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 ルベルはありったけの魔力を込めてマナへ回復魔法をかけた。マナの傷口はみるみるうちに塞がっていく。


「ルベル、さすがだね。あんたの魔法、やっぱ世界一だよ」

「だから喋んないでください。今治してますから」


 マナが喋ると傷口が動いてしまい、治療の速度が落ちてしまう。マナの状態は一刻を争う。ルベルは必死だった。


「ルベル、ごめんね。こんなことになっちゃって……」

「だ、だから喋んないでください……」


 ルベルはマナの目の焦点が合ってないことに気がついた。ルベルの様子は見えているようだが、ルベルの言っていることまでは耳に入ってないように思えた。


「く、くそっ」


 ルベルは焦ったが、マナは話し続けていた。


「私ね、嘘ついてたの。みんなに。あんたにも……。私、マナって言う女の子の体に転生してきた、ま……魔族なんだ。知ってる? この人間の世界にはね、たくさんの魔族が住んでるんだよ。ずっと前から少しずつ入ってきてたの。魔族はね、産まれたばかりの頃は魔力がほとんどないの。だから子供だけなら結界を抜けられるの……」


 ルベルはマナの話を聞いて腑に落ちることがあった。自分の両親のこと、自分だけが周りと違っていたこと。何となくは分かっていたが、自分も魔族ではないか。そうとしか思えないと思いながらも、ここで暮らす内にそんなはずはないと思うようになっていた。そう思いたかっただけなのかも知れないが。


「そしてね、その中でも優秀な魔族がね、勇者になるように育てられてたの。馬鹿みたいでしょ。勇者になっても何も出来ずに魔力を吸い取られてしまうだけかも知れないのに……。エラルが私に無理させないようにするために考えたんだよ、きっと。何でこんなことしちゃうかな。」


 マナは恐らく「候補者」について話しているのだと思った。自分もそうであったからだ。勇者になるべく育てられた。確かにその通りだった。だが、勇者になった後のことについては何も聞かされていなかった。いや、何にも疑問に思ってこなかった。勇者になれば何とかなる、と勝手に思い込んでいただけなのだ。


「だからね、私がね、それを止めなきゃって思ったの。早く私が勇者になって、そんなことさせないようにしなきゃって」


 ルベルは回復魔法に集中していたが、マナが魔族のこと、候補者のことについてここまで詳しいのに驚いていた。


「先輩、あなた、一体……」


「それでね、何とかここまでたどり着いて、結界核に手をかざしたら、『ああ、やっぱりそうゆうことだったんだ』って分かったの。この結界核はね、ただ、結界を維持するために魔力を吸い続けるものなんだって。だからね、私はこの大地から魔力を吸い続けることだけを阻止しようと手を当てて、自分の魔力で何とかしようとしてみたの……。でもね、上手くいかなかった。私の魔力はほとんど使い切っちゃったけど、大地との流れを切り離すことができなかったの……。もう、結界をなくすか、このまま朽ちていくか。悩んだんだけどね。やっぱり結界をなくすことにしたよ……。結界を無くしても私はその世界で生きられない。もしかしたら人間は魔族に襲われてちゃうかも知れない。でも、ルベルやライカが頑張ってくれたらもしかしたら平和に進む道があるかも知れないって、そう思ったの」


 マナは話続けた。ルベルはもう止めることはしなかった。止めても声が届いていないのであれば、無意味だからだ。


「私がいなければ、魔族も力を無くすんだよ。そしたらね、話し合いの道が残るかもって思ったの。……私ね、結界を解くのが夢だったの。人間も魔族も一緒に暮らしていけるような世の中を見たかった……。でもこの結界核は…それを許してくれなかった。ほんとに、誰なんだろうね、こんなの作ったやつ」


「だからね、私怖かったけど、みんなに、あんたに嫌われてしまうのが怖かったけど、私を攻撃するように仕向けたの。ごめんね、ルベル。私、嘘をついていた。危うくあの王子様も殺してしまうところだったよ。でも、ちゃんとルベルが止めてくれるって信じてた。ルベルなら、いやルベルしかこの結界を破壊することはできないって思って……」


 もう聞いていられなかった。ルベルは回復魔法をかけながら涙が止まらなかった。マナの考えていたこと、苦しんでいた事を全く理解できていなかった。自分はマナの一番の理解者だと思い上がっていた。現実では全く理解できていなかったことが悔しくてたまらなかった。


「先輩、すみません。出来の悪い後輩で。全く役に立ってなかったですね、俺」


 するとマナの話が止まり、マナはルベルの方を見た、ように見えた。


「そんなことないよ、ルベル。あんたといろんな仕事してして、いろんなところに旅をして過ごしたの、楽しかったよ……」

「先輩っ、聞こえるんですか?」

「聞こえるよ、ルベル。あんたの回復魔法、凄いじゃない。わたし、正直もうダメかと思ってだけど、何か希望出てきたかも」


 ルベルは必死で回復魔法を続けた。峠を越えたのかも知れないと思うと、力が湧いてきた。このままでマナは助かる。


 ルベルがそう思っていると、結界核の様子が何かおかしいことに気がついた。結界核の方へ魔力がどんどん吸い取られそうになっている。結界核が魔力を使って自己修復をしているようだった。


「まずい、これはまずい」


 ルベルは結界核に吸い取られていく自分の魔力が多くなっていることに焦った。

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