えるのが普通だろう。恐らくお前の最初の一撃が効いたのかもな」


 ルベルはハッとした。先程マナが言っていた『結界核と大地の流れを変えようとした』件。もしかししたらマナがきっかけだけ作ってくれていて、そのおかげで最初の一撃が致命打になったのかも知れない。


「ルベル、この結界核はラーカイルと私で何とかする。あとは頼んだぞ」

「へっ、いいのかよ。お前は結界を守りたかったんじゃないのかよ」

「まあな、でももしかしたら、こいつとならちゃんと話合えるんじゃないかってちょっと思ったんだ。私は魔族だが人間の代表として、魔族と話し合う。そこに賭ける可能性もあるんじゃないかってな」


 ライカはそう言って目を細めた。


「ふん、お前みないな頑固なやつが話し合いなどできるのか疑問だな。まあでも、それはこの結界を壊してから考えるとしよう。あと、ルベルと言ったな、ちゃんとその人を治せ。そしたら私は、魔族がお前たちとの将来を考えるよう、上に進言する」


 ラーカイルもまんざらではないようだ。ルベルはマナの思い届いたような気持ちになって嬉しかった。


「先輩、聞きましたか? あいつら、あんなこと言ってましたよ」


 だが、マナの目の焦点はまだ定まっておらす、手が虚空を搔いていた。

 

「えっ、ごめん、よく聞こえなかったよ。何て言ってたの?」

「すみません。でも、あとでちゃんと教えてあげますよ」


 ルベルはそう言って回復魔法に集中した。


「あとは頼んだぜ! 二人とも」




 ライカとラーカイルはそれぞれの力で核に対して攻撃を仕掛けていたが決定打にはなっていなかった。


「か、硬い。思ったよりも硬い。そして、小さな傷はすぐに修復される」


 二人とも魔力を吸われながら戦っている。時間との勝負だった。長期戦になれば魔力が尽きてしまう。


「一か八かだな。ライカ。私の火炎魔法とお前の風魔法を合わせるのだ。お前の風魔法で私の火炎魔法を増幅させろ」

「そうか、お前いいこと言うじゃないか。でも、逆だな。お前の火炎魔法をこちらに貸して欲しい。お前の剣は核に刺さったままだ。十分な空気が得られないから、増幅できる量も少ない」

「なるほどな、そう言うことなら分かった。お前に私の力を貸そう」


 ラーカイルは握っていた剣から手を離し、ライカの剣を握った。ライカも自らの剣を握ってラーカイルの魔法に備えた。


「いくぞっ」


 ラーカイルが火炎魔法をライカの剣に込める。するとライカの剣から火炎が発生した。その魔力の圧にライカは衝撃を隠せないでいた。


「や、やるな。なかなかの魔力じゃないか」

「ふん、鬼族を舐めるな。魔族の中で上位の存在だぞ」


 ライカは背中に冷や汗を感じながら、今度は自分の風魔法を剣に込める。風の流れを細かに制御する必要があるため、極限まで集中して風の流れを頭に思い描く。


 するとライカの剣の周りに渦巻いていた火炎は、自然に燃え広がる形ではなく、剣の周りに規則的な螺旋状の形に整えられていった。さらにその周りに空気のなれができ、火炎の温度がどんどん上がっていく。赤い炎の色が黄色く光り始めた。そして、その螺旋状の火炎は高速で渦巻き始めた。


「こ、これほどの風の制御ができるとは……」


 ラーカイルは心の中で驚く。口にするのが悔し過ぎる程だった。それほどまでにライカの魔力制御の能力に感心した。


「だが、これならいけそうだ。やれ、ライカよ。忌まわしきこの結界核を叩き壊してやれ」


 ライカは剣の柄を強く握りしめた。大きく剣を振りかぶり、上から下に剣を振り抜く。


「うおおおおおおー! いっけぇーー!!」


 ライカが振り下ろした剣から放たれた渦巻く火炎が、結界核を両断した。が、続けてライカは剣を振り回す。


「まだまだまだまだぁーー!!!」


 ライカの剣が四方八方から結界核を襲う。そしてライカの剣が止まった。


 一瞬の時が過ぎた。そして時が瓦解するように、結界核は見事に粉々に斬り裂かれた。そして魔力を吸う流れは止まった。





「お、終わった、のか?」


 アンリは後方から彼らの様子をずっと見ていた。魔族と人間が手を取り合って協力して戦ったことを。この世界を救ったのは勇者ではなく、勇気ある若者たちだったことを。


「兄上、見ましたか!?」


 セントルは横で眠るヘンリルを見ながらアンリに答える。


「ああ、見ていたさ、アンリ。父上、勇者はいましたよ。この世界もまだまだ捨てたもんじゃありませんね」

「兄上、これからは……」

「ああ、分かっている。忙しくなるぞ」


 セントルはこの先のことを考えると頭が痛くなりそうだったが、未来へ続く明るい道が見えたような気がして、思いなおした。


「セントル王子、私が補佐致します。期待してて下さい」


 その声はランクルだった。アンフィスは声にならない思いが溢れて、分をわきまえず、大きな声を上げながら涙を流した。


「ああ、忙しくなるぞ。もう人間と魔族との間には結界がないのだから」

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